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笛と猫

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマから三條×武智。描写は少しあるけどエロくは無いです。多分…

その夜、自分の前に現れたのは一匹の猫だった。
月の光が落ちる、庭に臨む廊下の板の上。
寝つかれず、寝所を出て柱にもたれるように腰を下ろし、手慰みにと吹いていた笛の音が
不意に横合いからの気配を察し、止まる。
向けた視線の先、あったのは闇の中で煌々と輝く二つの目だった。
迷いの黒猫か。
夜の影の中に輪郭を滲ませた、その正体を三條はそんなふうに思う。
けれど無言で見つめる自分の方へ、やがてゆっくりと近づいてきたその毛並みは、月明かりが
射す場所まで出てこれば、驚くほどの真白だと知れた。
ただ染まりやすいその色は今、闇と月光の双方を吸い取り、鈍い錫色の光沢を放っている。
そんな曖昧な色合いは瞬間、自分の脳裏に一人の男を思い出させた。
だからだろう。
「おいで。」
半ば無意識に唇から零れた言葉と、差し出した手。
手招く己に、その時猫は逃げなかった。
それゆえ、ゆるりと近づいてきたその体を静かにすくい上げ、夜着一枚の胸元にそっと抱く。
柔らかな毛並みだった。
優しく撫でれば輝く瞳は心地よさそうに細まり、小さな口からは短な鳴き声が洩れる。
その素直さがまたしても自分の違う記憶に触れる。
思い出す。
彼は自分の前でけして、こんなふうに素直に啼きはしなかった。

彼が初めて自分の館を訪れたのは盛夏の折りだった。
うだるような京の暑さの中まみえたその姿は、質実にもどこかひんやりとした冷気を
帯びているようだった。
土イ左の荒くれ下司200人を束ねる人物としては、想像していたよりはいささか細身の、しかし
時折上げられる瞳の意思の強そうな光にはやはり目を引かれるものがある。
事実彼が退出した後、周りにいた者達は皆、彼を評して黒曜の石のようだと口にした。
しかしそれをあの時自分は、違和感を持って聞いていた。
黒曜の石。
そんな煌びやかにも輝く玉石ではないだろうと。その実はおそらくは泥に塗れたものであろうと。
三條家は土イ左の山宇知家とは縁戚関係にある。それ故に噂ながらにも知っている。
かの国の苛烈なまでの身分に対する偏重を。
そんな中で下級層出身である彼がどのような手を使い、どのようないきさつを経て、藩の実権を
握るまでになったか。
興味は沸いた。それは周りの者達と同様に。
公家の身の悪癖だ。
遥か昔に政り事の実権は武家に奪われ、残されたのは飾りばかりの高い位と、それと引き替えに
そんな武家に頼らねば生きてゆけぬ程の御家の窮乏。
そして傷つけられた自尊心を紛らわす為とばかりに身を浸したのは、恋と呼ぶには面映ゆいほど
誠の無い色事の享楽。
ゆえの、それは彼自身まったく預かり知らぬ所で起きていた自分達の水面下での駆け引きだった。
朝廷への働き掛けを餌に、皆が彼を手元に引き入れようとする。
それは戯れでもあり、退屈しのぎでもあり、中には本気になる者もあり……
そんな中、自分は果たしてどうだったのか。
利害関係上、彼に一番近い位置にいたのは自分だった。
その自負が自分に優越感を持たせ、同時に……焦燥感も与えた。その末での言葉だった。
『今宵、私のもとに』
座を同じにした宴席の最中、酔いで口を滑らせたようにひそりと告げた自分の囁きに、あの時
彼の肩は見間違えようのない程の震えを帯びた。
彼は酒が飲めなかった。その性質は生真面目で、ごまかす事も出来なかった。だから、
『……はっ…』
やがて短く返されたのは、声と言うよりは吐息に近かった。
そしてそれに潜む彼の胸の内の感情は、この時怒りでも侮蔑でもない、ただひたすらの諦めのようだった。

主の意を汲みすぎる使用人と言うのも困りものだと、その夜御簾越しに彼の姿を見留めた時、
自分の脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。
淡い行灯の明かりだけが灯る寝所に、綺麗に身支度を整えられて一人座らされている。
その、こんな時にまでひどく良い姿勢は、いっそ奇妙に可笑しくさえ思えた。
部屋に足を踏み入れれば、それに彼は顔を上げる。
そこに浮かんだ表情には、これまで昼の光の下では見た事が無かった幼さのようなものが一瞬見て取れた。
ほのかな明かりを受けて黒い瞳が揺れる。印象の幼さはそのせいかもしれなかった。
意外さに思わず目を奪われる。
けれどそんな自分から視線を引き剥がすように、その時彼は再び顔を伏せるとそのまま自分の前に
身を折った。
発せられた声。何やら懸命な口調で告げられる。それは今彼が身に纏う夜着について触れていた。
真白く繊細な織りの、それは絹だった。
それについて彼は言った。
下司であるこの身は絹を纏う事は許されない、と。
正直、驚きながらも少しだけ…呆れた。
こんな自分達以外誰もいない秘め事の場でまで、国元の因習の縛りに捕らわれる彼が滑稽にも……
どこか憐れだった。
だからきっと、正面から答えても彼には届かないのだろう。ならばすべて戯れにしてやろうと思った。
『着れぬのやったら、すぐに脱ぎますか?』
静かな慇懃さで、告げた言葉に彼はもう一度顔を上げた。
己でも無意識だろう、その反射的に上げられた瞳には明らかに傷ついた色が見えた。
人は昼の彼を黒曜の石のようだと言った。
しかし今自分の前にいる彼は、触れる事にすら躊躇を覚える柔らかな殻のようだった。
あまりに違う印象に戸惑いが隠せない。それでいて、伸ばす指を止める事も出来なかった。
髪に触れ、頬に触れ、ゆっくりと抱き込むように腕をその肩に回し、引き寄せる。
それに彼は一瞬硬く身を強張らせた。けれど結局はそれも頬を埋めた肩先、ひそりと零された
吐息と共に弛緩する。
伝わってくる彼の諦めと瞬間胸に覚えた微かな疼き。
それが痛みだったのだと自分が知るのは、もう少し後の事だった。

何もかもが危うい均衡の上に立っているようだった。
厭うた着物越しに触れただけでその目は堅く閉じられ、その質感ゆえにするりと滑り落ち
露わになった肩口に唇を寄せれば、その呼吸は詰められた。
そのくせその内は熟れていた。
香油を纏わせた指で中を探れば、抱き留めた背筋に小刻みな震えが走る。
傷つけるつもりはなかった。
だから戯れを装いながらゆるく内側を擦り、その身が痛みを覚えぬよう徐々にその数を増やそうとする。
けれど彼はその時、そんな自分の意図を拒絶するように首を横に打ち振った。
『ええです…そんな…』
労わってくれんでも―――
声にならない声までもがはっきりと耳に届いたような気がした。
行為そのものに嫌悪を抱きながら、しかしその肌は触れるほどにその温度を上げ、でも心の芯は
どこまでも潔癖な。
この繋がらなさはどこから生じたのか。
想像はある意味容易かった。
彼の身分とその国の事情を思へば、さもありなんと邪推が出来た。
しかし、だからこそとも思う。
今彼がいるのは彼の国では無い、京だ……自分の手の内だ。だから、
『私が、こうしたいのや』
宥めるように告げた、その言葉に一瞬彼は目を開けた。
信じられないものを見るように、その視線を自分に向け上げてきた。
それは不安定に無防備な、子供のような顔だった。
だからこんな時にそんな表情を浮かべる彼を、自分は刹那、稚くも痛ましく思う。
愛おしいと…想ってしまった。
それから、始め方を間違えたこの抱擁は、与えるばかりのものになった。
遊びでも真実でも、人の恋情には多かれ少なかれ打算が混じる。
気を引き、寵を競い、相手を自分のものにする為に懸命な手を尽くす。
しかし彼には何も無かった。
ただ己が身を貪り食う相手の欲に狂わされ、奪われるばかりだった。
憐れだった。
自分自身が彼を喰らう矛盾を止められないまま、傲慢でも身勝手でも、そう思わずにはいられなかった。

ことりと横で音が聞こえ視線を向ければ、そこには膝から落ち廊下を転がる笛の影が見えた。
胸元に抱かれていた猫がにゃあと鳴く。
それらに物思いに耽りすっかり意識を飛ばしていたと気付き、三條はこの時抱えていた猫を今一度
腕の中深く抱き直すと、もう一方の手を落とした笛へと伸ばした。
拾い上げる、それはあの日吹いていたのと同じ物だった。
視線も言葉も、肌以外何も交わせない情事の後、眠るように気を失った彼を残し自分は寝所を出た。
その手には笛があった。
体にはわだかまる気怠い疲れがあった。それでも寝つける気配は無かった。
それゆえ襖を開け、庭の見える廊下へと下り立ち、その場に腰を下ろす。
そして構える。
笛は三條の家に代々課された家業。幼い頃から手に馴染んでいる。
ゆえの音色はかそけき優美さで夜のしじまを渡った。
どれくらいそんな時間を過ごしたか。
ふいに指の動きが止まったのは、背後に何やら気配を感じたからだった。
振り返る。
そこにはいつの間に目を覚ましたのか、ふらりと立つ彼の影があった。だから、
『起こしてしもたやろうか』
笛を脇に置き、声を掛ければ、しかしそれに返される彼のいらえは無かった。
彼はただ立っていた。光の無い目をして立っていた。
その不安定さが自分の中で言い様の無い焦りを生む。それゆえ、
『こちらに来なさい』
まっすぐに見つめ、差し伸べた手。
それに彼は……静かに足を踏み出した。
一歩一歩近づき、手が重ねられる。それを自分は引いた。
落ちるように崩れたその体を腕の中に抱き留める。
それに彼は抗わなかった。
床の中で長く解けなかった強張りは今は無く、ただ大人しく自分の腕にその身を預けてくる。
その力の抜けた冷えた背を自分は優しく撫でた。
視線を落とす白い夜着は、蒼白い月の光を受けて淡い錫色に染まっているようだった。
それを自分は綺麗だと思う。
だからこの色にしようと思った。
今、朝廷に上奏している幕府への勅使の議が通れば、自分は江戸へと立つ事になるだろう。
それに彼も連れてゆく。
身分を偽らせてでも、側におこう。その為に
着物を用意させる。絹で。
腕の中の動かぬ体を抱きながら、密かに思う。
自分ならば、彼をその身相応に扱ってやれるものを。
しかし彼の心がここに無い事は朧げながらもわかっていた。
孤高で、不安定で、人の手に怯えて……それでいて人の手に馴染み、その中でしか眠れない。
だからそのいびつさを埋める為に、彼は今夜も誰かの腕の中にいるのだろう。
それはまるで罰でも受けるように……
手が背を撫でる。
自分が今触れるのは、彼ではない、温かくも柔らかな毛並み。
それに密かな声が零れ落ちた。
「今夜は、おまえがここにいておくれ」

彼の、武智の代わりに―――

猫は妖しに近い獣だと言う。
だから言葉を解する事が出来るのだろうか。
腕の中で上がる瞳。
それは自分と目が合った瞬間、人と聞き間違う声で、鳴いた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
三條様に癒しを求めるあまり夢を見過ぎてる自覚はあるw
専スレで家業を教えて下さった姐さん、ありがとうございました。


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