小さな力
更新日: 2011-04-24 (日) 17:39:39
タイガのリョマ伝、ワスケ→タケチ
ワスケが紳士すぎて萌えたので勢いで書いてしまいました
医者については完全に捏造、トサ弁もかなり適当ですがご容赦ください
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
白髪混じりの初老の医者から差し出された饅頭に話助は息を呑んだ。
竹の皮に丁寧に包まれたそれは何とも美味そうな饅頭だが、これは天祥丸の粉末を
多量に混ぜて作られた毒饅頭である
「…ありがとうございます、私が必ず武智様にお届け致します」
「天祥丸は時が過ぎれば過ぎるほど効き目が薄くなります故、遅くとも今日明日中に
使われるのが宜しいでしょう」
「承知致しました。…武智様の手紙は焼いて処分されたがですろうか」
「はい、確かに焼いて処分致しました」
話助は医者に頭を下げると、小さく震える手でその毒饅頭を受け取った。
「武智様はいずれきっと牢から出してもらえる、私はそう信じております」
「わしもそう思うちょります」
もう一度医者に頭を下げると、和助は饅頭を懐に隠し足早に医者の元を後にした。
何者かに目撃されぬよう人気の少ないうちに来て欲しいとの医者の言葉を受けて
話助が医者宅へと向かったのは夜が明ける少し前、まだ空が暗い刻だった。
外に出て空を見上げると東方の空が白みを帯び始めている。
辺りに目を配り、近くに人がいないのを確認してから話助は奉行所へと向かった。
急げば、日が昇りきる頃には武智に饅頭を届けることが出来るだろう。
勤能党の者たちが拷問にかけられていた
耳を覆いたくなるほどの悲鳴にも武智は決して耳を塞ぐことはなく
こぼれ落ちそうになる涙を必死に堪え、それを受け止めていた。
自分を慕い、ついて来た者たちが罪人として厳しい拷問を受けている
その武智の心境はいかばかりだろうかと話助は毎日のように考えていた。
土イ左では上司と下司という徹底した差別が存在している。
下司は上司に跪き頭を下げ道を譲らねばならず、身につける物も制限され
贅沢も禁止されている
同じ人間でありながら下司はまるで犬猫のように扱われてきた。
話助は下司である。
動物のように扱われ、自分は一体何のために生まれたのだろうかと絶望していたときに
同じ下司でありながら藩を動かし幕府を動かし、そして朝廷をも動かした武智の名を耳にした。
話助は牢番という役目からか、勤能党に入ることはできなかったが
絶望しかなかった己の人生に一筋の光を射し入れてくれた武智には
言葉では言い表せないほどの尊敬の念を持っていた。
その武智が牢に入れられると聞いて、話助は驚きを隠せなかったが心のどこかで
憧れである武智に会えるかもしれないという淡い期待を持っていた。
それは「武智が投獄されるなど何かの間違いである」という確信から来るものだったが
その確信はすぐに音を立てて崩れことになる。
毎日のように聞こえてくる伊蔵の悲鳴は武智の精神を容赦なく打ち砕いていった
少しでも何かの救いになればと、話助は手紙を届けたり菓子や花を差し入れることもあったが
それでも武智はやつれていき、虚ろな目で空(くう)を眺めていることが多くなった。
武智が目の前にいるのに何も出来ない自分に悔しさを隠せない
何か自分に出来ることはないだろうか、自分に出来ることがあるならば何でもやろう
話助はそう自分自身に誓っていた。
「…話助はおるかえ」
「はい、ここに」
武智の呼びかけに話助はすぐに武智の元へと駆け寄り、しっかりとした口調で答えた。
近くで見る武智の顔は見るに堪えないほどにやつれていた。
「おまんに頼みがあるぜよ」
「わしに出来ることがあるやったら、何でも言うてつかあさい武智様」
「……」
武智の沈黙に何か言い難い頼みなのだろうかと話助は耳を近づけた。
「わしの知り合いの医者から天祥丸を貰ろうて来て欲しい」
「天祥丸…?」
耳慣れない言葉に話助は眉を寄せる。
「阿片を使こうた毒薬ぜよ。これを食うと口から泡を吹いて、たちまちのうちに死ぬと言われちょる」
武智からの思わぬ頼みに話助は目を見開いて言葉を失った。
「おまんを見込んでの頼みじゃ、わしは伊蔵を救ってやりたい。どうか頼む話助」
武智は格子の隙間から腕を伸ばし、縋りつくようにして話助の腕を掴んだ。
「頼む、頼む話助…」
うわ言のように繰り返す武智の呼吸は荒く、話助の腕を掴む手もぶるぶると震えている
尋常ではない様子だった。
話助の腕に小さな痛みが走る。どうしたのかと思い腕を見ると
無意識のうちに力を込めてしまっているのか、武智の爪が自分の腕に食い込んでいた。
武智の頼みを断る理由など、どこにあると言うのだろう
話助は武智の目を真っ直ぐに見据えて言った。
「承知致しました。わしが必ずお持ち致します」
「そうかえ、そうかえ。礼を言うぞ話助」
武智のこの言葉だけで話助の胸には、言いようのない嬉しさがこみ上げた。
毒薬を扱うということもあってか武智は医者への手紙を書いた
話助はその手紙を丁寧に手ぬぐいに包んで懐へと隠すように仕舞いこむ
「その手紙は読んだらすぐに焼いて処分するよう言うてくれ、万が一ということもあるきに」
「はい、必ずお伝え致します」
「頼んだぞ話助」
話助は早速、武智の知り合いの医者の元へと走った。
日が昇りきる頃に話助は奉行所へと着いた、そして武智の牢へと急ぐ。
武智からの手紙を読んだ医者はしばしの間絶句していた
話助は医者に何度も土下座をして、どうか天祥丸を分けて欲しいと頼みこんだ
武智の為ならばと医者は一言「分かりました」と言って首を縦に振る
天祥丸ならば饅頭に混ぜたものがよいと言って、早速手配をした。
そして次の日に渡されたのがこの饅頭である。
「武智様」
牢の武智は力なく格子に凭れ、足を投げ出すようにして座っていた
そしてまた空を見ている、話助の言葉は耳に届いていないのか何の反応もない
周囲に知られてはまずいので大きな声は出せないが話助は何度も武智に呼び掛ける。
「武智様、武智様…!」
三度目の呼びかけでようやく武智が話助の存在に気が付いた
話助は周囲に目をやり誰もいないのを確認すると、懐から医者に渡されれた毒饅頭を取りだした。
「これは天祥丸の粉末を混ぜた毒饅頭です。お医者様の話ではこれは時が過ぎれば
それだけ効果が薄くなってしまいますきに、今日明日中に使われるのが良いそうです」
武智は話助から毒饅頭を受け取ると少しの間それを見つめていた。
弟子のような存在の伊蔵に毒を食らわせるなどとても堪え難いことだろう
「話助、ようやってくれた。おまんにはほんまに感謝しちゅう」
「いえ、武智様のお力になれて、わしはまっこと嬉しいがです」
「…そうか、そうかえ」
武智は少しだけ笑みを浮かべた。
初めて見た武智の微笑みに話助は胸を打たれる
下司として生まれ、何も出来ないと思っていた自分が武智の為に働くことが出来た。
そしてそれが武智の笑みを生み出し、少しでも武智の苦痛を和らげることが出来たのだ
話助にとって、これほど嬉しいことはない。
「わしに出来ることがあるやったら、遠慮のう何でも言うてつかあさい武智様」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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