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おやすみなさい

火9、浄化ーで盾鑑
盾 久胴に名前変換してあります
四話前後って感じで。
資料不足で部屋のレイアウトとか一人称とかちょっと曖昧ですがご容赦を

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「盾さぁん」
 甘えたような、間延びした声が僕を呼ぶ。
 声の主、久胴は僕が座る場所から対面の位置で、机に突っ伏したまま眠そうな目を僕に向けていた。
「なぁに?」
 僕も雰囲気に流され、ちょっと緩めに返事をした。
「ねぇ、もう寝ない? 三時だよ」
 時計を振り返ると、久胴の言うとおり短い針が3を指していた。
 昼の三時ではなく、午前の三時。寝る時間というよりは普通は確実に寝ている時間だ。

 少し調べたいことがあるからと、久胴の部屋(と勝手に彼が名付けた鑑識倉庫)を使わせてほしいと言ったのは昨日の二〇時頃だった。
 自分の部署ではなくこの部屋を選んだ理由は、ここには幅のある机があって資料を広げやすいからだ。
 …といっても、今やその机も証拠品や被疑者のデータで埋もれてしまっている。
 久胴の周りだけは彼のよくわからない所有物が集まってファンキーなことになっているが。

 寝ない? と言われても…。確かに眠くはなってきたけど。それより久胴はもうだいぶ前から眠そうだけれど。
 彼も最初は僕の資料整理を手伝っていたけれど、後半は飽きたのかサイコロやらビー玉やらを取り出して遊んでいただけだ。
「うん、もう寝れば?」
 僕にただその言葉以上の意味はなかったんだけれど、久胴はむっと顔を顰めた。
「盾さんは? 一緒に寝ようよ」
「えぇぇ?」
 僕は思わず吹き出してしまった。まさか一緒に寝るためにずっと待ってたわけじゃあるまい。
 久胴は僕の反応そっちのけでぱっと飛び起き、ふらふらっと立ち上がる。
「アンタにはソファ貸してあげる。俺、寝袋あるから」
「いいよ、僕は。君の部屋だし」
 まだ気になることがあるし、眠くなったらここで突っ伏して寝るから、と遠慮をすると、久胴はまるで遠足が雨のため中止になりましたと告げられた子供のような顔になった。
 だが、眠気の方が上回ってるらしく、彼は倒れこむようにソファに寝転び、軽くタオルケットを羽織った。
「オヤスミ…」
「おやすみ」

 本当に、一緒に並んで寝たかったのだろうか…。
 彼の安らかな寝顔を見ながら、僕は子供の頃を思い出していた。
 夜はいつだって僕の心を寂しくさせ、誰かの温もりが恋しくて堪らなかった。
 久胴も、そうなのだろうか…?
 僕なんかを頼りにしてくれているんだろうか、久胴は…。

 うつ伏せに、無防備に眠る久胴。タオルケットが落ちかかっている。
 しょうがないなぁと掛け直そうとしたら、背中の痛々しい傷跡に目が行ってしまった。
 彼にどんな過去があるのか聞いたことはないが、その傷は彼にとって、人には見せたくない負い目であることは知ってる。
 悪いと思いつつ、僕はその傷跡から目が離せなくなった。
「…盾さん」
「うひゃあっ!?」
 いつから起きてたのか、久胴は自分の肩越しに僕を見つめていた。
「ねぇ…触って?」
「……」
「キズ、触って」
 どうして、とは考えなかった。久胴がヘンになるのはよくあることだし。
 しかし、僕が触っていいものなんだろうか? こんな、汚れた手で…。
 頭ではそう考えていたのに、手は自然と彼の背中に添えられていた。
 その傷跡を押さえつけなければ、彼が引き裂かれてしまいそうだったから…。

 それの感触は生々しく僕の手に伝わってくる。
「手、あったかい」
「そうかな…?」
 久胴が上体をくるりとこちらに向けた。僕は彼から手を離す。
「駄目、触ってて」
 その眼で正面から顔を覗き込まれると、僕は弱い。
 慌てて再び彼の背中に手を添える。その体制のせいで、僕と久胴の距離は30㎝も無くなっていた。
「…盾さん。俺もアンタのキズ、触っていい?」
「えぇ?」
 思わず大げさに首をかしげた。寝ぼけてるのだろうか。
「僕にはないよ?」
「…あるでしょ…?」
 久胴は僕に向かって手を伸ばした。僕の…胸元に。
 僕の心臓は一瞬驚きで飛び上がった。
 久胴は僕の「心のキズ」に触れようとしている? 僕と、痛みを分け合おうと、分かり合おうと…。
 でも、僕と彼の「キズ」はきっと違う。
 本当の僕を知ってしまったら、久胴はどう思うんだろう。この手を離してしまうのだろうか…。
「久胴、僕は…あれ?」
 彼の手が、ぱたりと落ちた。久胴は寝てしまったらしい。きっと良い夢を見ているんだろう。
 タオルケットを掛けてやると、僕もなんだか眠くなってきた。
 …寝袋、借りようか。彼の隣で。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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