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ジョーカー 許されざる捜査官 三上×伊達 「寒椿」

 盾が東京拘置所に見神との面会にやってきたのは、11月も終わりに差し掛かった頃だった。
エイPECの後、見神の代わりに命日に彼の妻子の墓参をして来た。
前回の面会から間があいたことを詫びる。エイPECの期間中は時間が取れなかったし、
盾は一般人の立場で面会に来ているので、十日毎に一回、一人一日一回の規則に縛られた。
見神は、盾の優しげないつもの雰囲気の中に、しっとりとした色気が含まれているのに気が付いた。
伏せられた長い睫毛の先から、わずかに、零れるように匂い立つものがあった。
つぼみはまだかたく、その奥に閉ざされている香りは密やかだ。
だが、それがかえって人を惹きつけ、そそる。
「新しい本を差し入れしておきました。今日は宅下げのものはありますか?」
と聞かれて、はっとなった。
「いや、今日はいい。いろいろ差し入れしてもらって、すまんな。
 供養のこともありがとう。おまえの方も、もうすぐだな。・・・それに美弥木君も。」
「ええ。」
「来年は27回忌だが、俺はしてやれないな。」
「見神さん・・・。」
見神の穏やかな顔に、なんと返せばいいのか。
死刑か無期懲役か。いずれにせよ、当面出所することはない。
「盾は、美弥木君のご両親に会ったことはあるんだろ?」
「葬式のあと、肩霧と一緒に行ったことがあるんですが、犯人を捕まえるまで来ないでくれ、
と言われました。」
追い返されたのか。
「そうか。捜査が打ち切りになったから、警察に不信を抱かれただろうしな。」
「そうですね。」
寂しげに、盾が微笑みを浮かべて俯いた。
自分が逮捕されたことで、盾の立場は微妙だ。警察の中でも、美弥木や肩霧の家族に対しても。
会話が途切れると、面会を早めに打ち切りされかねない。
話題を変えた。

「駆動は、どうしている?傷の方は?」
「もう痛まないって言っていました。若いですからね。」
「そうか、それなら良かった。」
「鑑識のみんなが怪我を心配してくれて、当人はくすぐったがっていましたよ。」
「なんだ、思っていたより人付き合いが出来てるじゃねえか。」
「そうですよね。彼も面会に来たがっていましたが・・・。」
「よせよー。おかしいだろ、俺が刺したのに。簡単に許してるんじゃねぇ、あのバカ。」
「ひどいなー。見神さんだからですよ。」
少し笑顔が明るくなった気がした。
「おまえとは、うまくやっているんだろ?」
「ええ、前と変わりないですよ。」
駆動か?
いいえ。
最初、盾の雰囲気が変わったのは、駆動と付き合い始めたからか、と思った。
“紙隠し”だけではなく体の関係でもパートナーにしたのかと。
佐衛子と男女の関係でなくなって4年経っていたが、二人の間にあった信頼関係は変わらなかった。
その彼女が亡くなってすぐ、というのは意外だった。
いや、それだけ盾の受けた衝撃が強かったのかもしれない。
盾は信頼していた人間を、二人失った。
駆動でないのなら、他にそんなヤツがいただろうか。
「見神さんは、俺の部下の久流須には、会ったことありましたっけ?」
「んー、おまえの同期だっけ?いや、会ったってほどじゃないな。
すれ違ったくらいで、顔もよく覚えていない・・・。」
久流須?
「そうでしたか。」
なに、その久流須というヤツなのか?
「どうかしたか?」
「俺は久流須に心配されているようで、ウザイって言われなくなりました。」
盾の浮かべた微笑は穏やかで、満たされているようだった。

「・・・どんなやつだ?」
「美弥木みたいにまっすぐな正義感を持っていて、でも融通が利かなくて、
頭がカタイって肩霧にバカ呼ばわりされてましたね。すぐ怒るくせに、世話焼きなんです。」
まっすぐな正義感を持っているって、“紙隠し”をやるおまえには危ない人間じゃないのか?
「大丈夫なのか?」
「ええ、先のことはわかりませんが、今のところは。」
どうして、おまえはいつもそういう人間を選ぶんだ?
唐突に、ある考えが浮かんだ。
盾に聞きたい。だが、この面会室で名駄偽の名前を出すのは躊躇われた。
差しさわりのない話をしながらどうにかして聞けないものかと考えているうちに、
刑務官に「時間です。」と告げられた。
「また来ます。」と微笑んで去っていく盾を、見送るしかなかった。
盾に聞いて確かめたかった。
名駄偽を刺したことが裁かれなかったことと、両親を救えなかったことのどちらが
おまえを苦しめているのか、と。

 見神は独居に戻された後、三年前のことを思い返した。
「金を出せと脅された」だけだなんて、何故盾が言ったことをそのまま信じたのか。
盾は両親が殺されたとき、二つの罪を犯した。
一つは名駄偽に対する殺人未遂。そしてもう一つは、両親を見殺しにしてしまったこと。
十歳の少年の殺人未遂を法律は罪に問えないし、恐怖に足が竦んでしまったことを誰も責めはしない。
あと数歩踏み込んでいれば、両親の前に盾は殺されていただろう。
生存本能が、盾の足を止めた。
どのみち、彼には両親を助けることは出来なかった。
それでも、それがわかっていても盾は自分が許せないだろう。
盾がこの世で一番許せない人間は、盾自身だ。
それこそ、誰にも裁けない。

 俺は、俺のせいで妻と子が殺されたのをどうしても忘れられない。
俺が帰宅した時、すでに二人の命は手の届かない所に連れ去られていた。
血の海の中で冷たくなっていた二人に駆け寄って抱きしめたい衝動と、
現場保存をしなければならない刑事の理性に引き裂かれた。
俺は結局、刑事の理性を優先させた。
それなのに、犯人を逮捕することは出来なかった。
事件は俺の手の届かないところで捜査され、俺が何も出来ないまま時効が成立した。
ふたりを成城に残さなければ良かったのかもしれない。
もしも、一緒に横浜に住んでいれば・・・。
もしも、もう少し早く帰宅していれば・・・。
もしも、あの男の出所を知っていれば・・・。
いくつもの「もしも」が、俺を繰り返し苛んだ。
あの男は、時効が成立した後は事件のことを忘れていたのに。
盾も同じだ。
もしも、あの時、両親が殺される前に、あのまま刺していたら・・・、と。

 名駄偽と名駄偽の弁護士は、盾が刺したことを最大限に利用して死刑を免れた。
そのことも、盾を苦しめた。
結局、名駄偽の余罪を明らかにすることが出来ず、十歳の盾を証言台に立たせる事も
出来なかったので、名駄偽は無期懲役になった。
名駄偽は、刑期中ずっと自分を刑務所に送った少年のことをどうやって痛めつけてやろうかと、
暗い執念を持ち続けていただろう。
そして、名駄偽は盾の傷をえぐる言葉を持っていた。
言わないはずがない。
舌なめずりするように言っただろう。目に浮かぶ。
両親が逃げた理由が自分にあったと知ったら、余計苦しんだろう。
俺が盾を名駄偽で“制裁者”にしたのは、盾の苦しみに更に追い討ちをかけたかもしれない。
あいつは自分は法の裁きを逃れた人間だと、ずっと思い続けている。
親友の奈津記と元恋人の佐衛子は、真っ当な正義感の持ち主だった。
だから、盾は二人に惹かれたのだと思う。
盾はずっと裁かれたかったのに、俺はそれを邪魔し続けた。
救うどころか、逆のことをして来てしまった。

 親代わり、というのも中途半端な関係だ。俺はあいつを抱いたのだから。
いつも盾を悦ばせ、安心して眠れるように優しくした。
だが、一度だけ、俺の思うがままにした。
一度だけだったが、それが俺たちの関係の、本当の姿だったんじゃないのか。
始めての時だって出血させなかったのに、あいつの白い足を伝った血の色の鮮やかさに、
俺は我に返ったんだった・・・。
結局自分の考えをあいつに押し付け、縛り付けただけじゃないか。
いっそのこと、俺を一番恨んでくればいいのに、盾の俺に対する態度は逮捕される前と変わらない。
俺が逮捕されたことで、盾は自由になれただろうか。
駆動は、伊図津から盾の両親が盾の目の前で殺されたことを教えて貰ったと言っていた。
巡査部長である駆動が見れるのは、実況見分調書くらいだろう。
あれに書かれているのは、盾の両親の状況だけだ。
盾が名駄偽を刺したことは書かれていない。
十歳の子供の将来を守るということで、俺が厳重に伏せさせたのだ。
警察関係者では、事件を担当した県警本部と横須賀の所轄署の数人しか知らない。
盾が自分から話さない限り、駆動も伊図津も知らないはずだ。
そして、おそらく、盾は話していないと思う。

 ある男を制裁した時、ナイフで反撃されて盾は怪我を負った。
引き渡した後、盾のマンションで怪我の手当てをしてやっていると、事件発生の知らせが入った。
知らせてきたのが、久流須だった。
盾の返事も待たずに、「迎えに行く」と言って電話を切ったので、
見神は盾の部屋を出たのだが、マンションの入り口で久流須とすれ違った。
顔を見ないようにしていたので、長身だったということしか覚えていない。
盾が認める正義感の持ち主なら、盾を裁いて、そして許してやってほしい。
それしか、盾が自分を許すすべがない気がする。

 ロッカーに預けておいた携帯の電源を入れると、駆動からメールが来ていた。
見神の様子が気になってしかたないのだろう。
刺された本人が、刺した相手を心配している。
自然と笑みがこぼれた。「元気にしていたよ。」と知らせてやる。
駆動も面会に来たがっているのだが、盾が止めていた。
刑務官が立ち会っていることを忘れて、余計なことまで話しかねないからだ。
駆動もそれを認めて、我慢している。今度は一緒に来ようか。
拘置所を出て、その高い塀を振り返って見た。
 自分が見神に体の関係を持ちかけ、見神もまたそれを受け入れたのは、
擬似親子になるのを避けるためではなかったろうか。
見神との間には、奈津記や佐衛子とは違った絆がある。
盾には一番長い時間を共にしてきた絆だ。
両親が殺害されて、それまでの縁は総て失った。
お互い、どんなにつらくても殺された家族の事を忘れて生きていくことは出来なかった。
いまでも名駄偽の「おまえが殺したんだ」という声で、汗をびっしょりかいて目を覚ます時がある。
駆動には「過去を乗り越えろ」なんて言っておきながら、全然ダメだな、と自嘲した。
失った家族の代わりを受け入れるのを、罪悪感が許さなかった。
それでも、同じ苦しみを持った見神は盾には特別な人だった。
伊図津に教えられるまで、見神の妻子が殺害されたことは知らなかった。
だが、妻子と死別したこと、それが自分の両親の事件の少し前くらいであること、
そのことに見神が深い負い目を持っていることは、長い付き合いの中で徐々にわかってきていた。
伊図津から事件の事を聞いて、いろいろな事が腑に落ちた。
 盾は、奈津記と佐衛子の事が見神の独断だということが今だに信じられなかった。
信じられないのか、信じたくないのか、ずいぶん悩んだ。
悩んでも悩んでもやはり信じられないのだ。
見神もすべて話したわけではない。
警察官になって被害者の苦しみを少しでも減らしたいという目標を持つまで、
いっそのこと両親と一緒に殺されていた方がマシだったと、何度も思った。
その目標を与え、前を向かせてくれたのが見神なのだ。
二人にすまないと思いつつも、見神を憎んだり恨んだりできなかった。

 死刑判決が出れば、親族ではない盾は面会が許可されなくなる可能性がある。
無期懲役の長い年月の後ならば、見神もすべてを話してくれるかもしれない。
しかし、死刑なら・・・。
このまま黙ってすべてを自分一人の胸に仕舞い込んだまま、逝ってしまうのではないだろうか。
盾はそれを恐れていた。
辞表を書いた時、警察を辞めれば見神の養子になれる、と思った。
辞めるのは伊図津に止められたし、見神は拒むだろうと思って、結局養子のことは言わなかった。
死刑囚ともなれば、面会が許可されても、会話は記録されるようになる。
今だって、こっそり録音とかされているかもしれない。
収監されている限り、見神の本心は聞けないと思う。
それでも、会い続けていれば、なにかわかるのではないか、と思わずにはいられなかった。
 見神のために、見神の妻子を殺した犯人だけは、あの島から出したくなかった。
島の場所を知らなければ、もし盾が逮捕され“紙隠し”のことが発覚しても、
盾の所以上は追求が出来なくなる。だから、あえて知らずにいたのだ。
なぜなら、時効が成立した午前0時過ぎ、犯人を殺して自殺するつもりだった見神を
止めたのは盾だから。そして、そうするように盾を導いたのは伊図津だ。
そういう意味では、盾と伊図津は奈津記と佐衛子の死に二重の責任がある。
 見神は、奈津記と佐衛子の殺害と駆動を刺したことは認めたが、他は一切語っていない。
情報屋の件についても、だ。その件を認めると、“紙隠し”に繋がる怖れがあるからだ。
確かに殺害の手口は同じだが、情報屋は殺害場所が特定出来なかったし、
殺害後海に投げ込まれたせいで、確実な物証もない。
見神が自供しなければ、とても立件出来るものではないだろう。
死よりも重い罰をあえて生きて受けるつもりと、“紙隠し”を守るためかもしれないし、
そうではないのかもしれない。
 改めて調べ直してみたが、あの情報屋が裏金の件を掴んだきっかけがどうしてもわからない。
たいしたことのないチンピラだったし、彼のフィールドは夜の繁華街だった。
伊図津が調べさせたのは、夜の街で不相応な金額で遊ぶ警察関係者がいないか、
ということだった。

今だからわかるが、遊興に充てられるような金ではなかったから、そういうところから
引っかかったとは思えないし、実際1ヶ月くらい何も見つからなかったそうだ。
だが、情報屋はなにかを掴み、詳しいことを話す前に殺されてしまった。
5年前、奈津記はそのしっぽを掴めたが、今では情報屋のことを覚えている人間を
見つけるのも難しかった。

5年前、奈津記はそのしっぽを掴めたが、今では情報屋のことを覚えている人間を
見つけるのも難しかった。
奈津記はいったい誰から、あのCD-Rの内容を知ったのだろうか。
CD-Rのリストに見神の名前はなかった。
裏金の流れから、直接見神にたどり着けたとは思えない。
万が一、見神が“紙隠し”をしているところに偶然遭遇しても、
それだけでは裏金と結びつかないだろう。
それに、見神は慎重な人だ。
“紙隠し”を始めた頃なら、なおさらだと思う。
見神からCD-Rの内容を手に入れられたとは思えない。
そして、あの内容では、直接“紙隠し”に結びつかない。
もしあの数字が島の座標だとわかったとしても、一週間で見神にまで辿りつくだろうか。

奈津記に情報を漏らした人間が、その尻拭いをさせたのかも・・・。
見神は独断だと言ったが、それこそ、あの女弁護士のように、
匂わしただけで見神が行動することを見越して・・・。

見神の独断だと信じたくない逃げかもしれないと思いつつも、その可能性を捨てられない。
見神は探るなと言ったが、もう、今までのように知らずに済ませる事は出来なかった。

 高い塀から視線を正面に戻す時、視界の端に赤いものが入った。
何だろうと思ってそちらに目をやると、民家の塀と屋根の間に一本の木が見えた。
その濃い緑の葉の茂りの中に、一つだけ大輪の赤い花が咲いていた。
椿だ。たった一つ・・・。
いくつかつぼみが付いていたが、みな固いままの中で一輪だけ咲いていた。
一時、鮮やかなコントラストに目を奪われた。
どうして一輪だけ・・・?
強く吹いてきた冷たい風に首を竦ませると、盾は駅に向かって歩き出した。
 電車を待っている間に久流須にメールをすると、
盾からの連絡を待っていたらしく、すぐ返信が来た。
待ち合わせて、一緒に食事をすることにした。どんな話をしたのかとか、一切聞かれない。
食事を終えるとそのまま帰ろうとするので、盾の方から誘った。
以前の男が拘置所にいるのに、その男と会ってきた夜に新しい男に抱かれるのは
ばつが悪かろうと久流須なりに思いやってくれたらしいが、一人でいたくなかった。
もうすぐ12月。奈津記と両親の命日がやってくる。
まだ日はあるが、その日のことを思うとこんなふうに寂しくなる。
一緒に過ごした時間より、一人残された時間の方が倍以上になったのに、何故なんだろう。
それに、こんなすっきりしない状態で、奈津記の墓前に何と報告すればいいのだろうか。

 その夜の盾は積極的だった。
俺に入れる気かと久流須が思うほど、周辺を舐め愛撫し、そこから勃っている先まで
舌の先でずっとなぞられた。
愛おしくてならない、というような表情を浮かべて、久流須の先端を丁重に口に含む。
「なんか、甘いもの舐めてるような顔で、すんなよ、んっ」
「・・・だって、久流須だから・・・」
盾がため息混じりに答えると、その息遣いが敏感なところにかかって、
それだけでイってしまいそうになる。
そのうえ、上目遣いの目が潤んでいるのにも煽られる。
仰向けになっている久流須の上に乗り、勃っているものどうしをすり合わせ、
なまめかしく腰を動かしてくる。
触れ合っているところからの快感もたまらないが、盾がしてくれていると思うと格別だ。
盾の肌は、しっとりと吸い付くような手触りがする。

やわらかく充実している尻を撫で回して自分に引き付けると、悩ましい吐息が洩れた。
体を引き上げて、胸の突起を舌で舐ってやると、切なげな声を上げて上体をのけぞらせる。
久流須は自分の体をずり下げ、盾自身を口にした。
さきほどのお返しに逆の道筋を辿り、舌と指を交互に差し入れてやる。
上になっている盾の体が、がくがくと揺れた。
夏からこっち、痩せたままだな、と思う。
体を入れ替えて久流須が上になって、盾の中に指を抜き差ししながら舌を絡め合った。
あえやかな声が零れて、深く差し入れた指をきゅっと締められた。
「久流須」もう、来て。
久流須はベッドから降りて脇に立つと盾の体を引き寄せ、足首を掴んで大きく開かせた。
色白のしなやかな体が上気して、息を弾ませて色づいている様に見惚れる。
ゆっくり、盾の中に入っていく。
お互いの熱が気持ちいい。
そこからとろけていく。
盾の中が久流須の形になじむまで待って、ゆるやかに動き始める。
久流須を受け入れて、潤んだ目元も薄く開かれた唇もいっそう艶を帯びる。
もっと、もっと盾が欲しい。
俺が帰ろうとしたときの、あのなんともいえない表情・・・。
儚くて、脆くて。
どうしたら、俺はこいつの寂しさを埋めてやれるんだろう。
掴んでいた足首を引き寄せ、足の指を一本一本丁寧に嘗め回し、味わう。
盾は潤んだ目を細め、じっと久流須を見詰めた。
久流須だって、甘いもの舐めてるような顔、してるよ。
本当は、いっぱい聞きたいことがあるよね。
それなのに何も聞かずに、ただ寄り添おうとしてくれる。
久流須、もっと奥まで来て、もっと。
盾の腰と腹が激しく動いて、貪欲に久流須を呑み込もうとする。
きゅうとしめつけられるの息を止めてこらえ、力が抜けると突いてやる。
全身に拡がって行く快感に、もう零れる声が抑えられない。
身を捩って枕を掴もうとする盾に、久流須が覆いかぶさってきて耳元に囁く。
「俺にしがみつけよ。」

「え?」
ぐっと、久流須が盾の体を持ち上げた。
挿入が深くなって、盾は声も上げられない。
何度かあえいで、やっとのことで言葉を搾り出す。
「無茶・・・するなっ、ああっ!」
「しっかり、しがみついてろ。」
久流須が盾の体を揺すり始める。
感じている顔もよがる声も、もう隠せない。

俺にしがみつけよ。

聞き間違えたかと思った。
それが出来るのは、こうして抱かれている時だけだ。
一人で抱え込むなって久流須に怒られたけれど・・・。
エイPECも終った。そろそろあちらからアプローチが来るだろう。
そうしたら、自分たちはどうなるのだろうか。
明日のことはわからない。
いっぱいに満たされ、激しく揺さ振られる最中、
唐突に昼間見た色鮮やかな椿の花が脳裏に浮かんだ。
あの花はたった一輪で咲いて、たった一輪で落ちるのだろう。
久流須の肩にすがる腕に、力を込める。

意識が遠のく中で、あとどのくらい久流須に抱いてもらえるのだろうか、と思った。

 1ヶ月後のクリスマスイブ。年末特別警戒の勤務を終えて深夜に帰宅した盾の部屋に、
1枚のカードが届いていた。
カードには―――。


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