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花の下

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  魁!!男塾、梁山泊兄弟長兄人気梃入れ
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  エロなし、走馬灯注意
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ 
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
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修練場の音が遠い。

泉池を渡る風が頬を撫でる。火照った肌に、翠籐の冷たさが心地よい。
「どこでくたばっているかと思えば、ここだったか」
降る声に、山艶はうすく目を開けた。
四阿の軒からそそぐ逆光を背に、長身の人影が屈み込む。
口元へ手が伸びて、仄かな甘い香が鼻先をかすめ、抉じ開けられた口中へ、甘い果実の一粒が落とし込まれた。
噛み締めれば、冷たい果汁が渇いた喉を潤し、心地よさに知らず、溜息が漏れる。
「朝課で無様を晒したそうだな」
ようやく人心地がついて、頭上の兄を仰ぎ、山艶は緩慢に口を開いた。
「初手からかわす一方だったんですが、間合いが取れぬうちに打ち込まれ…
十合までは流したのですが、とうとう受け損ねてまともに喰らいました」
「宋江相手に十合ならまあ、善戦した方だが。失神したとは情けない」
すげなく言い捨て、梁皇は露台の端に腰を下ろした。手にした果実一掴みを、無造作に白磁の鉢へ放り込む。
「受け切れぬなら押し返せ」
「無茶を仰る…」
年の近い兄弟だが、膂力は親子ほども違う。どだい無理な注文と言えよう。
肘をつき身を起こしかけて、山艶は引きつった声を呑んだ。
「痛…ッ」
向けば、末弟の泊鳳が小さな手で兄の編み髪の端を握り、屈託のない笑顔でこちらを見上げている。
「あーんちゃあ」
「来たな、やんちゃ坊主めが」
梁皇は、一回り下の末弟へ手を伸ばし、むんずと襟首を掴んで、猫の子のようにぶら下げた。
手足をじたばたさせて喜ぶ腕白小僧を格好だけは睨めつけながら、その口へ冷えた茘枝の一粒を放り込む。
「人の髪を引っ張るなと、何度言えばわかる?」
兄の胡座へ放り落とされるも、粗雑な扱いにめげもせず、泊鳳は目を輝かせて果物鉢へ手を伸ばす。
よちよち歩きの幼子から見れば小山のような兄の脚を乗り越えんと、無心にもがく様が可笑しく、
山艶は痛みも忘れて苦笑した。

「全く、この豆台風は」
もはや眼前の水菓しか頭にない弟は放っておいて、引きつれた編み髪を解きほぐしにかかれば、
籐椅子に寝そべった兄が口を出す。
「結い上げれば良いものを。くそガキに引き抜かれずに済む」
当のくそガキはと言えば、兄の脚の間へ陣取って果実の鉢を抱え、
果汁で前掛けが汚れるのもおかまいなし、口いっぱいに戦利品を頬張っている。
「結えないんです」
すいと手を伸べ、山艶は兄の髪から銀の簪を引き抜いた。
「何だ、断りもなく」
「いい細工ですね、どこの妓楼の姑女からですか」
咄嗟、返答に詰まった兄を後目に、山艶は同じく無断拝借した?を銜え、解いた髪をくるくると巻き上げた。
兄と同じ総角に髪を纏めると簪を挿して留め、?で巻き込む。
「ほら、ね」
結ぶに足りない布端をつまみ、山艶は兄の方へ向いて見せた。
「髪が多すぎて、?に巻き切れないんです」
「髪が足らずに義髻を乗せている妓女が見たなら泣いて羨ましがろうな」
「双尤ぐらいなら自前で結えますよ」
?を解き、簪を引き抜いて軽く頭を振る。長い黒髪が滝の如く流れ落ちた。
「もういっそ、剪ろうかと」
「武髪でも結うか」
「夜目遠目酔目で女に見えないなら、この際何でも」
「…またか」
鉢から棗をつまみかけた手を止め、梁皇は眉を寄せて弟を見やった。

「どこの与太者だ」
「さあ」
「山艶!」
語気を強める兄と目を合わせ、少女とまごう細面の弟はそらっとぼけた風に言う。
「全員叩きのめして河に放り込んだ後は、とっとと帰って来ましたから。顔も見ておりません」
「単騎で、か?」
「はい」
面映ゆいような笑顔で頷く弟をみとめ、梁皇は口の端を上げた。摘んだ棗を口へ放り込みつつ、満足気に嘯く。
「やっと、か。──ハッ、当然だ」
弟の勝ちを耳にして、我が事の如く得意気に誇る兄に、山艶はくすぐったいような思いで笑みかけた。
「もう少し背が伸びれば、一人歩きで酔漢が寄ってくる事もなくなりましょう。
 差し当たってそれまで、花街では男とわかるなりで」
「要らぬ!」
「え?」
弟の言葉を鋭く遮り、梁皇は声を荒げた。戸惑い見返す山艶を、兄のきついまなこが射抜く。
「痴れ者共に譲る必要がどこにある。傍の目におもねるな!
花街だろうとどこだろうと、髪を下げて長衣で歩け、絡む馬鹿は片端から叩き殺して構わぬ!」
「そのような無茶を」
弟の苦笑にも引き下がらず、梁皇は尚も言い募った。
「一人残らず打ち伏せれば、お前の見てくれをとやかくいう者はなくなろう」
「兄上と肩を並べられるようになったら考えます」
「いつまで待たせる?」
驚きに兄と目を合わせたはずみ、編みかけた髪が手の中で跳ね、結い紐が飛んだ。
黒絹の髪がさらりと肩へ流れ落ちる。
「──私を首領にでもなさるおつもりか?」
「何がおかしい、当然のことだ」
思わずまじまじと見詰め返すも、日頃から冗談の大嫌いな梁皇の目に、戯言の色は欠片もない。
しばし言葉を告げず、──笑っていいのか、困っていいのか──山艶は途方に暮れた。
四阿を吹き抜ける風が、梨の花を舞い散らす。

腹の脹れた末弟は、長兄の脚にもたれ、とうにぐっすり眠り込んでいた。
兄の長衣の端へ投げ出されたちいさな手指は、果実のしずくで斑になっている。
続く言葉を探しあぐね、とりたててどうという理由もなく、山艶は弟の手に触れた。
玩具のように小さな指がきちんと五本揃っているのは不思議なほどで、
つまんでみれば、もみじの手のひらはぷわぷわと柔らかく指を押し戻す。
暫しそうして、小さな手を玩んでいた白い繊手に、下から長兄の手が触れた。
肉厚でいかつい梁皇の手の中、山艶の手が如何にも華奢に見えるのは否めない。
日に焼けた肉厚な手指が、戯れにしなやかな手指をとらえ、掌を弄ぶのを、山艶はただ無言で眺めやっていた。
成人間近の長兄に比べれば殊更、小柄な体躯も四肢も、
他人に触れられることを好かない──ことに男には──癖の山艶でありながら、兄の手だけは不快と感じないのは、
自分に触れるその様が、愛おしさからつい末弟に触れる自分自身とそっくり同じだからだろう。

仰向けに寝転がった兄の髷が、山艶の腿に当たって崩れ、蓬々と乱れ散った。
無言で簪を拾い、懐から象牙の櫛を出して、山艶は兄の髪を解き、梳いて元通り結いなおす。
「いい細工の櫛だな、どこの妓女からだ」
兄の揶揄に、山艶は無言の微笑で答えた。
暫しどちらも何も言わず、ちょうど真上から兄の顔を覗き込むかたち、俯いた弟の肩へ、
ふと挙げられた手の甲が触れる。
戯れに、こぼれ落ちる黒髪を受け、繰り返し手櫛で梳く兄の手の甲へ、山艶は軽く唇を当てた。
無骨な指先が、唇から頬へ陶磁の肌をなぞり、艶やかな前髪を払った。

気慰みに触れられる弟の物思いを、この長兄が思いやることは決してあるまい。
傲慢で冷徹、尊大で横柄、我侭で短慮で、時に浅薄ですらあるこの年嵩の男を、何ゆえ自分は嫌いになれないのか?
戯れに触れられる事が我慢ならず、いっそ切ろうと思った髪を、
こうして手慰みにされることに、心地よさの他感じないのはなぜか。
不遜さにも気短さにも、辟易はしても疎ましくは思えない。
それを目にして、時に胸が苦しくなるほどやるせなくとも、憎めようはずがない。
それが悪意を持って自分に向いた事は、ただ一度としてないのだから。
──血の繋がった兄弟であればこそ。

巡る想いを、けたたましい泣き声が断ち切った。

「…泊鳳、」
「泣くな喧しい!」
梁皇は瞬時に身を起こし、景気のいい寝返りを繰り返した挙句
寝椅子から転げ落ちた末弟の襟首を掴んで拾い上げる。
抱き上げられて、兄の肩口にしがみつき、あらん限りの声を張り上げ泣き喚く弟の額を、梁皇はぞんざいに撫でた。
「ただのたんこぶだ、大げさに喚くな。唾でもつけておけば治る」
言葉どおり、ぺろりと額を舐められ、まだしゃくりあげつつも泊鳳は泣き止み、
小さなこぶしで涙に濡れた頬をこすった。
「…あんちゃ」
「何だ」
「はら減った」
深く嘆息し、幼い弟を軽々と肩へ乗せて、梁皇はすっと立ち上がった。
「全くお前は、将来さぞ大物になろうな。…行くか、ぼちぼち昼だろう」

「兄上」
立ち上がり、先へ行く背を追って、隣へ歩き出しつつ山艶は呼ぶ。
「午後から稽古をつけていただけますか」
「どういう風の吹き回しだ」
「…兄上の隣に立ちたくなりました」
「やっとか」
得意気に応じる兄へ、はにかみつつ笑みかけながら、山艶の心中にふとひとしずく、苦いような思いが過ぎった。
耳従わず省みず、余人に媚びるところのない兄の性情は、首領としての求心力という裨益と共に、
数知れぬ敵をももたらすだろう。
陰日向と添うて立つことで、それを和らげられるなら…当の兄には、要らぬでしゃばりと叱責されようとも。

優でた若年者と認められてはいても、未だ上位十六騎に数えられぬ身に、それはまだ、遠い望みだけれど。
「もう誰にも負けたくないのです。兄上の外は」
「無論のことだ。この兄に並ぼうという身で、有象無象の輩相手に無様を晒してみるがいい、
この手で叩き斬ってやろうほどに」
「兄上の手にかかるなら、何の後悔がありましょう」
「…くだらぬ冗談を言うな」
「本当です。この指一本、髪一筋に至るまで、元より兄上のもの」
「当然だ」
酷薄な唇の端を上げ、梁皇は言い放った。

走馬燈の欠片が、思考の隅を影と滑り落ちる。
今際の刻みになぜ、あの遠い日を思い出したのか。
…あの日の言葉に、嘘はなかった。
けれど。

「悔いはない……………」
世界が傾ぐ。

伏して乞おうとも、兄は許すまい。この『裏切り』を。
けれど。

薄れ行く視界の端、勝者が踵を返す。
兄の背を追って、その肩に並び。共に数多の戦を勝ち渡って──この敗地に伏す今、
死の淵に沈まんとするこの際の、拳士としての自分の、これもまた偽らざる本心だったから。
──詫びはすまい。

『悔いは…ない』
漆黒のあぎとが口を開き、何もかもを呑んだ。

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 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧  文字化けしたのは
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) "巾責"って漢字ですた
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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