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夜明け前

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智と伊蔵の9話後あたりの話。この2人はほのぼのっぽいが
本スレからお智恵を拝借して上司2人×武智なんかも少し有り。
そんなにエロは無いですが、痛い描写が少々あるかもなのでご注意下さい。
先生があいかわらずグルグルしてます。

霞む視界に白くくゆる煙が見えた。
日はまだ高く。それでも障子越しに差し込む光はどこか薄暗く。
鼻腔に感じるのは畳の古い井草の匂いと、狭い部屋に満ちる人いきれ。
足を抱え上げる手と肩を押さえつけてくる手は別物だった。
頭上で交わされている声がある。笑っているようにも思える。
しかしその意味までを聞きとる事は出来ない。
一方自分の口からも溢れるものがある。おそらくは無意識の悲鳴。
それは即座に肩から離れた片手が、塞ぐように押さえつけてきた。
口元に感じるその武骨な手の平の感触を、しかしそれならそれで構わないと思う。
自分とてこれ以上こんな姿を、外にいるかもしれない誰かに悟られたいとは思わない。
いずれ変わりゆくだろう己の浅ましい声色を耳にしたいとも思わない。
それくらいなら塞がれ続けている方がましだった。
視界の中で煙が揺れる。
それが組み敷かれている自分の傍ら、置かれている煙草盆の上の煙管からのもの
だと言う事を認識したのはしばらくたった後だった。
傍若無人に押し開かれ、揺さぶられ、それにもはや抵抗する力も無いと見て取られると、
肩を掴んでいた男の手が不意に離された。
茫洋と開かれた視界の中で、その手が傍らの煙管を取り上げるのを見止める。
ゆっくりと運ばれた、その雁首が自分の上で微かに傾く。
火皿から零れ落ちる灰は赤いのだと知った。
その赤が肌一枚をちりりと焼く、その感覚に悲鳴がまた口をつくが、それは再び
広げられた手の平で強く抑え込まれた。
知覚した痛みに揺り戻された意識が、声を声として初めて拾う。
顔は駄目じゃ、足も土イ左まで戻る事を考えれば不憫ぜよ、ならば、
向けられる残酷な好奇の視線に、たまらずに身が竦む。
その脅えが相手を煽る事はわかっているのに、どうする事も出来ない。
案の定、頭上の声は途端喜色を帯びた。
そして告げられる。
可哀想に。愚かな門弟を持ったばかりに。それでも、
おんしの責めは免れんぞ。
先刻も告げられたその言葉が、呪詛のように深く身の内に染みてゆく。
そしてあらためて思い出す。そうだった。覚悟はしていた、最初から。
だからこの時、諦めと共に目は堅く閉じられ、胸の内には繰り返される言葉があった。
大丈夫、自分は慣れている。こんな事には慣れている。慣れている………

それでも―――心は擦り切れた。

瞼の裏で火花が爆ぜる。
その赤さに跳ねるように飛び起きれば、そこはまだ夜も明けきらぬ自分の部屋だった。
辺りに満ちる薄闇に、夢かと武智は深い息をつく。
しかしそうしてあらためて周囲を見渡せば、そこには広げられたままの自分の荷物の山があり、
その寒々しい光景にまたしても一つ吐息が洩れた。
昨夜の内に片付けきれなかった、江戸を去り、土イ左へと戻る仕度。
戻る事情は収次郎には話した。もっともそれは下手な嘘ではあったのだけれど。
だから一瞬いぶかしげな光を灯した彼の視線や追求を恐れ、自分は昨夜遅く、藩の中屋敷から
この世話になっていた道場に身を移すと、短い期間ながらそこに間借りをさせてもらっていた
部屋の整理に取りかかり、そしてそのまま床についた。
さすがに昨夜ばかりは藩邸に戻る気になれなかった。
おそらくは殺到するだろう皆の問い掛けに、冷静を装う余裕も気力も無かった。
それでも、逃げてばかりいる訳にはいかない事もわかっている。
日に日に冬へと向かう朝の空気は、今見た夢にうっすらと汗ばんだ肌に冷たく、
武智は布団の上に掛けていた羽織を引き寄せると、それを肩に掛けた。
まだ早い時間だが、もう一度眠る事は出来そうになかった。
だから起き上がり、着替えようとする。その時、
不意に部屋の戸の向こう、続く廊下の奥の方からなにやら騒がしい気配を感じ、武智は
手早く着物を改めると、戸を引き開けた。
騒ぎは聞き間違いではないようだった。
廊下の奥から徐々に近づいてくる乱雑な足音と入り乱れる声。
一方が制止し、一方がそれを振り払うような、そんな気配が角を曲がり現れる。
その瞬間、武智の目に飛び込んできたのはひどく取り乱した様子の伊蔵の姿だった。
驚き、一瞬声も無かった自分を、見つけた彼の目が大きく見開かれる。
「武智先生!」
刹那、大きな声で叫ばれる。
それに武智は何事かと問う前にその事情を察していた。
あぁ、彼も知ったのか。
だからそんな彼を必死に押し止めようとするこの桃居の道場の門弟に、この時武智は静かに
声をかけていた。
「朝から騒がせてすまんかったな。こやつとはわしが話をするきに。」
おそらくは踏み込んできた伊蔵から自分の眠りを守ろうとしてくれたのだろう、そんな相手に
ねぎらいの言葉を与えれば、その門弟は一度複雑そうな視線を伊蔵に向けながらも塾頭であった
武智に黙って頭を下げた。
そしてその場から立ち去る。
後に残されたのは二人だけとなった。
伊蔵の息はまだ整わないようだった。それでも見上げてくる大きな瞳には苛烈なまでの激情が
浮かんでいる。だから、
「ここで騒いでは先生や先生のご家族にもご迷惑がかかる。」
部屋を間借りしている道場主への配慮を口にし、武智は伊蔵にひそりと告げた。
「外へ出よう、伊蔵。」

百井道場は二つの川と合流する三十間堀の河岸にあった。
その堀沿い、藩邸の方角には背を向ける形で武智は歩く。
辺りはまだ薄暗く、道には人影も無く、そんな中伊蔵は先程の勢いはどこへやら、ただ黙って
自分の後ろを着いてきていた。
だから武智はこの時、静かに口を開く。
「国元から手紙がきたがじゃ。」
「…………」
「婆様の具合が悪うなっての。先も危ういやもしれん。せやきに、藩に帰国の許しをもろうた。」
考え、繰り返し声にし、ようやく人に告げられるようになった説明。
そして武智は伊蔵にはこうも付け加える。
「じゃが、心配せんでもええ。帰るのはわしだけじゃ。おまんと収次郎についてはそのまま
江戸に留まれるよう話はつけてある。」
元は自分の江戸修行の願い出の時に同行を許してもらった二人だ。
だが彼らは今回の自分の動向とは関係ないのだと、その立場を安心させてやろうとする。
しかしそれに伊蔵はこの時ハッと息をのんだようだった。
「わっ、わしはそんな事を気にしちゅう訳では…っ」
叫ぶ言葉が途中で詰まり、一瞬の惑いの後、地面を蹴る音が背後で聞こえる。
勢いよく自分の前に回り込んでくる、彼は自分を真正面に見据えるとこう叫びの続きを口にした。
「わしも一緒に行きますきに!」
「伊蔵?」
「先生だけを一人で帰す訳にはいかん!」
悲痛な声色でそう告げてくる、そんな伊蔵に武智は一瞬戸惑いを覚える。
が、そんな違和感は胸の内に押し隠し、今は年長者の度量で諭しを口にしようとした。
「何を言うがじゃ。帰るくらいわし一人で大丈夫じゃ。それよりおまんは、残りの滞在期間で更に
剣の腕を磨き、立派な侍に…」
「武智先生!」
ありきたりな説教は無用とばかりに、再度叫ばれる名。
いつもは自分の言う事をいっそ従順なまでに聞く、そんな彼の頑なさにこの時武智は明確に
いぶかしさを覚える。だから、
「どうかしたがか、伊蔵?」
うかがうように問う。するとそれに伊蔵は瞬間泣き出しそに表情を歪めると、クッとその顔を伏せた。
「……の…せいじゃ…」
「……………」
「わしが…涼真を頼ったきに…先生が……」
ぽつぽつと落とされる、その呟きに武智はハッとする。
彼の言おうとしている事。それは彼が真相を知っているとは思えないが、それでも今回の一連の事の
顛末の本質を少なからず突いていた。
数日前に起きた、自らの門弟が引き起こした不始末。
夜道で拾った商家所有の舶来時計を質屋へ持ち込み、盗品と見抜かれ、奉行所へ訴え出られた。
その処分は上司から自分に任された。そしてそれに自分は切腹を申しつけた。
けれどそれに涼真は抗い、自ら動き、商家に訴えを取り下げさせると自分に情状酌量を願った。
しかし……自分はそれに応えられなかった。
切腹は予告した通り、日の出と共に。
しかしその朝を待たず、その門弟は夜の明ける前、姿を眩ました。
証拠は無い。痕跡も無い。しかしその手引きをしたのが涼真だろう事は自分には察しがついていた。
そしてそれを心のどこかでほっと安堵している自分がいる事も事実だった。
罪を犯したとは言え、自分を慕ってくれた教え子であり仲間でもあった者だ。
許してはやりたかった。助けてもやりたかった。
だが同時に、そう思ってしまう自分自身の弱さが、許せなくもあった。
自分一人だけならば、なりふり構わぬ事も出来たかもしれない。
しかし今の自分には背負う物がありすぎた。
唱えたい主張がある。国の行く末を想う理想もある。それに共鳴してくれる仲間もいる。
しかしそれらの事を成すには、藩内で連綿と続く身分差はあまりに大きな弊害で、それを改めさせようと
思えば、まず取り掛かれる事は下司全体の規律を正し地位向上を図る事くらいだった。
侮られぬよう、隙を作り見下されぬよう、必ず自分達の存在を認めさせる。
そう皆に触れを出した、これはその直後に起こった事件だった。
だから見逃してやる訳にはいかなかった。
彼一人への情と仲間全員に対する責。
それは自分の立場では、秤にかけてもいけない事だった。
なのに……揺れた。自分の弱さ、それは自分だけの罪だった。だから、
「涼真は…関係ないきに。」
後悔の念を口にする伊蔵に静かに語りかける。
しかしそれにも伊蔵は首を激しく横に振った。
「せやきに、わしが涼真を呼んで、事を大きくして、それで少しでも希望を持たせてしもうたから
あいつは逃げ出すような事しでかして……そのせいで武智先生が…」
訴える主張は、やはり少し的を外している。
けれど今回の事で自分に累が及んだ、それを察しているらしい伊蔵の勘の良さに武智は少しの驚きを抱く。
まだ子供だと思っていた。
素直で、幼く、導いてやらねばならないとばかり思っていた。そんな彼が今、自分の事を慮って
悔恨を口にする。
だがそれを武智はやはり無用だと思った。
あの者が逃げようと逃げまいと、処罰がされようとされまいと、どのみち、自分の責任は
多かれ少なかれ免れはしなかった。だから、
「おまんは、何も気に病まんでええ。」
本心からそう告げる。けれどそれに伊蔵は納得を見せなかった。
「武智先生!」
責めるように縋るように名を呼び、その手を伸ばしてくる。そして掴まれた二の腕。
指が着物越しに強く肌に食い込む。その瞬間、武市は肘の内側に走ったひりつくような痛みに
思わず顔を歪めていた。
「……つっ…」
口の端からも噛み殺せなかった声が洩れる。それに伊蔵は慌てたようにバッとその手を離してきた。
「すっ、すいません!」
自分の手と武智を交互に忙しなく見やり、うろたえる。
それに武智は腕の痛みが治まるのを待って、一度深く息を吐いた。
そしてゆっくり顔を上げる。と、そこには堀沿いに営まれている茶店の、軒先に寄せられた腰掛けが
あるのが目に止まった。
「少し、座るかえ?伊蔵。」
言い、返事を待たずに踵を返す。
そして無意識に肘を庇うように腰を下ろし視線を上げれば、そこにはまだ尚困惑したように
道の真ん中に立ち尽くす伊蔵の姿があった。
途方に暮れたような、そんな頼りなげな様子に思わず苦笑めいた笑みが唇に浮かぶ。
だからそれを開いて、
「来いや。」
もう一度呼び寄せれば、それに伊蔵はようやくおずおずと歩を進めると、指示された武智の横へ
その腰を下ろしてきた。
身長の差から見下ろす形になる、その肩越しに言葉をかける。
「少し前に痛めての。別におまえのせいやないきに。」
繰り返す、それは今回の事も、腕の痛みも。
思いながらもう一度触れる場所。
着物越しに確かめる。そこにあるのは、癒えきっていない火傷の跡だった。
処罰者の逃亡を許した、その申し開きをする為に訪れた上司の部屋で施された、それは罰と言うよりは
ただの嫌がらせだった。
普段の姿では気付かれる事の無い。しかしわずかでも腕を晒す機会があれば余人に見咎められるだろう
位置につけられた所有の印。
おそらく彼らにとって自分はもともと目障りな存在であったのだろう。
下司の分際でありながら、藩士らが多く通う百井の道場で塾頭に任じられた。
だから今回の騒動は、自分を痛めつける良い材料だったのだ。
身に加えられた私情交じりの制裁。
しかしそれに自分が何を言えるか。
いや、むしろこれは僥倖と捉えるべきであったかもしれない。
本来なら下司全体に及んだかもしれない処断が、目先の欲にかられた彼らによって己一人に向けられたのだから。
それでも、事が済んだ後に告げられた処罰。
江戸を辞しての土イ左戻り。
責の罪状としては軽いものだったのかもしれないと受け止めながらも。
それでも……心はさすがに軋んだ。
知らずため息が漏れてしまいそうになる。しかしそれを意識して殺した武智の隣り、この時
膝に置かれた伊蔵の拳を握った手の甲に落ちる何かがあった。
いぶかしく思い、視線で追う。
うつむいた伊蔵の顔から落ちる、それは彼の涙のようだった。
頑是ない子供のように小刻みに肩を震わせて泣く、その姿に武智はつい先程成長したと思ったのに、と
不意におかしくなる。だから、
「顔を上げや、伊蔵。」
優しく命じて、しかしそれに伊蔵は首を横に振れば、今度は手を伸ばして。
頬を包むようにしてこちらに顔を上げさせれば、そこには止めどなく涙を溢れさせる大きな瞳があった。
触れた彼の、自分の為に流される涙は温かかった。
そしてそれを温かいと感じられる自分が少し不思議だった。
身に受けた痛みと共に擦り切れると思った。
一輪の花を愛でる事の出来る人ではないかと指摘をされれば、疼き苦しかった。
繰り返され、積み重なっていく苦痛にいっそ無くなってしまえば楽になれるかもしれないとさえ
思った心が、しかし今触れた温かさを飢えたように求めているのがわかる。
それは自分の弱さだった。戒めなければならない。けれど、
「そんなふうに、泣かんでもええ。」
二人以外誰もいないこの場だけは今少しの間、許して欲しかった。
「わしなら大丈夫じゃ。せやきに、おまんはおまんでここで頑張ればええ。剣の腕を磨いて、
見聞を広めて、そして土イ左に戻ったら、その時はわしにまた力を貸してくれ。」
「……………」
「それを誓うてくれる事が、何よりの旅の手向けになるがぜよ。」
教え諭すように。告げたその言葉に伊蔵は頬を取られたままこの時何度も頷きを見せた。
懸命なその稚い所作に、やはり笑みが誘われる。
だから濡れる頬を指の腹で拭ってやれば、それに伊蔵はすいませんと自ら袖でそれを拭く素振りを見せた。
だからゆっくりと手を離し、見下ろす。その肩に武智はこの時、ふらりとその額を寄せていた。
「…武智先生っ?」
驚いたような伊蔵の声が耳に届く。けれどそれにも伏せた顔は動かさなかった。
「おまんの肩の高さはちょうどええ。」
「……は…い…」
「このところ、ちっくと眠りが浅くての。せやきに……」
ほんの少しだけ……
身の重さを少しだけ預ける、その胸に誓う想いがある。
支えを乞うのはこれで最後にする。約束を、するから……
辺りに人影は無く、音も無く、そんな中でただ二人、息をひそめて寄り添う。
夜が明ける前の闇は一際暗い。
それでも彼のこの温もりを覚えてさえいれば、自分は今しばしその中で耐えられる気がした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
白先生とお花イゾー、書けるうちに書いておく。
本スレ姐さん達、いつも素敵な妄想ありがとうございます。煙管ネタ萌えました。


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