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届かぬ祈り

テ.イルズオ.ブ深淵の害焔で。シリアス寄りです。
物語後半の一場面(レ.ムの塔前後)を主題としているので、ゲーム未プレイorアニメ未観賞の方はご注意を。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

――奇しくも、復讐は成就することとなる。
それも、彼がまるで想定していなかった方法で。
或いはそれは皮肉か。
積年の復讐心に自分なりにケリをつけ、断髪までして「変わりたい」と宣言した少年を、親友として見守っていこうと思ったその矢先に。
或いはそれは罰か。
"親友"を自称しながら、笑顔の仮面の下に昏く澱んだ殺意の情念を滾らせていたひとときがあったことへの。

ロ.ーレライ教団の総本山、聖地ダ.アトにて。

かつてはその使用人の立場にあった男ガ.イ・セシルは、元主人を殴ったあとでまだじんと痺れる右手を、反対側の手で押さえていた。
その視線は鋭く、唇は固く引き結ばれている。

劣化複写人間(レプリカ)だから、と自分の死をいとも容易く口にする赤毛の少年を、思わず殴りつけていた。
それも、平手ではなく握り拳で。
そして無我夢中で叫んでいた。

「石にしがみついてでも生きることを考えろ」

――「生きなさい」。
それは自分を庇って死んだ姉が、最期にかけてくれた言葉。
「過去に囚われていては前に進めない」と並んで、記憶の深淵から彼を守り支えてきた、もうひとつの"真理"。

だが事は単純ではない。 いま惑星オ.ールドラントは有害な障気に包まれつつある。
このままでは遠からずして人類は緩慢な滅亡への道を歩むこととなる。
解決策はひとつ。超振動と呼ばれる力を使える者を人柱として、その命と引き換えに障気を中和すること。
そしてそれが可能な人間は、この世に二人だけ。ア.ッシュとそのレプリカ、ル.ークである。
順当に考えれば、劣等のレプリカ・ル.ークを障気問題解決のために"消費"し、優等の被験者(オリジナル)を生かすのが"正解"だ。
だが従者として、兄として接してきたガ.イは、その"正解"を素直に認められない。
勝手な都合で生み出され、今度は世界のために死を求められる。
十年にも満たぬその短い生涯は、初めから終わりまで為政者たちの、大人たちの都合で翻弄されるというのか。
さりとてそんなガ.イも"大人"だった。
世界のための犠牲とされそうな少年を、例えば連れ出して逃げてしまうようなことは、彼にはできない。
大切な家族に加えて親友まで奪おうとする世界など、いっそ滅べばいい、などという飛躍的な発想は、
21歳となった彼の持ち合わせるところではない。
だが同時に、いくら大人びているとはいえ、仲間のジ.ェイドほど合理的でもいられない。
少なくともル.ークを殴り付け、障気なんてほっとけ、と叫ばずにはいられぬほどには。

代わってやりたくても叶わない。
件のふたりが必要とされる理由は、単身で超振動を起こせるという点にある。
いくら剣の腕が立っても、彼はその意味では悲しいほどに、ただの人間でしかない。
自分の無力さに嫌気が差して目を逸らすと、床に映ったステンドグラスの影が視界に入った。
(そうだ、ここは礼拝堂だったな)
……始祖ユリアに祈れば叶うというなら、いくらでも祈ろう――どうか彼を、ル.ークを死なせないで下さい、と。
あいつはまだ何も知らない。生まれてから七年しか経ってないんです。
俺の故郷のホドは無理だけれど、それでも見せてやりたい景色がたくさんあります。
料理だってちょっとずつ上手くなってるし、それにたぶん、恋だって、してるはずです。
──だが、そのル.ークに残酷な死の未来を課すのが、他ならぬユリアの預言なのだった。
祈る神すらいない。
(駄目だ。一番辛いのは俺じゃなくてあいつなんだからな)
ガ.イは個人的な感傷に浸りかける自分を即座に律する。
(あいつのために俺ができることを、考えよう)
──執行猶予にも似た時間が、徐々に、だが確実に、流れる。

刻限が来た。
世界のために死ねるか、という残酷な問いに対する返答が為される刻限が。
ガ.イはル.ークが先程向かった図書室に入った。

ガ.イはそこで整理した自分の気持ちを伝えようとしたのだが――

そこには先客がいた――テ.ィアである。
二人の顔を見て、瞬時にわかったことがある。
きっとル.ークは彼女に、自分にはぶちまけなかった心情の一端を吐露したのだろう。
(あのワガママル.ークお坊ちゃんが、一人前に人の心を気遣ってくれるとはね……)
その背伸びした思いやりが、たとえようもなく、哀しい。
それがもっと違う機に、違う形でもたらされたならば、あるいは。
ともあれ、こうなっては自分の出る幕はない。
ル.ークを前に、言ってやりたいことはある。でも言わない。それはどうしたってエゴにしかならないだろうから。
代わりに、考えに考え抜いて決めたことを、決して口には出さず、胸の内だけで告げる。

――ル.ーク、お前の出した答えが何であれ、俺はお前を全部受け止めるから。
いまここで息をしているお前の存在も、決意も、……あるいはその最期も。
逃げずに、誤魔化さずに、真正面から向き合うから。
「親友(マブダチ)」の称号を偽りとしないためにも。

胸裡に去来する様々の思いをぐっと呑み下し、ガ.イはル.ークに声を掛けた。
「ルーク。陛下たちが呼んでる」
自分の声と表情を、つとめて平静に保ちながら。

……かくして一行はレムの塔へと向かうこととなる。
その白い墓標にも似た塔の頂上で、ガ.イは自らの心に決めた通り、彼にしかできぬことを行うだろう。
障気で覆われた空は、どこまでも禍々しく、昏い──。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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