Top/58-398

静夜想

某リョマ電
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 「タケチ~。大殿さまから、以蔵の牢問が許されたがや」
そう、勝ち誇ったように伝えた時、その後ここまで自分の気持ちがかき乱さされることになろうとは、ゴトウショジロは思っていなかった。

―土佐-
旧暦の6月。
ゴトウショジロウの家の縁側では、妻の磯子が、木箱の上の青梅を転がし、竹串で、ぷつっぷつっと表面に穴を開けている。
梅雨もすっかり明けてしもうたようじゃ。ショジロウはパタパタとセンスで自分を仰いだ。
旧暦の6月。磯子の手でころがされている青梅の産毛が初夏の日差しで霜のように白く反射していた。

 シマムラエイキチが獄死し、しばらくは土佐勤王党への厳しい取調べは許可が下りなかった。エイキチは、拷問4日目に血を吐き、意識を失いそのままあっけなく息を引き取った。最後まで何も喋らなかったため、土佐の監察府は罪に問えなかった。
 タケチを何がなんでも罪人として晒したい。そのためには、どうしてもイゾの口を割らせないかん。ショジロウは、暗い情熱に取りつかれていた。今度は口を割らせるまでは死なせるわけにはいかなかった。

 引き立てられた、イゾは、上半身裸にされている。後ろ手首を重ねるように戒められて高い肩の位置にまで引き上げられる形で藁のムシロの上で正座させられ、戒められている。
痩身ではあるが、剣術で鍛え上げられた身体は肩のあたりで盛り上がり、若木のような瑞々しい肌にくい込む縄が、痛々しい。
「吉田東洋さま、暗殺の一件で吟味いたす。殺すように命じたのはだれじゃ」
ショジロウは問う。「知らん!」とイゾは答える。眼が会った瞬間、ぞわっと何かがショジロウの奥で蠢めいた。
「打て!」ショジロウは打ち役に命じた。
「ああっっ」激しい一打が肩から背中にかけて打ちつけられ、以蔵が声を漏らす。
竹で作られた拷問用の打具は、打撃の衝撃を効率よく伝えるように作られている。イゾに呼吸を整える暇を与えず、打ち役は続けざまに打具を振りおろした。
動けぬように縄尻を押さえられているイゾの肌は打たれた処がさっと、赤みを帯び、やがて、皮膚が割れ、血が滲みだしてきた。
「わしゃ、何もしらん・・。」そう、答えるたびに、残酷な打具が立て続けにふりおろされた。
一刻ほどの責め苦ののち、意識を手放す直前にイゾは牢に戻された。
そして、これはまだ地獄の始まりにしか過ぎなかった。イゾにとってもショジロウにとっても・・・。

 オカダイゾの取り調べは、日を追うごとに、さらに厳しさが増した。証言をなんとしてでも得たいショジロウは、生かさぬよう、殺さぬようと責め手に命じていた。少しづつ苦痛が増し、長引かせるその手法は凄惨であった。

先が鋭く尖った三角形の木を五本並べた十露盤板を視て、両側から牢番に抱き抱えるように連れられてきたイゾは大きな眼に絶望の色を浮かべ、眼を伏せる。
「吉田さまを殺すように命じたのはタケチじゃろ?もう、楽になりや」諭すようにショジロウは問いかける。
前日も同じ石抱きの拷問を受け、柘榴の様になっている膝から下と責め具を交互に見、顎をとり、告白を促す。
「わしは、なんも知らん・・・」言葉とは裏腹に上目遣いに揺れる瞳は苦痛の記憶を蘇らせている。またぞろ、ぞわっとショジロウの身体の奥が疼く。
「吟味を始めい!」それを合図にイゾは十露盤板上に正座させられた。
正座するだけで、イゾは苦悶の表情を浮かべた。堅い木の三角柱が、腫れて、傷ついた足に食い込み、自重だけで、疼痛から、激痛に変わったのだった。

 「うあぁぁ・・ああああああああ」絞りだすような悲鳴がこだまする。どれだけ、叫んだのか、叫びすぎて、イゾの声はかすれている。
2つほど抱かされた石の上に取調べ係りの役人が腕を置きぐっと上半身をあずけ、覗き込むように以蔵を見る。
「もう・・・今までのようにはいかんぜよ・・・イゾウ」 
イゾは、聞こえているのか、 はぁはぁと息を荒くしてするだけである。
取調べ役はイゾの顔色を見る。もう少し責めれば落ちそうでもある。
だが、絞りだすように出た言葉は、「し・・・しらん。わしは・・・知らん・・・」であった。
 取調べ係りは下人に命じる。「も一つ乗せやーい。」
答応して、二人がかりで、3枚目が載せられた。あたりに“ぐしゃっ”という、何かがつぶれる音が響いた。
「あああっ、あっあっあああ!!」
悲鳴があがる。
あまりの苦しさに前のめりになろうとするイゾの身体を、竹笞で後ろからはがいじめに起こさせる。不安定な身体と石がさらに脛を責め、痛みを増すように。

 パタパタと扇ぎながら、イゾの悲鳴を涼しげに聞いていたゴトウショジロは「闇討ちを命じたがは、タケチせんせじゃろ?」せんせという言葉に馬鹿にしたような響きをのせてイゾに問うた。
ショジロの問いにも、首を左右に激しく振り、「し・・しらん。しらん。わしは・・知らん・・」とオウムのように同じ言葉を繰り返した。
その答えを聞いたとたん、ショジロウは、ガッと力任せに右足を積んだ石の上に乗せた。
「うああ、はぁ、ああぁ!」
悲鳴だけがあがる、足で石を揺らし、さらに苦痛を与える。
悲鳴がタケチの牢まで、届くように・・・。

 形だけ、医師の手当てを受け、イゾは牢に放り戻された。
立て!と何度も頬を張られたが、ついに自力で歩くことはできなかった。
牢のなかで放り込まれた格好のまま、呻くしかできない。せめて、堅い土間から藁の寝床までともがくが、息をするたびに激痛が走る。ドクン、ドクンと流れる脈に体中が鈍い痛みを訴える。タケチセンセ・・・。

 ショジロは、怖かった。厳しい尋問が許されず、腹いせにイゾを辱めた時に襲われた「めちぇめちゃに壊したい」欲望が怖かった。それは自分の心の闇が増してくるような怖さである。

・・・・闇におおいつくされる前に・・・。
ショジロは、意を決してヨウドウ公にお目通りを願いでた。
「吉田東洋様殺害の一件、連日、オカダイゾを拷問にかけちょりますけんど、一向に喋る気配がございません。かくなるうえは、タケチ本人に厳しい取調べを。」
 だが、ヨウドウ公は、タケチはもう上士じゃきにと、拷問にかけることを許さなかった。
そんならばと、タケチの格下げを願いでたが、どうしてそこまでタケチに拘るとかえってヨウドウ公の怒りを買ってしまった。
「タケチ、タケチと・・・どういてわしがあんな下賤な男のことを考えんといかんがじゃ!
おまんが、あのオカダとやらに喋らせたらそれですむじゃに・・・。」
それが、ヨウドウ公の命だった。


 ショウジロが与力町の家に帰ると、梅の匂いが漂っていた。妻の磯子に問うと、梅酢があがってきた甕に揉んだ紫蘇を漬け込んでいたらしい。見ると、爪の縁が赤紫色になっている。
磯子によると「今年は色のあがりが良い」らしい。見せてもらった甕の中では、紫色の紫蘇が梅酢につかり、鮮血のような赤に発色していた。


 太ももの内側から伝う血の跡が扇情的ですらある。その訳を知ってるものも、知らないものも、もはや茶番劇のように滑稽ですらあるイゾの拷問に付き合う。
滑車に高く吊るし、ショジロウは狂ったように自ら打具を手に取ると、イゾの左背中から、胸から、笞打った。
「喋りや!」そう言いながら、もうイゾが口を割らないことは分かっていた。

 少し、滑車から引き下ろし、下人に動かぬように綱を持たせ、右に回り、ショジロは激しく打ち付ける。
「喋りや。イゾ!殺させたがはタケチじゃろうが」。恐怖から逃げるように力まかせに笞打ちを続け、「タケチたけちじゃろうが、タケチじゃろうが、タケチじゃろうが・・・!!!!」と問う。
「・・・タ ケ チせんせいは・・」イゾの絞り出す声にショジロウは手をいったん止めた。
「・・・素晴らしいお方ぜよ・・」
真っ直ぐに、ショジロウを見据えているつもりなのだろうが、黒目の焦点があっていない。どこか、うっとりとした甘い語尾に、ショジロウに修羅が降臨(お)りる。
~狂ちょる!イゾは狂うちょる~そして、自分も。
また、笞打を再開する。左肩へ。腹へ。何かから逃れるように・・・。

 昼間、口から血の泡を吐いたところで、調べが中止になった。
月明かりの夜の牢は恐ろしいほど静まり返っている。イゾはなるべく痛くない姿勢になろうと思ったが、指一本動かすのさえ辛く、牢の格子に背持たれていた。子ネズミが足元を這う。
ゆっくり視線を落とし、師を想う。タケチセンセは正しいきに・・・。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP