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夕暮れ時

向光性レス虎ン
岸乃×邑木←酒本風味。鯖ブチョーもちょっとだけ。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

部長の仲村はいい奴だと思う。
真面目で、優しくて、責任感も強くて。
だけどたまに読めない。異常なくらい空気が読めない。行動も読めない。だから、
「あれ?あそこにいるの岸乃さんとちゃうか?」
レストランからの帰り道、少し遠目の海辺の堤防にその人影を見つけた時、自分はマズイと思った。
直感だった。確かにあの影の輪郭は岸乃さんだ。そしてここからでは微妙に死角になる隣りにいるのはきっと…
わかったから下手に声をかけるのはよそうと言いたかった。
しかしそんな自分の思惑よりも仲村の行動は一瞬早かった。
「岸乃さーん!何しとるんですかー?」
「…………」
呼びかけた声にその人が振り返ったのが見えた。それに仲村は言う。
「あぁ、やっぱり岸乃さんや。ちょっと行ってみよ、酒本。」
「…………」
こうなってはUターンすることも出来ない。
だから「あぁ」と小さくつぶやいて、自分は前を行く仲村の後について行くしかなかった。

「あれ?邑木先生やん。」
そばまで近づいて、仲村の口からその名前を聞いた時、自分はやっぱりと内心小さくため息をつく。
こんな時間、こんな場所にこの人といるとしたら先生しかおらんやろ。
しかしそんな自分の声にならないツッコミをよそに、仲村はあっけらかんと先を続ける。
「隣りに誰かいるように見えた時は彼女かと思ったのになぁ。」
ある意味とても思春期らしい男子校生の言葉に、言われた岸乃は「なんやそれ」と明るく返してくる。
子供相手にも居丈高な態度は取らない。
役場の人間で、町興しのレストランの担当になっているその人は、いつも自分達と役場との橋渡しをし、
時に板挟みにもなっている。そして、
「あれ?邑木先生寝とるんですか?」
何よりこの先生を連れて来てくれた張本人。
幼馴染なのだと言う。
今、岸乃の体にもたれる様にして目を閉じているその人は、高校卒業後上京し、銀座の料亭で板前を
勤めていたらしい。
それが何らかの事情でこの町に戻り、自分達に料理を教えてくれている。
細面で一見神経質そうな。言葉が多くない分、最初は近寄り難ささえ覚えたその人だったが、その態度の
裏に隠されたものが料理に対する真摯な想い、そして自分達と誠実に向き合おうとするがゆえの戸惑いだと
なんとなくわかりだしてからは、部員達は皆この人について行く事に迷いを持たなくなった。
それは当然自分も。もっとも自分はそんな迷い自体、当初からあまり無かったのだが。
それくらいこの人の腕は確かで、本物だった。
「疲れた顔してますね、先生。」
夕暮れ時でだんだん暗くなってきているせいか、その頬に差す影から疲労感が伝わり、思わずボソッとつぶやく。
するとそれに岸乃は「あぁ」となるべく体を動かさないようにしながら、その視線を隣りへと落とした。
「今日は役場との折衝に付き合わせちしまったから悪いと思ってあんぱんおごったんだが、食べてる途中でこれや。」
「あんぱん?」
「ちなみに俺はメロンパン。味の好みってのは学生時代とそう変わらんのやな。」
自由な方の手に持ったメロンパンを軽くかかげて見せながら、くったくのない笑顔の中にサラリと付き合いの
長さをのぞかせる。
そんな相手の印象を、自分は何と言うか、大型犬の子供みたいな人だなと今更ながらに思った。
自分と違いガタイが良くて、なんかモシャモシャしていて、何事も加減の無い力で真正面からドーンと
ぶつかってくる。
そしてその力には何のてらいも無いから、ついつい受け止めてしまう。
それは先生もそうなんだろうか?
きっと気を許していなければこんな寝顔は見せていないだろうその人の気質を思い、知らない内に眉の根が寄る。
するとそんな自分の微かな表情に、その時岸乃は気がついたようだった。
「あのな、こいつ料理の事に関しては馬鹿みたいに真剣やから厳しく思うかもしれんけど、こいつはこいつなりに
一生懸命頑張っとるんやで。」
突然そんな擁護するような事を言われ、えっ?と視線を返す。
その先で岸乃はこの時、どこか困ったような、でも必死な口調で続けてきた。
「ただ料理を教えるだけなら多分そこまで難しくはないんやろうけど、俺の依頼でやった事の無い教師職まで
させてしもてるからな。でも、初めこそ戸惑ってたようやけど最近はこいつも真剣に君らの為になる事を考えてる。
あの高校生ゴゼンかて、出来上がるまでに何日も徹夜しとったようやし。」
「あの高校生ゴゼンをですか?」
不意に横合いから仲村の声が飛ぶ。それに岸乃はコクリと頷いた。
「俺が聞いたのは完成間近な時やったけど、その前に毎晩毎晩悩んどったようや。」
「岸乃さんは……完成した時に立ち会っとったんですか?」
「あぁ、最後の一晩だけやけど。コキ使われたで。」
自分の問いかけに答えながら、岸乃がじんわりと何かを思い出したかのような笑みを見せる。
それにはこの時なぜか自分の胸にジリッと感じる疼きがあった。
しかし今度はそれを悟られたくなくて、スッと視線を眼前の海へと向ける。
このところ大分長くなってきていた日も、そろそろ完全に落ちようとしている。
それに合わせるように、この時岸乃から再び声が上がった。
「さて、暗くなるとまださすがに冷えるからぼちぼち帰るか。おい、いい加減起きろ、おまえ!」
いっそ乱暴な手つきで自分にもたれかかっている相手の肩を揺さぶろうとする。
そんな岸乃に自分は瞬間、慌ててその人が目を覚ます前に声を発した。
「あの、それじゃあ俺らこれで。」
「ん?そうか。気をつけてな。週末はまた頼むで。」
「はい。行こう、仲村。」
「おっ、おう。」
突然呼ばれて驚く仲村が自転車の向きを変えるのを待たず、すばやく踵を返す。
なぜだろう。目を覚ました先生と顔を合わせたくは無かった。
いや、違う。目を覚まし、自分達に対するものとはまったく違う口調で岸乃さんと言葉を交わす先生の様子を
見たくなかったのだ。
「おーい、ちょっと待てよ、酒本。」
後ろから自転車を引きながら仲村が追いかけてくる。
横に並び、口が開かれる。
「しっかし、岸乃さんと先生ってほんまに仲ええんやな。」
「……そうやな。」
「俺らもいつかあんな風になれたらカッコエエなぁ。」
「…………」
「ちょっ、なんでそこで黙るんや、酒本!」
強くツッコまれ、「あぁいや」と言葉を濁す。
時が経てば追いつけるのだろうか。時さえ重ねればあんな風になれるのだろうか。
思い出す二人の姿に、何かが違うと酒本は思う。
相手が大人だからかなわないんじゃない。きっと岸乃さんだから……それでも、
「それでも…俺には料理がある。」
あの人が立てない、先生と同じ土俵。だから、
「絶対、軌道に乗せような。俺らのレストラン。」
いきなり脈絡も無く言い放った自分の強い一言に、仲村は一瞬キョトンとした顔を見せた。が、それでもまた
詰まり気味ながらに「おう」と返事を返してくれた。
それに自分はキュッと口の端を引き上げる。
自分は始まったばかりなのだと思う。
何もかもがまだまだこれからだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

勢いで書いた。方言はわからないのでニュアンスで。大型犬はイイ。

  • スレでレスしそこなったので。ログ見て狂喜乱舞。大型犬はいいですよね!そこだけのワールドで。 -- 2011-05-27 (金) 12:06:52
  • 嬉しいです!!ぜったい、この二人はこういう雰囲気ですよね!! -- さくら? 2011-07-03 (日) 20:46:47

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