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Wing

生です。竜31×有袋類。捏造注意。エロ無し。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 2010年。今年のド荒は身が軽い。

 今年のド荒のバック転の成功率には、目を見張るものがある。
まだシーズンスタートから数週間しか経っておらず、中曰の主催試合、
つまりド荒がバック転する試合も、まだ数試合だけしか開催されていないとはいえ、
一度も失敗していないというのは驚くべきことだ。
しかもただ「飛べている」というだけではなく、妙な安定感がある。

ド荒が失敗した時に備え、連日ちあドラの蟹ちゃんが裏でアップしているが、
彼女の美麗なバック転の出番は、なかなかやってこなかった。
医師黒さんが「どうしたんでしょうね。逆に心配になってきたり」と
公式ブログに書いてしまうくらい、それくらい今年のド荒は凄いのだ。

 話は三月初旬にさかのぼる。
名ゴ屋の某局で、開幕前に放送される「願銅鑼」という番組の収録が行われた。
その番組のクイズのコーナーで、ド荒に関する問題が出題されたのだ。

 あらかじめ出題される問題を聞いていたド荒は、
解答する選手たちの前で、落ち着かないそぶりを見せていた。
中曰には益子ットと仲の良い選手も多く、
みんな日頃から益子ット達を構ってくれてはいるのだが、
コアなド荒ファンでもなければ知らないようなマニアックな問題に
答えられる選手がいるとは思えなかったからだ。

「問題! 今や銅鑼ゴンズの人気者、ド荒の好きな食べ物はなんで」
ピンポーン!
「きたー! 野手チーム!」
問題が読み終えられるのを待たない勢いで、野手チームのベルが鳴った。
そのあまりの速さに、アナウンサーも選手達もド荒も、
誰が押したの? という顔で野手陣の顔を見回している。

「食パン」

そこには、さも当たり前のような顔をして答える盛野がいた。

 何でそんなこと知ってるんだよ! と言いたげに、
周りの選手達が驚きの表情で盛野を見た。観客席からも拍手が沸きあがる。

「今答えたのは盛野さんですか? さすが!」
アナウンサーの賞賛の声に、やはり当然のような顔で頷きながら盛野は言った。
「良く知ってますよ。自分のことですもん」

 盛野はそっけない男だ。しゃべるテンションもいつも低い。
グラウンドで時折ド荒を構ってみては、お前は絡み辛いんだよ、とぼやく。
ぞうきん臭いと文句を言う。飴の袋だけくれて去っていく。
会えば必ず、期待に答えて構ってくれるけれど、
それでもあのそっけなさに、いつか飽きられるのではないか、
そのうち無視されるのではないかと、ド荒は時々不安になっていた。だが……。

盛野はド荒のことを、自分のことだと言ったのだ。
だから、良く知っているのだと。
まるでド荒の事を、我が事のように感じているかのように。

「自分のことですから」
もう一度、盛野が言った。
顔が火照っているような気がして、ド荒は手にしていたスケッチブックで顔を
覆った。
恥ずかしくて、そしてとてつもなく嬉しかった。
よく言うよ! という仕草で盛野にツッコミを入れた。
それがその時できた、ド荒の精一杯の反撃だったのだ。

 三月二十六日、開幕。出番を待っているド荒の背中に声がかかった。
「今年からね、ファンの皆さんの意見を聞くために、目安箱を置くことになった
んだよ」
振り向くと、愛用のデジカメを抱えた医師黒さんが立っている。
「ほら」
見せられたデジカメの液晶画面を覗き込むと、ついさっき撮ったであろう
目安箱の写真が表示されている。
目安箱はただ置いてあるのではなく、ド荒のパネルにくっついていた。
ド荒が箱を持っている、そういうデザインの目安箱なのだ。
「盛野選手会長の発案なんだよ」
にこやかに、医師黒さんが言った。
箱をド荒に持たせたのが盛野であるのかどうか、そこまでは分からない。
でも、盛野が考えた目安箱に自分が使われていることが、ド荒は素直に嬉しかった。

 グラウンドに立ったド荒は、自分の身体がとても軽い、と感じていた。
飛ばなければならないという、ここに立つといつも感じるプレッシャーが
少し弱くなっているような気がする。
選手のように、この日に合わせて調整をしてきた。体調も良い。
でもそれだけではなくて、心に羽根が生えているような、そんな軽さ。

「なんでこんなに、今年は身体が軽いんだろうなぁ?」
ド荒はぽつりとつぶやいた。

──自分のことですから……

ふと心の中に、あの時の盛野の声が響いた。
ああ、一人じゃないからだ、と、ド荒は自問の答えを見つけた。

 ふわり、と今日も、ド荒は宙を舞う。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

  • …イイ!! -- 2010-06-30 (水) 05:39:08
  • 感動しました! -- 2010-10-09 (土) 09:11:52
  • 絆を感じる良い話ですー。 -- 2010-10-09 (土) 11:38:21

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