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十二国記 驍宗×泰麒 「捏造戴国物語4」

驍宗×泰麒、続きです。
注意)ちょっと傲濫×泰麒あり。捏造次王出てきます。

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 永和百二十三年九月、上、蓬山に赴き許されて位を退く。上、蓬山に崩じ、諱して献王と曰う。
 泰王たること三五〇年、托飛山桑陵に葬る。
 同十一月、戴主泰王昌郁立つ。泰王昌郁、姓は周、名を英、字は昌郁、文州陶源の人なり。
 泰麒と盟約し、神籍に入りて泰王を号す。天命を受けて玉座に前み、元を本初と改め、周王朝を開けり。

「――主上、お茶にしませんか?」
 王が轆轤を止めて立ちあがるのを待って声をかけると、王は笑って振り向いた。
「ああ、ありがとう。――良いんだよ、途中で声をかけてくれて」
「嫌です。せっかくの器がまた台無しになってしまいます」
 火鉢の湯を取り、水を足して手水の用意をしながら、泰麒は澄まして答える。
 後宮の一室だった。といっても、二人の他に並んでいるのは焼かれる前の器と土ばかり。
 床は土間、轆轤の他は火鉢に木製の卓と椅子があるだけの粗末な部屋で、
華やかな装飾は何もない。即位式で廉王廉麟に引き合わせたのが良かったのか悪かったのか、
漣のように後宮中が菜園と化したりはしていないが、後宮の建物の一つが王の工房に改装され、
すぐ隣の建物が王と麒麟の居室となっていた。
 乍王朝時代には閉鎖されていた後宮の一部が開かれた一方で、正寝と仁重殿は閉鎖された。
 主従揃って後宮に移ったことで、朝廷内には良くない噂も流れたが、実際には、政務の合間にこうして
器を作っているか、決済すべき書を二人で処理しているかのどちらか、というのが真実だった。
 王が器を造形り、麒麟が彩色をし、出来た器は人を介して密かに陶器市に出す。
 そこでどのような評価を受けたかに一喜一憂し、思考錯誤するのは楽しく、政務の合間を縫って
主従が工房で過ごすようになって、もう十年が過ぎていた。

 当初こそ盲目の王が立つなど前代未聞、武断の王に慣れた朝は混乱したが、元々国が荒れること
なく王の交代が行われたこともあり、今では雲の上も下も、穏やかな時間が流れていた。 
 ――そう、穏やか過ぎる時間が。
   
 臥室に下がった泰麒は溜息をついた。
 独り寝の広い衾褥の中では、否が応でも驍宗のことを思い出さずにはいられない。
 昌郁は良い王だ。今は官の信頼も得ている。工房に籠る時間は長いが、安定した国で王がすべきことは
それほど多くなく、政務を疎かにしているわけでもない。
 台輔として接する時には自分を頼ってくれるし、そうでないときは、自分を弟のように可愛がってくれる。
 字は下されていないが、それは単に台輔という呼び方が馴染んでいるだけのこと。
 器を一緒に作るのも楽しい――何の問題もないのに。
(……寂しい)
 昌郁は臥室を訪れたりはしない。そういう関係ではない。
 一度だけ、あまりの寂しさに王の臥室を訪れたことがあるが、熟睡している主の姿を見て、
結局そのまま帰ってしまった。あの時、自分は一体、何を期待していたのだろう。
(僕は、主上に抱かれたいのだろうか?)
 自分に問うてみても、答えは見つからなかった。
 寂しいのは確かだが、身体の関係が持ちたいのかどうかは分からない。
 仮に身体の関係を持ってしまったら、蒿里という名以外には本当に何一つ、驍宗に遺せなく
なってしまう。それはそれで、驍宗の気持ちを裏切るようで、耐えがたいことに違いない。
(……時々、一緒に眠ってくれるだけで良いのだけど)
 今夜のように、時々、どうしようもなく寂しくなることがあるのだ。
 麒麟には意思など無いという。ただの天意の器だと。だが、新王を迎えて消え去るかと思っていた
驍宗の記憶は消えなかった。身体と心に刻まれた記憶が、寂しさとなって安眠を阻害する。
 抱擁してもらいたい、そう願う相手が昌郁なのか、驍宗なのかはもう自分でも分からない。だが、
その衝動の根元にあるものは、驍宗と過ごした長い時間にあることは間違いなかった。

 だが、そのことを昌郁に知られるのは怖かった。
 自分が前王と身体の関係があったことは、当然王の耳に入っているはずで、登極後すぐに正寝を
閉鎖したのは、前王と自分の関係に嫌悪を抱かれたせいではないかとも思う。
 本当の理由を怖くて聞けないまま、十年が過ぎてしまった。
 もし、嫌悪を抱かせてしまったのなら、思い出させるようなことはしたくない。
「汕子。……ごめん。また、手を握ってくれる?」
 普通の人間の何倍もの時を生きているのに、精神年齢は遠い昔から変わらぬ自分が情けないが、
他にどうして良いか分からなかった。
 
 うとうとと眠っていて、懐かしい夢を見た。否、違う。これはただの記憶。
 ――鮮やかな色。懐かしい文字。
『へえ、これが蓬莱の書ねぇ。綺麗なもんだ』
 持ってきた本に載った器の写真を眺めながら、琅燦は感嘆したように言う。
 文州の土で磁器は焼けぬかと琅燦の元を訪れたのは治世百年を過ぎた夏のこと。
蓬莱から持ち帰った陶磁器の本を並べて、あれやこれやと話していると、この件につき
事前に了承を得ていた驍宗が様子を見にやってきた。
 琅燦が繊細な絵の描かれた器の写真を示して、驍宗に言う。
『主上、土はなんとかなりそうだけど、文州、いや戴にこんなもんが焼ける陶工はいないよ。
 どいつもこいつも気が短いんだから』
『構わぬ。最初は冬官府で作ればよい』
『うちで?』
『どうせ太平の世になって、冬器が余って官も暇であろう。やりがいのある仕事ではないか』
『暇人呼ばわりは聞き捨てならないけど。まあ良いでしょう。うちの官は勉強不足な奴が多いから、
 良い機会だ。――それで、どんな器を作れば良いですか?』
『私は器の善し悪しは分からん。冬官で判断せよ。この件は大司空に一任する。
 年明けまでに状況を報告せよ』
 ごく短いやりとりで命じて去って行った王を見送って、琅燦は呆れたように言った。
『主上は陶工にはなれないね。気が短すぎる。そんなに早く職人が育つもんかい』

『驍宗様はそこまで要求されてはいないと思いますが』
『いいや、ああ言われたら、器の一つも見せないわけにはいかないだろうさ』
 やれやれと楽しそうに笑ってから、琅燦が訊いてきた。 
『主上が決めてくれないなら仕方ない。台輔はどんな器が良いかい?』
 訊かれて、参考になりそうな写真を示した。
『戴の冬は寒くて白と黒ばかりだから、緑とか黄色とか赤とか、温かい色で、
 花とか植物の絵柄が華やかなのが良いんじゃないかなとは思うけど』 
『なるほどね』
『でも、僕はこれがいいな』
 黒と白と赤で抽象画のようなものが描かれた器。一見ただの文様のようだが、
良く見れば描かれているのは黒毛に赤目のウサギである。硬質なようで良く見ると親しみやすい絵柄。
 驍宗様みたいでしょ、と言うと、琅燦は声を上げて笑った。

 十二月になって、冬官府の朝議の折に琅燦が驍宗に奏上と共に提示して見せたのは、まさにその器と、
鮮やかな緑の描かれた器だった。驍宗はその場では特に何も感想は言わず、引き続き精励せよと
言っただけであったが、その夜、臥室に呼ばれた際に問われた。
『あれを選んだのは蒿里であろう?琅燦のやつ、笑いを噛み殺しておったぞ。私はウサギか?』
『ええ。とても優しい方ですから。――でも、ごめんなさい。不敬でした』
 ウサギは自分だ。王がいないと生きていけない、臆病で寂しがり屋な獣。
 衾褥の上に座ったままでいると、驍宗が手招く。招きに応じてその胸に抱かれると、
頭の上から声が降ってきた。
『蒿里。私はそんなに優しくは無いぞ。現にこうして麒麟を巣穴に引きこんで喰ってしまうのだからな』

『喰われたがっているのは僕の方ですから、お優しいんです』
 そう言って誘うように抱きつけば、くるりと身を翻した主の下に組み敷かれ、甘く喉を噛まれた。
『……撤回します。驍宗様はやっぱり虎です。優しい虎です』
 くすくす笑って言うと、驍宗は喉から口を放し、代わりに笑う口元に軽い接吻をくれた。
『分かればいい』
 そうしてまた、熱い幸せに満ちた夜が始まるのだ。 
 最初は怖かった。
 自分の身体の隅々までも見られる羞恥と、身体を繋げる痛みにはなかなか慣れられなかった。
 だが、慣れてしまえばその全てが主を感じさせてくれるもので、主を喜ばす何もかもが嬉しい。
 こんなに淫乱な麒麟は他にいないに違いないと思いながら、与えられる快楽に酔う。
 慈悲の獣なんてのは嘘だ。驍宗に抱かれている時は、他州が復興する中、荒廃に取り残されている
文州のことなど、一片たりとも脳裏には残ってはいなかったのだから。
『驍宗様…――あぁッ!』
 快楽に真っ白になった意識の中、最奥に放たれた熱の感触を感じて、思わず笑みが零れる。 
 穢れに他ならないものを体内に受け入れて、喜びを感じている自分はもう麒麟ではないのかもしれない。
 乱れた息のまま、主の胸にすがりついて、抱き返してくれる腕の中で溜息と共に囁く。
『……すきです』
 驍宗の答えはいつも無かった。でも、抱き返してくれる温もりだけで十分だった。
 この人になら殺されても良い。どんな最期でも受け入れよう。
 でもできるなら、なるべく長く、この人と、幸せな国を生きていきたい。
 そんなことを願いながら、主の腕の中で幸せな眠りについた。
 ――あの頃は、まさか生きて驍宗と分かれるなど、思いもしなかった。
 文州に広めた陶磁器の職人の一人が、自分の新しい王になるなどとは。

 ――ああ、まだ夢を見ている。
 そう思ったのは、驍宗の顔が目の前にあったからだ。
 古い幸福な夢はもう覚めてしまったとばかり思っていたのに。
『……驍宗様』
 声に出してその名を呼ぶだけで、胸が熱くなるのが分かった。
 いつの夢だろうとぼんやり考えていると、驍宗の手が頬に触れた。
 懐かしい、温かい大きな手が頬を撫でる感触が嬉しくて、うっとりと眼を閉じた。
『蒿里』
 呼ばう声に、ぞくりと身体が戦慄く。眼を開けば、驍宗の顔が目の前にあった。
 深紅の瞳。血の赤は恐ろしいが、この赤は大好きだった。
 夢の中なら何も畏れることはない。強請るように泰麒は自分から口づけた。
『んッ……』
 すぐに応えるように熱い舌が口腔に忍び入ってくるのを、舌を絡めて出迎える。
 制限された呼吸に、記憶を取り戻した身体が一気に熱を帯びていく。
 口腔を犯されながら、泰麒は圧し掛かってくる男の身体に腕を回し、抱きしめた。
(――ああ、なんて懐かしい。)
 驍宗の手が器用に片手で寝間着の帯を解いて、絹の下の白い身体へと触れる。
横腹から腰へ、腰から尻へとゆっくり焦らす様に、あるいは慰める様に滑った後、泰麒の雄に触れた。
『はぁッ……驍宗、様……』
 この十年、誰にも触れられたことのない敏感な場所を弄られて、身体が戦慄く。
 夢にしてはリアルすぎる。
 生々しい快楽に、ようやく何かがおかしいと思った。
 微かな香と体臭の混じった慕わしい匂いの代わりに、獣の匂いを感じて、
違和感は一気に確信に変わった。――違う。驍宗様じゃない。この気配は――

 完全に意識が覚醒した。泰麒は未だ自分の唇を啄んでいる男の肩を掴んで引き離した。
「傲濫!何するんだ!」
「……怒ったか」
 するりと赤い犬の姿に戻って離れた傲濫が、いつもの声で問う。
 素っ気ない口調だが、少しバツが悪そうな顔をしているので、溜息をついて語調を緩めた。
「怒ってはない、けど。なんでこんなことを」
「驍宗の名前を寝言で呼んでいた。驍宗が恋しいのだろうと思って、つい」
 慰めようとしてくれたのだということは理解できた。
 だが、それで納得できる程度の悪戯ではない。
「……僕が気づかなかったら最後までするつもりだったの?」
「泰麒が求めれば」
 呆れて怒る気もしないとはこのことだ、と泰麒は思った。
 寝言を理由に襲われたのではたまらない。
「こういうのは、求めるとは言わないよ」
 乱れた衣服を直しながら言うと、傲濫は頭を垂れた。
「……申し訳ない」
「もう良いよ。でも、二度とこんなことはしないで」
 頭を撫でてやると、傲濫はそのまま沈むようにして姿を消した。
 使令を見送ってから、泰麒はもう一度溜息をつく。
 ――あの声、あの瞳、あの身体。
 気配こそ違うが、あまりにも似ていた。
 恐ろしいような、眩しいような。あの、熱い炎のような王気を思い出してしまう。
 おかげで、驍宗に抱かれていた頃の記憶がまざまざと蘇ってしまい、身体の熱が引かない。
 まだ夜は明けていなかったが、とても眠れる気がしなかった。
 仕方なく、器の図案でも考えようと臥室を出た。

 泰麒が硯に向って墨を摺り始めた頃。別の臥室では。
「……そう、台輔に気づかれましたか」
「御意。二度とするなと言われた」
 不満がありありと滲んだ声に、思わず笑みが零れた。
「俺が命じたこととは、気づかなかったのですね?」
 確認すると、傲濫を是と答えた。――台輔も迂闊だと思う。
 いくら傲濫が規格外の使令だといっても、使令が麒麟を襲うなど、通常ならありえないのに。
「ならいいです。傲濫には、すまないことをしましたね」
「……構わないが、台輔は主上に臥室を訪れてほしいと思っているのでは?
 なぜ御自らお訪ねにならないのか?」
「恩人から恋人は奪えないでしょう?……もう良いです。下がってください」
 獣の気配が去って行くのを確認してから、昌郁は物思いにふける。
 ――傲濫ではだめだったか。
 麒麟が驍宗を忘れられないでいるのは知っていた。
 だが、だからといって自分が手を出したいとは、昌郁には思えない。
 ずっと貧しい土地だったという文州は、乍王朝時代に工芸の盛んな豊かな街へと大きく変貌した。
 自分が陶工として生きてこれたのも前王と泰麒のお陰だ。その恩を王になることで返せるというなら、
悪くないと思う。そういう思いで天命を受け入れた。
 あの麒麟は前王のものだ。
 だから少なくとも今は、驍宗からも泰麒からも、何も奪いたいとは思えなかった。
 どうせいつか、少なくともあの麒麟の命は、自分が奪うに違いないのだから。

 ――昌郁も泰麒も知る由もない。
 結局、生涯三度王に仕えた戴国の黒麒が、波乱の生涯を終えるのは、まだ遥か先のこと。 

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
 中途半端だけど、力尽きたのでここで終わりです。
 読んで下さった方、ありがとうございました。……新刊出ないかなぁ。 

  • 続編希望! -- 2010-10-24 (日) 07:49:03
  • 萌えながら泣きました。あなたさまの描く戴主従が好きだ!上に同じくです。 -- 2010-11-07 (日) 18:34:23
  • 面白かったです! -- 2010-11-10 (水) 00:00:56
  • 続編希望します!すごく胸が痛くなりました。 -- 2010-11-17 (水) 12:43:41
  • こういうの萌える…面白かったです! -- 2010-11-24 (水) 22:29:56
  • 続きを…主上…! -- 2011-04-23 (土) 02:58:10
  • 戴に飢えております…続きでなくても読みたい!>< -- 2011-05-05 (木) 16:44:06

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