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僕の金色の(2)

オリジナル鉄道もの半擬人化。エロ無しです。バッドエンド注意。

283からの続きです。今回で終わりです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 数年が経ちました。金色の車両と3号はすっかり打ち解け、何でも話せる間
柄になっていました。

 金色の車両の話は愚痴ばかりではなくなっていました。終点の観光地の雄大
な景色について話したり、変な乗客を乗せた時の話を面白おかしく語ったりも
しました。各駅停車がノロノロ詰まっていても、腹が立つことも無くなりまし
た。3号の手前の信号が赤くないと、がっかりしている自分に気が付きました。

 彼は時々、沿線に咲く花の花びらをとらえて3号に届けました。桜、ツツジ、
あじさい、コスモス。小さな野の花の時もあります。
「俺は花なんかに興味は無いが、お前が動けないから持ってきてやったんだ。
お客様の為に、たくさん咲いているところをゆっくり走るんだ。これはあくま
でもそのついでだから」
金色の車両はいつもそう言うのでした。

 3号は金色の車両の話を楽しみにしていました。彼の為に話を聞いてあげて
いたつもりが、いつのまにか聞くことが自分の楽しみになっていたのです。停
止信号の時しかゆっくり話せないことが物足りないくらいでした。もっと彼の
話を聞いていたいと思いました。
 そしてそれ以上に、朝日や夕焼けの中、太陽の光をいっぱい浴びながら走っ
てくる金色の車両が相変わらず好きでした。

「キミは本当に綺麗だ」
ある日3号は、これまでずっと心の中だけで思ってきたことを、思い切って口
に出してみました。
「…………。当たり前だろう? 俺は特別なんだから」
一瞬の沈黙の後、金色の車両はさも当然のように答えました。いつもと違って
何故か3号から目を逸らして答えていましたが。

 数日後の夜、その日最後の往復仕事を終えた金色の車両が、車庫に向かって
珍しく徐行運転で走り抜けていきました。
 昼間見ると金色や白金に見える彼の身体は、夜間に線路を照らす白い照明の
中では銀色に浮かび上がります。何しろ彼は、その鉄道会社の看板車両でもあ
りましたから、いつだってピカピカに磨きあげられていました。そのピカピカ
の銀色ボディに沿線で灯る信号機やネオンの色とりどりの光が反射して、それ
はそれは幻想的な雰囲気を醸し出していたのです。

 うっとりと銀色の虹になった彼を眺めていた3号の耳に、
「お・や・す・み……、さ・ん・ご・う……」
という声が響いてきました。
「えっ?」
いつもいばっている彼の、今までに聞いたこともないような優しい声。3号の
中に何かあたたかいものが広がっていきます。
「おやすみなさい……」

 幸せそうに答えた3号から少し離れたところで、数人の男性達がなにやら話
をしていました。彼らは残業している公務員と会社員でした。区役所とか県庁
とかそういうところの職員と、3号や金色の車両が所属している鉄道会社の社
員と、ゼネコンの社員です。

 その日以来、3号の周りにはやたら人が多く来るようになりました。最初は、
双眼鏡のようなものを持った人と、何かの図面を広げた人がきました。次にい
つも3号を渡っている近所の住民さんが集まったりしました。その後に、ヘル
メットをかぶった人達が大きなトラックとともにたくさんやってきました。
 彼らは3号から少し離れたところにある線路際の空き地に穴を掘り、鉄の杭
を打ち込み、コンクリートを流しました。3号は自分の仕事をしながら、毎日
横目でその様子を眺めていました。
「何を作っているんだろう?」

 工事は昼も夜も続きました。線路を挟んだ両側で作られていたものが線路の
上空に伸びはじめ、数ヵ月後には左右の建物が線路の上で繋がりました。両側
には屋根とスロープの付いた階段と、大きなエレベーターがありました。

 ヘルメットをかぶった人達がいなくなり少し静かになった頃、役所と鉄道会
社と近所の人達が、新しくできた建物のところに集まりました。人々はエレベ
ーターに乗ってこの新しい橋に登り、そのまま線路の反対側に渡っていきまし
た。みんな嬉しそうでした。
 3号を渡ってくれる人はとても少なくなりました。開かずの踏切になってし
まう朝のラッシュの時間帯には、3号の周りには全く人がいなくなりました。

 数日後、3号のところに鉄道会社の人達がきました。3号の身体に手をかけ
てグラグラと揺すってみたりしています。
「結構キテるなぁ。来月のいつだっけ?」
「14日ですね。すぐは無理なんでとりあえず止めるって」
 3号は自分がこれからどうなるのか悟りました。いやきっと以前から、あの
橋ができた時から、何が起きるのか本当は分かっていたのかもしれません。

 朝、赤信号で止まった金色の車両は、いつも通り3号に話しかけてきます。
3号も、何事も無いかのように普通にそれに答えます。
「そういえばな、新しく出来たあの橋の野郎、なんか感じ悪いんだよ」
「……そうなんだ」
「ここじゃなくて、1つ前の信号で止められるとあいつの前になるだろ?
だからこないだ一応挨拶してやったんだけど、あいつ無視しやがった。この俺
の方から挨拶してやったっていうのに! 腹立つよなぁ」
「……そうなんだ」
「……? どうしたんだよ? お前最近なんかぼーっとしてないか?」
「そんなことないよ。踏切がぼーっとしていたら、通る人の命に関わるもの」
「そりゃそうだけど……」
 信号が変わり、いつも通りの尻切れトンボな会話を残して金色の車両は走り
出しました。

 何日経っても3号は、金色の車両に本当のことを言えませんでした。目の前
を金色の車両が通過するたびに、胸が張り裂けそうになりました。いつも饒舌
な金色の車両も、何故か3号を問い詰めることはできませんでした。お互いに
心にわだかまりを抱えたまま、日々が過ぎていきました。

 某月14日。今朝も金色の彼は3号の前で止まりました。いつものように話
しかけられ、いつものように答えているつもりでした。
「……3号?」
「あ、うん、聞いてるよ」
「それならいいけど……。変わったから行くよ。またな」
「うん。またね」
 動き出した金色の車両は朝日を受けて白金の光を放ち、その光は3号のぼや
けた視界いっぱいに広がりました。涙で波打つ光の中を遠ざかっていく彼の姿
は、溜息が出るくらい美しく思えました。3号は、金色の彼が走り去っていっ
た線路をいつまでもいつまでも見つめ続けていました。誰にも気づかれないよ
うに、赤いシグナルを濡らしながら。

 最終電車が車庫に帰っていった後、3号のところにヘルメットをかぶった人
達がやってきました。いよいよなんだなと、3号は思いました。
 さよなら、僕の金色の……。

 静かに、役目を終えた3号踏切の電源が落とされました。間違って誰かが通
っては危険ですから両側にバリケードが築かれ、『使用禁止』の看板が立てら
れました。
 踏切として動けなくなった後も薄っすらと3号の意識は残っていて、淡々と
作業をする工事の人々の声を、ただぼんやりと聞いていました。

 次の日の朝。すぅと目の前に車両が止まる気配がしました。彼なのだと音と
振動で分かりました。けれどももう、あの光り輝くプラチナの、3号が大好き
な美しい彼の姿を見ることはできませんでした。3号の赤いシグナルにはカバ
ーがかけられていたからです。

「よう」
いつもの通り金色の車両は3号に話しかけましたが、3号から答えは返ってき
ませんでした。
「おい、3号?」
 彼には、何がどうなったのか分かりませんでした。今まで一度だって3号が
自分を無視したことなどありません。それなのに、自分が来たというのに、こ
こにいるというのに、3号はカンともスンとも言わないのです。
「俺が通ってるのに、どうしてカンカンやらないんだ? 誰か渡ったら危ない
だろう? お前はいつも人間を気にしていたじゃないか」
 金色の車両は3号を見ました。いつもならウザイくらいに点滅している赤い
シグナルが見えません。他の踏切より少し甲高い、3号独特の警報機の音も聞
こえません。人が通る道の左右は、良く分からない板でふさがれています。
「3号……」

 3号の薄れゆく意識の中に、金色の車両の声が響いていました。
 さよならって言いたくなくて、最期までただキミの話を聞き続けていたくて、
こうなってしまうことをどうしても言えなかった。ごめんなさい……。毎日本
当に楽しかった。キミに会えて幸せだった。ありがとう。大好きだよ。
 彼に伝えたかったけれど、3号にはもう、それを伝えるすべは残されていま
せんでした。

 金色の車両はそれでも毎日3号に話しかけ続けました。もう答えは返ってこ
ないのだと分かっていても、話しかけずにはいられませんでした。思えば3号
から最初に声をかけられて以来ずっと、金色の車両はほとんど一方的に3号に
向かってしゃべり続けてきたのでした。一方的に話しているという状況だけな
ら前と同じなのに、今はどうしてこんなに悲しいのでしょう。
 彼は、とりとめの無い話に耳を傾け続けてくれた、そして美しいと褒めてく
れた3号に、自分がどれだけ甘えていたのか、どれだけ支えられていたのか思
い知ったのでした。ちっぽけで優しい踏切が、自分にとってどれだけ大きな存
在だったのかを。

「おい3号。今日俺は団体のお客様を乗せるんだ。終点の山では紅葉が見ごろ
なんだ。毎年言ってるけど、山が燃えているように赤くなるんだぞ。新しい観
光スポットもできて、とんでもなく混んでるんだ。俺が運ぶお客様で駅がいっ
ぱいになるくらいで、いつもより1往復多く走らなきゃならないんだ。それく
らい忙しいんだ。
 だからお前に、いつものアレをとってきてやるのは、少し……、少しだけ、遅
くなっちゃうかもしれないんだよ。でもそれまで、それまでは、ここにいろよ。
わざわざとってきてやるんだからな……」

 数日後、3号の全面撤去作業が始まりました。地面に埋められている黄色と
黒の身体が掘り起こされ、今にも引き抜かれようとしています。遠くから風に
のって優しいメロディが聞こえ、地面から心地よい振動が伝わってきます。
 その時、3号のシグナルにかぶせられていたカバーの片方が、重機のアーム
にひっかかって外れました。現れた真っ赤なシグナルの上に、真っ青な空と、
白い雲と、すぐ傍を走っていく金色の車両が映りました。

 金色の車体の鼻先を、静かに水がつたいました。天気雨と思った運転士はワ
イパーのスイッチを入れましたが、何故かワイパーは少し動いただけで止まり、
代わりに一枚の真っ赤な紅葉の葉が空に舞い上がって、3号のシグナルの上に
ふわりと降りたのでした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • (´;ω;`) -- 2010-04-20 (火) 02:10:24
  • これは名作 -- 2010-04-25 (日) 03:24:20
  • 若手とどっちととつとつと読んだけど、やっぱり泣けた -- 2010-04-29 (木) 01:06:05
  • いい作品だった。シグナルとシグナレスを思い出した。無機物って……儚い… -- 2010-05-18 (火) 03:37:52
  • 泣いた -- 2011-02-08 (火) 14:15:49

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