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板缶

il 板缶です。最終回に触発されて初捏造します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 ふっと目を覚ました瞬間。
 見やった時計は、まだ夜明けが遠い。暖房の消えて久しい室内は冷え切っていて、布団の中、腕に包んだ温もりがことさら温かく感じる。
 いつもなら満足げに目を閉じて、猫のように背中を丸めているはずの温もり。
 その綺麗な顔が、苦悶に歪んでいたから、慌てて背中をさすった。
「おい。おい、神部!」
 額に浮かんだ油汗。何かに耐えるように、口は堅く引き結ばれている。
 いやいやをするように首を振って、何事かうめく。その頬を軽くはたくと、ん、と小さく身じろいだ後、ようやくまぶたが持ち上げられた。
「あー……おはよう、ございます」
「おはよう。じゃねぇよ、うなされてたぜ」
「そうですか?」
 額に手をやって、深くため息をつく。少し前までいた夢の世界の記憶を振り払うように、軽く頭を振った。
 その仕草の慣れた様子も気がかりだったが、それ以上に驚いたのは、こいつの瞳の色だ。
 伏せられた瞳に浮かんだ、ぞっとするほどに暗い光。こんな目をしているこいつは、知らない。
「すみません。起こしてしまいましたよね」
 ふっと寄せられた唇。頬をかすめた感触は乾いている。
「余計なこと心配してんじゃねぇよ」
 肩をひきよせて布団をかける。抱きしめるように腕につつみこんでやると、ふっと笑ったような息遣いが聞こえた。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
「……はーい」
 優しい言葉なんてかけられない。甘い言葉も慰めも、俺の辞書にはないから。
 それでも、こいつはちゃんと、憎たらしいほどそのことを分かっている。
 

 肩に触れる息が、規則正しいものになっていく。やがてその息遣いが穏やかなものになって、体の力が抜けていったのを確認して、ようやく訪れた眠気に身を任せることにした。

 これが初めてというわけではない。夜中にうなされて、はっと飛び起きることなんて、本当に日常茶飯事だった。
 どうしてなのか、気にならないわけではない。それでも理由は聞けなかった。
 俺たちは、知らないことが多すぎる。元々、一足飛びにいろいろなものを飛び越えて結んだ関係だ。
 俺もこいつに話していないことなんて山ほどあるし、こいつもきっとそうだろう。

 それでもいいと思った。
 刹那の関係だから、なんて思っているわけじゃないけれど。
 今こいつがここにいる、そのことだけで、俺には十分すぎる。

「(話したくなったら自分から話すだろ、俺がつっかかったところで、お前さんはどうせ、笑って流すだけだろうさ……)」
 温もりを引き寄せて、遠い夜明けに思いをはせながら、ようやく目を閉じた。

 今日はあまり、眠れなそうな気がした。

******

 夢が、近くなっているという自覚はあった。
「……おい。…おい、神部!」
 まぶたを強引にこじ開けたのは、あの人の力強い声。
 背中に感じた大きな手の感触に、目を開く力をもらう。

「あー……」
 目を覚ましたとき、愛しい人が近くにいる。素肌で触れ合って、存在を確かめる。そんなことで安心できるなんて、俺も相当、重症だ。
 おはようございます。なんてボケた呟きにも、律儀に返事が返ってくる。
 彼の低い声は、うなされていたことを告げても、決してその理由は聞いてこない。そうされるたびにいつも、まるで針でちくちくと刺されているような気持ちになる。
 優しい、けれど。その優しさに答えられない自分が、嫌で仕方なくなる瞬間だ。
「さっさと寝ろ。お前さんと違って俺は明日も忙しいんだ」
 肩を抱く腕に、力がこもる。その腕の温かさに、ふっと体の力が抜けていく。
 ここにいるだけで、安心できる。この不器用で無骨な人の、大雑把な優しさは、俺にとっては心地いい。

 俺の帰る場所は、ここにある。
 いつかきっと、彼が俺のすべてを知る日が来る。そのとき彼が、今と同じように俺を迎えてくれるかなんて、分からないけれど。
 それでも。せめて今だけは、この温もりに溺れていてもいいでしょう?

 筋肉に覆われた硬い腕に指先を這わせて、まぶたを閉じる。

 今度は、さっきより少しだけ、いい夢が見られそうな気がした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
文章難しいです。いつも投下してらっしゃるネ申お姉さま方を尊敬します。
お付き合いありがとうございました。


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