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ヨン二ハチ 印刷屋×ライター

サンノベ「シブヤ」の印刷屋×ライター、おまけ程度にバナナ刑事×研究者
バッドエンド埋め記念にやってやった

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シティホテルのエレベーターに乗り込みながら、片/山は何故自分がここにいるのかを思い返した。
今日は土曜日。仕事は休みである。
大手印刷会社の営業ともなれば、週休2日など都市伝説かのような多忙を極めるが、片/山は労働者の権利を放棄したりはしない。
否、自分に忠実に仕事をしていれば休みは勝手に向こうからやってくる。
今日は、午前中にフィットネスクラブで汗を流した後、行き付けの喫茶店で自分の担当する雑誌を眺めながらコーヒーを飲み、
夜はズワイガニとアスパラの冷製パスタとワインで胃を満たす、そういう予定だった。全て秒単位で組み立てられている。
――予想外の人物からの電話さえなければ、彼はシティホテルになど足を踏み入れることもなかった。
指定された14階、1421号室のインターフォンを押す。5秒待ってドアが開かなかったら、元の予定に戻ろう。1、2、3…
きっかり5秒後に扉は開き、中から片/山を呼び出した御/法/川が顔を覗かせた。んっ、と無表情で片/山と目を合わせ、入室を促す。
言いたいことは多々あるが、ここで口論になってはならない。ホテルの廊下は公共の場所。これ、社会の常識。

背後でドアのオートロックが作動する音を聞いて、片/山は口を開いた。
「随分と遅かったな」
開いた口は御/法/川の理不尽な言葉に、真一文字に閉められる。
携帯電話が鳴ったのは、片/山がフィットネスクラブを出た時だった。
通話ボタンを押してみれば、ホテルの名前と部屋番号、そして今すぐ来い、という一方的すぎる要求がまくしたてられ、あっという間もなく切れた。
「君の電話から今まで経過した時間は18分23秒。別段遅いと指摘されるほどではない」
片/山がきっぱりと告げれば、御/法/川が振り返った。にぃ、と満足気な笑みを浮かべている。
「だが、来たことは誉めてやる!」
ビシィ、と片/山を鋭く指差した。指差された方は、呆れるように息を吐く。
「それで、呼び出した理由をどうぞ」
冷静な対応に御/法/川は拍子抜けするも、すぐに気を取り直して、鞄をごそごそと探る。
「これだ、これを飲めっ」
片/山に突き付けられたのは、小さな茶色い瓶だ。中の錠剤が跳ねて、チャッと音を立てた。
「嫌ですね」
即答した。ラベルも何もないのだ。正規の薬とは思えない。
「まぁ、少し話を聞け」
何の説明もしなかったのはそっちだろうにと思いつつ、片/山は一人掛けの椅子に腰を下ろした。もう一つの椅子には荷物をどさりと置いてやった。
御/法/川は自分の席を荷物に占拠されてしばらく逡巡していたが、片/山の正面に位置するため仕方なさそうにダブルベッドに座る。

「これは、とある科学者が作った薬だ。人体に悪影響のある材料は入っていない。だから、飲め」
「嫌です」
またもや即答。
「…が、せめてどのような効果があるのかぐらいは教えて欲しいですね」
御/法/川の言葉に嘘はない。嘘を吐くことのない男だと、片/山も十分に理解していたが故の最大限の譲歩。
「それは教えられん!」
そこまで分かっていても、返答は理解の範疇を超えていた。
「先入観があると、効果のほどに影響があるかもしれないからな」
と言われ、そうですかそれじゃあ飲んでみましょうか、となる人間がどこにいるのだろう。
片/山が立ち上がると、御/法/川は慌てて手首を掴んできた。
「いいか、この薬が完成すれば全世界の10億…いや20億という人間を助けることが出来るんだ」
御/法/川が上目遣いながらも真っ直ぐな視線を両眼に向けてくる。
人の目を見て話す。これ、社会の常識…なのに、それすらも出来ない人間がどれだけいることか。
「俺は御/法/川/実だぞ。俺を信じろ」
先に目線を外したのは、片/山の方だった。悔しいかな、御/法/川は奇抜な男でありながら、信じるに値する男でもあった。
「なら、騙されてみましょうか」
片/山は再び椅子に座り直すと、手のひらを差し出した。
「騙すだなんて人聞きの悪いこと言うなよ。だが安心しろ、何があっても今日のことは記事にはしない。記事にするのは薬が完成してからだ」
御/法/川は冗談まじりの口調で宣言すると、瓶を傾けた。
1回2錠。水なしで噛み砕く。
「まぁ、何かあったらこの俺が責任とってやろう!」
「ええ、約束ですよ?」
当然だ、と御/法/川が力強く頷くのを確認すると、片/山は何の変哲もない白い錠剤を口に含んだ。

「うーむ、見たところ何も変化はない、な」
手帳に効果を如実に記そうとしていた万年筆は、出番がなくて寂しそうだ。
「10分経過。そろそろ何の薬か教えていただけます?」
10分で効いてくる、とウイルス研究の権威は言っていた。
喫茶店に呼び出され、どうしても会社に内緒で薬の効果を試したい、君しか頼める人がいないんだ、と。
「『素直になる薬』だそうだ」
御/法/川は、喫茶店で説明されたそのままを伝えた。
曰く、ウイルスを参考にし、一点の目的を達成するための行動力を増大させる。
ウイルスと違うのは、目的が人間らしく好意を基としたものに特定される。すなわち、
「言いたい、でも言えない。嫌われたらどうしよう…裏腹な乙女心解消薬ってところか」
御/法/川はつぶやき、何の成果も得られそうもないことに憮然としてベッドに寝転んだ。
それから、はたと気付く。
『好意』を忘れていた。大事な要素だったのに。素直になるという効果に興味を持ちすぎてしまっていた。
自分で試してみようと御/法/川は思わなかった。だって自分はいつだって素直だから。
千/晶で試してやろうとしたが、先に素直になる薬と説明してしまったために全力で拒否された。
その時に千/晶から、片/山さんに飲ませてみたらどうですか?という提案が出たのだ。
あの冷静沈着な気に食わない男が素直になる…純粋に見てみたかった。
だが、それも叶わないことだと分かった。好意を持った相手が目の前に居なければ意味がない。
文字通りお手上げだと言わんばかりに御/法/川は両腕を伸ばした。凝った肩にじんわりと痺れが走るのが心地いい。

「ところで」
平板な声が上から降ってきた。同時に、御/法/川に影が下りる。
「責任をとっていただきましょう。約束は守る。これ、社会の常識…以前に、人間の常識」
片/山がベッドに膝をつき、両腕をがっちりと押さえ込んできた。あまりにも突飛な行動に、御/法/川は目を丸くする。
何なんだこれは、まさか薬が効いているとでもいうのか!?
「はぁ!?…いや、待て待て待て待てぇっ!何のつもりだ、これは!?」
っていうか、効いていたとしたら、それはそれで問題なわけで。だって好意が、ほら、ね?
声を荒げつつ、抵抗を試みる。
しかし体力自慢といっても、御/法/川は取材で走り回るだけの不規則な生活をしているのに対し、片/山は週3回のフィットネスクラブ通いを続け、食事もバランスの取れたもの。
結果。びくともしない。
あれよという間に腹に体重を乗せられ、足での抵抗も封じられてしまった。力が入らない。
「何のつもり?この状態で責任をとると行ったら、一つしかないでしょう」
『一つ』の具体的な内容が頭に浮かんで、背中に冷や汗が染みだしてくる。
嫌だ、嘘だ、待て、冗談じゃない、様々な制止を求める言葉が浮かんだが、全て重なってきた片/山の口の中に消えていった。

日曜日。爽やかな朝の8時。
大/沢は自室でそわそわと落ち着きなく、携帯電話を手にしていた。
早く効果が知りたい。あの薬に効き目があったのか知りたい。託した相手は、土曜日に実験するから待っていろ、と言っていた。
日付は変わった。知りたい、早く知りたい。
大/沢はついに待ちきれず、発信ボタンを押した。コール音が鳴る。なかなか出ない。いつもなら3回で出るのに。
『はい』
出たら出たで、明らかに御/法/川ではない人物の声だった。
「えっ、あ、あなたは?」
『人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗る。これ、社会の常識』
いやに失礼な男だなと思うが、大/沢は戸惑いがちに名前を告げた。相手の返答はない。代わりに、
『こらぁ、勝手に人の電話に出るなっ!』
と電話口から離れた場所で持ち主の声がした。ビシィ、と指を差している姿が容易に想像出来る。
『もしもし、大/沢さんか?』
御/法/川の声は掠れており覇気に欠けていた。
「ああ、今の人は…いや、薬はどうだった?」
『あんた、何てもんを作ってくれたんだ!』
覇気が復活した。
『あれのおかげで酷い目に――うわっ!…ちょっと待て、乗るなっ!こっちは電話が――』
がさごそと布擦れの音と御/法/川の悲鳴にも似た声が聞こえたかと思えば、前触れもなく通話が切れた。
大/沢はしばらく呆然と携帯電話を見つめていたが、ため息を吐いて机に置いた。
酷い目にあった、と彼は言っていた。いや、ひょっとしたら今も…大/沢は責任を感じて頭を抱える。

「大/沢さん、朝食が出来ましたよ――おや、どうしました?」
振り返ると、開いた扉のところに梶/原が立っていた。エプロン姿である。
「いや、何でもない」
首を振り、部屋を出ようとすると梶/原がススッと歩を進めた。
「大/沢さん、我々の間に隠し事は無しですよ」
眼前に顔を突き合わせられ、思わず息を飲む。近い、近すぎる。
「今の電話の相手は?薬って何でしょう?」
何とか白を切ろうとしたが、刑事である梶/原には勝てない。大/沢は、洗いざらい喋らされた。
「なんだ、そんなことだったんですか」
「そんなこととは何だ。私にとっては死活問題だぞ」
梶/原のホッとしたような笑顔が癪に障った。そもそも、私は君に感謝の気持ちが伝えたくて――
「大沢さんは、いつだって素直です」
すっ、と梶/原が頬に手を添えてきた。体中の血液が心臓と顔に集まったかのように熱くなる。
「ほら、すぐに顔が赤くなって。そういうところも好きですよ」
梶/原にそう言われ、大/沢はあっさりと好きな人に素直になれる薬(御/法/川命名・裏腹な乙女心解消薬)の開発を中止した。作る必要は始めから無かったようだ。

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  • 好きなCPが両方同時に見れるとか…貴方が神か。ありがとうございました。 -- 2010-11-26 (金) 16:40:09

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