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拒食

映画のホ.ー.ム.ズに触発されて、なぜか「倫敦魔魍街」のホ.ー.ム.ズとワ.ト.ソ.ン
ホムワト気味。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「ワ.ト.ソ.ンさんたらまた残して…」
 頬に手を当てて困ったようにテーブルを見下ろす婦人。
「どうしたんです、ハ.ド.ソ.ンさん」
 いい月だった、とご機嫌で帰ってきた男が、そんな様子の家主の母親に気づき。
「あら、ホ.ー.ム.ズさん、帰っていらしたんですの?」
 早かったんですのね、と笑いかける婦人への挨拶は忘れずに返して、テーブルへと近寄る。
 浅黒い肌に金色の瞳、そして何よりとがった耳が、彼が"ヒト"ではないことを示している。ヒトとオオカミの中間の存在、人狼であると。
 今は収められているが尻尾を生やしていたり、犬耳を頭にくっつけた姿を、さらには金の目をした巨大なオオカミに変わる姿を見れば、大抵の人間は恐れをなす。
「ワ.ト.ソ.ンさん、またお食事を残されたんですよ。お口に合わないのかしら…」
 かくいう彼女も、厳密に言えばヒトではない。かつてヒトであった、と言うべきだろう。
 すでに寿命を終えて数十年、若々しい外見そのままにこの下宿を切り盛りしている。
 いかにも心配だという顔の、一見ごく普通の人間に過ぎない彼女に目を向けてみればなるほど、テーブルの上にはほとんど手をつけられていない料理の数々。
 もったいない事をするなぁと呟きながらホ.ー.ム.ズは、食欲旺盛な彼用にと分厚く切って焼いてあるローストビーフをひょいとつまみ上げて口に放り込んだ。
「大丈夫ですよ、ハ.ド.ソ.ンさん。たまにあることです」
 言うと彼女は首をかしげて言った。
「でもホ.ー.ム.ズさん。お行儀悪いですわよ?」

「入るぞ」
 部屋の住人が許可する前にドアを開ける。
「…っと、寝てるのか」
 ベッドに散らばる長い黒髪に気付いて声を落とした。
 ホ.ー.ム.ズとは対照的に青白い肌、今は隠されているが緑の瞳ととがった牙、そして同じくヒトでない印でもあるとがった耳。
 ノスフェラトゥと呼ばれ、人々から恐れられるそれは、苦しげに眉を寄せたままシーツの中に埋もれていた。
 ホ.ー.ム.ズは、ため息をついて相棒の寝顔を見つめた。
「…まったく、無茶をする」
 ため息ではあるが厄介ごとだと疎んじている風はなく。ただ彼の気性にいささかの苦笑と共感を感じずにはいられないだけで。
 今度は何が原因だろうか。
 彼は、ヴァンパイアである。しかしながら人間であった母親の血がそうさせるのか、はたまた彼女から受け継いだ豊か過ぎるほどの感受性ゆえにか、吸血しようとしない。
 どんなことがあっても、たとえそのまま己が死ぬ羽目になっても、(もともと死んでいるのだが)ヒトからの吸血を望まない。だが彼の本能は、鮮血を欲し続け、その欲求と常に戦っている。
 まったく、なんの因果だか、とホ.ー.ム.ズはベッドのふちに腰を下ろした。
 吸血を望まないがゆえに、"貧血"で倒れてしまうこともしばしばだが、食事を拒むほどのことはそうめったにない。
 彼は生きること―存在すること―を拒否するかのように、時折、すべての欲求から遠ざかろうとする。
 ヴァンパイアである彼は、ウェアウルフであるホ.ー.ム.ズに比べ、食事量もほんのわずかしか必要としない。本来吸血で必要なものを、食事で代用させているが、それも植物しか食べないのでは、代用の意味もなさない。
 ホ.ー.ム.ズはそっとワ.ト.ソ.ンの額に手を置いた。
「本当に…意地っ張りだな」
 困ったように苦笑する顔は可愛い弟を見ているようでもあり。す、と手を引くと、つややかな黒髪がさらりと下に落ちた。

 もうひとつ、ため息をつくと、ホ.ー.ム.ズは自身の右手の人差し指に、爪を立てた。肉食獣のそれは、本人の意思にしたがって簡単に皮膚を裂く。つぅ、と盛り上がる赤い血液の玉を見つめて、ホ.ー.ム.ズはそっとワ.ト.ソ.ンの口元へ、指を運んだ。
 きゅっと閉じられた唇を指先でこじ開け、舌を探る。暖かいものに触れると、それに血を塗りつけるように、口内をかき回した。
「…ぅ……ふ…」
 ワ.ト.ソ.ンの口から息が漏れる。と思った瞬間、噛み付かれた。
「っ…」
 急いで指を引き抜き、今度は腕に爪を立てて血をにじませ、口元に持っていってやる。
 ヴァンパイアとしての本能に目覚めたワ.ト.ソ.ンは、己が衝動のまま、ホ.ー.ム.ズの腕に噛み付いた。鋭い牙を突きたて、血を吸い上げる。人狼の血を。
 痛みにいささか眉をしかめつつ、ホ.ー.ム.ズは明後日のほうを向いた。ワ.ト.ソ.ンは、吸血する姿を見られることを、極度に嫌っている。それが例え生まれたときからそばにいるホ.ー.ム.ズであっても、いや、だからこそ許せない、らしい。
 そんな彼の心情が理解できるだけに、苦いものが胸をよぎる。
 満足したのか、ワ.ト.ソ.ンの頭が、ホ.ー.ム.ズの腕から離れた。そのままぽすんと枕に頭をうずめ、すやすやと寝息を立て始める。先ほどとは比べ物にならないくらい、穏やかな寝顔。
「まったく…」
 苦笑して、血の滲む、というよりもだらだらと流れ出す腕の噛み跡に目を落とし、ぺろりと舐めた。
「あんまり心配かけるなよ」
 わずかに目を細めて、小さく呟いた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
人狼×吸血鬼に萌えます。

  • わー、倫敦!!懐かしい!漫画の1シーンが思い出されます~。またホムワトで書いてください! -- ももじろう? 2011-12-16 (金) 15:30:00
  • 良いもの見せて頂きました〜。ご馳走様です。 -- 2013-06-22 (土) 01:45:02
  • こちらでこのSSを拝見してからン十年冷めない倫敦愛が暴発して書き始めました。きっかけになったSSありがとうございます。すごく理想的な風景です。 -- 221B? 2013-08-10 (土) 12:09:44

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