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GS3 玉×尽

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

朝から周りがどうにも騒がしい、生徒会の方もなんだか浮足立っているような気がするし……なんて、僕もそこまで愚かじゃなかった。
伊達に一年で次期の生徒会長になった訳じゃない、女子も男子も浮き足だつ二月の行事なんて、一つしかないじゃないか。
それに、僕にだって無関係というわけじゃないし……。

「思い出すなあ」
「なんだよいきなり、気持ち悪い」

設楽に気味悪がられてしまった、まあ、仕方がないか……。
もうずいぶん昔の話だ。

「ふわぁぁ~」

自分の前を歩きながら、大あくびをした同級生の後ろ頭を見ていると、視線に気づいたのか眠そうな顔で振り向いた。

「尽、今日も寝不足?もうお姉さんのチョコ作りの手伝いって訳もないのに」
「まあねー、そうなんだけどさぁー」

いつもなら女子が騒ぐ顔は、寝不足が効いているのか若干、顔色が悪い。
ごきごきっと首を鳴らす尽とは、小学校のころからの付き合いだ。

「ほい」
「ありがとう」
「今年はいらねえかと思ったんだけど、まあ一応な」

「そんなことないよ、ありがとう」
すっかり慣習になってしまったそれは、確か小学生の頃の話だった。

『おい玉緒、どーせお前もらえてないんだろ?しょーがねーなー、ほら、ねーちゃんが作ったあまりだけどやるよ』
「……」
毎年のようにお姉さんの手作りチョコを手伝う尽は、毎年の恒例行事として僕にその残りと言うか、失敗作と言うかそんなチョコレートをくれていた。
「まあ、どーせタマは一つももらえないんだろ?」
小学校の頃は確かに尽の言うとおりだった、あの頃はスポーツができる男子が断然もてる、僕は尽と違って本当にひとつももらえなかった。
勉強も運動も要領はいいし、それでなくとも気づかいのできる尽は彼女が三人もいたとかなんとか……。
中学の一年はいつも通り尽からだけチョコレートをもらって、そして中学の二年で、僕の背がぐっと伸びた時は……。
「ちぇー、なーんでタマが俺よりでっかいんだよ、女子の視線がそっちいくじゃん」
でもそんな事を言いつつ、やっぱりチョコレートをくれた。
残りものとは言いっても器用な尽が手伝っただけあって、他のどの女の子のチョコレートより断然美味しかった。
見た目もあんまり綺麗なんで、姉にからかわれたりもしたけれど……。

中学の三年の時は……。

「……っ」

思い出すと、胸がチクリと痛んだ。
かすかにため息をついて、ちょうど一年前の尽とのやり取りを思い出す。

「今年で最後だなー、しってるかタマ、高校行けば頭のいい方がもてるんだぜ」
そう言ってくれた最後のチョコレート、もうもらえないと言うのは寂しかったけれど、僕は純粋に尽のお姉さんが家を出るから、だからもうわざわざ手伝う事はないからだと思っていたのに……。
「はあ……」
僕は尽も同じく内部進学だと疑ってもいなかった、直前まで一緒にスキーをして滑るだ転ぶだも全く気にしなかった尽がまさか受験生だなんて……だれが思うだろうか。
卒業式の日、春休みはどう遊ぼうか部活はどうするんだと、聞こうと思ったあの日、尽が氷室先生に言われた言葉で知ってしまった。

「合格おめでとう、推薦とはいえ難関校だったがよくがんばった、寮となると今までと勝手が違うが、まあ君なら大丈夫だろう、しかし困った事があれば連絡しなさい」
「はーい、まあ先生もお元気で」
思い出すと、今でも目が潤む。
知らなかった……。
尽がお姉さんの恩師に勉強を習いに行っているのは知っていたけど、それが外部受験をする為だなんて知らなかった。
僕らは同じはば学の高校生になって、おそらく尽のお姉さんも通った一流大学に一緒に行くんだろうと漠然と思っていた。
ずっと、一緒だと思っていたのに……。
「タマ、へへ」
「尽……寮って……」
笑顔の尽にそれ以上、何も言えず佇んでいた。
もともと喧嘩をする性分じゃないし、僕は怒っていた訳じゃない、あの時はただ……ただ無性に悲しかった。
「まー遠いけどメールとかあるからさ、あ、春休みいっぱいは遊べるぜ、ジェットコースター乗りに行こ」
「うん……」
最後のはばたき市での春休みを、僕の為に使ってくれるのは嬉しかった、でも最後、それがどんな意味か考えずにいたことは、こうして義理も含めたチョコレートに囲まれていると後悔しかない。
メールは今でもやりとりするし、ときには写真付きで送られてくる、だけど声は聞いていない、チョコレートをくれたり、ゲームセンターにひっぱりまわしたり、一日中スキーに付き合ってくれる彼は隣にいない。
「友達は、できたんだけどね……」
「なんだお前、さっきからぶつぶつぶつぶつ」
設楽は設楽でいい友人だとは思うけど、でもやっぱり尽とは違う人間で、僕が卒業式で感じたあの焦燥は……きっと設楽に対するのとは別の感情だ。

「こっちの話」
「……」
会話を打ち切ると、あからさまなため息をつかれた、けど、こんな話おいそれとすべきじゃない。
初恋の話なんて設楽にはまだ早そうだし……そうだ、きっとあれは僕の初恋だったんだ。
「もっと大人にならないとなあ」
実際に高校生になってみると、尽のお姉さんのことはかなり有名で、ここに通うのはやりづらいだろうというのは痛いほど分かった。
それを一年前の僕は実感もなかったし、無邪気に同じ高校だと信じていた僕は、そんな理由でと反対するだろう事は目に見えてる。
だから、相談してくれなかった事を恨む気持ちはない。
「大人でも子供でもどっちでもいい、早くノートを貸してくれ」
「設楽……本気で真っ白なのはどうかと思うよ」
パソコンを立ち上げて、メールが来るのを心待ちにしたり、きっとお正月には帰ってくるんじゃないかとそわそわしたり、帰ってきたら一緒に行こうと思っていたせいで、今年はまだスキーに行けてない。
「諦めが悪い、われながら……」
目の前の大量の義理チョコの包みをはぎながら、一人で感傷に浸る。
尽のことだ、向こうで可愛い彼女をとっくに捕まえてるだろう。
あいつがここに居れば、はば学の王子様なんて昔の葉月さんみたいに言われたんじゃないかと思う、チョコレートだって僕の10倍くらい……。
「変だなあ」
「どうした、チョコに果物でも入ってたのか」
「いや……」
諦めようとか思っている割に、どんどん思い出が溢れて来てしまって、包をはぎかけたチョコレートをそのまま机の上に置いた。
手持無沙汰でそのチョコレートをちょいちょいっと引っかけて遊ぶ設楽を右手でいなしながら、左手でズレかけた眼鏡を直すと、また小さくため息をつく。
来年度からは生徒会長でもあるんだ……きっと一年の時よりもっともっと忙しい。
この忙しさに紛れて、いつかただの思い出にしてしまえればいいんだけど……。
「ほら、コピー」
いなしていた設楽にノートのコピーを渡すと、ふんっと仰け反った。
「帰る、車を待たせてあるからな」
「はいはい」
やれやれお坊ちゃまのお守も大変で忙しい、今日は塾もないしそうそうに家に帰るか……。

そしていつものように習慣でパソコンを立ち上るとなんと尽からメールが来ていた。
「え?」
今日思い出したばかりのあの笑顔が見えた気がして、思わずパソコンに飛びき、慌ててマウスを握る。
『今年の成果!』
カチッとクリックでそのメールを開くと、写真が添付されて、去年と同じくらいのチョコレートの山と、おそらく尽のピースサインだけが映っていた。
この中に、いくつ本命チョコがあるんだか……。
「……相変わらずだな」
自分の携帯電話で取っているからか、最近は手ぐらいしか映っていない、いいんだけど、あいつだってこれからきっと忙しくなって、メールは減って行くだろうし……。
ふっとため息をついて、そのメールに返信するためにパソコン前の椅子に座った。

「あいかわらずもてるな、元気か?まだ寒いけど風邪をひかないようにそれと……」

書いては消し書いては消し、気持ちが漏れないように、それでも沢山の事を話したくてその日は夜中までメールと格闘することになってしまった。


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