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原因と結果

ふと目が覚めた。
暗い部屋に目が慣れてくると、うっすらと家具の輪郭が浮かんでくる。
水が飲みたい。
一旦そう思うと、喉の渇きが我慢できない。
隣の寝息を乱さないように、そっと布団から抜け出る。
自分の部屋では無いものの、通い慣れ、泊まり慣れた部屋である。
さしたる迷いも無くドアを向かおうと立ち上がったつもりが、へなへなと床に座り込んでしまった。
「マジかよ……」
体ががくがくして、腰に力が全く入らない。

何故こんなことになったのか。
原因は分かってる。
今も安らかな寝息を立てているこの部屋の主のせいだ。
新曲の練習が終わった後部屋に来て、風呂から始まりベッドに移動して、何度も何度も愛された。
宝物を扱うかのような優しい指先は、どこまでも甘く追い詰めてきて、半ば失神するように眠りに落ちた。
「あんなに放してくれなかったら、そりゃ腰も立たないよな」
ある種の納得と諦めが混じったため息を一つつき、布団の中から手探りでTシャツとボクサーパンツを引っ張り出して身に着ける。
サイドテーブルに手をかけてなんとか立ち上がって壁伝いに歩き出した時、背後で衣擦れの音と共にスタンドライトの小さな灯りがともった。
「ひろ、み……?」
かすれた声に心臓が跳ねる。
この寝起きの声で名前を呼ばれるのが一番好きだ。
もちろん本人には一生言うつもりは無いけど。

「比呂巳、なんでそんな格好してんの?」
言われて己の姿を確認してみれば、へっぴり腰で壁にすがっていて、まるで老人のようだ。
「誰のせいだと思ってるんですか?まっすぐ立てないんですよ」
「マジで?」
驚いた声に続いて噴出している。
ムッとした瞬間、軽々と抱え上げられた。
「ちょ、ちょっと!なんでお姫様抱っこなんですか!?」
「なんでって俺の姫みたいなもんじゃん」
「俺は男です」
「知ってるよ。で、どこ行こうとしてたんだ?トイレ?」
「違います。喉が渇いて……」
「おっけー。水持ってくる」
ベッドに下ろされ、部屋を出て行く背中を見送る。

「タフだなー」
こっちは腰が立たないのに、向こうはダメージゼロ。
お姫様抱っこする余裕すらあることが、なんとなく腑に落ちない。
時計に目をやると、3時を回ったところだ。
疲れてくたくたなのに、変な時間に目が覚める事がたまにある。
今日もそんな日なんだろう。
「お待たせ」
ペットボトルを受け取ろうと手を出すと
「俺が飲ませてやるよ」
「大丈夫ですよ」
「いーから、いーから」
「でも……」
水を含んだ唇に反論を封じ込められる。
流し込まれた冷たい水が驚くほど甘いのは、喉が渇いていたせいなのか。流し込む相手のせいなのか。
唇の端から零れた水が首筋を伝うのを丁寧に舐めとられると、それだけで息が弾む。
もう一口、と流し込まれ、水が無くなっても唇は離れない。
絡めた舌で口の中を探られると、体の芯に熱が宿る。
「…ん……だめ、ですよ……今日もしゅう、ろくが」
途切れ途切れの抗議に力があるはずも無く、呆気無く押し倒された……。

「だから駄目だって言ったじゃないですか」
収録で大失態を演じた俺の前で土下座する人物を睨むのは、この日の夜のお話。

 

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