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Ich liebe Berlin!

半ナマ
ミュージ力ル「デ.ィ.ー.ト.リ.ッ.ヒ」よりデザイナーと映画監督(とスタッフ)
人物捏造ありマス

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「Nein! 使えない!! お前ら何なんだ!!」
 1929年ベルリン郊外のとある映画スタジオ。
 場末のバーをイメージして作られたセットをちらりと振り返り、衣裳デザイナーのト.ラ.ヴ.ィ.ス・バ.ン.ト.ンは溜め息をついた。
「またですよ、あの石頭」
 地元の若いスタッフが訳知り顔で話しかけてくる。
 スタッフの顔合わせでそれぞれ自己紹介はしたはずだが、ト.ラ.ヴ.ィ.スには名前が思い出せない。
 それを表情には出さないようにしながら曖昧に頷いた。
「ホント、完璧主義者ね、ス.タ.ン.バ.ー.グ監督」
「まったくですよ。これで6人目です。なにが気に食わないのか」
 男が肩をすくめる。
 主人公は早々に決まったというのに、肝心のヒロインの女優がいまだに決まらない。
 自分の思い通りの演技をしない女優たちに怒鳴り散らす監督の怒声は、衣裳を準備するト.ラ.ヴ.ィ.スを毎回びくりとさせる。
 もともとオーストリア出身のス.タ.ン.バ.ー.グは、ト.ラ.ヴ.ィ.スと同じくドイツ側の要求でアメリカのパ.ラ.マ.ウ.ン.ト映画から派遣されてきている。
 ドイツ女優をヒロインにした新作映画が期待されているが、肝心の女優選びに難航しているらしい。
 高校教師を誘惑し、堕落させ、最後には悲哀の底に落とす、妖艶で退廃的な酒場の歌姫。
 監督のイメージに合う女優がなかなか見つからない。
 早く女優が決まらないと、ト.ラ.ヴ.ィ.スの仕事も進まない上、あの怒鳴り声を四六時中聞かなければならない。

「もういい! 今日は終わりだ!」
「監督、まってください、彼女はドイツ一人気なんですよ!? これ以上誰を連れて来いって言うんです!」
「私の『嘆きの天使』は完璧な女優にしかできん! あいつらは何人やっても同じだ! おいト.ラ.ヴ.ィ.ス!」
「はい監督!」
 急にス.タ.ン.バ.ー.グの怒りの矛先がト.ラ.ヴ.ィ.スに向かった。
 びく、として直立したト.ラ.ヴ.ィ.スが監督を振り返る。
 ト.ラ.ヴ.ィ.スは、この同い年のユダヤ人監督がどうも苦手だった。
 作る映画は素晴らしいと思う。
 社会派の作品を世に出すためにチャップリンにアタックした発想力と粘り強さもすごいと思う。
 が、一緒に仕事をするにはいささか気詰まりなことの多い人物なのも事実だ。
 なにより声が大きいのがいただけない。
 あんな声で怒られたら、恫喝されているようで、それだけですくみあがってしまう。
 それでもト.ラ.ヴ.ィ.スはぎこちない愛想笑いを顔に貼り付けて、ス.タ.ン.バ.ー.グを振り返った。
「な…なんでしょう?」
「あのデザイン画はなんだ。まったく駄目だ、やり直せ!」
「はい監督っ、すぐやり直します…!」
 言うだけ言うとさっさと行ってしまう。
 背を見やって、ト.ラ.ヴ.ィ.スは息をついた。
 この数日怒られてばかりいる。
 一応天下のパ.ラ.マ.ウ.ン.ト映画のチーフデザイナーであるト.ラ.ヴ.ィ.スは、いわばデザイナーのトップにいるといっても過言ではないのだが、ス.タ.ン.バ.ー.グにはそんな地位など関係ないらしい。
 少しくらいは尊重して欲しいとは思うが、それを口にする勇気はト.ラ.ヴ.ィ.スにはない。
 女優選びが難航していてイライラする気持ちもわかるが、あたり散らさないで欲しい。
 だいたい、誰が着るかが決まらなければ、衣裳だってイメージが固まるわけではないのだから、そうせっつかないで欲しい。

「あー怖かった。ダメ出し、これで3回目よ…」
「何様のつもりだ、ス.タ.ン.バ.ー.グめ」
 忌々しげにスタッフが呟く。
「ホント。完璧主義者で…でも理想主義者って素敵」
 同意しかけたところでス.タ.ン.バ.ー.グが振り返り、ト.ラ.ヴ.ィ.スは慌てて言葉を繕った。
 胸に手を当て、笑顔を作るト.ラ.ヴ.ィ.スを、監督はいぶかしげに見遣る。
 ヒゲも生やした立派な成人男性のくせに、女性的な振る舞いが妙に似合うト.ラ.ヴ.ィ.スを、胡散臭く見る者も多い。
 自分がそういう人間であることをト.ラ.ヴ.ィ.スは充分すぎるほど理解しているが、慣れたとはいえ少しつらい。
「あんなユダヤ野郎の言うことなんか気にすることないですよ。それより今夜飲みません? いい店あるんですよ」
 スタッフが慰めるように肩を叩く。
 自分よりいささか若い彼を見遣り、ト.ラ.ヴ.ィ.スはうなずいた。
 こういうなにをやってもうまくいかないときは、酒でも飲んで忘れるのが一番だ。
 それに、ワイマール憲法下の、自由で開放的なベルリンの街は大好きだ。
 自分のような者さえ丸ごと受け入れられている感じがする。
 先の大戦を終えてヨーロッパじゅうから芸術家たちが集まり、そこここで様々な議論を繰り広げている。
 本来の仕事場のハリウッドも開放的だが、あそことは違う心地よさがある。

 連れて行かれたのは、ベルリン市内のマールスドルフと呼ばれる地区だった。
 一見するとごく当たり前の民家だが、生垣に隠れるように地下への階段があり、そこにMerak Ritze(ムラック・リッツェ)の看板が出ていた。
「こんなところバーがあるの?」
「バーというよりも、アメリカ人のあなたからするとキャバレーでしょうけどね」
「あら、あたしキャバレーも好きよ」
 急な階段を下りていくと、重厚な扉の奥から、蓄音器のワルツが聞こえてきた。
「いらっしゃい、まぁゲオルク、ずいぶんと久しぶりね」
 扉の向こうのカウンターの中で、女性の服を着た男性がにこやかに迎える。
 ああそういえば連れの名前はゲオルクだった、と思い出しながら、ト.ラ.ヴ.ィ.スは曖昧に微笑んだ。
「あら新しい彼氏?」
「違うって、ムッター。今の仕事仲間。衣装デザイナーのト.ラ.ヴ.ィ.ス」
「はじめまして、ト.ラ.ヴ.ィ.スです」
「ムラック・リッツェへようこそ。アメリカ人?」
 ト.ラ.ヴ.ィ.スのドイツ語にアメリカ訛りを聞きとったのか、彼女(彼?)はゲオルクに顔を向けた。
「アメリカで有名なデザインーなんだ」
「まぁ素敵」
 微笑む彼女(?)にぎこちなく笑んで見せてから、ト.ラ.ヴ.ィ.スは勧められるままにカウンターに腰かけた。
 いつもの癖で膝を揃えて座るト.ラ.ヴ.ィ.スをエスコートしてから、ゲオルクも隣に座った。
 カウンターの奥には蝋管式の古風な蓄音器が、古いワルツを奏でている。
 ゆったりした音楽に合わせて、店内ではいく組かのカップルが踊っている。
 が、よく見れば男女のペアは少なく、ほとんどが男同士、もしくは女同士だった。
「ふぅん」
 差し出されたシェリー酒のグラスの縁を舐めながら、ト.ラ.ヴ.ィ.スは感心したように息を吐いた。
「あなた、こういうところは初めて?」
 ムッター(ママ)と呼ばれた彼女がカウンターの向こうから語りかける。
 一見すればあきらかに男性なのだが、身のこなしは洗練された女性のもので、ト.ラ.ヴ.ィ.スは強い親近感を抱いた。

 ト.ラ.ヴ.ィ.スも、外見だけならごく普通の成人男性だから異性装者ではないが、言動は女性のそれだ。
 もっとも本人は、男女にこだわっているわけではなく、自然な自分であろうとすればそういうふうになってしまうだけだと思っている。
「こんな店、ニューヨークでも見たことないわ」
「自由の国なのに?」
「同性愛者は自由を享受しちゃいけないらしいわよ、あの国じゃ」
 皮肉めいた笑みを浮かべて肩をすくめる。性に関しては、パリやベルリンのほうが開放的だ。
「私はシャーロッテ。あなた運がいいわ。ベルリンがこんなにおおらかなのは歴史上類がないもの。…ちょっとゲオルク、この店に入るなら、その鉤十字のバッジ、はずしなさいよ」
「なんだよ、ムッター」
 ビールを受け取ったゲオルクが顔をしかめる。
 その彼の胸元には、地の上の白円の中に黒のハーケンクロイツが描かれたバッジがある。
「この店はホモは差別しないでナ.チは差別すんの?」
「あんた知らないの? ナ.チはユダヤ人だけじゃなく、ホモも毛嫌いしてんのよ」
 ぴん、とシャーロッテが指先でゲオルクの額を弾く。痛、と眉を寄せたが、彼女に睨まれてゲオルクは渋々とバッジを外した。ト.ラ.ヴ.ィ.スはまたふぅん、と呟いた。
 寛容なベルリンに見えるが、深いところではいろいろとあるのかもしれない。
 と、さきほどまで踊っていたペアの一組が、奥のドアに消えていくのが見えた。
「…気になります?」
 ト.ラ.ヴ.ィ.スが見ているものに気づいて、ゲオルクが耳元に口を寄せて囁いた。
「あっちに、特別ルームがあるんです」
「特別ルーム?」
「いくつかのソファやベッドが置いてあって…わかるでしょう?」
 するり、とゲオルクの手がト.ラ.ヴ.ィ.スの肩を撫でた。
 性的な意味合いを多分に含む指先に、ト.ラ.ヴ.ィ.スは背筋を震わせる。
 そういえば、ベルリンに来てからはとんと御無沙汰だった。
 いやもっと言えば、2年前にチーフデザイナーに就任した時から、忙しすぎて恋をする時間がなかった。
 そう自覚したとたん、急にアルコールが身体中を駆け巡ったような気がした。
 古風な蓄音器が官能的なメロディを奏でている。
「僕たちも、行きません?」
 かすれた声に囁かれ、ト.ラ.ヴ.ィ.スは気づけば小さく頷いていた。

「だぁかぁらぁ、ト.ラ.ヴ.ィ.ス、ト.ラ.ヴ.ィ.ス・バ.ン.ト.ンだってばぁ。ハントじゃないわよぉ」
 ホテルのロビーで夕刊の劇評を読んでいたス.タ.ン.バ.ー.グは、聞き覚えのある声にフロントのほうを振り返った。
 植木の陰でよく見えないが、聞こえてきた名前は間違いようがない。
 黒髪の華奢な後姿が目に入り、やれやれと立ち上がった。
「何してる、ト.ラ.ヴ.ィ.ス」
「あーら監督ぅ、グーテン・アーベン、ごきげんよぅ」
「…呂律が回ってないぞ」
 フロントにもたれかかっていたト.ラ.ヴ.ィ.スが、ス.タ.ン.バ.ー.グの顔を見ると満面に笑みを浮かべて手を振った。
 頬は紅潮し、服装もいくらか乱れている。
 酔っ払いの醜態に眉を寄せながら、支えようと肩を貸してやる。
「あたしねぇ、今すっごいご機嫌なのぉ」
「わかった、それはわかったから、とにかく部屋に…」
「もう歩けなぁい、連れてってぇ」
 くたん、としなだれかかってこられ、慌てて受け止める。
 仕方なくフロントのボーイから鍵を受け取り、エレベーターへト.ラ.ヴ.ィ.スを引きずった。
「お前、一人でこんな飲んだのか」
 足元が危うくなるくらいの酔いように、怒鳴りつけたい気持ちを抑えて歩かせる。
「一人じゃないわよぉ、ゲオルクとよぉ」
「ゲオルク……ああ、あいつか」
 そういえばト.ラ.ヴ.ィ.スと仲良くしている進行係がいた、と脳裏に顔を思い浮かべる。
 なんとかエレベーターに押し込み、階数ボタンを押す。
 動き出した箱にやれやれと息をつく。
 せっかくいい女優を見つけて上機嫌だったのに、いい気分がブチ壊されてしまった。
 酔っ払いに怒鳴ってもしょうがないが、部屋についたら説教の一つもしてやりたい。

「……おいト.ラ.ヴ.ィ.ス、着いたぞ。自分で歩け」
「…んー、監督ぅ……運んでぇ…」
「無理言うな」
 いくら華奢に見えても、平均よりは身長のあるト.ラ.ヴ.ィ.スを運べる自信はない。
 それに運ぶなら、今夜偶然入った劇場で見つけたあの女優のような、綺麗な足の女がいい。
「監督、冷たい…」
「うるさい。歩け」
 ぐすん、と鼻をすすりながらも、よたよたと不安定な足取りで歩く。
 なんとか鍵を開けて中へ運び入れ、ベッドへ投げ出す。
 ついでに靴を脱がせ、ネクタイを緩めてやる。
「ねぇ、監督ぅ…あたし、ベルリン好きよぉ」
 唐突に、ト.ラ.ヴ.ィ.スが口を開いた。
「なんだ、いきなり」
「だって、とってもすごしやすいんですもの。居心地いいわぁ」
「…そりゃあ」
 お前ならそうだろうな、と思いながらどうやって部屋を出ようかとうろうろとあたりを見回す。
 と、机の上に散らばるデザイン画が目にとまった。
「けどねぇ、来年、選挙あるでしょぉ? あれで、ナ.チってとこが勝ったら、あたしたち、もうベルリンにいられなくなるんですって…」
「…達、ってなんだそれ」
「だから、あたしとあなたよぉ」
 机に散らばるデザイン画を見ながら、聞くとはなしに耳を傾けていると、しゃくりあげる声にぎょっとした。
 見れば、ベッドの上に横になったト.ラ.ヴ.ィ.スが涙を流している。

「…なに泣いてるんだ」
「だって、だってぇ…ゲオルクってば……げおるく…ナ.チなんて嫌いよぉ…」
 ぽろぽろと零れる涙がシーツを濡らす。
 何があったのかは知らないが、おおかた、連れと喧嘩でもしたのだろう。
 ひとつ溜め息をついて、ス.タ.ン.バ.ー.グはデザイン画を一枚手にし、ベッドに歩み寄った。
「明日、カメラテストをする」
「…へ?」
「いい女優を見つけた。このイメージで、新しいデザイン画を描いてこい」
 ひらり、とト.ラ.ヴ.ィ.スの前に投げ落とす。
 がば、と起き上がり、ト.ラ.ヴ.ィ.スは自身のデザイン画を見つめる。
「……やっぱり、あなたって素敵。好きよぉ」
 ほやん、と微笑むト.ラ.ヴ.ィ.スに肩をすくめて見せる。
「明日も早い。さっさと寝ろ」
「はぁい。おやすみなさぁい」
 ぽふん、とベッドに沈む。
 にっこりした笑顔に一瞬動悸が高まった気がしたが、息を吐くことで誤魔化し、ス.タ.ン.バ.ー.グは背を向けた。
 『好きよぉ』
 声が耳の中で蘇ったが、わざと大きく扉を閉めて、それを打ち消した。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

デザイナーの可愛さが上手く出ない…orz
マイナーすぎてごめんなさい


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