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docomoCM

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

その瞬間、正樹は激しく動揺した。
実家で新しいスマートフォンをほんのちょっとだけ、自慢するだけのつもりだったのに。

「あら、いいわねぇ。貸して」

この少し年の離れた姉、朝霞に正樹は昔から頭が上がらない。
しっかり者で才色兼備を地で行く姉に、うっかり者で優柔不断な弟の関係性は
今も昔も変わらないのだ。

正樹が承諾を与える前に、携帯はすぐ朝霞の手の中におさまった。
(どうも、はじめまして)
正樹は彼の携帯がうやうやしく頭を下げるのを見て、やや複雑な気持ちになった。
そう、彼の携帯なのだ。そして、「なぜか」「正樹の眼にだけ」擬人化される携帯。
当初は激しく混乱した正樹だったが、最近はそれも受け入れていた。
世の中には奇跡のような偶然がある。それが今回自分に巡ってきたのだと思おうと、
(大層な押し問答の末に)そう、心の平安を求めるために結論付けた。
ただし、一応家族とはいえ自分以外の人間に彼の携帯が触れられるのは釈然としない。

なぜか。

正樹が思索を深める前に、彼の携帯は常ならず正座していた。
「いいじゃない。すごくいい。すっごくいい」と朝霞が画面で雑誌のページを手繰りながら言う。
朝霞ののフリック、ピンチイン/アウトの動きに合わせて、
彼の携帯が左を向いたり寄ったり引いたり動くのを見て、
思わず正樹は「何やってんだよ」とつぶやいていた。
元々はひけらかすつもりだったのが、今ではもう彼の携帯を取り戻したくなっている。
だって、自分のものだし。人に構われるのは落ち着かないし。
なんかいつもよりもハイになってるし(携帯なのに)。

姉はすっかり機能に驚嘆した様子で、「もっと前に会いたかった」などと言っている。
しかし、正樹はそれへの返事に耳を疑った。
彼の携帯がすっ、と姉に近づいた(ように彼には見えた)。

「今からでも十分間に合いますよ」

正樹は我知らず、「ちょっと返してよ」と口に出していた。彼の携帯が目で合図する。

『君、ちょっと静かに』

君ってなんだ、と正樹が地味に憤っているのも、もちろん彼の姉(と携帯)は気にする由もない。
朝霞は彼の携帯をカバンにしまいながら「ちょっと借りるね」と立ち上がった。

えっ!

正樹は一瞬途方に暮れた。このパターンに、幼いころ姉が友人と遊びに行く時に
よく置いて行かれたことすらついでに思い出した。なつい!いや、そうではなく。
彼の携帯が、正樹にだけわかるように『遅くなるかもしれない。いや、遅くなります』と伝える。
ええっ!ちょっと、ちょっとと正樹が引きとめるのも、昔通り、功を奏さなかった。

そうして、正樹はがらんとして感じる実家で先ほどの思索の続きを始める。
案外機械音痴の姉が操作方法を誤っているのではないかということと、
なんであの携帯のことがこんなに気になるんだろうかということを。

(なんだろう、この胸のもやもや…俺もついに胃酸の出過ぎか?)

~そのころ港の見える丘公園~
「あらっ。電池がもうない?仕方ないわねえ、正樹に迎えに来させちゃおうっと」
『(アプリの操作により、通話に支障が出るパターン。似たもの姉弟…zzz)』
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!続編タノシミスグル


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