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オフィス8月 耶麻崎昌良×須加鹿男

方角 オフィス・八月 耶麻崎昌良×須加鹿男(と隙間がちょっと)

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

オフィス・八月には、犬が二匹いる。
犬の大きさは似たようなもので、それなりに大型犬。それぞれにちゃんと飼い主がいるのも同じ。
一匹は飼い主に真っ直ぐに愛情を向けていて、もう一匹は今で言う所のツンデレだけれど。
ボーカリストの癖に煙草が好きでお酒が好きなのも一緒。声質も音域もよく似ている。
オフィス・八月には、犬が二匹いるのだ。
 
今日に限ってという訳でもないけれど、オフィスでは犬が二匹雁首を揃えていた。  
「そーいや小耳に挟んだんやけどさぁ、」
という自分に投げられたらしい昌良の一言に、時田を待っていたO端が振り返った。
昌良はマネージャーのデスクに頬杖を突きながらO端を眺めている。口調に含む所もなく、ただの
世間話でもするような調子で続けた。
「この前の打ち上げで、鹿男ちゃんにちゅーしたってホンマ?」
酒が入った時のO端の変身ぶりは昌良も知っている。故に聞いた時に、百パーセント事実だろうと
思ったのだけれど、一応確認を取っておかねばならない。対鹿男対策のカードの一枚に加えるには、
事実確認が必須なのだ。
「あぁ、したような覚えもちらっと。」
誤魔化さねばならないような疚しい気持ちはこれっぽっちもないO端は、酒の所為で途切れた
記憶の糸を辿りながら答える。
昌良は律儀にも真面目に思い出そうとしてくれるO端が微笑ましくて笑いながら問うた。
「怒られた?」
「呆れられました。怒ったのはどっちかっていうと、」
ちらっと背後を気にするようにO端が視線で指す。その先には後姿のアフロがいるものだから、
昌良は納得した。時田とO端の関係は飼い主と犬だが、どちらかというと犬が飼い主を
振り回している関係だ。
自分達とは、そこが決定的に違う。

「なる程なぁ。悋気強い相方持つと大変やのぉ。」
「まぁ、ガチで無視しますけどね。」
「新太も大変やな。両方大変でお似合いっちゅーか。」
「いやいや、耶麻さんには負けますよ。」
「やかましいわ。でも、えぇネタ仕込んだわ。ふははは、待っとれや、鹿男ちゃん! 
これネタにして、めっちゃ絡んだるからなっ。」
これで確証は取れたと昌良は思わず高笑いをして握り拳を掲げた。
そのテンションの上がり具合にO端は付いていけずに、本人曰く『象っぽいつぶらな』瞳を
ぱちくりと見開いている。
「耶麻の凄い所は、」
嫌でも耳に入ってくる馬鹿男二人の会話を聞くとはなしに聞いていた今日子が、呆れたように言った。
「鹿男君へのそのテンションを、十年年近く維持している所よね。継続は力ってよく言ったもんだわ。」
「だって好きやねんもん。」
「はいはい。」
「すでに姫も相手にしてくれへん。」
ソファーによよと泣き崩れる真似をする昌良を放置して、今日子は差し入れで貰った菓子をO端に
進めながら苦笑する。
「琢也も、耶麻のこのテンションは見習わない方がいいよ。」
「それは新太に言って下さい。」
「それもそうね。」
耶麻先ほどテンション高くは語らないものの、愛情垂れ流し具合は似たようなものな時田が、
噂されているとは知らずに大きなくしゃみをした。

ふらりと立ち寄っただけの昌良の部屋。
ドアを閉めた昌良が呟いた『飛んで火に入る夏の虫』の故事を問いただす暇もなく、鹿男は
リビングに連行されていた。
一応おもてなしに珈琲は振舞われていたが、いつもなら自分は構わず缶ビールでも開ける昌良が、
今日は鹿男に付き合ってか珈琲をすすっている。正直言って不気味な状況だ。

それでもお互いの近況なんかを語らいながら、マグカップ一杯分を飲み干すだけの時間が流れると、
醸し出されるいつもの空気に鹿男は昌良の言葉を忘れかけていた。
その隙を狙って、ふと思い出すように昌良が言った。
「あぁ、そうや。」
「ん、」
「ちょぉ、ごめんな。」
言うが早いか昌良は鹿男のサングラスのテンブルに手をかけると、さっと引き抜いた。
いきなりの早業に鹿男は対応出来ない。 
昌良はうっかり壊さないようにと、鹿男から手の届かない離れたテーブルにサングラスを
置いてしまった。
直で見てしまった蛍光灯が眩しくて、鹿男は二三度瞬きを繰り返す。自然と目が眇められて
睨む様な形になる。
「と、言う訳でして。」
「どういう訳だよ。」
「琢也にちゅーされたん?」
突然の先制攻撃に続いて、またも効果的に昌良は己のペースに鹿男を巻き込んだ。
一瞬何を言われているのか分からないで、鹿男はきょとんと昌良を見返したけれど、
先日の打ち上げの席での出来事を指しているのだと思い当たる。
隠す理由も無いけれど、どこかなんとなく後ろめたいような気持ちになるのはどうしてか。
鹿男は小さな声で返した。
「……されました。」
「上手かった?」
「上手いもなんも、一瞬だったし。新太が羽交い絞めして引き離したから。」
何の言い訳だこれは、と鹿男は冷静に考える。責めるでもなく昌良は鹿男の前に座って、
五センチ程高い背を丸めるようにして器用に作った上目遣いで見上げてくる。
分かりやすくむくれて昌良が言った。
「やっぱしたんや。鹿男ちゃんは俺のやのにぃ。」
「そんな事言いつつも、お前もあんま怒ってないじゃん。」
映画二本ドラマ一本その他いくつかをこなした筈の演技を簡単に見抜いて、冷めた目付きの鹿男は
何言ってんだかと言いたげに反論する。

「うーん、アイツも飼い主決まっとるからなぁ。今ひとつ怒る気になれんわな。」
酔っ払ったO端の悪癖には昌良をはじめとして幾人も被害にあっている。
しかもニュータイプなO端にはコミュニケーションの一環らしく、ケロっとしたものなので
怒りも出来ない。どれだけ酔っても時田にだけはしないというのがO端らしくて、
怒れない原因の一つであったりもした。
分かり易い昌良と、分かり難いO端。ベクトルは正反対だけれど、地球をぐるりと回せば
ブラジル辺りでぶつかるのであろう、二人のご主人様への感情の表し方。
やっぱりこの犬達は似ている。
鹿男は素直にそう思ったけれど、同意するにはひっかかる点が無きにしも非ずだ。
「アイツ『も』って、なんだよ、『も』って。」
「琢也の飼い主は新太。俺のリード握ってんのは鹿男ちゃん。」
「知らねぇよ。お前なんか、半野良の時々餌貰いに来る猫みたいなもんじゃん。何年か前なんか、
ぽーんとニューヨーク行ったっきりで長らく帰ってこなかったし!」
「でも俺は犬やで。鹿男ちゃん、犬顔好きなんやろ?」
突かれると痛い後半はスルーした昌良の小ずるい手法に気付かず、鹿男はまんまと律儀な
つっこみを入れてしまう。
「俺が好きなのは犬顔のオ・ン・ナ、だっつーに。」
「俺は?」
「…………。」
「なぁ、俺はぁ?」
しくこく食い下がる昌良に、鹿男は溜息をついて目を眇めた。奪われたサングラスは
昌良の身体の向こうで取り返せそうにない。表情を晒すのに慣れてはいない鹿男には、
今の状況はひどく居心地が悪かった。昌良との間に嘘を置こうとは思わないけれど、
はぐらかしも出来ない。本能的にそれを知っているからこそ、こんな話になる前に昌良は
サングラスを抜き取ってしまったのだろう。野生の勘って怖ぇえな、と鹿男は現実逃避的に思った。
口に出して言わなければ昌良は納得しないだろうけれど、シラフで目の前の男に愛を囁ける程
鹿男も根性が座っては居ない。
しょうがないと、鹿男は昌良の膝に手を突いて軽く伸び上がった。
触れ合わせた唇からは、微かに煙草の味がした。

「嫌いでこんな事出来る程、俺は酔狂な性格してないよ。」
すぐに離れた薄い唇が吐いたのは、ひどく遠回りな愛の言葉。昌良に届かない筈はなかったけれど、
素直に受け取ってはくれないらしい。一言で言い返されてしまう。
「琢也ともしたやん。」
「そこに戻んのかよっ」
「戻るの。なぁなぁ、これってひょっとしてヤキモチ?」
「どっちかってーと、縄張り争いに見えるんだけど。」
「なーんや、人生初ヤキモチかと思ったのに。」
つまらんと呟きながらこれまでの人生で嫉妬という感情を覚えた事がないという昌良は唇を尖らせた。
その子供じみた表情がやけに可愛くて、鹿男の口元が無意識に緩む。
「あれは『された』であって、俺からはしてないの。」
「んー、それはそうかぁ。よし、おいで。」
どこでどう納得したのか、昌良はからりと笑って両手を広げて鹿男を呼ぶ。
「はぁ?」
「だっこさせてぇや。最近スキンシップ少なかってんし。」
「やだよ。」
「じゃぁ、さっきの蒸し返す。んでめっちゃグレる。盗んだバイクで走り出すで」
「脅してんの、それ。」
「うん。」
しつこく両手を広げたままの昌良に折れて、鹿男はやれやれと口の中で呟きながら結局こうなるのかよと
傍に膝立ちでにじり寄った。
昌良は鹿男の腰に腕を回すと、ひょいっと持ち上げて自分の膝に乗せてしまう。
まさかそこまでされるとは思ってもおらず鹿男は面食らった。
「耶麻崎、」
「んー、何ぃ?」
「流石にこれはないんじゃないの?」
「えぇやん。誰が見てるでもなし。」
対面で向き合うのは誰かに見られていなくとも照れくさかった。でも昌良のにっこにっこした笑顔を
向けられると、文句も言えなくなる。

「鹿男ちゃんは俺のやーって、時々言いたくなる。」
ちょこっと小首を傾げて昌良が鹿男を覗き込む。声のトーンに微妙に滲んだ色合いの真面目さに、
鹿男は視線を逸らさずに昌良を見つめ返した。
続きを促すでもなく、ただ待つ。
「俺らも、増えたやん。」
大きくなった事務所を指しているのだと、すぐにわかった。
「嬉しいけど、鹿男ちゃんとの距離が離れるんは嫌や。」
ずっと付かず離れずよりも少しだけ近い距離でいたから、ここまで直球の駄々をぶつけられた経験は
なかった。
意外に長い睫毛が伏せられる。泣くのではないかと思ったけれど、昌良は泣きはしないだろう、絶対に。
鹿男は黙ったまま昌良の癖のある髪を抱いてやる。
肩口に預けられた頭の重み。ゆっくりと撫ぜてやると、昌良の肩から力が抜けるのがわかった。
「馬鹿だなぁ。」
ようやく出た声は、自分でも驚く程甘かった。
そーゆーとこもいとおしいと告げたら、耶麻はどうするだろう。ちらりと考える。
「わしもそう思います。」
苦笑いの混じった声が返って、それを渡す機会を逸してしまう。
心を軽くしてやる事ならば、多少は出来るのかも知れない。昌良が望んでくれるのならば。
以前はある事は知っていても眼前に晒しては貰えなかった弱みの片鱗を、
今ようやく見せられているのだと、妙な感慨が浮かんだけれど押し殺す。
声が震えない様にとブレスを一つ挟んでから、鹿男は笑みを作った。
「今日子さん挟んでさ、俺とお前が両翼固めないでどうすんの。しっかりしてよ、長男。」
「へいへい、僕は長男ですからねぇ。」
コロコロと一人称を変えながらも昌良顔を上げようとはしなかった。だから鹿男も手を止めたりはしない。
その掌に励まされるように、小さな声が続けられる。

「歌って、自分の中で生まれて、声に出して、んでただ消えていくもんやと思っててんわ。
一人で発信して、一人で終息するみたいに。……でも、ここに辿り着いて、姫と鹿男ちゃんと
ユニットになったりして一緒に歌って、その人数が増えてアイツらが入って沢山になって。
共鳴して、響いて、広がって、空気に溶けてしまうんは一緒でも、何かこう、誰かの心とか身体に
入り込んで、残って、淡い星の光みたいにチカチカ輝き続ける……みたいなもんかも知れへんなぁ、って。
そう思うようになってんよ。」
「お前がそこまで思えたら、上等なんじゃない?」
人当たりが良い癖に、人付き合いの苦手な耶麻先昌良。
ちょっとずつそれが改善されるのを見ても寂しい気持ちにならないのは、昌良の言葉が
星の光のように鹿男の中に残り続けているからだ。日常の何気ない一言や、酔っ払いの戯言。
そんなものが二人の間には沢山沢山降り積もっている。
「どこにも行かないよ、俺は。ふらってどっか行ちゃうのは耶麻の方じゃん。」
「ちゃんと鹿男ちゃんトコに帰って来てるやん。」
「港のオンナかよ、俺は。」
「いんや、飼い主。」
「じゃぁ鳴け。」
「わんっ。」
ようやく顔を上げた昌良が、冗談に乗って一声鳴いてみせる。嬉しそうに。
「やっぱ馬鹿だねぇ。」
軽く額を合わせて鹿男も笑うと、昌良の目尻の皺が一層深まる。笑顔が連鎖していく。多分、昌良が
先刻恥かしげもなく言っていたのは、こういう事だ。
響き合って、広がっていく。
お互いにしか影響を与えないのではなく、色んな人に投げられて、受け取って、それでいいのだ。
世界に二人だけしかいないなんて、勿体無い。少なくとも鹿男の愛している昌良の声や歌が、
自分だけのものだなんて贅沢は許せない。
不意に、言い訳ではなかったけれど、問題のキスに対する回答が浮かんだ。
「琢也にキスされても嫌じゃないのはね、お前に似てるからだよ。」
「……はぁ?」

「その、非常に犬な所を含めてさ。だから、仕方ねぇなって思っちゃうの。」
「……わん。」
思い当たる節があるのか、今度はとても複雑そうに昌良は鳴いた。
鹿男はそれを見てケラケラと笑い声を上げる。一本取返したような気分になった。
でも、それを口にしたのは、そんな高揚感からじゃない。
例えば、声に出しても消えてしまうだけのものでも、昌良の心の中に残ってほのかに光る星に
なってくれればいい。そんな明かりが、時と共に瞬きを増やして星空のようになればいい。
昌良が鹿男の中に描いてくれる星座のように。
「ほら、耶麻先」
「あい?」
「好きだよ。」
言って貰えるとは思ってもみなかった言葉に目をまんまるにしてぽかんと口を開いた昌良の鼻先に、
鹿男は笑って口づけた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

耶麻が結婚したばかりなのに申し訳ない。
でも一瞬本気で「え、鹿男と?」と思った。


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