ヒストリエ アレクサンドロス三世×エウメネス 「風音」
更新日: 2014-03-11 (火) 17:19:48
ヒスとリエ、置かせていただきます
父王×エウ(書記官)前提の王子×エウ
捏造設定バリバリの未来予想ネタです、ご注意ください
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
風の強い日だった。それだけはよく覚えている。
だから、大きな物音をたてても誰も来なかったのだろう。
床に突き飛ばされた形になってしまった彼は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに己を取り戻したらしい。
落ち着いた眼差しで圧し掛かっている相手──私に向かって問いかけた。
『私とあなたの御父君とのことは…ご存じ、ですよね…?』
私の初恋は、はなから叶うものではなかった。
「お召しにより参上いたしました」
待ちかねた相手の声で、私は追憶から引き戻された。
「このような時間になりましたことをお詫びいたします」
夜更けの来訪を詫びる声に首を振る。
元から多忙であったこの書記官の、国をゆるがすあの事件以降のまさに寝る間も惜しんでの東奔西走ぶりは誰よりもよく知っている。
それでも無理に呼びたてたのは、夕刻より唸りだしたこの風の音があまりに強かったためだ。いや違う。すでに私の想いが溢れだす寸前だったのだ。
ほんの些細なきっかけ、木々を揺らす風ごときで耐えられなくなるほどに。
私は小卓の酒杯を取り上げ、飲むか?と差し出す。
が、彼は口端を釣り上げ、目をクルリと回した。
「せっかくですが、それを頂くを立ったまま寝てしまいそうです。それじゃマズいでしょう?」
私は苦笑して杯を置く。
彼らしい物言いだった。王の側近とはいえ、一介の外国人としては不遜と取られかねないその態度は、多くの貴族たちの不興を買いながら、
一握りの貴族たちには随分と気に入られていた──私や、父を含めて。
不意に私は、父の幻影を見る。わざとそんな台詞を引き出して若い側近……いや愛人との遣り取りを楽しんでいた亡き王の姿を。
それを振り切るように、私は書記官の顔を見据えた。
「あの日のことを覚えているか?」
唐突な問いかけになったが、彼に問うにはそれで十分なはずだった。
「私は覚えている。忘れたことなどなかった。そして、今もその気持ちは変わらない」
部屋の隅にしかない灯りでは、彼の表情の微かな動きまでは伺えない。
「君はもう忘れてしまっていたか?──それともまだ君は父上のものなのか?」
あの時、自分と父王との関係を知っているかと問われて答えられず動けなくなってしまった少年を、彼は身を起こしながら優しく宥めた。
『お気持ちは嬉しいのですが、さすがの私も陛下を裏切ることは出来かねます』
しかし次に息がかかるくらいにまで顔を近づけて、彼はこう続けたのだ。
『もし私が陛下に捨てられるか、あるいは天寿を全うされて“独り身”となった折に、まだそのお気持ちをお忘れでなければ、もう一度私をお召しください』
確かにそれは、彼らしい冗談めかした口調と表情での台詞だったけれど、私はずっと彼の言葉を胸に潜めてきた。一瞬だけ触れられた唇の感触は、
大人の口吻をそして情交を知った今でも特別なものだ。だが。
書記官へ問いかけてより、まださほど時は経っていないはずだが、応えを待つ時間はあまりにも長かった。沈黙が私の肌をチリチリと焼く。
彼にとってあれは、幼い王子──愛人の息子の暴走を軽くいなしただけだったのか。重ねた唇の感触を誓約の証のように覚えていたのは、私ひとりだけだったのか。
沈黙に耐えかねて取り乱した言葉を叫びそうになる寸前、書記官が私の名を呼んだ。
「覚えていますよ……忘れられる筈ないじゃありませんか、あれほどの事を」
彼はゆっくりと近づいた。
「だから今宵、貴方のお召しを受けたんです」
その声音も眼差しも先ほどと変わらないはずなのに、僅かな、けれど確かな艶が流し込まれている。
私はやっと手に入れた愛しい人を抱きしめ、口接けた。かつての触れるだけのものとは違う貪るような深い口吻に、私は容易に溺れていった。
俺はのろのろと身を起こし、前髪を掻き上げながら傍らの隆起を見つめた。
その気配が先刻まで肌を合わせていた相手のものでなくなったことを確かめて、俺は冷えた視線を投げかける。
「起きろよ。おまえなんだろう?」
名を呼べば、“蛇”がもそりと寝具から顔を出す。特徴的な痣が隠されていなくても、その斜に構えた表情が正体を明らかにしている。
「いいのか、先王の喪も明けてないのにこんなことして。またあんたボロカスに言われるぜ?」
やつのからかうような問いかけに俺は鼻を鳴らした。
「構うもんか。俺の評判なんざ、とっくに地に落ちてる。これでお前と二人きりになれるなら安いもんだ」
俺は顔から表情を消して、蛇と目を合わせた。
「お前──王を、殺したな」
蛇は薄く笑ったまま眉ひとつ動かさない。それでもそこには俺の知りたかった答えがあった。俺は胸を焼く憎悪を叩きつけんばかりにやつを睨み据えた。
「覚えておけ。いつか必ず殺してやる」
苛烈な殺気を浴びながら、蛇は少しも動揺しなかった。いや、にんまりと笑いさえしたのだ。
「言ってくれる。けど忘れてないよな、俺のこの体は王子の体でもあるんだぜ?」
「分かってるさ。だがそれでも、必ずお前だけを殺してやる」
用は済んだ。それきり蛇を無視して寝台から滑り降り、衣服を身につける。
身繕いを終えて寝所を出ようとする俺の背に、やつが揶揄するように言った。
「あーあ、可哀そうに。王子は真剣にあんたに惚れて、恋しい相手と結ばれて心底喜んでたんだぜ」
俺は一瞬足を止めたがすぐに歩を進め、振り返ることなく部屋を出た。
だが自室まで自制を保つことはできなかった。歩哨の目を避けるように逃げ込んだ回廊の陰で、耐えきれずに蹲る。
顔を覆った手の隙間から、うめき声が漏れた。
──忘れられる筈ないじゃありませんか、あれほどの事を。
あの方への忠誠心も愛情も嘘偽りないものだったけれど、それでも嬉しかったのだ。煌めくように眩しい少年のひたむきな恋慕が、俺なんかに向けられたことが。
だから王子を宥めるために掛けた言葉は冗談めかしていたけれど、ほんの少し真意を混ぜてしまっていた。きっと王子にとっては一時の気の迷い、
麻疹のようなものだと己に言い聞かせながら。
だから年若かった王子が神話中の英雄もかくやという完璧な青年に成長した後も俺に向ける眼差しの色が変わらないことに、どれほど陶然としただろう。
これが本当に、捨てられたか天寿を全うした王を見送った後のこの身に起きたことだったなら、どれほどか幸せだっただろうに。
「……何故、あの方を殺したんです。王子」
脳裏の金髪の青年に俺は囁きかけた。
どれほど目を背けたくても俺は識ってしまっている。“蛇”と王子が共有しているのは肉体だけではない。
その意思も、奥底では深く繋がっているのだということを。
蛇の言動には、たとえ欠片であったとしても必ず王子の意思や願望が投影されているのだ。
だから俺はいつか必ず“蛇”を殺すだろう。蛇が王子の拠り所であると知っていても、蛇を喪うことが愛しい王子に破滅をもたらすとしても。
ああ。
思わず己を嘲笑った。
やはり俺は、愛しいと思わずにはいられないのだ。身の内に“蛇”を飼う王子を。あの方を殺した王子を。この手で破滅に導く王子を。
「お許しください────さま」
俺の声は強い風に吹き消されて、どこにも届かなかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
分母ころころ変わってすみませんでした
- 最近原作にはまりエウと親子の関係にたぎってて、こちらを読んだらますます萌えましたありがとうございました! -- めめめ? 2014-03-11 (火) 17:19:48
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