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運命の必然に関する二三の考察

梅がてら投下させて頂きます。
都市男子達 大岳と喜太郎

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

打ち合わせの為に集まった事務所の一室。前の仕事が長引いた所為で、才木の到着が遅れている。
だから二人でぼんやりと待っている訳なのだけれど、喜太郎が不意に大岳を呼んだ。
「なぁ、おーたけ」
「んー?」
「俺らさぁ、もう三十年以上付き合ってるけど」
「んー」
大岳の返事が生返事なのは、手元の雑誌を捲っていたからであって、喜太郎の言葉など耳に入れる価値など
ないと思ってる所為ではない。けれど他者が語りかけてくる言葉をおざなりに聞いていたしっぺ返しは、
すぐさま与えられた。
「舞台以外でキスって一回もした事ないよな」
「……はぁ?」
何を言われたのか脳が理解するまでに数秒かかった。そして理解した瞬間、大岳はすごい勢いで雑誌から顔を
上げた。幾多郎はというと、部屋にある小型のテレビを見ていて、大岳の方など見ていない。
画面の中では昔のドラマの再放送が流れていて、主役とヒロインが熱いラブシーンの真っ最中という
分かり易さであった。
「ないよな、って当たり前じゃないのか」
「いやぁ、普通付き合って数ヶ月もしたらするもんだろうし、行きずりで出会って数分でする奴もいるだろ。
でも俺ら三十年以上一緒にいてさぁ、した事ないよなーって」
「あのなぁ、一般的な男女関係と、男同士の……こういう付き合いを同等に並べる奴があるかよ」
「今、どういう付き合いか分からなくなって誤魔化しただろ」
憎らしい事に意外と鋭い喜太郎は、テレビよりも大岳の方が面白いと踏んだのか、画面から目を離して
大岳を見た。いつ見ても離れた目だなーっと、大岳は思う。日によって目の間の距離が変わる筈もないけれど。
確かに喜太郎の言う通り、この関係をどう形容していいものか、一瞬分からなくなって誤魔化した。
まさしくその通りだ。
仕事仲間ではある。ユニットを組んで三十年以上経つし、仕事仲間と呼んでも差し支えない。
けれどやっぱりそれだけではない。でも友達と呼ぶのも違う。身内だとは思っているが、親兄弟の様な
血の繋がりはない。どんな形容ならしっくりくるのか。
喜太郎は答えない大岳の顔をじーっと見ていたけれど、ふと口元を緩めた。薄い唇が紡いだのは、ほんの一言。
「やっぱり」
顔に出ていたらしいと、大岳は何故だかばつが悪い様な気持ちになって掌で頬を擦った。才木の奴、
何してんだよ。とっとと来い馬鹿と、心の中で八つ当たりを一つ。勿論口にも出してみる。
「じゃぁ、お前は言えるのかよ」
「言えないよ」
「だったら、俺が言えなくても悪くないじゃねぇか」
「誰も悪いなんて言ってないだろ。やだねー、歳取ると僻みっぽくなって」
ささやかな反撃は、かえって攻撃の取っ掛かりを与えてしまっただけだった。あーやだやだとこれ見よがしに
連呼する喜太郎に、大岳はむくれるしかない。大体一歳年上の癖に何言ってんだと思うものの、もうこの歳に
なれば一歳程度の年の差なんてあって無きが如しだった。喜太郎が年上らしく振舞ってる姿なんて
記憶の中にもないのだし。
思えばずっと、喜太郎はこんな風だった。こうして向かい合っていると、ここが才木と同居していた
アパートの一室で、過ごしてきた時間は夢だったんじゃないかと錯覚を起こしそうになる。色んな事があった
三十年が夢だったとして、自分はもう一度同じ三十年を過ごすだろうか。
黙った大岳に喜太郎が僅かに心配そうな顔になる。
「怒った?」
「何で」
「黙ったから」
「怒ってねぇよ」
「そっか」
「そうだよ」
「うん。そっか」
あからさまな安堵を喜太郎は浮かべはしなかった。大岳が真剣に怒ってみた所で、喜太郎には痛くも
痒くもない筈なのに、顔色を伺ってくるのはご機嫌を取りたいからじゃない。
例えば、この歳になっても二人は本気で喧嘩をする。演技論を巡って、口も利かなくなる程の大喧嘩に
なった事だってある。それは仲が悪いからじゃなくて、どれだけ喧嘩しても大丈夫だと知っているからだ。
本気でぶつかれる。ぶつかられても、受け止められる。五十歳を過ぎた時、大竹が戯れに「五十過ぎて
仲良しって思われるのも嫌だから、解散でもしようか」と言った事があった。才木も喜太郎もそうだね
と笑っただけだった。大岳は運命論者ではない。けれどもうこれは運命だったと諦めるしかない。
生きている間は、きっと離れられない。離れる離れないなんて、自分達で決める事じゃない。
離れてしまう関係なら、きっとここまで続いていない。
溜息をつきたかったけれど、ぐっと飲み込んで煙草の箱に手を伸ばす。
「んでさぁ、キスだけど」
「話戻すのかよっ」
危うく掴んだ箱を取り落としかけた大岳に、喜太郎がきょとんと細い目を丸くする。
「戻さないの?」
「戻してどうすんだよ」
「だってさぁ、折角振ったんだよ?」
「折角振って頂いたお話ですけどね、謹んでご辞退させて下さいよ」
「まぁ、そう言わずにさぁ、おーたけぇ」
「だからお前はどうしたいんだって」
「同意してよ」
「はいはい、そうですね。したことないですね」
「どうしてお前はそう投げやりなの」
「お前が投げやりにさせる様な話題振るからだろうがっ」
前言撤回してやろうかと思ったけれど、ちぇーっとつまらなさそうな顔になった喜太郎を見ていると、
そんな気持ちもなくなってしまう。
「で、才木はまだなの?」
「俺に聞くなよ」
「遅刻は俺の専売特許なのになぁ」
「分かってんなら改めろや」
「遅れようと思って遅れてるんじゃないんだってば」
今日はしていないというのに、普段の遅刻の言い訳をすまなさそうに始めた喜太郎に、大岳は自然と
表情を緩めた。大岳自身は見えないから分かっていないが、それはひどく安心した様な、そういう
笑みだった。
大岳はふと先刻浮かんだ夢想の答えを得る。
もし今目が覚めて、才木と共同生活をしていたあのアパートで目を覚ましたとしたら、きっと同じ
三十年を辿るのだろう。どこかで道筋を違えたら、今目の前にいるのが、今自分達が待っているのが
別な人になってしまうかも知れない。
多分自分達はずーっとこのまんま。キスもしなけりゃ肉体関係も勿論ない、永遠の三角関係だ。
運命だから仕方がない。
そう心の中だけで呟いて、大岳は銜えた煙草に火を点けた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
長年1人で萌えてます。仲良き事は美しき哉。

  • 目覚めました。どうしてくれるんですか本当にありがとうございます -- 2011-07-28 (木) 16:51:46

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