甘噛み
更新日: 2012-04-02 (月) 13:08:36
オリジナル。兄弟モノなので、お嫌いな方はご注意を。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
目の前で自分でシャツから首を抜く、色気もムードもあったもんじゃない。
ためらうとか恥じらうとか、そういうのはホントに少しも無い。そういうところが、
何かスポーツの前の気分のようなアレで、俺としてもそういうのを眺めながら
少し混乱するような、しないような。
悠平はよっと、と掛け声まで上げてベルトを抜いていた。背中の筋肉の動きを俺は、
とりあえず目で追っている。
電気も消さないから、良く見える。あー、もしかしたら少し痩せたかなこいつ、とか
そんな風にも思う。
蛍光灯の下で見るその背中は、色が白い方に入るだろう。そしてその肩に、赤い跡の
色々が、だからまたよく見える。
「…それ、カノジョにやられたんか?」
「ん?」
俺の声に悠平は変な顔をしながら振り向いて、そして指差されたその部分に気付い
たようで、一瞬の後苦笑いをする。
にかっと。困り笑い。
「そうそう。ミユよこれ、あいつ噛み癖あんのよ」
「痛かったか?」
「痛い痛い!爪たてられんのも萎えるけどさー、ほらネイルのあれとか…」
「あー、わかる」
「けど噛まれたら、ちょっとイクの止まってまうわ!そう思わん、兄ちゃん」
「…いや、それは経験ないから」
あーそーかい、とか悠平はひょこっと肩をすくめた。
そしてそのまま、俺の隣にダイブしてくる。
「いでっ……悠コラ、お前なあ!」
悠平はげらげら笑っている。何かが壺にはまったらしい。
昔からこういうところがある、うちの弟には。俺の受け答えとか、親父の呟き、母親の愚痴でも
何でもかんでも、何かにスイッチを押されると止まらない。ひとしきり笑い続ける。
俺はだから、しばらく黙ってその茶色の癖髪を撫でながら、目の前で揺れ続ける首すじのあたりを
また眺めていた。
そこにもうっすら、別の跡がある。肩の傷(もう、そのレベル)はよく見ればしっかりと、
点々と規則正しく並んで、カーブになっている。
何人目のカノジョになるんだっけな、あのこは。
今になってみれば、中学の時に初めて付き合った子、あの子が一番長く続いてたか。
「兄ぃ、兄ちゃん、て」
あー、考えたら俺より多いか?
まあ仕方ない。うちの弟はそりゃモテる。モテるよなあ、そりゃ。
「何」
「んじゃ、俺が噛んだろ、っか?って!!あはははは」
半分脱げかかったジーンズの脚が、寝っ転がった俺の腹をばたばた蹴ってくる。
マジで、何がそんなに面白いんだお前。
「イヤ」
「つれない!アニキ!!」
「嫌だっつの。痛いのなんか楽しくなーい。そんなんなら、もうヤメル」
「えー!?ナニよ、おいおいっ」
いやだって、最近やってなかったんだし。俺としては、気持ちよくなりたいわけで。
悠平はぐりぐりと、今度は頭突きからドリル攻撃だ。
ごろんと背中を見せたら、痛い。ったく、何してくれてんだ。
ガキだなー、まだまだ。やっぱり。いや待てよ。
俺の前だから、まだまだガキなんだろーな、こいつは。
「……。」
とか何とか言ったら、きっと機嫌を損ねるだろうけど。年だって三つしか違わないだろとか、
俺だって社会人になってるんだとか、わめくんだろうなと思う。
まあそんなら出てけ、って何回言っても聞きゃしないのは矛盾してる。もう学生じゃないから
家賃は折半、まではよかったんだけど、けど結局この二人暮らし、もう何年目になる?
「……兄ちゃん」
いつの間にか、そんなことを思っていたらいつの間にか。
笑うのを止めて、悠平が俺の肩口にしがみついてきている。
両の腕が、俺の体を掴んでいる。
そして、溜め息みたいに呼ぶ。
「何、だよ」
俺も言う。
どこからこんな風な甘みで俺を呼ぶようになったのか、いつからだったか。
それは、いつからだったっけ。
別に、弟でいい。俺はそう思ってる。
で、それはこいつも同じはず。
そのはず、なんだけど。
それ以上でも、全然構わないのは、何でだろう。
別にそうでなくても唯一無二。
「……噛んでよ」
そんなことがなくても俺は、お前は。
俺は思いながらぐるっと体を回転させた。目の前のあの肩に、ますます強く腕を絡めてくる
その肩に、確かめるように唇と、舌で触れる。
甘えてるんだ、多分。
お前は俺に。
俺も、お前に。
そして、軽く噛んだ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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