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社内恋愛ノスゝメ

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.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 半ナマ・ドラマ腐妄痴態から回辺さんと豹同くんで業務本部時代のお話
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 鬼畜で消耗したので一転ほのぼのに走った
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、< 回→豹ちっくなものの攻受どころか豹のまとも台詞も無い微妙さだよ
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
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 |_____レ"

大きな仕事の終わった夜。
数刻前の騒々しさが嘘のように静けさに包まれた業務本部の部屋へと入ってきた回辺仮名芽は、
ふとその中にひとつの影を見つけて立ち止まった。
「おや?」
デスクにうつ伏せた状態で微かな寝息を立てているのは彼の同僚である豹同真一郎だった。
まだ少しやることが残っていたのだろう、机上には紙の束が積まれている。
(あー、遅くまでお疲れさん)
かくいう自分も例外ではないが、この業務本部の長の片腕にあたると言っても過言ではない豹同は
普段から己の仕事に下の者たちとは比べ物にならないほどの並々ならぬ熱意を傾けている。
業務本部長――域忠志の指示ひとつで海外へ飛び、影ながらその分身のようにして動くこともよくあることだ。
流石にここ最近の疲れが溜まっていたのだろう。今くらいはゆっくり寝かせてやろうじゃないか。
そう考えて、回辺は豹同の隣の椅子を引き、音を立てないようにしてその椅子にそっと腰掛けた。
そのまま何の気なしに豹同の寝顔をひょいと覗き込む。
柔らかく閉じられた瞼、呼吸のために少しだけ開いた薄い唇。無防備な表情は普段よりも少々幼い印象を与えて。
(おお、睫毛長げえなあー)
ここぞとばかりにその造形をまじまじと観察する。
そういえば普段はあまり意識することも無いが、豹同の見目はスマートな長身と目鼻立ちの整った貌に加えて
その声は低く通る美声で、まあ女たちに騒がれる程度には美丈夫と言っても差し支えないものなのだ。
(羨ましいことで)
自慢ではないが自分は異性に騒がれた栄光など無い故に、そこには少しばかり羨望の念を覚えてしまうが。
まあ、仕事の出来る出来ないに見た目なんぞ関係無い!と開き直ってしまえば何ら問題は無い。
これも自慢ではないが、正直その辺の切り替えは速いという自覚がある。大いにある。
「…ん…」
豹同の秀麗な眉が僅かに顰められ、その唇から微かに吐息が漏れた。
もしや自分の気配で起こしてしまったかと、もう一度その寝顔を覗き込むようにして様子を窺った瞬間。
「…域…さん…」

「へっ?」
思わず素っ頓狂な声が口から漏れてしまい、まずいとその手でひたと押さえる。
幸い豹同に目を覚ました様子は無く、ただ少しばかり身じろいだだけのようだった。
胸を撫で下ろすと同時に今の一言が頭の中でぐるぐる回る。
今確かにしかと直属の上司の名前を聞いた気がするがありゃ何だ。
果たして本当に寝言なのか。寝言だとしてもどうなのか。
普通寝言で男の名前は呼ばない…だろう。…呼ぶか?呼ばんよなあ。ああ、呼ばん。多分。
自慢ではないがそこそこ察しはいい方だ。
ひょっとしたらひょっとして聞いてはいけないことだったろうか。
もしかしたらもしかして禁断のごにょごにょ…的なアレだろうか。
自分もきっと疲れていたのだろう、一気に変な方向に考えが飛んで、一人で無闇矢鱈にどぎまぎして、そして。
(…何か知らんが、こう、妙にもやもやっ…とするのは何でだ?)
ざわりと胸の辺りに違和感を感じた。
そのわけのわからない違和感を振り払うように、ぶんぶん首を横に振る。
とりあえずもうそっとしておこうそうしようと、ぶんぶん首を縦に振る。
知らぬが仏、触らぬ神に祟りなしという先人のありがたい訓辞もあるくらいなのだ。
回辺がそっと席を立とうとしたその時、再び低い声がした。
「付輪さん…」
(はいい!?)
ともに域を補佐するもう一人の名前を耳にして先程以上に面食らった。
今度は声を上げなかっただけでも自分を物凄く褒めてやりたい。
爪先立ちに中腰のまま間抜けに固まり首だけを後ろへぐるりと回したその耳へ、更にとどめのもう一声。
「回…辺さん」
(えええ、俺ええぇぇえ!!??)
心臓が口から飛び出そうなくらい一瞬のうちにどくんと跳ねた。
自分は、少なくとも自分は男の寝言で悩ましげに名前を呼ばれる覚えはこれっぽっちもありゃしない。
疲弊した脳味噌で完全に正常な思考が出来なくなっているのにも気づかず動悸はますます激しくなる。
「…で」
「ん?」
まだ続くのか、と心臓を無理矢理落ち着けて耳を澄ました。

一秒がとんでもなく長く感じられる静寂の中で豹同の薄い唇が動く。
「この仕事…皆で…とりに行きましょ…う…ね…」
「へ…」
それはこの仕事にかかっていた間、豹同が毎日毎日口癖のように繰り返していた言葉だった。
「あー…」
そういう。ことです。か。
全身の緊張が解け、へなへなと崩れ落ちるように回辺は再び椅子に腰を下ろす。
キィッ、キッ、と椅子の背もたれが微かな音を立てた。
(いやいや、何でこんなにほっとしてるかな!)
そりゃほっともするだろう。
よりにもよって直属の上司と同僚の、
社内不倫の上、更に道ならぬ何とやらの発覚現場に立ち会ってしまうかもしれなかったのだから。
そうだそうだ。それ以外の理由なんて特に無い。ある筈も無い。
そもそも何がどうなってここまで妙な勘違いをしたのやら。我ながら全くもって理解に苦しむ。
そういえば自慢では無いが、昔からうっかりどっきり早とちりしてしまうことも存外多かったような。
…本当に自慢にならないけれど。
いや、全てはあんな紛らわしい寝言を発したこの仕事人間のせいだ。
責任転嫁甚だしくも、そう考えると今度は無性に腹が立ってきた。
「大体、何で俺が最後なんだってえのっ」
もう何でもいいから因縁をつけてやりたくて小声でぼそりとぼやきながら
びしっ、と豹同の眉間に曲げ伸ばした人差し指で攻撃を食らわせれば、
豹同は整った眉根を寄せて「んん…」と一言唸る。
しかし最早頑ななまでに起きる気配はちらとも見せない。
「…これでも起きないってどうなのよ」

怒りを通り越して呆れてしまう。だけれど、幼い赤ん坊のように眠り続けるその姿に。
「………まあ、いいか」
神代の時代からいつの世も子供に罪は無いのだから。
「しかしよっぽど疲れてんだなあ…」
仕方ないから豹同が起きるまではここにいてやることにしよう。
済ませなければいけない残業仕事が多いようならそれから手伝ってやってもいい。
そしたら帰りのその道中、一杯引っ掛けて帰ろうか。
何故だか浮き立つ心を胸に、ひとつ大きく伸びをした。背もたれがまた、聞き慣れた音を立てる。
束の間の休息を噛み締め傍らの寝顔を眺めながら。
ほっと心を落ち着けたその裏の真実に今はまだはっきりと気づくことも無く。
後は静かな夜が息を潜め穏やかに、ただ更けてゆくばかりだった。

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.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < 誰得と訊かれれば敢えて言おう、俺得だと
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < 回豹いいなーと思わせてくれた姐さん&去年の鮫域にコメ下さった方と
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、< 今回お読み頂いた方もしいればありがとうございましたー
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      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
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