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ヘンリ-とうわさばなし

ちょいとスペースをお借りします。

きか○し。ト-マス 擬人化(機関車→機関士)エロ有。
4×3に4←6絡み。6好きな方はスルー推奨でお願いいたします。

以前こちらに投下しました「ゴードンとヘンリーと腕の中のホシ」の引き続き
といっても、前の読んでなくても読めますが。だいぶマイ設定入ってます。
少々長いので2分割で。エロは後半にて。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

噂話はとにもかくにも時間も場所も選ばずに、いつも不躾に舞い込んで来る。
人が集まれば集まっただけいろんなネタがあるわけだけど、中には特にそういったものに好かれてしまう人がいたりする。
彼がそこにいるだけで、彼の名前が出るだけで、新しい噂が次から次へと飛び出してくる。
僕の恋人は今日もまた、噂話の真ん中にいた。

「なぁヘンリ-、知っているかい? タンク機関車の機関士で一番可愛いって評判のあの子が、ゴ-ドンに告白したらしい」
ジェ-ムスはワクワクが止まらないといった表情で、僕の肩を叩いて言う。
「噂は聞いているけど、タンク機の機関士って女の子はロージーしかいないよね。あの子なの?」
「六号機の子だよ」
「六号って……パーシ-? まさか。男の子だろ」
「そうなんだ。モテるのは相変わらずだけど、まさか男まで落としちゃうなんて、一体どこまで罪作りなんだろうね?」
ジェ-ムスはゴ-ドンと僕の関係を知らない。
ゴ-ドンと僕が男同士でありながら恋人として付き合っていることを知っているのは、年長者のトビ-とその夫人のへンリエッタだけ。
僕らが付き合うきっかけになった出来事に、トビ-が少し関わっていたからだ。
男同士の社内恋愛なんて隠して当然のものだし、何よりゴ-ドンの人気ぶりを考えると、とてもじゃないけど公言するわけにはいかない。
いつも一緒にいる僕らは表向き親友ということになっていて、今のところはそれでなんとか済んでいる。特に噂にされたこともない。
勤務中は仲良くするよりも鼻息荒く言い争っている事の方が多いから、当然の流れなんだろうけど。
「よくもこう毎日、新しい相手との噂が立つもんだよね。でも告白しちゃったなんてのは初めてだろ」
「うん。面と向かって言った子は初めてだね。男の子も……初かな」
「君も寂しくなるんじゃないか? 親友に恋人なんか出来ちゃったら、居心地悪いよねぇ」
「そんな事ないけどね。四六時中一緒ってわけじゃないんだし」
そっけない事を言っておく。食い下がって怪しまれると面倒だし。
「それにまだ、ゴ-ドンが付き合うって返事をするとは……」
OKなんてするはずがないのは判っている。彼には既に僕という恋人が居るんだから。
「いーや、するさ。可愛いからなぁ」
「確かに可愛いけど、それだけでOKするとは思えないな」
「性格もそれなりでしょ。僕ほどじゃないけどね」
よく言うよ、この自惚れやさん。

「なるようにしかならないよ。僕らが口を出すことじゃない」
「まぁね。でも見てなよ。明日には、溶けちゃうくらいくっ付きあっているかもしれないよ?」
「他人事だと思って……」
意地悪そうににんまり笑うジェ-ムスに呆れた視線を送って、次の仕事のために機関庫へ向かう。
ジェ-ムスはあとを追いかけてきて、まだこの話題を引きずろうとした。ちょっと、しつこいなぁ。
「なんでも、みんなの前で堂々と『好きです。僕と付き合ってください!』って大声で言っちゃったらしいよ」
「だからこんなに噂されているのか」
今回は特に、ソド-鉄道の関係者でこの噂を知らないのはトップ八ム・八ット卿くらいのものじゃないかと思うくらいに、広がりまくっている。
『噂話が広まるのはゴ-ドンの急行より速い』なんて誰かが言っていたけど、ここまで来ると笑い事じゃない。本当にその通りだ。
「そうなんだよ。それでその時、ゴ-ドンがまんざらでもないって顔していたって言うから!」
「……へぇ」
あくまでも噂だ。見てもいないのに、気にすることなんかない。
「あれ、噂をすればだ。それもふたり一緒だぜ」
線路を何本も挟んだ向こうにある建物から、ゴ-ドンとパーシ-が出てきた。
ゴ-ドンは僕らに気付くと、いつもと変わらない様子で手を上げて合図をくれる。ジェ-ムスも僕もそれに手を振って応えた。
ゴ-ドンの後ろで、パーシ-も手を振っている。小さい身体をめいいっぱい、大きく使って。僕から見ても十二分に可愛いパーシ-。悔しいけど二人、絵になるなぁ。
「一便追加になった。帰るのが少し遅くなるぞ」
相当な距離があるにもかかわらず、ゴ-ドンがよく通る声で言う。僕も頑張って声を出した。
「わかった。先に帰って待ってるよ」
もう一度手を振りあって了解したことを確認しあう僕らを見て、ジェ-ムスが僕を肘でつついて言った。

「でも、一番怪しいのは君なんだよね」
「怪しいって、なにが?」
「実は付き合ってんの? ゴ-ドンと」
「外出なんかに付き合う事は多いよ」
「その付き合うじゃないよ。君がゴ-ドンの恋人なんじゃないの?」
「何処から出てくるんだ、そんな話」
「夕飯はいつも一緒なんだろ。しかも君が作ってるって」
「ひとり分より二人分作るほうが効率がいいんだよ。無駄がなくて安上がりだし」
「そうじゃなくて。なんでわざわざ手料理なのかって事」
「僕の健康管理のためだよ。へンリエッタから自炊を勧められてね。ゴ-ドンが一緒なのはさっきの理由。それだけさ」
「そう? だったら、あの二人がくっついても、ほんとうに寂しくないんだね?」
「……寂しくないよ」
「強がっちゃって」
ジェ-ムスは呆れたように言って僕の肩を叩くと、彼の真っ赤な愛車のほうに走って行った。
その後姿を見送りながら、ため息をつく。
そうだ、強がりだ。
ゴ-ドンの事は信じている。誰に告白されようと、彼が浮つくなんてありえない。
男が男を好きなるって、そしてその想いを伝え合うなんて、生半可な覚悟では出来はしない。それを乗り越えた僕らだもの、多少の事で揺らぎはしない。
でも、誰かと噂になるたびに、誰かと二人だけで居る姿を見るたびに、モヤモヤする。
無駄なヤキモチで生まれる疲労感と、妬いた自分に対する嫌悪感。わずか一瞬の疑心に対する罪悪感。
自分の中にこんなにねちっこくて湿った部分があるなんて、彼の恋人になる前には知りもしなかった。ひどく女々しい性格に、ほんとうに嫌気がさす。
一体いつまで、これからいくつの噂に、悩まされ続ける事になるんだろう。

今日の仕事は定時で終わり。愛車の点検をして、いつものようにしっかり磨き上げる。それから日報を書いて提出。
着替えを済ませてから宿舎の自室に帰る前に、駅前の商店街でお買い物をする。
ジェ-ムスにも説明したとおり、最近は自分の健康管理のために、自炊をすることにしている。
新婚気分を味わっているわけでは、決してなくて。
ゴ-ドンと僕が付き合いだした頃の事。愛車の不調のストレスと整備疲れがたまった僕は、食事が全く喉を通らなくなった。
食べない日が何日か続くと、このまま何も食べなくても生きていけるんじゃないかと思うようになるんだ。
水分さえ取っていれば動けてしまうから、お腹も空かないし、食への欲望が全く出なくなる。
でもそれから、頻繁に貧血を起こすようになった。そして、ついに倒れた。
それを助けてくれたのがゴ-ドンとトビ-で、そのときのある出来事をきっかけに僕らは恋人になった。
後日事情を知ったへンリエッタから勧められて、彼女の助力を受けながら自炊を始めた。
無理せずに食べられる量を、毎日きちんと摂る。独りだと不精してしまうからと、ゴ-ドンが付き合ってくれた。
それからは、夜行や早朝便なんかで時間が合わないとき以外は、毎日僕の手料理。
始めてみると意外と料理が楽しくて、食べてくれる人がいるのも嬉しくて、驚くほどの成果を挙げた。
気付けばレパートリーもかなり豊富になったし、彼の好みも完全に把握した。
長い絶食でガリガリに痩せていた身体も今ではだいぶふっくらして、お腹周りがちょっと心配になってくるほど。
顔見知りになった商店街の人たちにすすめられたら、あっという間に買い物籠は旬のお野菜や新鮮なお魚で一杯になる。
今日は安くて良いものが沢山手に入った。気分がいいから、ゴ-ドンの大好きなものを沢山作ってあげよう。

夕飯の準備はばっちり。お風呂も済ませて、ベッドを整える。
男の単身部屋に似つかわしくないダブルのベッドに洗いたてのシーツを被せて、枕をふたつ並べて置いた。
一緒に眠る機会が増えたから、成人の男二人でシングルベッドはさすがに辛いって、二人で買ったダブルのベッド。
みんなにバレないように運び入れるのに苦労したんだ。独り住まいでこの大きさは、あまりにも不自然だから。
でも実は、この上で肌を重ねたことはまだ数えるほどしかない。
この宿舎の壁は結構薄くて、隣の部屋に音が漏れてしまうことが時々ある。
普通の会話なら漏れはしないけど、どうやら僕は事の最中の声がわりと高くて大きいようだから、きっと確実に聞こえてしまう。
僕の部屋の両隣はジェ-ムスとゴ-ドン。問題はジェ-ムスだ。噂好きの彼に聞かれてしまうと、色々困る。
それはゴ-ドンだって同じ考えのはずで、だから今まで、みんなが仕事に出かけている日中や、ジェ-ムスが夜勤の日以外の行為は避けてきた。
寄り添って眠るだけの愛の巣。それでも、独りじゃないならいい。
仕事の都合で離れて眠らなくてはならないとき、広い広いベッドの上で独りぽつんと眠るのは、孤独でとても辛い。
一度だけ、独りは嫌だって、離れて眠るのは寂しいと言って駄々をこねたことがある。
次の日に、彼は大きなくまさんのぬいぐるみを抱えて帰ってきた。抱えるものがあれば少しはマシだろうって。
それでもやだって泣いた僕を優しく抱いてくれたけど、彼が本当に困っていたから、それからはわがまま言わずに独りに耐えた。
寂しくなったらくまさんを抱っこ。それがこの部屋で過ごす時の癖。
自分の部屋なのに独りで居られないなんて……変な癖ついちゃったな。
ふと時計を確認する。
「遅いな……ゴ-ドン」
増えた仕事が一便だけなら、もう帰ってもいいはずなんだけど。また追加があったのかな。
もう少し独りで待たなくてはならないらしい。今日もいつものようにくまさんを抱きかかえて、だだっ広いベッドに独り転がった。

しんとした静けさが耳に痛い。自分の心臓の音だけがやたらと大きく響く。
どくん、どくん、どくん……心臓ってこんなに大きな音を立てて動くものだったっけ?張り裂けそうなくらい大きな音。
一定のリズムを乱すことなく刻まれるその音に集中すると、指先がピリピリとしてきた。
身体の奥の奥の、真ん中の部分が握りつぶされるようにきゅっと傷む。
ここのところ体調はいいはずなのに、ご飯もちゃんと食べているのに、また貧血?
おかしいな。なんなんだろ?落ち着かなくちゃと思って深呼吸をしたら、息を吐くと同時に涙が溢れた。
寂しいからって、泣くか、普通?男だろ。
もうすぐゴ-ドンが来てくれるんだから。追加の仕事を終わらせて、お腹空いたって言いながら。それまでの我慢。
大丈夫。独りじゃない。この子がいる。ゴ-ドンがくれた、くまさんがいる。
いつからだろう、この子の存在に頼り始めたのは。この布と綿の塊が、唯一、縋りつけるもの。
いつまで、この子に頼らなくちゃならないの?
ゴ-ドンの気持ち次第では……これからも、ずっと?もし彼が、パーシ-を受け入れてしまったら……。
ありえないことだと判っていても、恐ろしいくらい不安になる。だってもう完全に、心も身体も離れられなくなってしまっているから。
早く会いたい。早く触れたい。この冷たいぬいぐるみじゃなくて、暖かいゴ-ドンに。
どくん、どくん……
僕の中で鳴り続ける鼓動、その音だけを残して、次第に他の感覚がなくなっていく。
意識が朦朧としてきた。痛みもなくなった。
どくん、どくん、どくん……かちゃ……どくん、どくん
ただひたすら事務的に刻まれていく音に、違うものが混ざる。なんだろう?
どくん、どくん……ぱたん……どくん、どくん
まただ。あぁもう邪魔しないで。
ゴ-ドンが来てくれるまで、くまさんと二人で待っていなきゃならないんだから。うるさくしないでよ。
腕の中で何かが動いた。するりとすり抜けようとする感覚に気付いて、手を伸ばして縋りつく。
やめて、逃げないで。……盗らないで。捕まえようともがくけど、手応えがない。
なんで居なくなるの?なんで置いていくの?独りにしないでよ……!

襲ってくる喪失感から逃げ出したくて、夢中で手探りした。何度掴んでも空を切るだけ。探しても探しても見つからない。
絶望に似た感情が沸きあがってきた。怖い……独りは怖い。
いやだ!助けて、ゴ-ドン!捨てないで……置いていかないで。帰ってきて……!
「うぁあああああぁああ!!」
うるさい、誰の声?僕?叫びたくなんかないのに、叫んでいるの?やめて、止まれ、止まって……!
突然、身体が強い力でぐっと包み込まれた。直後に聞こえた声に、意識を揺さぶられる。
「……リー! 起きろ! 目を覚ませ、ヘンリ-!!」
「あ……」
一気に、失っていた全ての感覚を取り戻した。指先の痺れも、胸の痛みも、頬を伝う涙の感触も。
そして、腕の中から消えた存在と、換わりに僕を包み込んだ腕の暖かさを認識する。
「………」
声が出ない。身体が震える。心臓の音は、もう聞こえない。
「ヘンリ-、もう心配ない。俺だ、ゴ-ドンだ。わかるな?」
「……ゴ-ドン……」
「あぁ、俺だ。……今帰った。遅くなってすまない」
「……」
確かに、ゴ-ドンだ。彼の事を確認した途端、どっと疲労感に襲われた。肩口に顔を埋めて、身体の全てを彼に任せる。
「もう大丈夫だ。何処にも行かない」
「……?」
「だから泣かないでくれ。捨てたりなんかするもんか……!」
身体が痛いくらいに力強く、抱きしめられた。ゴ-ドンの声が震えている。何があったんだろう。
かろうじて動かせる左腕をゴ-ドンの背中に回して、掌でぽんぽんとする。
「……どうしたの?」
「お前がうなされていた。泣いていたんだ」
「僕が?」
「寂しかったんだろう。ごめんな」
「……うん」

肩越しに見えた枕元にくまさんが居た。投げ出されたようにおかしな姿勢で転がっている。
なんであんなところに?くまさんのほうに伸ばせる限り手を伸ばすと、ゴ-ドンが声を荒げて僕の腕を乱暴に掴んだ。
「! あんなものの相手をするな!」
不意に腕を曲げられて肩に痛みが走る。
「痛っ」
「っ、すまん! ……もうあれに触らないでくれ」
「どうして?」
「お前があれを抱いているところを見たくない」
「君がくれたんだよ」
「そうだ。だが、ここまであれに依存するとは思わなかった」
「依存なんかじゃ……」
そりゃぁ、頼りにはしているけど。君がいない間、慰めてくれるから。
そもそも、君が早く帰ってきてくれれば寂しい思いすることなんてないんだけどね。
なんでこんなに遅かったんだろう?追加が一便だけならもっと早かったはず。
「ねぇ……追加の仕事って何だったの?」
「……クロバンズゲートからナップフォードまでの定期便だ」
それは多分、十八時にクロバンズゲートを出る普通客車便のこと。スカ-ロイたちの鉱山鉄道との連絡便で、その区間限定の便としてはそれが最終になる。
でも、それを牽いて今の時間?時計の短針は、もうとっくに十の数字を超えている。
聞かなきゃよかった。ため息をつきながら、頭をゴ-ドンの肩口に戻す。
腕、離してくれないかな。握られた部分が痺れてきた。さっきからずっとピリピリしている指先も加えて痛みを増してきたみたいで、少し辛い。
「……パーシ-のところに寄っていた」
「!」
全身から血の気が引いた。とっさに両耳を手で塞ごうとしたら、握ったままの腕がまた強く引かれる。
ありったけの力で逆らうけど、ゴ-ドンに敵うわけはない。たやすく引き剥がされた。
腕が痛くて、胸の奥が握りつぶされるような圧迫感に襲われる。止まりかけていた涙がまた溢れ出してきて、どうしようもない。

「聞いてくれ」
「聞きたくない!」
「聞いてもらわなくちゃ困る」
「困らないよ! 言い訳なんか聞きたくない!」
「言い訳じゃない」
「パーシ-の所に寄って遅くなったんだよね、わかったから、わかってるから! 離してよ」
「寄る必要があったんだ、どうしても」
「寄っちゃ駄目だなんて、言ってない」
「だったら聞け!」
「やだ……聞きたくないよ……」
「話をしてきた。断ったんだ、付き合えないと」
「! ……どうして」
「どうしてって……俺にはお前がいるじゃないか」
「……パーシ-は、いい子だよ。僕なんかより、ずっと……」
「そうだな。お前みたいに泣いたりせず、真剣に話を聞いてくれた」
「……」
「あいつの場合はな、勘違いだ」
「……勘違い?」
「憧れと恋心を混同してしまっていた。話し合ったらわかった。納得してくれたよ」
「憧れていただけ……ってこと?」
「そうだ。心や身体を求められたわけじゃない」
「……最悪だ、僕」
「まったくだ。ぽろぽろ泣きやがって。俺を疑ってんのか?」
「疑ってなんかないよ! 信じてる! ……ただ……」
「ただ?」
「噂が多すぎて……イライラする。辛いんだ」

「聞くたびにこうなのか」
「今回は、特別、だけど……」
「まったく……身が持たないぞ。少し割り切れ」
「……うん」
「相手には困らない俺様が、何故お前を選んだのか……少し考えろ」
「…………」
「自分の魅力に自覚はないのか」
ゴ-ドンは明らかな呆れ顔。今思えば彼が僕の何処を好きになったのか、聞いた事が無い。
最初に繋がったのは身体から。いきなり強引に奪われて、その時は本気で殺意すら覚えた。
でもその後、心から僕の全てを欲していたのだと聞かされたら、意外なほどすんなりと彼の行為を受け入れてしまった。
なにより僕もゴ-ドンの事が好きだったから、好きな人から本気で求められれば、拒絶する事は叶わなかった。
それに乗じて彼を自分のものにしてしまおうと、我ながら随分無茶な理由で言いくるめて、この関係になだれ込んだんだ。
全てが都合よく上手く進みすぎたせいで、好きになったきっかけや相手に求めているもの、それらを語り合う事のないまま、今に至る。
ひとつだけ、彼を惹き付けているのが確実なものといえば……
「……身体?」
「否定はしないが……」
力強い腕に支えられて、僕の身体が横に寝かされる。枕の上にきちんと置かれた頭の横に、くまさんが転がっていた。
僕が手を伸ばすより早くゴ-ドンの手がくまさんを鷲掴みに持ち上げて、ベッド脇のサイドボードに背をこちらに向けて座らせた。
そっぽ向かせたりして、これからする事を見られないように……って、ぬいぐるみ相手に?
僕を気遣ってそうしたのだろうけど、時折垣間見えるゴ-ドンの幼さがとても可愛く思えて、つい笑いがこぼれる。
「……なにがおかしい」
「見られるのが恥ずかしいの?」
「そんなんじゃない。独り占めしたいんだ。見られるのも気に食わん」
「ぬいぐるみじゃないか。……君って意外と可愛いところあるよね、ゴ-ドン?」
「言ってろ」
身体全体に、慎重にふわりと重みが掛けられる。彼の唇と僕の唇が触れそうになった瞬間、ふと、大事な事を思い出した。
「ごはん! 食べる?」
「! ……なんだいきなり」
「晩御飯だよ。まだなんだろ?」
「後でいい。先にお前を食べたい」
「遅くなるよ」
「欲しいんだ。今すぐ」

「仕方ないなぁ……晩御飯を入れるスペース、ちゃんと残しておいてよね」
「心配するな。いくら食っても食い足りないよ」
ゴ-ドンが笑った。僕の頬を撫でながら、唇を重ねてくる。
大きくて強いゴ-ドンも、唇はとても柔らかくて暖かい。その暖かさが心地よくて、全身に安堵感が広がった。
帰ってきてくれたんだ。僕のところに。そう思うと、やっと、ゴ-ドンに触れることが出来ている実感がわいた。
二人を隔てる邪魔な服がゴ-ドンの巧みな手捌きで抜き取られると、触れ合う素肌の感触が気持ちよくて、少しだけ身体を動かして肌と肌を摩り合わせた。
お互いの胸に二ヶ所ずつ、小さく硬くあたる部分がくすぐったくて少し恥ずかしい。
それに気付いたゴ-ドンが、僕の胸に掌を当てて硬い部分を転がした。チリっと痺れに似た痛みが身体を貫いて、小さく声が漏れる。
いつのまにやら僕の身体は感度が上がって、完全に食べ頃になっている。
彼の唇は僕の耳に移り、舌先で耳に軽く触れながら、熱い吐息混じりに囁きかけてきた。
「もう気持ちよくなってきたのか」
「……うん」
「自分で魅力だと言うだけのことはあるな。いやらしい身体だ」
「いやらしいのが嫌いなら、食べなくてもいいんだよ」
「好き嫌いはしないんだ」
「明日のごはんはホワイトアスパラのフルコースだね」
「……緑のにしてくれ」
「白いのも、美味しいのに……んっ」
ゴ-ドンの手が胸からわき腹へ、更に下へと降りていき、妙に熱っぽい足の間に滑り込む。
僕が間違いなく男なのだと主張するそこに手が触れると、さっきよりも更に強い衝撃が走った。
既に緊張しきったそこを解きほぐすようにやさしく摩られる。摩られれば摩られるほど、かえってガチガチに凝り固まっていく。
容赦なく襲い掛かってくる快感に必死に抗うけれど、不意に胸の上で硬くなっているところを啄ばまれて、一気に堰が切れてしまった。
「んっ! ……ぅあ……っ!」
この部屋ではご法度の喘ぎ声。
一瞬だけ、隣室のジェ-ムスの存在が頭をよぎる。今日の彼は夜勤ではない。多分、部屋に居る。
でも一度声を出してしまったら、もう止められない。止める気になんてならない。

声は美味しく食べてもらうための調味料だから、出来るだけ色濃いほうがいい。
ゴ-ドンの手や舌の動きに合わせて、身体が敏感に反応する。彼が触れる場所全てが気持ちよくて、全身が熱い。
「あんっ……あっ、はぅ……んっ」
足の間に鈍い痛みが走って、直後に更に強い快感が、お腹の底からじわりじわりと湧き上がってくる。
くちゅくちゅとソースをかき混ぜるのに似た音と、ちゅっちゅっと吸い上げるような音が室内に響いて鼓膜をくすぐった。
頭の中が真っ白になって、あっという間に何が何だかわからなくなる。
「あっ、あっ……んっ、ぁっ!」
足の間はとても熱い。けれど、急激に寒気を感じた。またあの恐ろしい感覚が戻ってきた。強烈な孤独感に胸が締め付けられてひどく痛む。
ゴ-ドンに触れられている、その感触は確かにあるのに、実感がひどく薄い。温もりを求めて伸ばした腕が、虚しく空を切った。また、何も掴めない。
「ゴ-ドンっ! ……どこ? ……ごーどん……!」
力が抜けてベッドに落ちかけた腕が、途中で受け止められた。
「ここだ、大丈夫。……離さない。何処にも行かない」
ふわりと身体を包み込む確かな温もりを感じて、胸の痛みが和らぐ。同時に、涙がどっとあふれ出してきた。
「……ゴ-ドン、よかった。ゴ-ドン!」
「ずっと側に居る。だから泣くな」
声がとても優しくて、言葉が発せられる度に耳に当たる吐息が熱い。
「ずっと、ずっと一緒だ。ヘンリ-」
「うんっ……うん、ゴ-ドンっ! 一緒、に……んっ……うぁっ」
引き裂かれるような異物感が、お腹のそこのほうから身体の中へと突き進んできた。
一緒どころじゃない、溶け合って同化するようなこの感じ。迫り上がってくる鈍い快感に、頭の中がかきまわされていく。
もう二度と離れないようにゴ-ドンの身体に必死で縋りつきながら、夢中で彼の名前を呼んだ。
「はっ……んっ、ゴ-ドン、ゴード……ンっ! あんっ、あっ……ゴー……ド、ン」
「くっ……ぅっ……ヘンリ-……っ!」
呼び返してくれるゴ-ドンの声も、段々荒くなってくる。
小刻みに激しく突き上げられる振動とゴ-ドンの吐く息のリズム、僕を呼ぶ声と僕の声が不思議と調和して、ぼんやりした頭の中に気持ちよく響いた。
「ヘンリ-……ヘンリ-!」

「はっ、はっ……あんっ、ゴー……ドンっ! あぁっ、うぁ、あっ……んっ!あっ、あぁぁっ!!」
一段と強い刺激が、頭の先からつま先までを一気に駆け抜ける。
雷に貫かれたような、強い衝撃。それを最後に、僕の意識は完全に途絶えてしまった。

今日もゴ-ドンはいつもどおり。快調に急行をすっ飛ばし、時間通りに駅に着く。
そして僕は、少し遅れる。
「ヘンリ-! また遅れやがって! 何度やったら気が済むんだ、お前は!」
「うっるさいなぁ……。支線が遅れてきたんだよ、これでも随分取り戻したんだから感謝してよね!」
「支線の遅れくらいお前のところで全部取り戻せ! でかい機関車に乗っているんだ、そのくらい出来なくてどうする!?」
「でかいとかでかくないとか関係ないだろ! 安全運転が基本なんだよ!」
「安全かつ時間通り、それが基本だ! それをお前ときたら……」
恒例の口げんかに、駅員と車掌たちは肩をすくめて苦笑い。助手たちはハラハラしながら、お互いの機関士をなだめにかかる。
「鈍行は一区間分の走行距離が短いから、速度が出せないんだ。そう簡単には縮まらないよ!」
「お前に出来ないだけだろうが。俺様を見習って精進するんだな!」
「あぁぁもう! ……そうだね、そうするよ! ぜーんぶ、君の言うとおりです。ハイ」
これ以上言っても無駄。こんなときは大抵、僕が折れて言い合いは終了。
わかったらいいんだ、と言わんばかりの笑みを浮かべて頷くゴ-ドンに生ぬるい視線をちらりとだけ向けて、機関室内の作業に戻る。
僕なんかよりゴ-ドンのほうがずっとずっと腕がいいのは確かだけど、こう毎回やられっぱなしだとさすがに頭に来る。
それに誰かさんのせいで、朝からずっと腰が重いんだ。レバーを握るたび、ブレーキをかけるたびに、身体が悲鳴を上げていた。
「あれが先輩に向かって吐く台詞!? っとにわがままなんだから!」
「俺がいつわがままを言った?」
僕の真後ろで声がする。
いつの間に?ゴ-ドンが、機関室のドアの前に立っていた。
「いつもだろ! 俺様俺様、急行急行って……すっとばせばいいってもんじゃないんだよ」
「生憎すっ飛ばすしか能がないんだ。こんな風にな」
ゴ-ドンが機関室に乗り込んできて、僕の腕を掴む。
やばい、言い過ぎたかな。

後悔は一瞬。それも、違う意味で。
「なにすっ……んっ……」
腕を引かれ、抱きしめられた。そして、深い、深いキス。助手の見ている前で、容赦なく舌を絡みつかせてくる。
駅員は?車掌は?お客さんは?……他に見られたら大変だ。引き剥がそうと必死にもがくけど、力強い腕はびくともしない。
「んんーっ!……んっ……んぅっ」
こんな状況でも、ゴ-ドンのキスはとろけそうな位甘いから始末が悪い。絡まる舌が気持ちよくて、つい夢中になりかける。
息継ぎのために接続が緩んだその隙に逃げるのも忘れて、流れ込んでくる唾液を残さずに飲み込んで、彼が満足するまでされるがままになってしまう。
「んっ、んくっ……はぁっ」
唇が離れた途端、僕は口を押さえてへたり込んだ。頭がぼやけて、身体に力が入らない。
腰が砕けたってやつ。勤務中なのに……。
「ほら」
座り込んだ僕の膝の上に、紙袋が置かれた。
「本土との乗換駅でよく会う行商の夫人から貰ったんだが」
「……え?」
「例の……白いのだ」
わけが判らないまま、袋の中を確認する。中には季節のお野菜。この色はソドー島ではあまり見かけないけど、誰でも知っているもの。
「あ……あぁ、なんとか、するよ。スープやソースにすれば、緑のと変わらなく食べられるよ」
「そうか、よかった」
ほっと胸をなでおろして笑みを浮かべたゴ-ドンは僕の頭をひと撫でし、何事もなかったかのように自分の機関車へ戻っていった。
立ち上がれず座り込んだままの僕に向かって笑顔で手を振ると、車掌の合図に従って、青い機関車が軽快に走り出す。
「せ、先輩?」
「……誰か、見てた?」
「い、いえ! あ、ぼ、僕だけ、です」
「よかった。……じゃぁ、君も、忘れて」
「え……は、はい!!!」
助手が慌てて作業を再開する。
やられた。不意打ち。あの悪ガキめ……!
掌を当てた額には、汗がにじんでいる。身体が熱い。頭が痛くなってきた。これから、まともに仕事できるかな……。
「へぇ、なるほどねぇ」
「!」
ホームとは逆の方から声がする。聞きなれた、今のタイミングではとても聞きたくない声。
恐る恐る横目で確認すると、見慣れた赤いボディの機関車がいつの間にか隣の路線に停車している。

よりによって、なんでこんな時に、機関室がぴったり横付くように停めるわけ?
「何か言いたいことはある?」
「……君の予想通りだと思うから、何も聞かないで」
「怪しいとは思っていたけど、まさか本当にその通りだとはね。君が本命じゃ、パーシ-も諦めるしかないね」
噂が広まってしまうのを覚悟した。ずっと必死で隠してきたのに……ゴ-ドンのおばか!
「昨日の晩といい、今といい。ほんっとお盛んだよねぇ、君達は。ネタに困らないよ」
「……きのう…の、晩?……その……」
「最初は君が女を連れ込んでいるのかと思ったんだけどね。名前なんか呼び合うから、すぐに分かった。それにしても意外といい声出すんだね、ヘンリ-?」
「あ……」
最悪だ。
自業自得には違いない。隣室のジェ-ムスが部屋にいるのを承知の上の行為だったんだから。
でもやっぱり、実際に聞こえていたと言われると、どうしようもなく恥ずかしい。同時に、ものすごい後悔に襲われた。もう終わりだ、本格的に。
「……そういえばさ、急行の客車係のアリスのことなんだけど。知っているかい?」
突然、何の話?アリスなんて子、知らない。ふるふると首を横に振る。
「小柄でふっくらしたほっぺが可愛い栗毛の女の子さ。急行の、三等客車に乗っているんだけど。その子がね、ゴ-ドンにぞっこんらしいよ?」
「……え?」
「今度はまた女の子だ。君の旦那様ってほんと、罪作りだよね」
きょとんとする僕を見て、ジェ-ムスがにやりと笑った。
「噂なんてね、根も葉もない奴のほうが面白いんだよ。憶測が憶測を呼んで、枝葉がついて大きくなるのが楽しいんだ」
「それって……」
みんなには言わないでいてくれるってこと?
「今度夕飯おごってくれる? エドワ-ドの分もね。その時に聞かせてよ。馴れ初めとか、夜の話とか!」
「……そのくらいで済むなら」
ほっと、安堵のため息が出る。
「ま。旦那様には噂立てられないように気をつけろって言っておきなよ。人の目は気にしたほうがいいぜ。僕以外にも噂好きは沢山いるんだから」
「そうするよ。……ありがとう、ジェ-ムス」

「あと、声は控えめにね。まったく、君の声がよすぎて……参っちゃうよ」
「! ……あ……う、うん……」
よすぎるとか……僕の声ってどれだけいやらしかったんだろう……顔が火を吹きそうなくらい熱くなる。
「あはは、耳まで真っ赤だよヘンリ-。助手君、火が強すぎるんじゃない?」
「えっ、あっ、……は、はいっ!」
振られた助手も、真っ赤になってしどろもどろ。もうどうしようもない。
「おっと時間だ。じゃぁ、また後で!」
ジェ-ムスは人好きのする顔に悪戯っぽい微笑みを乗せて、手を振りながら赤い機関車を発車させた。
僕も手を振り返す。彼の愛車の後姿を見送りながら、ほっとため息をついた。この際ばれたのはどうでもいい。噂になりさえしなければ。
ジェ-ムスがフォローしてくれたおかげで、幾分具合がよくなった気がする。ぼやけていた頭がすっきりして、なんとか仕事は出来そうだ。
「……ヘンリ-先輩。そろそろ時間だけど、走れますか?」
助手が遠慮がちに声をかけてきた。一連の出来事に気圧されて、畏縮してしまっているらしい。
まぁ、いきなりあんなシーンやこんな会話、彼には刺激が強すぎる。
重い身体をなんとか持ち上げて立ち上がり、頭をわしわしと撫でてやると助手の顔に安堵の色が浮かんだ。
「大丈夫、行けるよ」
「はい!」
助手の笑顔に笑顔を返して、操縦盤のレバーを握る。
車掌の合図を貰ってから、ゆっくりと緑色の愛車を発車させると、助手が火室をいじりながら言った。
「アリスは一ヶ月くらい前に、付き合っていた彼氏と別れたらしいんです」
「へ?」
「新しい恋をしたんですね」
「……厄介な相手選んじゃったなぁ」
「付き合ってる事、後悔してるんですか?」
「僕じゃなくて。アリスが、だよ」
「そうですね。最初から負けてる勝負、ですからねぇ」
「知らないから仕方ないんだろうけど……申し訳ないな」
「でも……噂ですから」
「まぁ、ね」

なんて、そんな事よりも。今の僕にとって何よりも重大なのは、あの紙袋の中。
ゴ-ドンの苦手なホワイトアスパラ。あれをどう料理しよう?へンリエッタに聞いてみるのが確実かな。
それにしても、あれを食べたときのゴ-ドンの顔。思い出して、思わず笑いがこぼれてしまう。
「どうかしたんですか?」
「いや、何も」
強がりで見栄っ張りな彼のあんな顔、知っているのはきっと僕だけ。
顔も知らない恋のライバル達には悪いけど、ちょっとだけ優越感。
明日の相手は誰だろう。いつかは僕の名前が出てきて、噂が終わる時がくるのかな。
「そうだ。僕らの事は、忘れておいてね。噂になると困るんだ」
「わかってますよ。噂は根も葉もない奴のほうが、面白いですから」
「言うね。……ありがとう」
大きなものも、小さなものも、転がるたびにいろんなものをくっつけて、今日も花咲く無責任な噂。
いろんな噂を背中に乗せて、僕らは今日もしゅっぽしゅっぽと島中を駆け抜ける。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ヘンリ-兄さんお気に入りのくまさんはディーゼル7101号とは別物です
パーシ-には申し訳ないことをしました。ごめんなさい……orz

きか○しゃジャンルになので衝突事故もネタ的に面白かったw
お目汚し失礼いたしました。


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