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相棒 大河内→湊 「一本勝負」

ドラマ木目木奉のラムネ→ミナトすこし缶も。
エロ的なものは全くありません。
映画のネタがほんのちょこっとでるのでご注意を。
設定間違えてたらごめんなさい。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

太河内春樹が己の甘さを痛感したのは目の前に竹刀が差し出された時だった。
戸惑う太河内をよそに道場内は沸き立ち拍手する者さえいる。
「奏が太河内さんに勝負を挑んだ!」
後輩の誰かが叫ぶ。
「奏、太河内さんからポイント取ったら昼飯奢ってやる」
「後輩に負けんなよ太河内ィ」
同僚たちが適当なことを言っている。太河内は頭を抱えたくなった。
頭が痛い。
そもそも通常稽古を終えたのだからいつも通りに早く道場を立ち去ればよかったのだろう。
それを、何の魔が差したのか分からないが今日に限って道場で一息をついた。
それが悪かった。
道場の片隅で一息ついている太河内のもとへ、奏哲郎がやってきてしまったのだ。
言葉の出ない太河内に奏は笑う。
「今日こそ一本勝負お願いします、太河内さん」

この事態が全くの想定外だと言えばそれは嘘になる。
むしろ、腕に覚えがあり常に上を目指す奏がいずれ太河内に挑んでくると
全く思わない方がどうかしていると言えるだろう。
だからこそ、太河内は常に真っ先に道場を去っていたのである。
道場内に在っては、何故か不機嫌そうと言われる顔の眉根をさらに寄せ、
新人が一睨みで五歩下がるような気迫を常に身に纏い、
それはそれは血のにじむような努力を重ね、日々薄氷を踏む思いで過ごしていたのだ。
しかし結局は予期されていた危険に真正面からブチ当たるという体たらくで、
市民を危険から身体を張って守らねばならない警察官としては大失態である。
知らぬ間にいつもの薬瓶を探している左手に気が付き、太河内はひっそりと苦笑する。
あんなものをこの道場内に持ち込むわけがないのに、自分は何をしているのだろう。
不承不承、太河内は立ち上がる。周囲がどっと沸いた。
こうなってしまえばもう負けである。
今日逃れても明日、明日逃れても明後日と太河内が勝負を受けるまで奏も周囲も鎮まらないだろう。
ならば気の進まない事は早めに終えてしまうに限る。
竹刀を受け取ると、奏は相好を崩した。
(こいつの結婚式以来か―――)
奏哲郎の、こんなに嬉しそうな笑顔を見るのは。

面と防具を着けて相手と向かい合い、改めて太河内は後悔した。
面を通しても奏が極めて真剣なのが良く分かる。
その瞳は太河内を真正面からひたと見据えていた。
堪らなくなってつと目を逸らす。……無性に、いつもの薬瓶が欲しかった。
頭痛がする。
目眩がする。
脈が速い。
息が上がる。
胸が、苦しい。
この心音が道場中に響き渡っているのではないかと不安になる。
こうなることが分かっていたからこそ、この事態を避けようと思っていたのに。
「始めッ」
審判役の同僚の声がどこか遠くで響く。
その刹那、右手に受けた一打で太河内は竹刀を取り落とした。

足早に道場を去る太河内を止める者は居なかった。
多分負けたから悔しがっているとでも思われているのだろう。
それはあながち間違いとは言えなかったが、今の太河内は他に明確な目標を持ってロッカーへ向かっていた。
ハンガーにつるした背広のポケットを探り、小さい薬瓶を取り出す。
乱暴に中身いくつかを取り出して音を立てて噛み砕き、それでようやく人心地がついた。
安堵のため息をつき、しげしげと薬瓶を見つめていると思わず苦笑が漏れる。
いつまでもこういうモノに頼っていてはいけないと常々思ってはいるのだが、
ちょっと手元にないだけでこの様だ。まだまだ卒業できそうにない。
こんなことが同僚に知られたら、きっと自分は警察に居られないに違いない―――と。
「……太河内さん?」
最も彼の身を竦ませて、最も彼を動揺させて、最も彼が今聞きたくない声が、背後でした。
「ここに居たんですね、良かった」
太河内はとっさに左手を強く握りこんだ。背後の奏哲郎に、薬瓶が見つからないように。

「急に居なくなるから探しましたよ」
奏が朗らかに言いながら近くに来た。
さりげなく身体の右側を奏に向ける。少しでもいいから左手を遠ざけたかった。
「……何か用か」
「いえ、大河内さん足早に帰っていったからもしかしてと―――」
太河内春樹は、左手の中の薬瓶に全ての注意を全力で向けていた。
でなければ、いつもの太河内ならばすぐに気が付いたはずだ。奏の視線が太河内の何処に向いているのか、に。
「……ああ、やっぱりだ」
太河内の右手を見ていた奏はそのまま腕を掴みあげる。
「手首、痣になってますね。太河内さんがあの程度を避けられないなんてもしかしたら体調が悪……」
「―――っ」
太河内は奏の手を弾いてしまった。
それは全く反射的な行動だった。とても大の男の冷静な反応とは呼べるようなものではない。
いや、もはや冷静であるだとかないだとかいう問題ではない。
いくら全く予期していなかったとはいえ。
この顔の赤さは。この手の震えは。……これではまるで。
(まるで、中学生の少女のようではないか)
警察組織において、自分のような人間は疎まれるというのに。

もう終わりだ、と太河内は思った。
奏はこれで何も気が付かないほど鈍くはないし、そこからなにも推測出来ないほど愚かでも無い。
よりにもよって奏に全て知られて、自分はもう警察に居ることも出来ないだろう。
お互いに命を預け合う警察の人間達にとって、己のような性癖の人間はある種の恐怖と言っても過言ではない。
むろん太河内とて、いくら特殊な性癖だからといっても誰でもいいわけではないのだけれど、
相手にとってみれば「自分がその対象に入り得るかもしれない」というそれだけで恐怖なのであろうし、
そしてそういう相手に命を預けられないというのは至極当然なのであろうし、
結束を重視する警察官にとって信用しきれない相手が居ると言うのはとても致命的なこととなるのはとても良く分かる。
だからこそ、太河内はそういうことはなるべく表に現さないように努力してきたのであって、
少なくとも今まではその努力は報われていたと、そう思っている。
太河内とてなにも警察組織を乱したいわけではないのだ。
むしろその秩序を愛してすらおり、組織としてさらなる高みを目指すために尽力したいと心から願っていた。
だから。
人を愛するだとか。
人に愛されるだとか。
そういうことは一切諦めて、気持ちは自分の内だけに仕舞いこんで、ただ警察組織の為だけに生きようと。
ほんの数秒前まではそう思っていたのに、全て終わりだ。
この警察をより良く改革するという夢も。
ひっそりと心に留めておいたこの想いも。
今まで大切にしてたものを同時にどちらも失ってしまうとは、一体何の罰なのだろう。
太河内は瞠目した。これから叩きつけられるであろう嫌悪の情に、自分はどれだけ耐えられるだろうか。
突き刺すような沈黙に太河内は身を縮める。
ひどく長く感じたが、実際は数秒経ったかどうかくらいなのだろう。
耐えきれなくなって太河内は目を開ける。
真っ先に見えたのは奏哲郎の屈託のない笑顔で、真っ先に聞こえたのは有り得ない一言だった。
「―――すみません、怪我してるとこ触ったら痛いですよね」

「あ、太河内さんやっぱり痣になってますね」
神部尊ののんびりした声で太河内は我に返った。道場で三本勝負を終えて、面を脱いで一息ついていたところだった。
神部の視線をたどって右手首に目を落とすとくっきりと赤い線が付いていた。
「お前が力を入れすぎなんだ」
「だってそれ、一本目のやつでしょ?まさかあんなに太河内さんがぼんやりしてるなんて思いませんよ」
唇を尖らせながら神部が手を伸ばしてきた。痣の状態を確かめようとしているようだ。
ばしりとその手を弾いて睨めつけてやる。
「触るな、かすり傷だ」
さらに不満げな顔をして手をひっこめる神部を見て、太河内はひっそりと苦笑した。
とっさの対応も我ながら上手くなったものだ。ということは数年前に比べて自分は少しは成長したのだろうか。
少なくとも今だにあの薬瓶を手放せないあたりは全く成長していない。
「そんなことより太河内さん、僕の勝ちですからね」
「分かっている」
その途端に神部は機嫌の良い顔になり、その単純さにますます苦笑してしまった。
ようやく手に入れたパルトネールをくれてやるというただそれだけだけなのに、
わざわざこんな回りくどいことせざるを得ない自分は成長したようでやはりしていないのだろうな、と
太河内春樹はこっそりとため息をついた。

<了>
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ラム→缶書きたかったのに何故かこうなりました。


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