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十3人の■ 野人×甥

オリジナルとしてもいける感じで。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

山の民、と呼ばれるその男の耳が、目当ての獣とは違う音を捉えた。
人間の足音だ。
山男は少し考え、獲物を諦めて足音の向かう先へと躍り出た。

不意打ちを食らった足音の主は、目を大きく見開き山男を見た。
足音の主は小柄な男だった。
乱れ髪を無造作に結わえ薄汚れた身なりながら、どこか凛とした雰囲気を持つ男。
山男もまた、大きく目を見開いた。
呼び掛けようと口を開きかけた時、弓を引き絞る音を聞いた。
間髪入れず、矢音。
枝葉を掠めながら迫り勢いを失った矢は、木に弾かれて落ちた。
男は一瞬背後へ視線をやり、向き直ると山男の脇を駆け抜けようとした。
山男は男の腕を掴んでそれを留める。
口角を上げながら顎をしゃくり、自ら先に立って駆け出す。
男は無言でそれに続いた。

山男が足を止める。
男も立ち止まり、肩で息をしている。
もう足音は聞こえなくなっていた。
顔見知りだったのだろう、山男が男の名を呼んだ。
聞こえていないはずはない、しかし男は応えなかった。
もう一度呼び掛ける。
男は応えない。
「これだから侍ってやつは」
山男が毒突く。
「もうその名は捨てた」
呼吸を整え終えた男が言った。
「捨てなければ、」
腰の刀を一瞥する。
「生きられなかった」
柄を握り締めていた手を緩め、離す。
山男は鼻を鳴らして見せた。

ねぐらへ案内してやる、と山男は言った。
男を導き、着いたところは岩屋だった。
ムシロを敷いて寝床が作ってある。
「居心地が良さそうだな」
少しの皮肉を含めて言ったであろう男の言葉に、山男は自慢げな笑みで応える。

「お前が欲しがってたあの女は」
男が問う。
途端に、山男が拗ねたような表情を浮かべた。
「どうした?」
「逃げた」
ぽつりと、山男が呟いた。
男は近付き、先を促す。
「せっかくカシラから奪って手に入れたってのに、あいつ自分で逃げやがった」
唇を尖らせて言う山男を見、男は今日初めて笑みを浮かべた。

炙った肉と野草の汁物で腹を満たした後、男は早々に体を横たえた。
疲れが男の瞼を重くする。
山男はつまらなそうな表情を浮かべた後、おもむろに動いた。
男の枕元へにじり寄り、見下ろす。
手を伸ばして男の髪を束ねている紐を引き、解く。
そして男の髪へ指を差し入れると、無造作に掻き乱した。
男の腕が持ち上がり、その手を捕らえる。
開かれた目が山男を咎めている。
構わず、握られたままの手で今度は男の顎を掴んだ。
真上から見下ろし言う。
「でけぇ目だ。ちょっとあいつに似てる」
男は真っ直ぐ見つめ返す。
「俺が欲しいか」
山男は瞠目し、それから顔を綻ばせた。
「欲しい」
男の手が、ムシロの上へぱたりと落ちた。

苦しげに息を詰める音と、荒々しく吐き立てる音が続く。
吐き付けた唾を菊に塗り込められ、指で暴かれる間も、押し入られた時も、男は声一つ上げなかった。

眉根を寄せ、ムシロに爪を立てて耐えている。
しかしやがて、男の腕が動いた。
辛うじて手の届く範囲に、男の刀が転がっている。
男の指がそれに這い寄る。
顔を傾け、目でも追う。
山男が気付き、男の顎を掴んで上向ける。
「俺を斬るのか?」
「違う」
音より息の方が多い声で、男は即座に吐き捨てる。
山男は、投げ出されている男の手を強く握り締めた。
男は抗わなかった。

重怠い体を水で清め、そのまま岩に身を預ける。
軽快な足音が近付いてきて、男の傍に降り立った。
男に笑みを見せる、その口の端から鳥の足が飛び出ている。
男の視線をどう取り違えたのか、山男はそれを咥えたまま不明瞭な声で、お前も食うかと問う。
男が断ると、山男はその場にしゃがみ、清流へ鳥の足を吐き落とした。
鳥の足は流れに乗り、やがて見えなくなった。
「名は捨てたのに、ソレは持ってんのな」
男が声の方へ視線を戻す。
山男は男の傍らを指差していた。
「こいつは、」
鞘に納まった刀が、そこに置かれている。
「身を守る為のただの道具だ」

山男が刀に手を伸ばし、触れた。
男は止めない。
持ち上げて鞘から抜く。
顔が映り込むほど美しく砥がれた刀身が現れた。
山男は男を見た。
いつの間にか目を閉じている。
眠るつもりらしい。
少し逡巡した後、山男は抜き身の刀を持ったまま座り直した。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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