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祈り鶴

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
某ドラマの主従をモチーフにしたパラレルIf話。前スレ記憶喪失逃避行話と地続きながらそれほど関係はなし。
主観はオリキャラ。エロ無し。原形もほとんど無し。
注意書きだけでかなりカオスなので、これは危険と思われた方は事前避けをお願いします。

『村外れの寺に幽霊が出るらしい』
誰とはなしに言い出したその言葉に、場にいた仲間達の目が一斉に上がった。
『幽霊?見間違いじゃないのか?』
『またあの生臭坊主が寺に女引き入れてるとかな』
『そういや、この前も村の後家に手を出して親父達に散々どやしつけられてたっけ』
『あれにはさすがに少しは大人しくなるかと思ったが、またなのか?』
『その幽霊って女なのか?』
『この中で見た奴いないのか』
『もしかしたら狐狸の類が人に化けてたりして…』
『確かめに行くか』
下世話な下心と肝試しを兼ねたような軽さで決まった探索は、思いつくままその日のうちに決行され、
そして失敗した。
この悪餓鬼ども!と坊主に見つかり追いかけられ、皆が散り散りに逃げる中、自分が身を潜ませたのは
寺の裏側だった。
すぐ傍らに山の迫ったそこは足場が悪く、石を避けるつもりが踏み誤り、勢いよく右腕の側から
落ちるようにこける。
「……ッ」
痛みに声も出なく、それでも身体は反射的に逃げを打ち続け、素早く立ちあがろうとする。
そうして上げた視線の先に、それはあった。
倒れ、横になった視界に映ったのは着物の裾からのぞく二本の足。
だからそれは幽霊ではないのだと咄嗟に思う。
「大丈夫か?」
頭上から声が聞こえてくる。
それは女のものでもなかった。
それ故ゆっくりと顔を上げ、確かめる目の前の存在。
そこにはこの時、倒れた自分を心配そうに見下ろしてくる人間の男の顔があった。

「狐か狸か囲われ者と思われていたのか。」
クスクスと笑いながら水の張った桶に布を浸す。そして腕を出すよううながし、擦り剥いた傷口の血を
そっと拭ってくる相手を、自分はその時何とも言えない面持ちで見下ろしていた。
悪戯を見つかり、逃げた寺裏で出会った大人の男。
そしてそんな彼はあの時、倒れた自分をひどく驚いたような目で見つめてきたが、その腕に
怪我を負っている事に気がつくと、『来なさい』と自分を寺の裏手にある小屋の中に引き入れた。
『薬などは無いが』そう言いながら土間の隅に汲み置いてあった桶の水で傷口をすすいでくれる。
柔らかな手つきだった。
そしてその物腰は、なんともこの場の状況にそぐわなかった。だから、
「こんな所で何をしてる?」
率直な疑問を口に出す。するとそれに彼は不思議そうな顔を上げてきた。
「こんな所?」
「ひどいあばら家だ。」
寺の、物置にでも使っていそうな小さな荒れた小屋。
かろうじて人一人が生活出来そうな物は揃っているようだがそれでも、と思わずまじまじと見回してしまう。
しかしそれにも彼の声色が変わる事はなかった。
「私には雨風をしのげる屋根があればいいから。」
本気でそう思っていそうな穏やかな物言いにはこの時、何故かこちらの焦燥感が掻き立てられる。だから、
「それにしたって、こんな所に…」
いったいいつから、いつまで。
言いかけて、ふと止める。それはどこまで尋ねていいのか、そんな迷いが胸に浮かんだからだった。
しかしそんな自分のためらいを察したらしい彼が、この時さらりと口を開いてくる。
「人を待っている間だけだから。」
「人…を?」
「旅の途中なんだ。しかしこの先を進む為に色々と必要な物を今、共に行く者が揃えに出てくれている。
だから私はその者が戻ってくるのをここで待っている。」
「一緒に行けばいいじゃないか。」
「足が、な。」
わずかに自嘲するように、告げた彼の手がふわりとその足首の上に置かれた。
「怪我してるのか?」
だから素直にそう問えば、それにも彼はゆっくりと首を横に振ってきた。
「いや、弱いんだ。長く閉じ込められていたせいか、力が衰えてしまっていて。だから無理に
ついて行っても足手まといになる。」
穏やかな口調とは裏腹なその言葉の不穏さに、気付いた瞬間自分の肩がびくりと震える。
閉じ込められて。旅。それは逃亡…罪人?
不信さがきっとあからさまに顔に出たのだろう。
しかしそんな自分にも彼はこの時、ただ困ったような笑みを向けてきた。
「驚かせてしまったか?当然だな。すまない。だが私は、覚えていないんだ。」
「…えっ?」
意外な言葉だった。だから恐れより何よりこの時好奇心が勝る。
食い入るように目の前の人を見つめてしまう。そんな自分に彼は尚も笑み続けた。
「記憶を失くした、何かがあって。でもそれが何だったかも、閉じ込められていた理由もどうしても
思い出せない。だから自分が悪い人間なのかもわからない。ただ…」
一瞬だけ言い澱む、しかしその続きを紡いだ彼の表情にはその時、微かな安堵が滲んでいた。
「あの者は言ってくれる。あなたは悪くないと。だから私はそれを信じるしかない。」
言い終わるのと同時に、傷口の血を拭いとった布が桶の中に戻された。
小さく立つ水音。それに自分がはっと我に返れば、彼は再び優しく告げてきた。
「これでいいだろう。あとは家に帰ってから薬を塗ってもらいなさい。」
まるで幼子に言い聞かせるような言い回しだった。
子供扱いされている。互いの年からすれば当たり前かもしれないが、それが何故かこの時ひどく
感に障った。だから、
「村に来ればいいのに。」
頑是ない事とは分かっていながらつい口にしてしまう。
そんな言葉に彼はやはり曖昧な笑みを見せてきた。そして、
「あれが戻ってきた時、私がここにいないと驚くだろうから。」
やんわりと、しかしけして揺らぎのない拒絶を返される。
だがそれにも自分は、ならばと更に強い我儘を覚えてしまった。
「なら、俺がまたここに来るよ。」
続けた言葉に、彼は最初驚いたようだった。
瞬きを忘れたような目がじっとこちらに向けられ、しかしそれはやがてゆっくりと破顔する。そして、
「その時は出来れば内緒でこっそりと、な。」
子供に言い含めるような口調はやはり変わらなかった。
けれどその声はこの時、ほのかな明るさを滲ませたように自分には思えた。

それから自分の寺通いが始まった。
仲間達から理由をつけて離れ、小屋の中に身を潜めるその人に会いに行く。
寺の坊主に話は通してあるようだった。出ていった男が当面の世話代だと金を置いて行ってくれたから
多少の融通は効くとおっとり言う相手に、しかし自分はその寺の坊主の手癖の悪さを語り、注意を促す。
するとそれに彼は驚いた様子を見せたが、それでも最後にはただ笑って『ありがとう』とだけ返してきた。
大人なくせにどこか放っておけなさそうな世間知らずさ。
だからますます自分がと言う思いが募る。
知っている事をすべて教えたくて、矢継ぎ早に口が動く。
村の事、仲間の事。家族の事。
家から持ってきた菓子を差し出せば、二つに分けられ共に食べた。
ほとんど小屋の中から出ている様子が見えない彼の気でも紛れるかと、姉の大事にしていた千代紙を
こっそり持ち出して渡せば、彼は器用にそれで色々な物を折ってくれた。
折り方は覚えているんだな…自分自身でも意外なように呟きながら作る、それは何故か鶴が多かった。
秘め事めいた密会。
それはひどく自分の心を沸き立たせたけれど、同時に回を重ねる毎に重く心に圧し掛かる物想いも生んだ。
彼の待ち人はなかなか戻ってはこなかった。
ある日の夕暮れ時、忍んで行った小屋の中に珍しく彼の姿は無かった。
だから外に出、辺りを探し回る。
声を出せない分、懸命に足だけを動かしようやくに見つけた、そこは寺のある高台から遠く村を出る
道が見える場所だった。
その道の続く先には海を渡る関所のある町がある。
その方角を彼はその時、一心に見つめていた。
初めは声がかけられなかった。しかし彼は放っておくといつまでもそこに留まり続けそうで、
だから意を決してその名を呼ぶ。
それに彼はすぐに振り返ってくれた。それでも、
「やぁ、」
返された声の響きがこの時どこか不安定に聞こえて、自分はたまらず勢い込んで言葉を継ぐ。
「どうしたの?」
聞く、しかしその答えはわかっていた。
彼は待っていた。自分を置いて行った相手を。そしてそんな相手の後ろ姿を見送ったのはきっとあの方角
なのだろう。
胸の想いは単純な自分の顔にすぐに現れる。だからそれに彼はふっと笑みを向けてきた。
夕焼けの色に染まった赤い唇が動く。
「何も無ければいいと思っていた。無事でいてくれるなら。それでたとえ…戻ってこなくても。」
ひそりと零される呟き。
思いもしなかったその内容に、自分の目が見開かれる。
けれどそんな自分に気付かないように、この時彼の告白は止まらなかった。
「何も覚えていない。それはけして嘘ではないけれど、でも夢は見るんだ。誰かが自分のせいで
ひどく傷ついている夢。あれがもし現実だったならと思うと……無性に怖くなる。」
「………」
「あれがあんな目にあうくらいなら、このまま捨てていってくれていい。」
くれていい…、彼はそう語尾を二度繰り返した。
切実に、祈るように。そして自分に言い聞かせるように。
けれどその願いがどれほど彼にとって無茶な事かは、年下である自分でも容易に想像がついた。だから、
「そんな事になったらあんたはっ」
詰め寄る、その口調が心配が高じてつい強いものになってしまう。
そしてそれに彼はこの時、逆らってはこなかった。
「そうだな。」
ただ短く言い切られる。
「彼が戻ってこなければ、彼がいなければ、私は……生きてはいけないだろう。」
視線がまた遠い道へと戻される。そしてそれを最後にあの日、彼はもう二度と自分を振り返りはしなかった。

怖い背中だった。
何か耐えている糸が今にも切れてしまいそうな。そんな人の危うさがいつまでも脳裏にまとわりついて
その夜は結局一睡も出来なかった。
家族が共に眠る家の中で、今夜もあの小屋で一人過ごしているだろう人の事を思えば、純粋に胸が痛んだ。
だから思い悩み、考えに考え抜いて、訪れた朝の光と共に自分は決意する。
彼の事を村の者達に話そう。
訳有りの身であるだろう事はわかっている。けれどちゃんと話せば皆もわかってくるかもしれない。
どのみちあんな場所に一人で居続けるには限界があるのだ。
長く続けられる事ではない。
だから、自分が面倒をみるから、責任を持つから……ちゃんと生きて欲しいと。
説得する為に、彼の元を訪れる時をその日一日じりじりと過ごした。
そして夕刻、皆が家に引き払い辺りに人影が少なくなった頃合いを見計らって忍んで行った彼の小屋で、
自分は初めてあの場所で彼以外の声を聞いた。
入口の戸を開け、見遣った範囲にその時彼の姿はなかった。
だから奥の方にいるのかと、思い、足を踏み出そうとした瞬間、その声が耳に届く。
理解できる言葉だった。だから人のようだった。
大人の声だった。男のもののようだった。
訳も無く緊張し、その場から動けなくなる。そんな自分に二つの声が密やかに聞こえ続ける。
一つは間違いなく彼の声だった。
「良かった…」
彼の声は掠れていた。
「無事で良かった…生きていて…良かった……」
その涙まじりのような響きに刹那、胸が早鐘を打つ。
まさかと思い、わずかに奥がうかがえる場所まで足を進め、視線を上げた先。
そこには暗い小屋の薄闇に溶け込むように座る一つの背中があった。
ずっと想像していたものよりは幾分細身の、しかししっかりとした大人の骨格を持つそれの向こうに
彼はいた。
手が伸ばされる、縋るようにその両の指先が自らの正面にいる男の顔に触れる。
大事なものの存在を確かめ、消えぬ事を祈るように。その頬をなぞりながら紡がれる声が聞こえ続けていた。
「おまえにもし何かあったらどうしようと、そんな事ばかり毎日考えていた。」
責めるよりなじるより、ただ訴えるように告げる。そんな彼の声にこの時返されるいらえがあった。
「申し訳ありません。手形を手に入れるのに少し手間取りました。ご心配をお掛けしました。」
今度こそしっかりと聞く男の声は、低く落ち着いた響きを伴っていた。
若干乱れ気味の彼の心を宥めるように、静かに発せられる。
しかしそれにも男の肩越し、彼が強く首を横に振るのが見えた。
「私の事などいい。もういい。今回の事で思い知った。おまえが私の為に危ない橋を渡るのはもう嫌だ。
それでおまえの身にもしもの事があったらと思えば、ずっと生きた心地がしなかった。
そんな事になるくらいなら、もう捨ててくれればいいと……もう戻ってこなくていいと…何度っ…」
段々と声が昂ぶってゆく。すがりつく指先に力がこもってゆくのがわかる。
だからだろう、この時男から律するような少し強めの声が彼に向けて飛んだ。
「何を言うのですか。あなたを置いて私にどこに行けと。それに私がいなくなったらあなたは…っ」
言いかけた、しかしその言葉は不意に途中で断ち切れる。そして、
「申し訳ありません。身の程をわきまえず思い上がった事を…」
続けて苦く落とされたのは、悔いと戒めを滲ませたような呟きだった。
うつむきがちに伏せられる、しかしその顔に彼は尚も指を伸ばし続ける。そして、
「何を謝る。本当の事だ。おまえがいなければ私などすぐに野垂れ死ぬか、捕らえられ元の場所に
戻されるだけだろう。いや、そうならなくとも私は……」
男の肩越し、彼はその時微かに笑ったようだった。
「おまえがいなくなったらもう、生きてはゆけぬよ。」
笑いながら泣いているようだった。
だから、そんな彼の背に男の腕がこの時回る。
落ち着かせようとしているのか、それとも違う意図があるのか。
力を込め強く引き寄せたのだろう彼の耳元にその時、言い聞かせるような男の呟きが落とされた。
「大丈夫です。私はずっとお側におりますから、だからどうか、」
どうか、
「あなたは自由に生きてください。」
立ちすくみながら聞いた、それは自分が言いたいと思っていた言葉だった。
生きて欲しい。
そう告げたら彼はどんな顔をするか。思いながら一日過ごしたその果て、横から奪われたに等しい
言葉に対し彼はその時、するりとその腕を抱き留めてくる男の首筋に回していた。
動く唇が紡ぐ名。それもけして自分のものではない。
そんな当たり前の事実が胸にひどく痛くて、瞬間、自分は耐えられぬように咄嗟にその場から踵を返していた。
気付かれぬよう音を立てず背を向ける。その耳に届く微かな衣擦れの音。
走り逃げる自分の心と鼓膜を激しく苛むその音はあの時、ひどく苦く甘く脳裏に響き続けた。

どこをどう走って家まで辿りついたのか。
あの日から数日、自分は寺へと足を向けられなかった。
自分が見た光景の事を考えて、考えて、考え過ぎて、もはやそれが本当の事だったのか現実と夢の
境がつかなくなって初めて、ようやく事の真偽を確かめようと思うまでに落ち着く。
そして意を決して足を向けた寺の境内で、その時自分を待ち構えていたのは寺の坊主だった。
追い払われるかと思った、しかしその世俗に塗れた坊主は一瞬逃げかけた自分に待てと静止の声をかけると
続けざま渡す物があると告げてきた。
法衣の袂を探り、無造作に取り出される。それは細長く折り畳まれた一通の文のようだった。
おまえが来ぬか少し待っていたようだったが、先を急ぐと言うのでこれを置いて行った。
金目の物なら黙ってもらっておいてもよかったが、こんな紙切れ一枚ではな。
本気とも憎まれ口ともつかぬ事をぶつぶつと呟きながら、坊主はそれを自分に手渡すとやっと厄介払いが
出来たと寺の方角へ立ち去った。
そして一人残された庭先で、自分はゆっくりとその文を解く。
広げられてゆく白い紙。
そこには彼の字でただ一行『ありがとう』と礼の言葉が綴られていた。
それだけの文字を自分は幾度も読み返す。
そして手にしていた文の巻きを最後の一折まで解いた時、不意にそこから落ちる何かがあった。
驚いて視線を向け、地面に落ちたそれを慌てて拾い上げる。
指先で摘む、それは綺麗な千代紙で折られた鶴だった。
蘇る記憶があった。
自分が家から持ち出したそれを、彼は折っていた。
待ち人の身の安否を願いながら幾つも折っていた。
その一つが今、この手に残される。
まるでこの先の自分の身を優しく案じるかのように。
思った瞬間、自分の胸に沸き上がったのはもう取り返しのつかない後悔の念だった。
どうして自分はあの時、変な意地など張ったのだろう。
逃げ帰ったあの夜の翌日、何も知らぬ顔をしてここを訪れていたら、自分は最後にもう一度
彼に会えていたかもしれないのに。
さようならをちゃんと言えたかもしれないのに。
次から次へと溢れ、止まらぬ想いは、やがて涙となって頬を伝う。
それを自分は手紙を握り締めた手の甲で何度も拭った。
きっともう二度と会えない。
それが辛くて悲しくて淋しくて……それでもそんな彼がこの先もずっと生き続けてくれますようにと
鶴に祈る涙は、あの日いつまでも止まらなかった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ほぼ一ヶ月忌&遅くなった盆供養のつもりで書いた。後先はまったく考えていない。


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