妄想捏造戦隊4
更新日: 2011-05-02 (月) 13:03:24
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の続き
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ピッ
両肩をつかまれ、手だけで上半身を支えていた神明は乗せられた体重に逆らえず背を床に着けた。
まだ汗が乾ききっていない湿った布越しに感じる床が異様に冷たく感じ、神明は躰をふるわす。
「中野……うっ」
名前の後に抵抗か罵倒の言葉が発せられるまえに郷は手で神明の口と片手を塞いでしまった。
神明の躰に跨る体勢で押さえつける力は強く、それが余裕の無さからくるものなのか、単純に神明から言葉を奪いたいだけなのか判断はつかない。
神明にとってただ明確なのは郷が戯れや何かで自分を組みしいているのではないということだけ。
長い、いや長すぎた付き合いだ。郷が本気かそうではないかの判断は彼を常に追いかけていた神明には容易にできた。
「何回言えばいい、どうすれば伝わるんだ」
切ない、だが独りよがりな告白が神明の鼓膜を震わす。
神明の口は塞がったままで返答をしようにもくぐもった声を発するのみで言葉にはならない。それを判っていながらあえてそうしている郷の弱さが神明の柳眉をきつく寄せさせた。
そんな彼の表情を見ることなどせず、郷は神明の口を塞いだまま肘を折り、躰を密着させる。
折り重なる躰は、布越しだというのに熱く感じられた。
ああ、自分は郷に比べ体温が低いのだな。などというそぐわぬ感想を抱いた己に神明は呆れかえる。
「神明」
名を呼ばれ、何をされるかと思えば疑似的な口づけ。
角度を変えて再度触れてくる唇は神明の口を塞ぎ続けている郷自身の手に留まる。
何度も何度もそんな馬鹿げたことを郷は繰り返した。
それが重要な行為だといわんばかりに。
無防備に目を閉じてなおかつ酷く愚かしいことをしている相手を神明は心の内で罵る。
憎々しげに吐かれた口汚いその言葉は声帯をふるわすことはなく、まるで毒かなにかのように彼の躰のどこかに蓄積されていった。
「本当はずっと」
まるでつかれたように間の抜けた口づけの真似事を繰り返していた郷が自ら触れているのは密着させている躰と、神明の口と手を塞ぐ手。
それに対し神明から触れている箇所はどこにも存在していなかった。
人形のように虚ろに力なく投げ出された四肢。
「こうしたかった」
身勝手な呟きひとつを残し郷は手を外した。
息が楽になり、長く息を吸う神明。
「もう少しだけいいよな」
体を動かし、べったりと身を寄せて郷が呟く。
「ふざけるな」
郷の下敷きになっている神明のきつい口調に郷は身を竦めた。
だがそれでも離れようとはしない。
「僕の気持ちはおかまいなしか」
「え……」
「おかまいなしかと聞いている」
「いや、そんなことはないってメイちゃん」
いきなりいつもの調子の責めるような口調で話しかけてくる神明に郷は思わず常と同じような返事をする。
「ちょっとそこに座れ」
「は?」
「座れと言っている!」
「はっはい」
有無を言わせぬ低い声に素早く身を起こし正座してしまった郷。それに対し神明は立ち上がり説教モードに突入だ。
「答えろ」
「う……いや、だってメイちゃん俺のこと、その……嫌いだろ? だから」
嫌いという単語を発する時、悲しそうな顔をする郷に神明は盛大に溜め息をついた。
「ああ嫌いだ、嫌いだとも。おまえのその身勝手なところや、思いこみの激しさ、強引さ。そして何より大嫌いなのは何も気づかないその鈍感さだっ!」
一気にまくし立てるように言うと神明はもう一度ため息をついた。
「メイちゃん酷い」
しょんぼりとうなだれ、肩まで落とす郷。
「酷いのは僕を否定したおまえだ」
「俺は神明を否定した覚えなんてないっ」
顔を上げまっすぐに神明の目を見ながら言った郷の言葉に嘘はない。
しかしそれはあくまでも郷の考えでしかなく、神明は郷の言葉を真っ向から否定する。
「嘘を言うな」
普段の神明からは想像もつかないほど感情を抑えた冷たい声だった。それ故に郷の胸に深く突き刺さる。
「嘘じゃない!」
「なら何故今まで僕がおまえのアホみたいな数のわがままを聞いてやったと思っている! それも断ることなくだっ何故さっきおまえの手を躰を拒否しなかったと思っているんだっ何故……!」
抑圧していた感情が爆発したのだろう、先ほどとはうってかわったように声を荒げ神明は言葉を郷へ叩きつけるように吐いた。
「あ、えっと」
叩きつけられた感情の激しさを受け止めきれず郷は呆けたように神明を見上げてしまった。
そんな様子の郷を見て、諦めか呆れからくるものだろうか神明は首を僅かに横に振った。
そして静かに、告げる。
「それは……僕がおまえに嫌われたくないからだ」
言った後神明は俯いた。しかし正座をしている郷からは丸見えである。
その表情から見て取れたのは羞恥と後悔。
それをぼんやりと見つめて郷は神明の言葉を反芻した。
いつも自分のワガママや突拍子もない行動を受け入れてくれた彼。先ほどもそうだ、彼は一度も抵抗したりはしなかった。
投げ出された四肢は無言の抵抗ではなく享受の証だったのだ。
「メイちゃん……」
「メイちゃんって呼ぶな」
「もしかして、俺のこと好き?」
「デリカシーのなさは嫌いだ」
「じゃあ」
立ち上がり嬉しそうに締まりのない笑顔のまま、すり寄ると郷は神明に抱きついた。
「それ以外は好き?」
「……うるさい」
憮然として言う神明に郷の笑みは深くなる。
照れているのがとてもよくわかったからだ。
声だけでそうと判るほどに彼らはずっと互いを側で感じ、時を共有してきた。
多分これからもずっとそれは変わらないだろう。
「俺は好きだよ神明」
「もう黙ってくれ」
小さな声でぼそぼそと言いながら神明は郷の背中に手をまわした。決してはなさぬように。
翌日、正義の味方である彼らの敵×××団が現れた現場に参上したのは何故か黄色ともう一色、合計二名だけであった。
□stop
ピッ
終了
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