Top/67-505

「困惑、深夜対局前」「翌朝、初手▲7六歩」

困惑、深夜対/局/前

投下させて頂きます。
ナマモノ注意。将/棋 仲邑対置→フリアナ王子
忍法帖lvが足りないので細かく区切っています。申し訳ありません。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

4月6日深夜、タクシーの後部座席で仲邑対置は困惑していた。
自分の横ですやすやと眠る同世代の先輩棋/士に、困惑していた。

(どうしてこんなことになってしまったんだろう?)

頬杖をつき、ぼんやりと外を見つめながら、酒のせいでよく回らない頭でそんな事を考える。
本日、仲邑はきせーせん決勝トーナメント準決勝を尋世七段はおーざせん挑戦者決定トーナメント1回戦を東/京/将/棋/会/館で行った。
仲邑も尋世も対/局に勝利し、その後観/戦/記/者や同日対局だった棋/士とともに飲みに出かける展開となった。
充実した楽しい時間はあっという間に過ぎ、何名かはべろべろに酔いつぶれてしまったので分担して家まで送り届ける事になったのだが、困った事に尋世の自宅を誰一人として知らなかった。
結局尋世は、門下は違うが同じ大学の先輩後輩の間柄である仲邑に託された。

「いや、上手く言いくるめられた、かな?」
(なんとなく強引だったもの、僕が一人暮らしとか尋世さんと先輩後輩とか期待の若手とか色々言われて)

気心の知れた間柄である観/戦/記/者や棋/士仲間の顔を次々に思い浮かべながらひとりごち、ふるふると頭を振る。
そんな訳はない。長い付き合いだ、悪意や他意なんてあるはずもない。
友人を仲間を悪く言った事に自己嫌悪を感じ、細い溜息を漏らしながらちらりと尋世の方を見る。

(尋世さん……)
(同じ大学の先輩で)
(ちょうど1年先にプロになって)
(しんじんおー戦決勝で戦って)
(一足先にタイトルを挑戦だけでなく獲得して)
(若手期待の星で)
(飄々としていて、だけど親しみやすくて)

「眩しすぎます」

(あなたと対/局以外で二人きりだと緊張してしまいます)

仲邑対置は困惑していた。
ぼそりと呟いた自分の本音に困惑していた。
そして困惑の原因が少し手を伸ばせば触れる程近い場所にいる事に、困惑していた。

(どうしよう)
(分からない)
(何がしたいんだ、僕は)

困惑しながらも仲邑は尋世から目が離せなくなっていた。
面長の顔にやや茶色がかった短い髪、細い眉、厚い下唇、大きくてすべすべした綺麗な手、細長い指、形の良い爪――
目を離せないでいると、突然尋世が仰向けから横向きに寝返りを打ち、寝返りの勢いで先ほどまで見蕩れていた綺麗な手が仲邑の太腿の上に落ちる。
自分の心臓の音が、聞こえた気がした。

「んっう……?」

心臓の音が、もう一度。
尋世は二度三度目をしばたたかせると、ゆっくりと眼を開きながら緩慢な動きで起き上がろうとしていた。太腿にじんわりと尋世の重みを感じる。
のろのろと視界の端を尋世の手が通りすぎていったかと思うと、肩にも重みを感じた。
腰の位置をずらしたのか大きな衣擦れの音がして、気がつくとすぐ傍に尋世がいた。仲邑を支えにして完全に上半身を起き上がらせている。
顔が近い。目を合わせられない。喉が渇く。息が出来ない。心臓の鼓動が早くて堪らない、鼓動が尋世に聞こえてしまいそうだ。
相手は酔っているのだから突き放そうと思えば突き放せるはずなのに、出来なかった。金縛りにあったように身じろぎひとつ出来ない。
尋世の眼の焦点が合っていない事だけが唯一の救いだった。

「おうじー」

あだ名を呼ばれて体がびくりと震える。
目を合わせられなくて下を向いていた仲邑の視界に尋世が入りこんできていた。眼鏡の隙間から上目使いの尋世と目が合う。

「つぎぃ、鱶裏せんせーかごーだせんせーに勝てばHubせんせーときせー戦でたいきょくらからー……が、がんばれぇ」
「はい、頑張ります」

緊張が一気に解けて

「おまえは本物なんらからぁ」
「はい」

嬉しさが体を包み込んで

「タイトル取れるららー」
「ありがとうございます」

涙が、一筋零れ落ちていた。
尋世は顔に疑問符を浮かべながら据えた眼でその涙を見ていたかと思うと自らの手でそれを拭い、ぺろりと舐めた。
瞬間、仲邑の頬が紅潮する。

「えっ…あっ…れ、えっ!???」
「王子は泣いてても様になるなぁ、はははははははっ」

酒臭い息を吹きかけられながらガシガシと頭を撫でられる。それが嫌ではない自分が不思議だった。
たかが酔っ払いの戯言、けれどきっと尋世秋仁の本音。タイトル経験者の本音。眩しい先輩の本音。
嬉しかった。ただただ嬉しかった。また涙が一筋零れ落ちそうだ。
尋世は屈託なく笑い続けている。
その笑顔が素敵だと思って、気がつけば仲邑の手が尋世の腰にそろそろと近づいていっていた。

(!!!!!)

ばっと手を元の位置、座席の上に戻す。
おかしくなりそうだ。いや、おかしくなっているのか?
冷静に、冷静にならなくては……

「……尋世さん、酔っ払ってますよね?大人しくして下さい。」
「私はぁ酔っ払ってないれすよぉ」
「寝てください、尋世さん」

ぐいっと身体を押し、横にしようとする。その瞬間尋世のバランスが崩れ、糸が切れたように仲邑に覆いかぶさる。
仲邑の肩に尋世の頭が引っかかっている。
息が止まる。
酒の匂いとシャンプーの匂い。ほのかな汗の匂い。尋世の匂い。
心臓が早鐘を打つ。動けない。動いたら、壊れてしまいそうだ。壊してしまいそうだ。
そのまま尋世はずりずりと座席の下まで落ちていき、仲邑の膝に尋世の頭が落ち着いた。規則正しい寝息を立てている。
まるで永遠とも思える時間が終わり、ふぅ……と仲邑は安堵の溜息を吐く。

(僕は、何をしようとしたんだ……)

仲邑対置は困惑していた。
自分の膝を枕にしてすやすやと眠る憧れの先輩棋/士に、困惑していた。

自宅まではまだ遠い。

翌朝、初手▲7六歩

眼が醒めると、見覚えのない天井だった。
眼鏡をかけたまま寝てしまったらしい、視界がはっきりしている。
昨夜飲み過ぎたせいか頭の奥がガンガンする。

「今日は稽古なのになぁ……」

独り言を言いながら、気合を入れてなんとか起き上がる。そこはどう見ても自分の家ではなかった。
焦りながら周囲を見渡すと、ベッドの下で同じ大学の後輩棋/士が丸まっていた。チェックのパジャマが似合っている。
それ以外の人間はこの場にいないようだ。ここは彼の家なのか?
起こして聞こうかとも思ったが、余りにも気持ちよさそうに眠っているので諦めた。眠っていても棋/界の貴公子なのだからふざけるなと言いたくもなる。リア充爆発しろ。
起こさないようにそろりそろりとベッドから降りると、カサリと紙が落ちる音がしたので拾い上げる。
そこには
『尋世さんへ
 自分は今日特に予定がないので起こさないでください。冷蔵庫の中の物は食べても構いません。
 あと、住所を教えて下さい
  仲邑対置』
と彼らしい几帳面な字で記されていた。
くすくすと笑いながら、きちんと駒が並べられた将/棋/盤の横にあったボールペンを手に取り、住所をさらさらと書いた。
水を一杯貰い、ハンガーラックにかかっていた自分のスーツに袖を通す。おそらく仲邑がそうしておいてくれたのだろう。
まだ頭は痛いが大分すっきりした。

「ありがとう、王子」

笑いながら呟くと片膝をついて屈みこみ、すやすやと眠る彼の手の甲にキスをして初手▲7六歩と指した。

□STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジ エンデシタ!
度々の支援ありがとうございます。長時間占領した形になってしまい申し訳ありません。以後気をつけます。

感想戦
総括:きせーせん第一局の25生を見て滾ったので思わずやってしまいました。棋/理を追求してから出直します。
本編:対置の憧れは誰がどう見てもHubさんですが、言葉のあやって奴です。
付録:初手▲7六歩が使いたかっただけです本当にアリガトウゴザイマシタ。きっと2手目は△3四歩。

  • かわいい。次はhubさんとのお話を読みたいです。 -- 2017-07-18 (火) 22:47:35

このページを共有:
  • このページをはてなブックマークに追加 このページを含むはてなブックマーク
  • このページをlivedoor クリップに追加 このページを含むlivedoor クリップ
  • このページをYahoo!ブックマークに追加
  • このページを@niftyクリップに追加
  • このページをdel.icio.usに追加
  • このページをGoogleブックマークに追加

このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP