戦国BASARA 紫×緑
更新日: 2011-01-12 (水) 00:48:05
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )某スタイリッシュ戦国ゲェムの紫×緑でつ。多分10分割ギリギリ。
昨日の雨が嘘みたいに秋麗らかな昼下がり。
無造作に目の前に出されたのは菊の花。
そして次の瞬間にはぴしゃりと言い切られた。
「飲め。」
何をいきなり言い出すのか。俺には全くわからない。
お宝目当てに他所の国で暴れて、結局帰ってきたのは一週間前。
今回の遠征は予想外の嵐に遭ったこともあり、こっちの完敗。それでも即行でケツ捲って逃げたこともあり、
国の取った取られたもなく、うやむやの内に事は済んだ。ただしツケとして俺はそれなりに
大きな怪我をした。今すぐ命かどうこうという代物ではないが、やはり痛いものは痛い。
それに無理して後遺症なんて話になれば、それこそ厄介だ。
俺は大人しく包帯でぐるぐる巻きにされ、布団に潜り込んでいた。
そんなある日の朝一に、お客がやってきた。
「……貴様、何をしておる。」
海を挟んだ、中国の雄。深草色の衣を纏った男は、渋いくて渋くて仕方無いというような顔をしていた。
元々そう表情が変わらない奴が、こんな顔をするなんて珍しい。
「何だよ、何かマズイもんでも喰ったか?」
「質問に答えよ。」
偉く機嫌が悪いそいつは敷居を跨ぐことなく、縁側に立ったままだ。おれば頭をボリボリ掻いてみる。
「んだよ、寝てるだけだろ。いいじゃねえか。」
俺がひらひらと手を振ると、渋い顔へ更に皺を寄せる。その眉間を見たら、栗の渋皮を思い出した。
そして一通り俺を眺めると、すたすたとどこかに行ってしまった。
「何なんだよ、一体…」
訳もわからず布団に潜り込んだまま、ブツブツと文句をいう。
俺は何も悪くないはず。何もしない内にアイツが勝手に臍曲げて行っちまったんだ。
ん?そういや何でアイツは四国になんかいるんだ?手紙も使者も来てないはず。
アイツらしくはない。
そんなことを考えていたら、二刻なんてあっという間に過ぎた。
小鳥の囀りが聞こえるなか、また静かな足音が聞こえてきた。
足音の主はやっぱりアイツで、そしていきなり出されたのだ。菊の花を。
「飲めって…何だよコレ。」
「黙れ。賊ごときが我に口答えするな。」
あんまりにも不条理な命令に、思わず眉をしかめる。いつも無礼千万な男だと
知ってたし、そんなとこも可愛いなんて思っていたが、ここまで不可解な要求を突きつけて
くるなんて流石に一言二言言いたくなる。
「いやいや、訳わかんねえよ。こりゃ花だぞ。飲めとか何の冗談だよ。
理由を言えよ、理由を。」
「うるさい。いいから飲め。貴様ごとき間抜けが故を知る必要はない。」
「ひでぇ言い種だな、おい。こちとら手負いなんだ。労れよ。」
その一言がよくなかったらしい。俺はいきなり菊を投げつけられた。
花は雨に降られていたせいか、花弁は露をたっぷり含ませていたらしい。
べしゃっという音とともに俺の額に叩き付けられると、頭に巻かれた包帯を濡らした。
「死に損ないが。」
散々暴言を吐いて、深草の男は帰っていった。
何でこんな目に遭わなくてはならないのか。
俺にはちっともわからない。仕方無いので投げ付けられた菊を、枕元の水桶にさしてやる。
別に熱はないが、「何となくそれっぽいじゃないっすか。」と子分が置いていったやつだ。
いきなり訳のわからない男に手折られて、いい加減な理由で置かれた水桶に活けられるなんて
この花も俺と同じく、熟運がないと、俺はちょっぴり同情した。
その後来た野郎共に聞くと、勝手にやって来て、勝手に不機嫌になった男は、
これまた勝手に海の向こうに帰ったらしい。
まあ礼儀を尽くせなんていう気は更々ないが、せめて帰るときくらい何か言っても
罰は当たらないんじゃないか。一応それなりに深い仲なんだし、と付け加えながら俺は
頭の包帯を巻き直しつつ考えた。
結局アレはなんだったのか。一人で考えても埒があかなかったので野郎共にも聞いてみた。
勿論具体的に話せばアイツの逆鱗に触れるのは目に見えているから、然り気無く暈して話してみたが、
野郎共の話は論点すらあっちこっちに飛んでいき、埒があくどころか更なる迷路に迷った。
三人よれば文殊の知恵というが、アレは嘘だったか。それともアイツの言うように俺達は
救いようのない馬鹿なのか。そこまで考えると少しへこんだ。
もう考えるのはやめよう。今日は考え過ぎて頭が痛い。俺は布団を頭から被った。
あれから半月。
傷は随分良くなったが、床についていると周りが政務を殆どこなしてくれることに気付いた俺は、
まだ傷が痛むと積極的に病床に臥せっていた。そのせいか、家臣の一人が慰めにと琵琶法師を呼び寄せた。
何でも京のさる高貴な家の出の人物らしい。正直興味はあまりないが、暇なのは事実なので
その法師の語りを聞くことにした。
琵琶法師はなるほど確かに上品な雰囲気で、閉じられた瞼に傷がある以外、端正な顔立ちをしていた。
高貴な家の出というのは本当かもしれない。曲目は何だかわからなかったが、この法師の琵琶なら
命を持った物の怪になって、羅城門を彷徨いていてもおかしくないと思った。
まあ、羅城門なんて見たことないんだが。
弾き語りが終わり、法師と話す席が設けられた。といっても適当に世間話するだけだ。
しかも俺は布団に入ったままで、非常に砕けた場だった。いくらか話をした後、法師に目の傷について
聞いたら京も諍が絶えませんのでとだけ言って微笑んでいた。
ただそれだけだったが、俺はこの法師はそれなりに色々あった人間なのだと感じた。
そうこうしている内にふと、俺はこの前のことを思い出した。菊の花の件だ。
どうも野郎共と俺では知恵が足りないらしい。ならば他力本願で文殊の教えを修める人間に
知恵を借りるが吉だ。
例によって子細は暈して話をした。こういう諸国を回る人間相手だと、いつ誰にどんな話をされるか
わかったもんじゃない。
万が一俺が相談なんてしたとアイツの耳に入れば、もう二度と顔すら会わせてもらえないだろう。
それは絶対だめだ。俺の心が折れちまう。
細心の注意を払い、どういうことかと法師に尋ねてみた。すると法師はきょとんとした後、
クスクス笑いだした。
「その方は、風流というか、素直でないというか…」
やはり意味がわからない。
「笑うなよ。こっちは真剣に悩んでるんだ。」
「これは失礼いたしました。しかしそう怒られますな。彼の御人は彼の御人なりに、
貴方様を御気遣いなされたのでしょうから。」
法師は微笑んだまま、淀みなく話してくれた。俺はそれを口を開けたまま、ただただ聞いていた。
一通り話を終えると、法師はきれいに剃り上げた頭を下げる。
「夜も随分と更けてございます。その御方の御心遣い、努々無下になさいますな。どうぞ御自愛
召さますよう。」
それだけ言うと、法師は上臈に添われて客間へと下がって行った。
一人残された俺は灯明の火を暫く眺めていたが、さっき聞かされた話を思い出すと、
早速火を落として布団に潜り込んだ。
また雨が降った。
怪我はほぼ治り、錨槍もいつも通り振るえるようになった。
俺は雨が止むのを待って、庭先に出てみた。
そこにはいくつか花が咲いていて、やっぱり菊の花も咲いていた。
飲めと差し出されたものと少し形が違う気もしたが、菊は菊なんだからいいだろう。
俺はその内一本をぽきりと折った。が、折れはしたが茎は繋がったまま。折り取ることができない。
何とかしようと難儀しながら、アイツもこんな風に骨を折ってあの菊を摘んだのかと思うと
自然と胸が温かくなった。
手こずりながらも漸く手に収まった一輪の菊。あの時みたいに、花弁が露で濡れている。
俺は徐にそれに口を近付けた。
――菊の露は、不老長寿の妙薬にございます。
法師の言葉を思い出しながら、俺は露を啜った。
――歌など嗜まれる方なのでしょう。
冷たい露が唇を濡らす。
――貴方様の御怪我を御覧になって、いてもたってもいられなかったのでございましょう。
露は甘くも辛くもなく、妙薬にしては味気なかった。
そうなると何となく口寂しくなり、今度は花弁を一枚唇で千切り、そのままもぐもぐと食べてみた。
今度は苦い。ということは良薬なのかもしれない。自分でも馬鹿みたいだと思いながら、
俺は菊の花弁を噛み続けた。
(アイツ、渋い顔してたなあ。)
あれ以来使者も文も届かない。こっちからも出しそびれたまま、今に至る。
アイツはまだ眉間に渋皮を貼り付けたままなんだろうか。
(一応、心配してくれたんだよな。)
回りくどくて、一方的で、恐ろしいほど理不尽な心配の仕方だと苦笑した。
けどあの不器用で、臆病で、素直じゃない男が見せてくれた精一杯の気持ちなんだと思ったら、
苦笑もただのでれでれした笑顔に変わっていった。
「…会いてぇなあ。」
会って抱き締めたい。多分怒鳴られるけど。
それで出来たら口付けたい。多分殴られるけど。
それからありがとうって言いたい。多分顔を真っ赤にするだろうけど。
「……会いに行くか。」
もう味なんてしなくなった菊の花弁を飲み込むと、俺は文を書くため部屋に戻った。
使いを立てないとアイツがまた怒るから、適当でも知らせをやらないとならない。
内容なんて会いに行くの一言でいい。
差し当たっての懸案事項はどんな土産でご機嫌をとるかだ。
「どうすっかなぁ~。」
空高い秋晴れの日。俺は空を仰ぎながらひとりごちた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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