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逆転検事2 「一番のはずの」

逆転検事2の、ラスボス絡みネタ。ネタバレ注意。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

憎んださ。恨んださ。
誰も助けてくれなかった、子供のころから全部を憎んださ。
今でも後悔なんか、してねえんだよ。
「……コゾウ、歩け」
ピエロの格好のまま、脱獄した了賢さんと一緒に、警察官どもに両脇を固められて歩く。
同じパトカーで護送されるのは、それはあの検事たちの好意、だとかなんだとか。そんなもの、クソ喰らえだ。
了賢さんのクロが、俺の手を。乗る前にぺロリと舐めて、俺はそれを握りしめたまま、涙も言葉も出なかった。
憎んできた。恨んできた。
子供の頃、友達だった奴に裏切られて、父親に捨てられて、引き取られた施設で事件に巻き込まれ、酷い尋問を受けて。
憎むしかなかったし恨むしかなかった。そうしなければ生きていけなかった。
いや俺は、そうやって生きてきたんだ。
掌を、ぎゅっと握る。涙も声も無い。
前の座席の刑事が、無線で何か指示を出していた。そのごつい肩を見て、親父を思い出した。
親父、助けてくれなかった。
「ゆるりと考えればよい。おぬしはまだ、じゅうぶんに若いでの。…はは」
斯様なことを申すとは、拙僧も老いたものよのう。了賢さんが隣でぽつりと、まるで笑うように呟いた。
俺の頭を軽く撫でてくれた。長く伸ばした髪を梳くように、宥めるように。
暗殺者として鳴らした手なのに、血のつながった家族がしてくれるみたいだった。
親父は俺を捨てて、異国へ出ていった。
憎んで、恨んで、復讐した。今でも後悔なんか、してねえんだよ。してねえよ。
手錠で繋がった手首が、知らない間に震えていたみたいだ。了賢さんはそれにもぽんぽんと、掌を当ててくれた。
見えてないなんて嘘みたいだな。ぼんやりと思った。

車が走り出す。そして、思い出す。
自分で運転するのは平気だけど、後部座席にいると、あの日のことを思い出してしまう。
憎む前の。恨む前の。
いや、一番。一番初めに、一番最初に裏切られた、あの冬の凍てつくような日の記憶のこと。
何より一番、激しく辛いあの日の思い出のこと。
「……拙僧は確かに、この手で幾度も人を殺めた。それはお主も知っておろうが」
「……。」
「暗殺が生業であったでの。人の命なんぞ、ただ消えゆくものとしか思うておらなんだ。……しかし不思議なものでな」
一度命を救うとな、まるで。
拙僧も生まれ変わったような、気がしたのだ。
「……了賢、さん……」
「コゾウ。お主を助けたこと、面白うあった。まこと、面白う思うておるぞ」
あの日俺を、車から助け出してくれたのがこの人だった。
あれからずっと、この人しか、了賢さんしか助けてくれなかった。そう、今もだ。
今もこの人しか、俺のことをわかってくれる人はいない、んだ。
憎んで、恨んで、生きてきた。それが全てだった。
「生き直せ」
どこからでも。
了賢さんはやっぱり、笑っているような声だった。
車のエンジン音に消えてしまいそうなくらいの小さな声だったけれど、俺にはそれが聞こえた。
「何度でも生きよ」
車が揺れて、髪がばさりと俺の頬、こめかみに墜ちた。いつの間にか俺は自分の膝の上の、手錠の手首と了賢さんの古ぼけた手を眺めていた。
何度でも、何度でも、毎日、毎晩、恨んで憎んで、復讐だけに頭を使った。
気が狂いそうなくらいにただひたすら、その一点だけを望んで生きてきた。
「……生き直せ、るんですか」
「ウム。お主が生きておる限り、人は……どこからでも歩める」
「どこからでも……」
あの日、最初に裏切られた日から、俺の人生は始まった。
喉が渇いて声が出ない。

くそ、こんなこと、今までなかった。どんな酷い計画を立てた時も、それが成功した時も、こんなことなかった。
俺をいじめた奴、俺を虐げた奴、何より俺を、俺を裏切った奴。
奴らが絶望にのたうちまわって、全てを失って行く様を眺めるのだけが、全てだった。その一点だけが。
「……無理です」
「コゾウ?」
「生き直しても…、きっと、俺は、恨むしか。…憎むしか、出来ない…!」
声がかすれる。畜生。
こんなこと、今までなかった。こんな、泣きそうな気持になったのは。
「……だから、言えなかった……」
恨みたくなかった。憎みたくなかった。
俺を裏切った奴。一番最初に、俺を裏切った奴。
だから殺してやった。自分の手を汚さずに俺は、計画を立てて人を操って、あいつの命を奪ってやった。
(ごめん、草太)
「俺を裏切ったから、だ……!!」
車が揺れた。俺はそのまま突っ伏して、ははは。
泣いた。
涙が出ていた。声も出ていた。
(草太、サーカスに入ったんだって?)
「だから殺したんだ!!」
(お前の芸、楽しみにしてるかんな。頑張れよ)
「殺したんだ!!」
(チェス以外に俺が楽しみにしてることなんか、そうねえんだぜ?)
「俺が……っ」
本当は、恨みたくなかった。憎みたくなかった。俺を裏切った奴なのに。
お前のことだけは、そんな風に考えたくなかった。一番最初に、俺を裏切ったのはお前なのに。
お前だけ恨むべきだった。お前だけ憎むべきだったんだ。本当は。
でも俺はそれに気付きたくなくて、だから全てを恨んだ。憎んだ。
計画の為だってそれだけ、それだけを思って、俺はずっとお前の傍にいた。
だから言えなかった。好きかもしれないなんて、考えたくもなかった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • 切な萌えまくりました…泣きそうです。ソウタは獄中で後悔しまくるんだろうなぁ… -- 2011-02-23 (水) 15:59:01

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