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涙のプリンスメロン

誰得な生モノ。
美知ーと事務所の元先輩バンドのG

元先輩バンドのGのブログにあった写真から妄想捏造w
どマイナーすぎてごめんなさい。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

授業が終わり、俺は足取りも重く次の目的地へと向かう。
何年ぶりだろうか。無意識に足はあの場所へと進む。
迷うことなく、身体が覚えている。いや、まだほんの数年だ、通っていた年月には及ばない。
レコーディングが嫌なわけではない。
一つのバンドに縛られることなく、色んなミュージシャンとセッション出来るこんな機会は嬉しいのだ。
このレコーディングに俺を呼んでくれた彼に不満があるわけでもない。
一呼吸して、俺は目の前の建物を見上げた。
ただこの場所が、まだ苦しい。

意を決して中へと入る。
懐かしい光景が目の前に広がる。自分の知っている頃と変わらない。
それが嬉しいような気持ちと、ずっと日常だった場所から突如放り出された疎外感が同時にやってきた。
ぶるりと身を震わせる。こんな感傷にひたる為にここへ来たわけではないのに。

ぐるりと周囲を見渡して、目的のスタジオを目指した。
そう言えば彼はこの秋からのドラマにレギュラー出演していたことを俺は思いだした。
人気のドラマで、しかも主役の相棒役だ。きっと撮影で忙しいはずだった。
今日のようなバックのレコーディングに彼が来るなんてないだろう。
そう思い至り、俺は少し気が楽になった。彼に問題は無い。
しかし、今はまだどう接していいのか分からない。
俺を呼んでくれた彼のことだから、何も気にせずに普通に接すればいいと分かっているのだけれど、
それでも何となく事務所の関係者とはまだ気まずさを感じる。
これは俺の内の問題。

すれ違うスタッフに挨拶をしながら、スタジオの中に入った。
入った瞬間に俺の目に飛び込んできたのは、眩いばかりの笑顔を浮かべ手を振っている彼……追河くんだった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
礼儀正しく、俺よりも先に彼が挨拶をする。
「あ……。おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
慌てて俺も挨拶をした。なんか恰好悪い。

集中していた神経を和らげる為に俺は喫煙室で煙草を吸っていた。
俺のレコーディングは一曲のみで、さほど問題もなく終わった。
改めて追河くんのアーティストとしての意識に驚かされ、いい刺激を受けた。
楽しいレコーディングだった。
ぼんやりと煙草を吸いながら、俺は何故か追河くんと初めて会った時のことを思い出していた。
22歳でバンドに加入した俺は他のメンバーとの年齢差もあって、王子と呼ばれていた。
中学や高校で全くもてることに縁のなかった俺なのに、本当は自分のギターに注目してほしいと思っているのに、
バンド内ではアイドルっぽい扱い。
見た目にも年齢的にも、何より結婚もしたのにこれでいいのだろうかと思い続けていた頃に彼が現れた。
新人アーティストとしてデビューが決まったと、事務所で初顔合わせをした。
事務所の女性スタッフが「彼は王子様キャラで売ってるんです」と楽しそうに言った。
確かに整った顔立ちと立ち居振る舞いは王子様だなと俺は妙に納得した。
彼は俺たちメンバーの一人一人に挨拶をし、俺の前に立った時に隣に居たブッチャーが余計なことを言った。
「こいつはうちの王子や」と。
俺なんか比べ物にならないくらい王子様らしい追河くんを前に、よくそんなことが言えるなと、
俺はブッチャーを横目で睨みつけた。
が、ブッチャーは気にすることなく他のメンバーに「なあ?」と同意を求めていた。
目の前の追河くんは気にすることもなく、キラキラとした笑顔で「宜しくお願いします」とお辞儀をした。
初めて会った時から彼の笑顔はキラキラしていたなぁと思いだした。

次に思いだすのは、対バンと称したゲストに彼を呼んだ俺たちのライブだ。
「正装してきました」と言って現れた姿はオスカルのような格好だった。
数年前に事務所の女性スタッフから「弐市山さん、王子なんだからこれくらいの恰好しませんか?」と
見せられた写真そのままの衣装だ。当然、俺が着るよりも、数倍も似合っていた。
あの時のスタッフの押しの強さに負けなくてよかったとしみじみ思った瞬間だった。

ふと視線を感じて、視線を出入口に向けると、追河くんが立っていた。
「少しいいですか?」
「あ、うん……」
手にはコーヒーだろうか、カップを2つもっていた。
「すいません。コーヒーを持ってきたんですけど、声掛けそびれて冷めちゃいました」
「ただ煙草吸ってただけだよ」
そう言って、短くなった煙草を灰皿でもみ消した。
「ブラックで良かったですか?」
「うん」
カップを受け取ろうとすると、彼の手が一瞬止まった。そしてテーブルの上にカップを置いた。
気がつくと追河くんの顔が近くにあった。ああ綺麗な顔だなぁとぼんやり思っていると、唇に軽いキスをされていた。
艶やかな唇が離れてくのが見えた。
追河くんは小首を傾げて「リアクション薄いなぁ」と呟く。

「驚かないんですね」
「あぁ……。ほら、うちにキス魔がいたからね」
ここ暫くは会っていない男を思い浮かべる。
「端元さん?」
「そう。どこでも構わずしてくるの。ラスベガスのホテルでもさぁ……ロビーでみんな見てるのにお構いなしでするんだよ。まいっちゃうよね」
FCの企画でラスベガスに行った時のことを思い出して話した。
「でも端元さんは、弐市山さん限定のキス魔って聞きましたよ」
「何それ。キス魔でも何でもないじゃん。誰が言ったの?」
どこからそんな話がまわったのかと笑った。
「やっと笑ってくれましたね」
そう言って追河くんはにこにこと笑っていた。
「え?」
「もしかして、今日ここに来るの嫌だったかなって思ってました」
その言葉にどきりとした。そして本当にそう思っていたことを少し恥じた。
「でもこの曲はどうしても弐市山さんにお願いしたかったんです。弐市山さんに嫌われてもね……」
「嫌うわけないだろ」
きっと彼も色々と考えたんだろう。俺たちの問題を、関係のない彼にまで押し付けている。
関係ないどころか、今も事務所に在籍している彼にとっては迷惑かもしれないのに。
俺と事務所が和解済みでも、波紋は広がったままだ。

「弐市山さん」
不意に顎を掴まれ、また追河くんの顔が近くに見えた。
……今度はさっきよりも深く。キスをされた。するりと舌が滑り込んでくる。不思議とそれを拒もうという気は起きなかった。
頭のどこかで、追河くんってこんなキスするんだなぁとか、そんなことに感心していた。

「こんなおじさんとキスして嬉しいかなぁ……」
キスから解放された後で、小さく呟いた。
「そうでもないですよ。……って、僕も同じ40代ですけど」
「ええっ……40っていつの間に? あ、あれ? もしかして最近誕生日だった?」
かつて、俺たちのFCスタッフは追河くんも担当していた。そのスタッフから教えられた彼の誕生日はつい先日だったはずだ。
「はい。つい最近40になりました」
とても40歳とは思えない笑顔だった。
「40になりたてと、もうすぐ50の40代は全然違うよ」
「同じですよ。だから、今のキスは誕生日プレゼントってことで……」
ふふっと彼が微笑んだ。なんでこんな彼が俺とキスして楽しいのか分からないよ。
「これを機会に、僕もキス魔に立候補していいですか?」
「何言ってるんだよ。……あ、そうだ。俺ブログやっててさ、一緒に写メ撮っていい?」
「いいですよ」
思いっきり話題を逸らした俺に何かを言うでもなく、追河くんは近くのスタッフに俺の携帯を渡して写真を撮ってもらった。
「ありがとう。ブログに載せるけどいい?」
「弐市山さんのブログっていつも大御所ばかりなのに、僕でいいんですか?」
「駄目なわけないだろう。あ、そう言えばドラマみてるよ」
「ありがとうございます」
「だから今日は撮影で来ないかと思ってたよ。撮影忙しいんじゃないの?」
「どんなに忙しくても、自分のアルバムですからね」
さっきよりも普通に会話が出来ていると自分でも感じていた。変に気負う事も必要ないと分かったからだろうか。
こんな俺よりも彼の方がどう接するべきかを心得ている。
それからしばらく2人で話をした。今日のレコーディングのこと、彼のドラマの撮影のこと。

「それじゃ、俺は帰るよ」
「今日はありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとう。楽しかった」
素直にそう言えた。
「弐市山さん」
「ん?」
「……また、あの頃みたいに一緒にやれたらいいですね」
あの頃と言うのは初めて一緒にライブをやった時のことだろう。
「そうだね」
空中分解したバンドが元に戻るとは思えないけれど。それでも彼の気持ちは嬉しかった。

重い足取りで通った光景は、軽くなった気分と足取りで見る光景は全くの正反対に見えた。
まるであの頃と変わらない気分で、この道を歩いてる。
今日は不思議な日だった。
普段はあえて思い出さないようにしているあの頃のことをすんなりと思い出し、それを懐かしいとさえ思う事が出来た。
あんなにも重く考えていたことがバカバカしく思えてくる。
来てよかった。レコーディングも楽しかったし。こんなことなら、あのキスは安いものだと言ってもいい。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

1枚の写真でここまで捏造出来る自分テラバカスw


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