英国王のスピーチ ローグ×バーティ×ローグ
更新日: 2011-04-23 (土) 12:50:42
L and B
半生
映画「A国王の演説」より、言語聴覚士×国王×言語聴覚士。
はっきりとリバ描写ありです、ご注意を。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース
一人きりのソファは寒い。
その上で誰かと二人で過ごす時間を知った者にとっては特に。
古びた家具の上に身を起こしたバ一ティは、
最初にライオネノレ・口一グのオフィスを訪ねたあの日を思い出していた。
思えば不可能じみた事柄は全て、このソファから始まったのだ。
口一グとの出会いや彼とやりおおせたスピーチ、そして数分前までの出来事。
バ一ティは口一グの腕の中に倒れこんで少しだけ甘やかして貰っていた。
いつでも飄然として掴み所のない親友はしかし、
今宵に限っては右にも左にもかわさずに抱きしめてくれた。
国王が彼の胸や肩に頬を擦りつけられるように、
その手の平に接吻することができるように、飽くまでも優しく。
確かにお互いに平静な筈だった。バ一ティはそう考えた。
しかし再びソファから身を起こした時、
二人はもはや“親友”ではなくなっていたのだった。
裸の足に夜気が忍び寄る。
バ一ティは身震いしながら足元に落ちて皺になっている服を拾い集めた。
彼以外の分は既に見当たらない。
その主がバ一ティの体の上から離れて、既に数分が経っている。
「……口一グ、い、一体どこに行ってるんだ?」
入口付近でバ一ティの問いかけに応じる声があった。
再び姿を現した時、口一グは既に衣服を整え、
ティーポットと二つのカップを携えていた。
バ一ティは脱いだ時とは正反対の乱暴な仕草で服を身に付けていった。
照れくさく、苦しかった。
紅茶などすすりながら他人のように向かいあって座っている口一グが憎らしかった。
――彼はどんな思いで私を見つめているのだろう。
今さっき同性に抱かれることを知った男を。
「よければ、わ、私の隣に座ると良い。今夜は、……なかなか冷えるから」
「いや私はここで結構」
口一グはカップを持っていない方の手で頬杖をついた。
そのまま相手の様子を伺うさまは、診療の時のそれとまるで同じである。
バ一ティは怒鳴りつけたいのを堪え、
腹いせのように乱れ髪を整え、ネクタイを強く結び直した。
今宵だけは、かんしゃくと無縁な夜にしたかった。
バ一ティがソファから立ち上がった瞬間、口一グは僅かに身をすくませた。
何を考えたのかは分からない。
その仕草は苛立ちの他にもあらゆる感情を煽るものだったが
全てを抑え、彼は口一グの元へと歩いた。
そのまま足元に座り込み、頬を太腿の上に乗せる。
「では、私が君の所へ行こう」
愛する男は声を立てず息だけで笑った。
初冬の床の上はひどく底冷えがしたが、
口一グに正面から眺められるのを避けることはできた。
紅茶の中をゆっくりと上下する葉を見つめながら、
バ一ティは先程の出来事を一場面ずつ可能な限り細かく回想していた。
事を始めてから二人が完全に一つになるのにはたっぷり小一時間かかった。
それが全ての同性愛に通じるものなのかどうかは分からないが、
時間をかけてじわじわと押し入られ所有される感覚は
生涯体に焼き付けられることだろう、とバ一ティは思う。
痛かった。そして優しく甘美だった。
同時にそれは恐ろしい罪でもあるのだった。
「口一グ」
彼は口を開いた。
「さっき、私は何かとんでもないことを口走ったかな?」
紅茶で温まった右手が伸び、頭を優しく叩く。
「ああ。何回もね」
「言わないでくれよ。せっかく、忘れているんだから」
「いや、言う。君はついに私をライオネノレと呼んだんだよ」
王は弾かれたように顔を上げ、自身を見下ろす瞳を見つめかえした。
「い、い、いつだ?」
「いつって、最後のほうだ。君は無我夢中だったから覚えていないかもしれないが」
ライオネノレ――
その名の主とはあらゆる言葉を共有した。
睦言や罵倒のみならず、時には淫らな単語も。
しかしこのたったの六文字よりも背徳的な響きの言葉があっただろうか。
彼を特別な目で見始めて以来幾度も胸の中で叫んだ名を、
ついに口にしてしまったのだ。
「信じてないな。次からは録音しておこう」
冗談めかして呟いた口一グを他所に、バ一ティは大きく溜め息をついた。
夕暮れのハーレー街には濃い霧がかかっている。
細く開いたカーテンの隙間から覗ける街は冬の海にも似て、
古ぼけたオフィスが恋人同士を乗せたまま当てもなく船出するような
奇妙な感覚がバ一ティを襲った。
口一グの足は温かく血の流れが感じられたが、それでも身震いしたい思いだった。
「後悔しているかい?」
口一グの問いにバ一ティは再び顔を上げ、その顔を見つめ返す。
「まさか」
「しかし今、溜め息をついたろう」
夕闇の忍び寄る中だが、口一グの顔に憂いの影は無いように見えた。
全ていつも通りだ。
心の中ににどんな考えを隠しているか、伺い知ることができないのだ。
「男同士、しかも英国王と平民、英国王とオーストラリア人。
こんな愛は芝居にだってそうそう出てこない。
後悔しない王様なんていないと思ったのさ」
「誤解だ。わ、私が前に言ったことを気にしているのなら……」
頭に上った血がその英国王の舌をもつれさせた。
「既に謝罪したつもりだった。き、君の、身分や故郷を侮辱したことを」
夢中の内に立ち上がり、口一グの肩を強く掴む。
それでも不十分だという思いに駆られ、
その顔を両の掌で挟み鼻同士が触れ合いそうな距離で覗きこむ。
「た、ただ……私は……」吐息ばかりが嵐のように熱く溢れ出てバ一ティの言葉を駆逐して行った。
小指に填めた指環だけが冷たかった。
「“私は”……?」
吃音に捕われてしまったバ一ティに対して彼は多くを問わず、
ただ双眸に微笑を含んだまま、唇の形だけで小さく何かを呟く。
不審げなバ一ティを他所に、幾度も幾度も。
その語が何を意味するか解った時、吐息に混じって温かな笑いが沸き出した。
かつてその下品な言葉が、焦りに縛られた舌と唇を解き放った時のように。
「わ、私が溜め息をついたのは……」
彼は頬を紅潮させ所々つっかえつつも、やっとのことで囁いた。
「煙草嫌いの君と、これから何千回となく接吻することになるのが辛いからさ」
ジョークのタイミングが掴めないのは相変わらずだったが、
ライオネノレ・口一グは小さく声を上げて笑った。
「確かに酷い味だった。また吸ったな」
その酷い味とやらを確認するかのように、
冷たく赤い舌が伸びてきて火照った唇に先端だけ触れた。
やがてどちらからともなく唇を深々と重ね、苦しい程の接吻で互いの味を確かめ合う。
一度目の時よりも強く、優しく。
バ一ティは口一グの腕を引っ張って立たせると録音機のもとへ強引に誘った。
今度は口一グが怪訝な顔をする番だった。
「録音するんだろう?」
まさか本気にするとは思わなかった、などという口一グの呟きも意に介さず
王はたどたどしい手付きでレコードをセットし、そして再び上着を脱ぎ捨てた。
機器の発する僅かなノイズを聞きつつ、その手が口一グの肩にかかる。
「じゃあ……始めようか」
その言葉に続く名前は、心の中だけで囁いた。
真実を口に出せる訳がなかった。
ライオネノレの名を呼ぶのに相応しい者になれたか、あるいはなれるかどうか自信がないのだ、などと。
彼の前では王冠は無意味だ。
バ一ティは、不器用で癇癪持ちの一人の男に戻らなくてはならなかった。
それが恐ろしいのだ。
丸裸になった自分が、このたった一人の平民の前では
あまりに幼稚で頼りなげに思われるのだ。
バ一ティは不安を追うように頭を左右に振り、口一グの体を強く床に押し付けた。
先刻彼に捧げたのと同じものを、今度は自らが奪い去ろうとしているのだ。
こんな局面で恐れを悟られたくなかった。
「やはり痛いかい?」
口一グは既に自らの顔の両脇に肘をついて体を支えているバ一ティに飄然と尋ねる。
その様は相変わらず憎らしく、そして愛しかった。
「最初は拷問のように痛い」
冷ややかに嘘をついてみせたあとで、バ一ティは彼の両頬を柔らかく撫ぜた。
「で、でも一瞬だけだ」
わざとらしく、覚悟を決めたかのように目を瞑った
口一グを見下ろしながら、胸の中で静かに祈る。
――せめて今夜だけは、彼に相応しい男でいられますように。
互いにとって最高の夕べとなりますように。
霧煙るロンドンに、今宵も闇が訪れる。
不安定な恋人たちを包み隠す夜は、まだ始まったばかりだった。
バ一ティは不安を追うように頭を左右に振り、口一グの体を強く床に押し付けた。
先刻彼に捧げたのと同じものを、今度は自らが奪い去ろうとしているのだ。
こんな局面で恐れを悟られたくなかった。
「やはり痛いかい?」
口一グは既に自らの顔の両脇に肘をついて体を支えているバ一ティに飄然と尋ねる。
その様は相変わらず憎らしく、そして愛しかった。
「最初は拷問のように痛い」
冷ややかに嘘をついてみせたあとで、バ一ティは彼の両頬を柔らかく撫ぜた。
「で、でも一瞬だけだ」
わざとらしく、覚悟を決めたかのように目を瞑った
口一グを見下ろしながら、胸の中で静かに祈る。
――せめて今夜だけは、彼に相応しい男でいられますように。
互いにとって最高の夕べとなりますように。
霧煙るロンドンに、今宵も闇が訪れる。
不安定な恋人たちを包み隠す夜は、まだ始まったばかりだった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
最後の投稿失敗、失礼いたしました。
- 2人ともかわいすぎます -- 2011-04-06 (水) 23:31:50
- あわわ、途中で送信しました。。。萌えをありがとうございましたー -- 2011-04-06 (水) 23:33:50
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