Top/56-70

板と缶

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                     |  ilの板と缶その4モナ‥‥。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  つきあってさえいないし、喋りだけモナ。
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 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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今日、神部が登庁していたとは、伊民は知らなかった。

基本的に特/命係というのは、土日が休みだと思っていた。
あの部屋が空っぽな日があろうが誰も気にしないし、係長である杉/下警部は、年間休日さえ合っていればいつ休みを入れたって別にいいと思ってる、・・・と、以前彼の部下だった男が言っていたからだ。
だが今日という日曜日、特別大きな事件も起きず、早く上がれそうだなと思い始めた午後4時半、伊民の携帯にメールが届いた。
その特/命係の神部警部補からだった。
『今日は何か予定ありますか? もしお時間あったら、ちょっと飲みに行きませんか?』
こんなことは初めてだった。先日一緒に事件を捜査するはめになった機会に、また今度ゆっくり話をしよう、というようなことを言って別れたことがあったので、そのせいかも知れなかった。
さてどう返事をしたものかと、伊民は2分ほど迷い、眉間に深く皺を寄せた。

さすがの伊民も知っている。今日は天下のバレンタインデーだ。
製菓会社が騒ぎ立てるのがいけないのか、イベント好きな女心が罪深いのか。何しろ2月の14日といえばなぜこの日が国民の祝日にならないのか不思議なくらいに日本中に浸透している、愛の祭りの日だ。
捜/査一課の若い連中たちは心なしか朝から明るい顔をして携帯のメールをチェックしているし、伊民や三浦のデスクにすら、女子職員からの義理チョコが配られてきた。
後輩の芹澤にいたっては、数ヶ月前からの激戦を勝ち抜いて、まんまと今日の非番をもぎ取ることに成功していた。今ごろ、彼女と楽しくデートでもしていることだろう。
今日という日はそういう日だ。
そこここでチョコレートとメッセージカードが飛び交い、恋人たちの間ではそれに負けないくらいに甘くてきれいな言葉が交わされる。
そういう日なのだと、いくら伊民だって知っていた。

しかし不幸なことに伊民には、そういう相手がいなかった。もうどのくらいいないのかと、思い出すことさえしたくなかった。
別に、チョコレートがほしいわけではない。菓子の類はあれば食べるし疲れているときには効くものだが、自分で買ってまでは食べない。
女子職員がくれた駄菓子っぽいチョコレートにしても、もらえばそれなりに嬉しいと思いはしても、ホワイトデーにはなにかお返しをしなければならないと思うと手放しで喜ぶ気にもなれなかった。
もちろん、彼女たちは「お返しはいりませんよ」と言ってくれるのだが、もらいっぱなしというのも気が引ける。

そんなところへ届いたのが、神部からのメールだった。
神部のような男に限って、バレンタインの夜が暇だとは伊民にはとても思えなかった。
予定をドタキャンされたか、それともコワイ女に好かれて逃げ回ってでもいるのか。
伊民に予定がないことを見透かされたような気もする。それもなんだか決まりが悪い。

断ろうかどうしようかと、なんでも即決体質の伊民にしては迷った挙げ句、ついに返信した。
『警部補殿の奢りならご一緒しますよ』
すぐにOKの返事が来た。

***

6時過ぎにエントランスで待ち合わせ、一緒に歩いて有楽町まで行った。
「伊民さん、焼鳥なんて好きですか?」
と神部に持ちかけられ、前に一度行ったことのある焼鳥屋の話をしたら、ぜひそこへ行ってみたいと言われたからだ。
早足で歩けば、あまり遠くはない。
時には並んで、時には前後になって歩きながら、世間話をした。神部はコートのポケットに手を突っ込んだまま、ニコニコと伊民に話しかけた。
正直、この男と何を話せばいいのかと思っていた伊民は、その明るい調子にホッとした。

「・・・俺、焼鳥屋ってあまり行ったことないんですよね。機会がなくてというか、焼鳥よりは焼肉と思ってて」
「焼鳥屋には、きれいなおネエちゃんはいませんしね」
「え? なんですか、それ?」
「銀座のクラブのほうがお似合いなんじゃないですかね?」
「・・・ああ、この前の店ですか。あれはつきあいですよ。偉い人って、ああいう店が好きでしょ」
「さあ。俺たちにゃ雲の上のお話ですからねえ・・・」
「ははっ、もしかして羨ましいんですか、伊民さん?」
「いーえ、とんでもない。俺は焼鳥屋でけっこうですよ」
そんな調子の、軽いやりとり。伊民の棘のある言葉を、神部はさらりといなしてくれる。だから険悪にならない。

ほどほど混んだ焼鳥屋のカウンターに滑り込み、生中をふたつ頼むころには、伊民のガードもやや崩れはじめていた。
「警部補殿、何から行きますか?」
「こんなとこで、警部補殿はやめてくださいよ。あ、俺、ナンコツの唐揚げ好きです。でもまずは伊民さんのオススメを聞いてからですね」
革のコートを脱いで、神部は無造作に椅子の背に掛けた。注文を取りにきた女性店員がそれを見て、ハンガー片手に飛んできた。
すいません、と微笑む神部に、店員は明らかに普段の愛想以上の笑顔で答えていた。
すすけた焼鳥屋には似合わない男だなと、伊民はあらためて神部の横顔を見やった。
いかにもモテそうなこの男が、なぜ今日みたいな日に伊民なぞ誘って飲みに出るのだろう?

神部はしかし気にしたふうもなく、楽しそうにメニューを研究している。
「伊民さん、こういう店、詳しそうですよね」
「・・・普通ですよ」
「謙遜しないで、教えてくださいよー?」
屈託なく微笑みかけられると、悪い気はしなかった。

***

「・・・だからですね、俺としちゃ気に食わないわけですよ。あの人は確かに天才かも知れませんよ、だからってルールを無視していいわけないでしょう」
「ええ、そうですよね。遵法精神は大事にしないと」
「なんかこう、涼しい顔してサラッとみんな持ってくでしょう。そりゃ偉いさんとのつながりがあるってのはわかりますよ、もともとエリートキャリア様ですから。しかしですね、あの人だったら何をしても官/房長が出てきて無罪放免って、そういうのはズルかないですか」
「そういうこと、あるんですか?」
「そりゃありましたよ。こっちが必死になってやってんのに、あの人はこう、サラッとね・・・」
いつの間にか伊民は、神部に向かって愚痴を並べてしまっていた。
半分ほど酔いの回った頭で、相手はその杉/下警部の部下なのに、と思いながら。

神部はうんうんと頷きながら聞いてくれた。あの特/命係に飛ばされて平然としているところを見ると彼も普通の神経はしていないのだろうと思うが、少なくとも杉/下警部よりは常識人らしく見える。

「・・・まあ、ほどほどに行きましょうよ。俺だってあの人に負けたくないと思うし、伊民さんの気持ち、なんだかわかりますよ」
「でしょう。警部補殿だって思うもん、俺たちが」
「ちょっとちょっと伊民さん。いい加減に警部補殿はやめてくださいって言ってるでしょ?」
「だいたい、特/命係にゃ捜査権はないんですよ・・・」
「わかってますよ。逮捕権もありませんよね」
「なのに、気がつきゃ現場をうろうろしてんですから」
「ねー。誰が悪いんでしょうねー」

クスクス笑いながら、神部がレシートを取り上げる。ふと時計に目をやると、思ったよりも時間が過ぎていた。
「はい、タイムリミットです。2時間ルールにしときましょう。明日もありますから」
「・・・ああ」
「お約束どおり、奢らせていただきます」
「いや、それは・・・割り勘にしましょう」
「いいですよ」
「いやいや、俺のほうがいろいろくっちゃべっちまって」
「じゃあ、この次の機会に奢ってください」

そう言うと神部はコートを手にさっさと立って、レジへ行ってしまった。まいどー、ありがとうございましたー、と店員の声がその背にかかる。
伊民もタバコとライターをポケットに放り込んで、その後を追った。

店を出て、裏通りを歩いた。駅までの距離はあまりない。
つい愚痴を並べてしまったうえに飲み代まで持ってもらって、自分が言い出したくせにすっかり気の引けてしまった伊民は、なんとなくしょんぼりとした気分で神部の後をついて行った。

やがて曲がり角に来たとき、その神部が唐突に立ち止まった。
伊民が追いつくのを待って、のんびりとした口調で言った。
「今日、伊民さんと話せてよかったです」
「・・・そうですか」
「わざわざ出てきた甲斐がありました」
「は?」
「俺、今日は休みだったんです。ダメもとでメールしたら伊民さんがOKしてくれたんで、出てきちゃいました」
「はあ?」
「これ、どうぞ」

そう言って神部がポケットから取り出したのは、手のひらくらいの薄い箱だった。きれいな包装紙、きれいなリボンで飾られていた。
まるで絵に描いたような、・・・これはチョコレートの箱だろう、と伊民は考えるより前に思った。

「伊民さんにあげます」
「えっ、これはどういう」
「どうもこうもないでしょ」

きらきら輝くような小箱を伊民の胸元に押しつけておいて、神部はまたさっさと歩き出した。
伊民は彼の心情を謀りかねて、しばらくその場を動くことができなかった。

「け、警部補殿!」
やっと声をかけたときには、神部は何歩も先に行っていた。呼ばれたのを聞くと彼はいったん肩越しに視線を寄越し、伊民がまだ同じ場所に立ちすくんでいるのを認めて、ふっと小さくため息をついた。
「・・・あーあ。『警部補殿』は勘弁してくださいって、あんなに何度も言ったのに」
それから周囲をきょろきょろと見回して、声の聞こえる範囲に人がいないことを確かめてから身体ごと振り返り、神部はまっすぐに伊民を見つめた。
まるで日本画のモデルのように整った神部の顔だちを、繁華街の安っぽい電飾やネオンが美しく縁取っていた。

「あのねえ、伊民さん。知らなかったと思いますけど、俺、あなたのことが好きなんです」

今度こそ、伊民の頭の中は真っ白になった。あまりに驚きすぎて声も出ない、どころか、身体もまったく動かせない。軽い箱を持った両手を下げることもできず、ぽかんと開いた口もそのままだった。
神部はさすがに照れくさそうな微笑を浮かべ、
「じゃ、また。この次は奢ってくださいよ?」
と言い残して、足早に駅のほうへ歩き去った。

その姿が角を曲がって見えなくなってからやっと、伊民は胸の前に上げたままだった両手を下ろして、手の中のものをまじまじと見た。
麻痺した頭で、神部の言葉の意味を考えた。
よりによって今日という日に、きれいにラッピングされた箱と一緒に渡された言葉の意味を。

<おしまい>

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 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 仕事バカ伊民
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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前回、ドンマイみたいに言ってくれた姐さんたち、本当にありがとう!
色々とご心配かけたうえ、こんな会話だけの話でさらにすみません・・・。
さらに7あると思ったのが6だったというバカなミスもすみません!


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