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スーパーマリオブラザーズ  マリオ→←ルイージ  「ごめんね、にいさん」

いったい…


いったいいつからだっただろう。


ボクは謎の倦怠感に時々襲われるようになっていた。
最初のうちはただの疲れと一蹴し放って置いていたのだが、
その症状は日を追って酷くなり、ベッドに倒れこんでしまいそのまま動けない。
なんてことも日常茶飯事となっていた。


体の異常に気づいていながらもボクはにいさんの前ではいつも通りにふるまった。
なんとなく、症状を訴えても相手にしてもらえないような。そんな気がしたから。
もし、自分がこんなにも苦しいのに軽くあしらわれてしまったら、と考えると
なぜだかものすごく恐ろしく感じた。まるで自分の存在を全否定されるような
感じがして自分から言い出すことができなかったんだ。


「・・・ルイージ、お前最近おかしいぞ」

「えっ・・・いや、そんなことないと思うけど?ボクはいつもと同じだよ? 」

「なにかあったのか?顔色が良くない。」

「だっ・・大丈夫だってば!にいさんは心配性なんだから・・・・・」

「もしかして具合でも・・・・・」


幼少のころからずっと一緒に暮らしてきただけあってにいさんはボクの体調の変化を感じ取ってくれた。
けれどそれに答えることはできない、しちゃいけない。という思いが半ば脅迫観念のように
頭にこびりついて逆らえない。


「もういい・・・もう聞きたくないよ・・・・」

「・・・ルイージ?」

「ごめんにいさん。ボクもう眠たくなっちゃった・・・悪いけど食器の後片付けやっておいてくれないかな・・・
ほんとごめんね・・・・・」

「おいルイージ待て、話を――」

にいさんが言葉を言い終わるのを待たず、ボクは寝室へかけこみ、ドアを閉めた。
ついでに兄さんが追ってこないよう鍵も掛けた。

緊張から解放され、ベッドに倒れ込み目を閉じる。
このころになってくると、倦怠感のほかになんていうのかな・・・・胸の内に不安定な空虚感?みたいな感覚が
居座るようになってきた。それがどうしたって拭いきることが出来ない。


ほんと・・・・・どうしちゃったのかな・・・・


不安で仕方がない。この前病院で身体の隅々まで調べてもらったが
どこにも異常はなかった。
だとしたら現にボクの身体に起こっていることはいったい何・・・


考えれば考えるほどいやな想像しか浮かばない。気が沈んでいく。
そうしてまた不安に心を食われる。完全なる悪循環に乗せられてしまった。


「もう・・・いやだなこんなの・・・・にいさん、ごめん・・・」


身体と心の言いようもない苦痛に苛まれたルイージが、今まで考えていた最悪の結果を心待つにそう時間はかからなかった。

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「死にたい―――」

いっそなにもかも、肉体さえ脱ぎ捨てることができたなら・・・
そんな考えがもはやルイージの心を覆いつつあった。

ボクが死んだらにいさんはどうなる?一人ぼっちで生きていかなくてはならないんじゃないか。
そういう考えももちろんある。

だけどこのままずっとこの状態のボクと暮らさなきゃならないにいさんを思うと、
ろくに家事も出来ないところまで来ているぼくと暮らさなきゃならないと考えると
やっぱり一人残しても大丈夫だろうと結論はすぐに出た。


となると・・・・・死ぬことはもう決まったことだとして、問題はいかにして死ぬかということ。
自殺といえども方法は多種多様だ。その中からいかに人に迷惑をかけないか、
死んだあとにいさんと対峙したときいかにショックを受けないか(つまり外見の問題)
という方法を選ばなければならない。


しかしそんな方法、世に出回っているわけがない。
出回っていればとっくにその方法で志願者は皆死んでいる。
多様な自殺手段がこの世に誕生するわけがないのだ。


と、いうわけで別の方法で死に方を探さなければならない。
表の世界で探せないなら裏の世界に求めなければならないだろう。

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・・・・で?わざわざ遠方からはるばるワシのところへやってきたってのかい・・・・・?」

カメックは呆れた口調でルイージに問いかけた。

「ええ、あなたくらいの魔術師となると楽に死ぬことができる薬の一つや二つ
あるんじゃないかと・・・・」

「拷問用の薬ならどのくらい調合してきたかわからんよ。しかし楽に・・・ねえ・・・・その気になれば
できるかもしれないが・・・・しかし・・・」

カメックはルイージの瞳をまじまじと見つめ、やがて静かに

「よく聞きな、おヌシは病気じゃ。しかもそうとう厄介な代物じゃ・・・」


・・・・病気・・・・・

病気にかかっているだって?いや、そんなはずない。だって・・・


「医者にかかってもわからなかったじゃろう・・・?」


ルイージの心を先読みしカメックが答える。

「それは当然のことじゃ・・・・おヌシの身体は健康そのもの・・・・蝕まれているのは心の方・・・」

「心の方・・・・どういうことですか。」
心の方・・・・か・・・何故だか妙に納得できてしまっていた。


「最近外には出たか?」

「いえ・・・洗濯物以外ではでてない・・かも・・」

「最近、天気はどうじゃ?」

「はあ、最近は曇りとか雨とか・・・そんな日がしばらく続いていたと思います・・・」

「最近、楽しいと感じたできごとはあったか?」

「いえ。まったく。」

急にカメックによる質問攻めが始まった。
天気のことなど聞いて何になるのかと思ったが、思い返してみると
暗い空ばかりで気が重くはなっていたかな、心当たりはあったかもしれない。

「ふうむ・・・やはりな・・・」

「やはりって・・・・何がですか?」

「今のおヌシの心は鬱の状態に陥っておる。」

「あの、うつ・・・・ってなんのことだかさっぱりなんですけど・・・」

ルイージは軽い混乱を覚えながらもやっと問うた。
うつ・・・だっていわれてもそんなもの見たことも聞いたことすらない。

「そうであろうな・・・この国では滅多に目にかかれないものじゃ・・・ある東方の国では
それほど珍しくもないと聞くがな・・・・」

「・・・・それって・・・治るものなんですか・・・・」

「ふむ・・・重症化してるとしたら治すのには相当難儀するであろうな」

「じゃあ、もうボクは・・・?」

治らないってこと?
そうならばもうずっとこのまま身体の変調と一生付き合っていかなくちゃならないってことになる。
それこそ、死ぬより辛い。

「いやまて、そう早まるものでもなかろうよ。みたところおヌシはその状態に陥ってから
あまり日がたっておらん。病状も軽度と数えてよいだろう。」

「これでも、ですか・・・」

「日がたてばたつほど厄介なものじゃからな。このくらいの症状ですんで良かったと思いな。」

さあて・・・どうするかねぇ。とカメックは軽いため息をつきなにか少し考え事をしているそぶりを見せた後、
なにかをひらめき、

「よし、わかった。いまからおヌシに薬を処方してやろう。・・・・・・ちょっと席をば外させてもらうよ。」

と、奥の部屋へ引っ込んでいった。

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部屋の奥からなにやらカメックが何者かに指図しているような話し声が聞こえた。
何をしているのだろう。しばらくすると奥からカメックが戻ってきた。

「これで完了だよ。薬は家へ送ってやった。薬より先におヌシが速く家に着くことの無いよう、
ゆっくり帰りな。」

「これでボクは治るんでしょうか・・・その・・・病気に・・・・」

案外あっけなかった。というか途中からここへ来た目的が変わってしまっている。
でもまあ、いいか。死ぬのを思いとどまることができた。
身体の異常の原因がわからずそのまま死んでしまっていたらと思うと今となっては
すごく恐ろしい。

「わからんね。すべてはおヌシの――いや、家へ帰ったらすべてわかるじゃろう。さあ
診察は終わりだ、気をつけて帰りな。」

「ありがとうございます。」
ぺこりとおじぎをし、カメックの家を後にしようとしたルイージがドアの前でぴたりと止まった。

「あの・・・1つ訊きたいことが」

「なんじゃ。」

「なんでボクを診て下さったんですか。ダメでもともとだと思っていたのに・・・・」

「ワシに殺されることも計算に入れてここにやって来たのじゃな・・・・わかっておった」

カメックの言葉を背に受けルイージはこくりとうなずく。

「いいんじゃよ・・・・ワシはもう隠居の身・・・カメ族とおヌシら兄弟との確執なぞ知ったことか。
精神専門の医者をやっている頃を思い出した、それだけじゃ。」

「そう、ですか・・・・」

ルイージがドアに手を掛ける。

「そうじゃ、それと・・・・」

「・・・・・?」

「もう、死ぬだのなんだの言ってはいかんぞ。」

「・・・!・・はい。」

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ルイージはカメックの言いつけ通り、ゆっくりと家路へと向かった。
もう夕方だ。・・・・そうだ、にいさんはどうしたかな。
もう死ぬ気でいたからなにも言わず何も残さず家を出ていっちゃったんだっけ。
心配、してるかな。


いや、それだけで済むといいけど。
なにせ心配性でブラコンのにいさんをなにも告げず置いていったなんて。
あったら何ていえば・・・どんな顔されるかな・・・・


「・・・ただいま・・・・」

「ルイージ!?おまえ・・・・・」

家へ入るなりにいさんが驚いた顔でこっちを見てくる。

「にいさん・・・えっと・・・・」

こういうとき何ていえばいいのかわからなくなってしまった。
弁明か、それとも何もかも話してしまうか。時間にして数秒たらずのはずなのに
いろいろと考えてしまった。

ボクが考えを巡らせているうちに、にいさんが僕に歩み寄ってきて――

やさしく、でも力強く僕を抱きしめた。


「ルイージっ・・・・」

にいさんは泣いているようだった。
それを見て、やっとボクはボクのしでかしてしまった事の大きさとおぞましさを知った。

「話は全部、カメックから知ったよ。」

「えっ・・・・なんでそれを・・・?」

カメックから知った?いったい何をしてくれたというのだろう。

「カメックから使いのパタパタが家に来た。手紙を渡しに来たんだと。その手紙にはおまえが俺に隠していたことの
すべてが書いてあったんだ。」

・・・・・・・・カメックの言っていた「薬」とはこのことだったのか。ボクたち兄弟のことなど興味ないと思っていたのに
ちゃっかりにいさんがブラコンなこと知っていたんじゃないか。

ボクが考えを巡らせているうち、意外な声が部屋に響いた。


「いきなり窓にパタパタがぶつかってきたときはびっくりしたわよ。」

「!!ピーチ姫・・・」

「マリオがね、真っ青な顔して城に来たのよ。ルイージがいなくなったって。」

姫の話によるといきなり転がるように城にやってきたマリオが姫にルイージ捜索を頼んだらしい。

「その時のマリオ、半分泣いてたわよ。突然ルイージがいなくなった、どこ探してもいないってね。」

「・・・・姫、もうその辺でやめてくれよ。」

マリオが姫に文句を言ったがかまわず話を続ける。

「城の者たちがルイージを探して、マリオと私は家へ帰ってくる可能性を考えてここで待機。
あなたも辛かったかもしれないけど、家であなたの帰りを待つ私たちもずっと心配していたの。
マリオは特にね。」

「うん・・・・いろいろ迷惑かけちゃったね・・・にいさんにも、姫にも。
何て謝ればいいのか・・・」

俯いたボクを見て、姫は少し慌てて、

「いいの、いいのよ。とにかく何も考えすぎはよくないわ・・・・それとマリオ、あなたなんでも
ルイージに押し付けちゃダメよ?」

と、にいさんをちくりと注意したあと

「・・・そうだわ、私もう城に帰らなくちゃ。ルイージが見つかったって皆に報告しないとね。
まだ必死になって探しているわ。」

「じゃあ、ね。あとは二人にまかせるわ・・・・ふふっ」

・・・意味深な含み笑いをしつつ家を出て行ってしまった。


姫が家を後にした後、しばしの間部屋に沈黙が流れた。
それがどうにも居心地が悪い。

「に、にいさん・・・・そろそろ離してよ・・・」

にいさんはまだボクの身体を離さないでいた。

部屋にはもうボクとにいさんの二人だけしかいない。けどどこか恥ずかしいような
嬉しいような、くすぐったい感じがたまらなかった。

「ルイージ・・・ずっとおまえにさみしい思いをさせてしまったな。俺は、おまえの兄貴失格なのかも
しれない。」

「なんで・・・何でそんなこと言うのさ・・・・にいさんは謝る必要なんかないよ。にいさんのせいなんかじゃない」

「このまえ・・・俺はずっと家にいなかった・・・・そうだよな?」

たしかに、ついこの間にいさんがひょっこり帰ってくるまでの時間が今までの冒険とは比べ物にならないほど
長引いていた。今度ばかりはさすがにヤバいんじゃないかとボクは毎日不安に過ごしていた。
けど、結局にいさんはボクの所に戻ってきたんじゃないか。これで終わったと思っていたのに・・・・・

「俺、しばらくは冒険には出ないよ。いっしょにいよう、ルイージ。」

「にいさん、ありがとう・・・・」

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その日を境にボクの心と身体は快方に向かって言った。それからしばらくたって、

「にいさん、もうそろそろ冒険にでも出てみたらどう?」

「でも・・・おまえは大丈夫なのか?」

「うん・・・・もうだいぶ良くなったし、にいさんも息が詰まってた頃なんじゃないかと思ってね。」

「・・・ほんとにいいのか?」

「大丈夫だって。もう不安なことは一つもなくなったし。にいさんがボクのこと愛してくれているってことは
毎晩いやというほど・・・・」

「あああわかった、わかったからもう・・・・そうだな、また外の世界に出てみるのも悪くないか・・・」


ボクの許可が出てから少し経って、にいさんはまた冒険の旅に出ることになった。

「なるべく・・・いや絶対に早く帰ってくるから・・・・」

「そんなに気を使わなくてもいいよにいさん。」

「いや・・・それではまだ・・・よし、おまえがもし戻って来いと言ったらすぐにでも戻ってくることに・・・」

 

・・・・・・・・元来にいさんが持っているボクへの心配性はだいぶ悪化してしまったようだ。
さすがにこのレベルとなってくると申し訳なく感じる。

「いやいいってば、そんなことよりにいさんも体に気をつけてね?」

「ああ・・・じゃあ、行ってくるよ。」

毎回この瞬間はさみしいものだけれど、もうあんなことにはならないだろう。
あの一件でにいさんはボクが思っている以上にボクのことを必要としていたってことがわかったから。
だから今は胸を張ってにいさんを見送ることができる。

「いってらっしゃい、にいさん!!」

  • こちらは「モララーのビデオ棚in801板」という書きこみサイトの保管庫です。作品を発表したい場合は、まずそちらに投下して下さい。全て無条件で保管庫に収録されます。 -- 必殺☆収録人? 2010-01-25 (月) 10:41:08

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