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呪縛

ピンポン  原作以前を捏造
風間が風間たる所以
この後ドラゴン×チャイナにもつれ込む予定
需要がなくても自家発電!

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

海王学園高校一年生の風間竜一は、試合前に男子便所の個室に篭るのが常だ。
二・三年生からは生意気だと言う声が上がっていたが、面と向かって風間に言う勇気のある者はいなかった。
夏の男子卓球インターハイ予選の、開会式直後。
風間は薄暗い男子便所の一番奥の個室にいた。
手の中でラケットを握りしめる。
肩が落ち、首が項垂れる。
胃が縮む。胸の中の重い塊。足の力は抜け、走れないかもしれないと思う。
なにもかも恐い。扉の向こうから漏れ聞こえる喚声に怯える。
力のない嘆息が唇から洩れる。
少しずつ高まる緊張が限界に達する。
ラケットを握る手を見る------血豆が幾度も破れて握りダコの出来た指。緊張で力がうまく入らない。
風間は目を閉じた。
後頭部を壁に軽くぶつけ、意識して息を吐く。

試合はもうすぐだ。

5歳の風間竜一が、初めて卓球に触れたのは、家庭教師のバッグの外ポケットにあったラケットとボールをいたずらした時だった。
バッグから落ちた小さな白い球が、カツカツと音を立てて軽く弾む。
自由な軌道を描いて飛び跳ねる白い球に魅せられた。
「竜一君、やってみますか?」
家庭教師が、趣味でやっているのだけど…と言った。
「教えてあげますよ。楽しいですから」
無論卓球台などはなかったので、裏の物置から使っていないテーブルを庭師に出してもらい、芝の上で打った。
夢中になった。
なんて楽しいのだろう!
「素質がありますね」
見様見まねで球を打つ竜一を見て、普段笑わない家庭教師の目が、銀縁の眼鏡の奥でにこにこしている。
締めていたネクタイはとうに外され、白いシャツの袖もまくり上げられている。
「もっとおしえてちょうだい」
「いいですとも。お勉強がすんだら、明日も教えて上げますよ」
「ありがとう」
竜一は息を弾ませながら、丁寧に礼を述べた。
次の日、撞球室に全て新品の台とラケット、球が用意されていた。午前中に業者が運んできたものだ。
家庭教師は面食らったようだが口には出さなかった。
「おじいさまが、こちらをつかうようにって」
「そうですか。ラケットが各種ある。球もいいものだ。すごいですね」
「そう?」
昨日は祖父はいなかった。
夜も帰ってきてはいない様子だったのに、どうして僕が卓球したことをお祖父様はおわかりになったんだろうと思う。
いつものことながら、竜一はそれが不思議だ。

家庭教師はまず、球を持つところから教えてくれた。
「初めが肝心ですから。形が伴わないものに上達も楽しみもありません」
ラケットの持ち方とフォームを簡単に教えてもらうと、竜一の飲み込みは早かった。
軽い球は信じられないスピードで飛ぶ。
打ちあううちに、スマッシュがヒットした。
もちろん家庭教師は竜一に手心を加えていただろう。しかし竜一は興奮した。
白い球を追って、無心に走る。
おもしろい。楽しい。なんて楽しいんだろう。
勝ちたい。
上手くなりたい。
竜一の心に、貪欲な勝利への欲求が生まれた。

幼稚園から帰ってきて、家庭教師と「お勉強」をし、撞球室で卓球を教わるようになってから、一週間が過ぎた。
「竜一君はきっといい選手になりますね」
一汗かいて、ふたりでおやつに出されたジュースで咽喉の渇きを癒していると、家庭教師はうれしそうに呟いた。
「上手だし、勘所もいいですね」
「すごく、たのしいです」
「うん、楽しいという気持ちは大事ですね。竜一君はとても楽しそうに走っている。一緒に打っていて、私も楽しいですよ」
「もっとじょうずになれますか?」
「上手になれるし、強くなりますよ」
「まけたくないです」
「負けるのも大事なんですよ。負けた経験がなければ、勝てません」
「でも、まけるのはいやだなあ」
「その気持ちは大事です。負けるのがいやだと思えば、たくさん練習するでしょう? 練習して、強くなって、負けたり、勝ったり、そこが勝負のおもしろさですよ」
「…よく、わからないです」
「竜一君にはまだ難しかったかな」
「うん。でも、せんせいがおしえてくれるでしょう?」
「約束しますよ。もちろん、お勉強してからね」
二人で顔を見合わせてにっこり笑うと、「ではまた明日」と、家庭教師が言った。

銀縁眼鏡の家庭教師が突然来なくなり、かわりの家庭教師が来、撞球室から卓球台が新しく作られた床張りの運動室に移され、ジャージを着た卓球の「コーチ」が竜一に付いたのは、一カ月後のことである。
その日の朝、祖父と両親と共に朝食をとった竜一に、祖父が言った。
「竜一。何かをやるのならば頂点を目指せ」
その日から、卓球は楽しい遊びではなく、竜一が背負う、一つの枷になった。
まえのかていきょうしのせんせいはどうしたのですか、と聞くことも許されなかった。

竜一の家は、江戸時代から代々続く家業を生業としている。
明治の時代になっていちじるしく身代が傾いた。
息も絶え絶えの家業を、日本有数のと言う冠が付くまでに再興させたのは、竜一の祖父である。
代々続く自分の血統への誇りと、一代にして家を興し直したその矜持が、祖父を形作っている。
風間家の芯そのものであったし、風間の家そのものであったと言ってもいい。
祖父の期待は父以上に竜一に向けられた。
そしてまた、竜一は祖父に似ていた。竜一は祖父の期待に応えるべくして応えた。幼い竜一にはそれは当然のことであったし、応えられることがまた嬉しくもあった。
竜一は、コーチについてめきめきと腕をあげた。
祖父の、竜一に対する期待はとどまるところを知らなかった。
小学校に上がる頃には、小学生に交じってほとんどの大会で優勝していた。
ある大会で、体調が悪くあと一歩というところで優勝を逃した。
準優勝のトロフィーを持って祖父へ報告に行った竜一に、祖父は一瞥をくれると「勝たねば意味はない」と言った。
「わかるか竜一。負けるということは、すなわち今まで積み重ねてきたものを一瞬で全て失うということだ。やり直しは効かない。勝負というものは恐ろしいものだ。勝て。この祖父のために」
「…はい」
その時初めて、竜一は泣いた。
そうして竜一はただ勝つために、ラケットを振り続けた。

祖父が亡くなったのは、竜一が小学校五年の時だった。
その頃の記憶は曖昧で、余りはっきりしない。
病に倒れ、何カ月か寝込んだ祖父は、少しずつ命が削られていくように痩せていった。
病院の特別室は、特別室であるにもかかわらず、よどんだ臭いがした。
それは病そのものが吐き出す臭いであったかもしれない。
祖父は時々、昔と記憶が混同するようになっていた。意識もおぼつかないことがある。
竜一を誰か知らない名前で呼んだり、天井を凝視しながら、竜一には見せたことのない笑顔で誰かに話しかけたりする。
竜一が一人で病院に見舞いに行くことなどありえないから、父か母か、誰か大人と行ったのであろうが、その日はなぜか、祖父の病室に竜一一人だった。
付添の看護婦が必ずいるはずだったが、点滴の交換にでも出た時だったろう。
その日は肌寒い日で、病室には暖房が入っていたが、祖父は暑い暑いと上掛けをはねのけた。
その日に限って、祖父はひどく暑がった。

「お祖父様、僕は昨日県大会で優勝しました」
祖父はずいぶんと痩せ衰えて、しかし眼光だけは鋭かった。
起きようとする様子に、竜一は背を支えて上半身を起こした。
自分をちゃんと支えられない祖父の頭がゆらゆら揺れる。すぐに後に倒れ、慌てた竜一は手を伸ばした。
祖父が、その手を取り、竜一を凝視した。
見つめられて、竜一はぞっとした。
祖父の目は竜一の顔を見ていたが、視線は、竜一を通り越したその後を見ていた。
竜一は自分の後に誰かいるのかと振り向いたが、誰もいなかった。
ふと祖父の目に力が戻った。
祖父が口を開く。
「竜一か」
「はい」
「いいか。敗北は腕を切り落とすに等しい。勝利のみを強く望め。お前は勝つ。お前はこれから父のために、日本のために戦え。よいか。わかったか」
「はい」
「よし」
祖父は力尽きたように身体を横たえた。そして目を閉じ、肩で息をしながら寝息を立てはじめた。
竜一は固まったように動けなかった。

その日の夜遅く、祖父は息を引き取った。
たかだか11歳の竜一の人生に、重すぎる枷が加えられた。祖父の最期の言葉が、風間竜一の、呪縛となった。

竜一に卓球を教えたあの銀縁眼鏡の家庭教師に似た少年を初めて見たのは、中学最後の県大会だった。
似ているのは顔だけで、フォームもスタイルも違っていた。
しかし、風間はその少年から目が離せなかった。
風間竜一の、月本誠に対する執着の始まりであった。

風間は男子便所の個室の奥で、閉じていた目を開いた。
怒りに似た闘志が沸き上がる。
風間は勝つだろう。負けることなど許されない。
そうやって戦ってきた。これからもそうやって戦うだろう。
それが風間の卓球であり、生き方であった。

風間はドアを開け、戦いの場へと足を踏み出した。

ざんぎり頭のヒーローが、風間竜一の呪縛を解くまで-----あと2年。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

風間ってあれで18歳なんだぜ!


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