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度子藻CM 雄火田×擬人化携帯・犬さん

度子藻の釣り針がデカすぎてガッツリ釣られてやっちまったものです…ぬるくてすいません
携帯の機能とか、最新機種うんぬんに疎いので、そこらへんあやふやです
CM通り、犬さんが携帯の擬人化なので苦手な方はご注意下さい
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「じゃじゃーん」
「…あ」
「いいだろ~」
「おぉー、見せて見せて」
同僚が携帯を新調した。最新型の人気モデルだった。
シンプルなデザインとパソコン並の機能性が、いかにも出来る男のマストアイテムとして華を添える。
地味に選びがちなカラーは鮮やかなライトブルーでカバーしていた。しかもよく見ると洒落た有名ブランドとのコラボだ。
「カッコイイじゃん。…ってか、また変えたのかよ」
「こっちもね」
「あ」
スッと目の前に出てきた財布にも呆気に取られてしまった。確か先週、テレビで話題になってた夏の新作じゃないか。
彼が社内で断トツにモテる理由が分かる。イケメンで性格が良い、だけじゃない。この男はまめだ。
流行に対して常に敏感で、自分への投資を惜しまない。スーツや靴、髪型に至るまでとことんやる。だが、さりげない。
こういう奴は人間関係も素晴らしく要領が良いわけで。ああ、なんてずるいんだ。
…などと小さい僻みを持ったりしている自分の性格はというと正反対。結果は言わずもがな。溜息の一つや二つも出るもんだ。
「溜息つくと幸せが逃げてくぜー」
「どーせ俺はがさつです。そこまで気ぃ使うなんて面倒くさいだろ」
「それがダメなんだよ。小さい事にも気を抜かない!競争率が激しい時代だからなっ!」
「なんの競争だよ…」
「そういやお前、今日携帯は?」
「……家に忘れた」
「そういうところだぞー。今日、合コンだったらどうすんだよ。土砂降りのベンチに忘れてくるなんて間抜けな事も、もうすんなよ」
「分かってるって!」
痛いところをつかれて慌ててビールを一気に喉へ流し込むと同僚は爆笑した。
よく物を落とす。忘れ物も、遅刻も、その他色々やらかす。
人間だからしょうがない、とは言ってられない程おっちょこちょいなのは自覚していた。こればかりは何故か小学生から直ってない。

居酒屋に入ってかれこれ二時間弱、気分が緩んでいたせいか口元がむずむずしていた。
目の前のイケている同僚に話してみようか、という考えが頭をよぎる。
ずっと秘密を抱えていると、関係無さそうな人にさらりと言ってみたくなるという事はないだろうか。
ここ最近、奇妙な出来事に巻き込まれていた事をふと思い出したのだ。同僚が携帯なんぞ新調するからである。
その奇妙が、当たり前の様に生活に馴染みすぎていたせいもある。よくよく考えれば奇妙どころの騒ぎじゃない出来事だったのに。
言うか言うまいか迷っている間に、勝手に口が開いていた。
「携帯」
「んー」
「おまえの…その新しい携帯」
「何?」
「それさ、…喋る?」
「おいっ!電話は喋るためのもんだろー!…うーん、今のはあんまウケないな」
「違くって……わ、笑ったり、とかさ、心配してくれたり、いじけたり……し、ないよ、ね」
「…は?」
「俺の携帯…、その、たまに…お、俺の隣に…ほら、いるの…見えるかなー?なんて…はは、は…」
「………え、…は?」
「うわあああ!ごめん!ごめんマジでごめん忘れて!つか頼む忘れてくれえええ!」
壮絶に後悔して額を勢いよく下げると、ポンポンと背中を叩かれた。
「今度、誰か良い子紹介するよ…。希望、持てよ。な?まだ若いし…大丈夫だって」
「………」
慰めを含んだ反応を返されて、情けなくなりながらも心の底で安堵する。
彼女にふられたショックと酒で変な事を言い出したと思ってくれた同僚は、律儀にタクシーを捕まえて車内に放り込んでくれた。
やっぱりまめだ。モテる男はここが違う。
トチ狂ったわけじゃない。いや、最初は頭がおかしくなったと思ってたが、違うんだ。
秘密がある。
一人暮らしなのに、部屋でアホみたいに喋るのは自分ぐらいなものだろう。
俺の携帯は、俺の携帯は、俺の携帯は…
側で笑ったり、心配してくれたり、いじけたりする、人間みたいな携帯なのだ。

自宅アパートの玄関を開けると、真っ暗な室内でチカチカと白い光が点滅していた。
電気のスイッチを押す前に、『彼』が鳴った。
「おかえりなさい」
「た、ただいま」
「ご友人と上司の方からお手紙、届いてますよ」
「あぁ、うん」
部屋の明かりを点けると、朝忘れて行った時と同じ状態で『彼』はベッドの上に正座していた。
携帯が正座をして、おかえりなさいと言う。これが秘密だ。

携帯デビューは遅咲きの高校生の時。
頻繁に新調する事は無いが、それでも人並みに飽きたりして何度目かの買い替えで立ち寄ったショップで
欲しかった黒いデザインは生憎どの機種も欠品だった。
その中で一つだけ、在庫一点と書かれた札をぶら下げた黒い携帯が目に入った瞬間、気づけばカウンターで購入手続きをしていた。
物に対して言う言葉じゃないが、運命を感じた。
しかし、だらしない性格は説明書を最も嫌う。その夜、扱い操作に匙を投げベッドへ寝転んだ時だった。
「もう少し構ってよ。ね」
知らない男の声に飛び起き、ベッドからずり落ちて尻餅をついた。
痛さなど感じる暇もない。叫び声も出ないぐらいの衝撃だ。
散らばった箱と説明書の側に、中年の男がいる。
思わず殺される!だの、襲われる!と身構えたが、男性はまじまじとこちらを見ているだけだった。
「ど、どど!?ど、どちら様!ですかっ…!!?」
「えっ。…酷いなあ」
まとまらない思考でようやく出てきた言葉に、男は少し傷付いたような顔をしてから、柔らかく笑った。
「今日からあなたの側で役目を果たす携帯です。よろしくね」

朝、目覚めると夢じゃなかったことに再度、衝撃を受けた。
寝ている自分を、昨晩の男が覗き込んでいた。

あれから三ヶ月。分かったことは、彼は本当に自分の携帯で、俺の頭はまともだったということ。
彼はどっかで見た俳優になんとなく似ている渋いイケメンで、どうやら他人には姿が見えないということ。
携帯なのに性格があったこと。
几帳面で世話焼きでとても優しい。意外とナイーブで茶目っ気がある。実は寂しがり屋だった。それと、雨は嫌いじゃない。
堅苦しいスーツを脱ぎ捨てて部屋着に着替えながら謝った。
「今日、忘れちゃってごめんね」
「遅刻しちゃった?」
「ぎりぎりセーフ!」
「それは良かった!」
「でもさ、参っちゃったよ。連絡取れないから課長にだらしないって言われちゃってさぁ」
「じゃあ、明日は連れてってね」
「もちろん」
彼の前に座って左手を握ってやると、シャツに浮かんでいた光が消えた。
人間でいう心臓あたりが彼のライトだ。左手は電源やクリアボタンらしい、というのは出会って一週間目で見つけた。
俺の携帯はもちろん服を着る。
今日はYシャツ姿のまま忘れてしまったので、新しくおろしたスウェットを渡すと喜んで着替えてくれた。
「あれ。お手紙読まないの?」
「んー、じゃあ変わりに読んで」
「いいの?」
「いいよ」
ニコニコしながら話し出す。彼の笑顔は可愛い。
「26日は接待ゴルフだって」
「はぁ!?マジで!?せっかくの休みだったのに…最悪だ…」
「ま、気楽に行きましょうよ。私も最後までお付き合いしますから。一緒に乗り切りましょう」
ふと彼の顔を見る。目が合って、彼が微笑んだ瞬間それは起きた。
胸がジリジリと痛い。まただ。
正直に白状すると、俺の頭はまともじゃない。
まともなふりをしていただけだと、思い知らされた。

数日前から、彼の存在にドキリとする事が続いている。
慌てて話題を変える自分が滑稽でならないが、滑稽でなければやってられなかった。
「あ、あのさ。ずっと聞きたい事があったんだけど」
「うん、なにかな」
「君と俺みたいなコンビって、その、他にいるの?」
「あぁ、私と喋ったりすることかな?」
「そうそう」
「んー………。……」
黙り込んでしまった。目を伏せ、眉根を寄せながら腕組みをしている彼は難しい顔で動かない。
(……なんか変な質問した?…よな、絶対)
沈黙に緊張していると、彼は静かな口調で言った。
「いますよ」
「へー…やっぱいるんだ…」
「でもすごく少ないかも」
「なんで?」
聞き返すと、困ったように彼は笑った。
こんな顔、初めて見た。そして、どうしようもなくなってしまった。
「お互い、愛着が沸いたり…思い入れが強くないとね、こんな風にはならないみたいで。
………私はずっと一人だったので。だから…少しでも運命を感じてくれたのが嬉しくてたまらなかった」
衝撃的な出会いの後、彼といることが安心に繋がって、一緒にいるのを心強く思う。
そしてあまりに彼が人間的で、あまりに自分の支えになっていた。
彼は携帯だ。自分は持ち主の人間だ。
彼を愛用しているどころの気持ちじゃなくなっていた。
ドキドキと脈打つ心音が耳に響きすぎて、クラクラしていると彼はまた優しく笑った。
ああ、もうダメだ。その花のような優しい笑顔が大好きなんだ。

「さ。疲れてるでしょう。そろそろ寝ましょうね」
「え、あ…そっか、そうだね」
電気を消して、彼の側に近づく。携帯とか、人間だとか、どうでもよくなるぐらい思考が回らない。
「…充電、しといていいかな」
「お好きにどうぞ。でも今日はあまり電池を使ってませんよ」
「ううん、俺の充電」
カーテンの隙間から僅かに漏れる月明かりで彼のきょとんとした顔が見える。
そのままベッドの上の彼に覆いかぶさる様に倒れ込んだ。
抱きついたせいで顔は見えないが、いつも穏やかな彼がすこしばかり動揺しているのが伝わってくる。
つい悪ノリしてギュッと肩口に顔を寄せると、しばらくしてから彼は素っ頓狂な事を言ってのけた。
「そんなに疲れてたんですか。充電しなきゃなんて、携帯みたい人だなぁ」
「あはは、それは君だろ」
また一つ分かったことがある。彼は中々の天然か、結構な照れ屋だ。そして俺は、かなりの甘ったれだった。
電気の熱かもしれないが、彼の温度だから心地よく体に入ってくる。そんな気がした。
「明日は朝はシャワーを浴びないと。6:30に起こしますからね」
「うん」
「テーブルの方に行ってましょうか」
「大丈夫、起きれるから…ベッドにいてよ」
返事の変わりに頭を撫ぜられる。彼の与えてくれる眠気が気持ち良かった。
明日は仕事帰りに、彼に似合うストラップを一緒に選びに行こう。
その次の日も、そのまた次の日もずっと一緒にいよう。
楽しいことも、辛いことも、いろんなことを一緒に経験したい。

俺には秘密がある。
それはとても、幸せな秘密だ。

END.

CM見てリアルに萌え叫んだのは初めてです 息出来ないorz
これが公式が最大手ってやつですか そうかそうか

  • すすす素敵すぎます。 -- 2010-06-17 (木) 14:56:03
  • これはたまらん!いいものありがとうございました! -- 2010-06-17 (木) 20:29:22
  • もやもやが昇華されました。ありがとうございます! -- 2010-06-18 (金) 19:08:31
  • もえしぬ…!ありがとうございます! -- 2010-06-20 (日) 19:07:27
  • 御馳走様ですwww -- 2010-06-22 (火) 19:53:40
  • 同じ事を考えてた人が他にもいらっしゃったとは……GJ! -- 2010-06-25 (金) 19:19:52
  • いい!すごくいいです!!ありがとうございます。 -- 2010-06-26 (土) 08:32:22
  • ありがとう!ほんとにありがとう! -- 2010-06-26 (土) 11:59:16
  • 是非新バージョンCMで開眼しました…素敵なお話ありがとうございます!! -- 2010-07-28 (水) 16:23:05
  • 続きっていうか、他のお話も是非見てみたいです!!素敵なお話ありがとうございましたm(__)m -- 2010-08-07 (土) 23:42:20
  • 萌えました〜お姉さんに嫉妬バージョンも気になります! -- 2010-12-12 (日) 10:17:36
  • 「情熱の薔薇」編見てまた姐さんのSSが読みたくなりました。新作期待してはだめですか? -- 2011-08-09 (火) 00:19:34
  • 素晴らしい・・・ -- 2011-10-20 (木) 04:59:02

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