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レーザービーム

超次元野球。丑→葛な話。卒業後。一人語り。
・実在の歌がモデルになってる
・時系列は捏造
苦手だと思われた方は申し訳ないですがスルーお願いいたします
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

耳に覚えのあるヒットソングが管楽器の音で流れてくる。吹奏楽部の練習なのだろう。
十二支高校野球部は、昨年の夏・今年の春の快進撃により、県内をはじめ校内からの扱いも一変した。
潤沢な部費が支給され、朝礼で表彰され、
校内で応援団が組織されブラスバンドも漏れなくついてくるようになったらしい。
「うらやましいな」
昨年この高校を卒業し、自分の道を歩み始めたかつての主将はつぶやいた。
全面的に背中を押されて、期待を背負って戦いに赴く後輩達。
自分が不遇であったなどとは思わないが、この独特の熱気に包まれての
試合を体験してみたかった、というのは紛れもない真実である。
高校生活。
このきらきらとした時間と無縁になってしばらく経った。
出会いと別れは表裏一体というとおり、
経済・語学・政治とこれからの自分の役割のために学んでいくことは山ほど控えていた。
立ち止まる暇などなかったのは、踏ん切りをつけるという意味では幸運だったのかもしれない。

「あれー、キャプテン?」
聞き覚えのある声。ひょこりと顔を出した彼は、
心なしか去年よりも顔つきが少し大人びてきたように思う。
「兎丸くん、しばらく。背が伸びたね」
「えへへ、そうかな。キャプテン今日は大学なかったの?」
「授業が休講になってね。久しぶりにここを訪ねてみたんだ」
さっきグラウンドを見てみたよと言うと、彼は嬉しそうに
近況報告をしてくれた。
「今年もねー、新入部員がいっぱい入ってきたんだよ。
ぼくに憧れて入ってきたって言ってくれた子もいてさ、
先輩になったんだしキッチリしなきゃなーって思うこともあるんだよね。」
皆、確実に進歩している。技術だけではない、精神面の成長が著しい。
かつての後輩が伸びていく姿を見るのは嬉しくもあり、寂しくもあった。
また、ブラスバンドが聞こえてくる。
「バックが豪華だと勢いがついていいね」
「今年は応援団も増えたんだよ。やっぱ去年の活躍が効いたんだね」
彼は頭のいい子だ、と思った。
「先輩」の不興を買わないよう、こちらを持ち上げて気まずい会話を回避した。
しかも鼻につくことなく、さりげなく。
流れてくるメロディーにあわせて、彼は軽く歌詞を口ずさむ。
『 グラウンドに立つ キミの姿が まぶしくて 少し照れちゃうけど 』
「あれ?『マウンドに立つ』って2番の歌詞だったのかな」
「違ったような…あ、もしかしてそれ歌ってたの、犬飼君の親衛隊?」
先ほど耳にして憶えていたのだ。
てっきり投手の詩なのだと思い込んでいた。
「僕もけっこうそそっかしいからなあ」
軽い笑い話をしていると、おそらく新入生なのだろう。
まだ高い声が彼を呼ぶのが聞こえた。
「あ、キャプテンごめんね。もう行かなくちゃ」
「こちらこそ、引きとめてしまってすまなかったね」
いつも通りに笑えているだろうか。
「みんなに会ってく?」
「…また、顔を出すよ」
今会ったら、ひたすらに高みを目指す彼らの邪魔になってしまう。
過去をわざわざ振り返らせる必要など、ない。

帰宅し、用があるまで放っておいてくれと言い残し部屋へ篭もることにした。
何故だか泣きたくて仕方がなかった。なぜ。
普段は滅多につけないTVの電源をつける気になったのも、
そんな気分を紛らわすためだったに違いない。
適当にチャンネルをまわす。別に見たいものなどない。
ただ、静寂の中にいることだけは耐えがたかった。人工的な喧騒に包まれていたい。
リモコンを持つ手がとまる。興奮と緊張を、画面越しに受け取った。
『…さあ、白熱してまいりました。入れば虚仁の逆転、押さえれば比呂縞の勝ち越し。ツーアウト一塁、まだ勝負の行方はわかりません…』
思わず、息を飲む。煌々と照らされるマウンドには、
よく見知った人物が神経の糸を極限まで張り詰めて勝負のころあいを見計らっていた。
瞬間を、支配した者が勝つ。
対峙したことがあるから、あの戦場に立ったことがあるから、
痛いほどにその空気がわかる。

ゆったりと体を捻る。ぜんまいを巻くように、限界まで。
肉眼では白い光線のように見えた。画面のS字の横、赤いランプがふたつ灯った。
「今のは生で見たかったな」
いつの間にか、食い入るように画面を見ていた。
まだ最大の山場は、残っている。
声援を耳が拾う。あと一球、あと一球。
深呼吸をして、心身を整えて。静かに投球体勢に入り、相手の間を読む。
永遠にも感じられるギリギリの均衡。
鋭い視線は相手の闘志も隙も、確実に打ち抜く。

一瞬。バッターが怯むのがわかった。
今だ!
球圧から生まれた風が、こちらにまで伝わるようだった。球を目で追うことができたのは、ミットに収まる直前だ。
ストレート。
「すごい」
声が震えているのは、感傷的な気分になっているからに違いない。
高校時代何十年にひとりの天才と謳われていても、才能が集う世界で活躍できるのは一握りである。壁にぶつかり、苦しみ続ける時期も確実に訪れる。
それでも。
真っ向勝負を挑み、自分の流儀を通して存在感を示し続ける。
その姿勢は、とても傲慢で尊い。
幾人もの夢も期待も背負い、無言でマウンドに立つ。
嫉妬では、ない。戸惑いでも、ない。ただただ圧倒されたのだ。

勝負が決まり、体を支配していた力が抜けてしまった。
重力にまかせるまま、ソファに仰向けになる。
「…マウンド に、立つ キミの すがた が…」
まぶしいどころの話ではない、ドキドキするどころの話でもない。
置いていかれてなるものか。また会う時は、同じ目線で。
それが、画面の中の人物がかつて絶縁してまでも死守し、
今は自分が痛切にのぞむ立ち位置である。
戦う場所はもう違うけれど、せめて志は共有したいと思う。

『ありがとう』
画面に向かって心のうちで礼を言う。
迷いも、曇りも。一瞬にして吹き飛ばされた。あの美しいストレート。
僕は僕の道を歩いていける、キミに恥じない場所に居続けるために。
じっとしてはいられない。
そう思うと、自室の厳重な扉を勢いよく開いた―。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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