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板缶板

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                     |  il 伊民と神部モナモナ‥‥。
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 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  ただ喋ってるだけモナ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
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こと、食事をする、という段になると、伊民の外食率はほぼ100%だ。
朝は食べずに出て、駅前のコンビニでパンを2つ買い、本部に着いてから自席か喫煙室で缶コーヒーと一緒に片づける。
昼食は別館の食堂か、外に出ていればそのへんの飯屋で同僚と食べる。
夕食も似たようなものだ。仕事が立て込んで店に出向くヒマがないときには、後輩を2階の売店へやって、おにぎりでも買ってこさせる。
自宅の冷蔵庫に入っているのはマヨネーズとインスタントコーヒーの瓶がせいぜいのところで、ただ、冷凍庫には発泡酒の缶が一本転がっている。
去年の夏に、速く冷やそうと思って入れたまま、うっかり忘れて凍りつかせてしまったものだ。
何日か経って気づいたときには、わざわざ解凍して捨てるのも面倒くさくなり、それきり忘れたふりをして放置してしまっている。

毎晩、コンビニで発泡酒を2本と、スルメかチーズを買って帰る。タバコの補給もこのタイミングだ。
からっぽの冷蔵庫にそれらを袋のまま突っ込んでシャワーを浴びたら、深夜のニュースを見ながら発泡酒の缶を開ける。
午後に起きた事件のニュースが、耳を通り過ぎてゆく。この時間、犯人はとっくに所轄署の留置場の中だ。でなければ伊民は帰宅できていないかも知れない。
発泡酒が一本終わると、もう一本を開ける前に、タバコが吸いたくなる。
「・・・どこやったっけな」
確か退庁前に最後の一本を吸って、さっきコンビニで新しいのを買ったばかりだ。
タバコタバコ、どこいった・・・とごそごそ探すと、スルメの下で、これもほどよく冷やされていた。

そんな毎日だった。
それでいいと伊民は思っていたし、時折感じる寂しさのほかには、特に覚えるべき不満もなかった。

ところが今では毎晩のように、厳しいチェックが入る。
高価そうなボールペンを手帳の上にかまえられ、硬質な声で質問される。場所が違えば、まるで事情聴取のようなやりとりだ。
「はい、お昼のメニューはなんでした?」
「・・・麻婆ハンバーグのセット」
「晩は?」
「ちゃんと食った」
「何を?」
「・・・忘れた」
「えっ、もう?」
「忘れたもんは忘れたんだよ」
「ふーん・・・」
テーブルの向こうに胡座をかいて座った男が、傍らに置いたスーツのポケットから自分の携帯を取り出す。
伊民は頬杖をついたまま、おい、とそれをとがめた。
「どこかける気だ?」
「芹沢さん。きっと一緒だったでしょ、彼にきけば覚えてるかなって」
「ああもう、いま何時だと思ってんだ!」
「11時57分ですね」
携帯のディスプレイを見ながら、彼はさらっと答えた。伊民の制止を聞こうともせず、細い指先がボタンの上を滑る。観念せざるを得なかった。
「わかった、言うからこんな時間に電話すんな、事件でもねえのに」
「・・・最初から素直に白状すれば、俺だってこんな手は使いません」
カシャン、と携帯をスライドさせて閉じた相手は、きゅっと口角を吊り上げて微笑んだ。
「で、晩には何を食べたんです? さっさと吐いてください」

ここはほんとうにうちのリビングか、それとも取調室なのか?
伊民はハーッとため息をつき、左手に持っていた発泡酒をぐびりと一口、飲み下した。

なんの因果か、「彼女いない歴」の長かった伊民に、この年になって相手ができた。
申し分のない美人で、頭の回転も良く、職種が同じだから共通の話題もどっさりある。
なにより、いつもニコニコしているので、話していても楽しい気持ちになる。
しょっちゅうこの部屋を訪れるようになってからは、面倒くさがりな伊民の世話をあれこれ焼いてくれるようにもなった。自分の仕事はヒマだから、と口癖のように言う。
ただ伊民にとって問題だったのは、相手が同性だという点だったが・・・それもまあ、いまさら関係ねえよな、という開き直った気分になってきている。
孫ができるのを楽しみにしてた実家の両親には、とても紹介できないが。

***

「・・・売店のサンドイッチだよ。ハムとレタスのやつ」
小さな嘘だ。実際はツナサラダだったが、こっちのほうが受けがいいと分かっている。相手はすんなり聞き流して、続きを促した。
「それだけですか?」
「夜はたくさん食わねえほうがいいんだろ?」
「カロリー的にはね」
しかつめらしく答えた男が、手帳を閉じる。テーブルの上に両肘をつき、その手を組んで、尖った顎を載せた。
次に何を言われるのかと身構えた伊民に、彼はにっこりと笑って言った。
「あのねえ、ずっと言ってるけど、もっと意識して野菜食べないと、ほんとに身体壊しますよ」
「・・・おお」
「前に、コーヒーとタバコが主食って言ってましたよね。俺、それ聞いてぞっとしたんですから」
「・・・」
「いい加減、無理の利くトシでもないでしょ。カロリーだけじゃ人間、健康は保てませんよ」

ああ、わかってる。わかってるよ。
和食がいいんだよな、サンドイッチとコーヒーじゃなくて、野菜ジュース飲まなきゃいけないんだよな。

伊民はそんなふうに思いながらも口に出せず、終わりかけているNHKのニュースに目をやる。
発泡酒の缶を持っている手に、そっと相手の指先が触れてきた。暖かかった。

「・・・ま、俺も忙しかったときは似たようなもんでしたけどね。明日の朝は、ちゃんとしたもの食べてってくださいよ。買ってきてあるんで」
「・・・おお」
「ちょっと、伊民さん。聞いてます?」
いきなり、テーブルの向こうにいた相手が手を伸ばして、テレビの方を向いていた伊民の頬に触れ、ぐいっと前を向かせた。
この後の天気予報を見損ないそうだ、と思ったが、それも一瞬だった。まっすぐに見つめてくる目の力に早々と負けて、頬杖をついたほうの片目をつむった。もう片方は漫然とテーブルの上を見ている。
低めてはいるが、石を叩くような硬度の声が、伊民を責めにかかる。
「俺、そんなに面倒くさいですか?」
「・・・いや」
「俺よりテレビのほうが好きだったら言ってくださいよ、俺、タクシーででも帰るから」
「そうじゃねえけどよ・・・」
口ごもると、その唇にチュッと小さなキスをされた。
もうそのくらいでは驚かなくなっている自分に、伊民はいちばん驚いた。

驚きつつ、頭にぽっかり浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「・・・まったく、口うるせえよな、おまえは」
10㎝ほど顔を離した相手が、驚いたように目を見開いた。
それから、伊民が考えを巡らすひまもなく、クスッと笑われた。
「杉/下警部にもそう言われました。自分じゃ思ってませんでしたけど」

伊民は、たぶん酔いが回り始めていたらしい。でなければ、次の言葉は出なかっただろう。
たった500mlでお手軽なことだ、と我ながら思う。
頬杖をついたまま、じろりと目だけを相手に向けて問うた。

「おまえ、あの人にもこんなことしてんのかよ」
「え?」
「俺だけじゃねえのかよ」
「・・・伊民さんだけですよ」
くすくす笑いながら、かなり近い距離で相手が言う。低めた声が甘い。なんでもないことを言っているはずなのに、語調のせいだけで色っぽく聞こえる。
「俺、仕事とプライベートは分けるタイプですから。・・・だからちゃんと野菜、食べてください、ね?」

まあいいか、と伊民はまたも思う。
どうして、なぜ、こんなことが起きてしまったのか、自分の生活が変わってしまったのか分からないままで過ぎているが、そんなことはもう考えるだけ無駄だという気がする。

テーブルに落としていた視線を上げて、間近に自分を見つめる彼の顔をちらりと見、ため息といっしょに言葉を吐き出した。
「ああ、わかった、わかった。出してくれりゃなんでも食うさ」
「メタボな中年は嫌いですからね」
「じゃあ俺はやめとけ」
「あなた、中年だけどメタボじゃないでしょ・・・」
いまのところ、と言いながら、テーブルを超えて神部がもう一度キスしてきた。伊民は軽くなったビール缶から手を離して、その背中に長い腕を伸ばした。

メタボになったら嫌われるのかな俺、と密かな危惧を覚えながら。

<おわり>
なんか区切り間違えた。慣れないことはするもんじゃないモナ

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 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧叱ってくれる系モナ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
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  • 世話焼きの缶が世話女房みたい。板缶て良いなぁ。もっと読みたいですこの二人。 -- ニコ? 2010-01-28 (木) 19:32:30

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