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confusion

携帯から失礼します。

半ナマ。月/キ/ュ/ン/東/京/犬よりス○。
8話のネタバレ含みます。
すっごくベタだよ!

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

嘲笑うかのような回咲の声を最後に、通話は途切れた。
それきり、携帯から聞こえてくるのは無機質な電子音だけ。
俯く総の表情には、隠しようのない焦りと動揺が滲んでいた。
そんな相方の顔を茫然と見つめながら、丸男は雪の言葉を反芻する。

「丸男…総長就任…おめでとう……?」
一体何のことなのか。言われた丸男自身にすら、全く意味が分からない。
自分が総長だったのはもうずっと昔のことだ。それを何故今更、就任おめでとうなどと。

「どういうことだ」
「分かんねえよ……っ」
「今のは雪からのサインだ」
思わず漏れた弱音に答えたのは、こんな時でも冷静に響く総の声。
知らぬうちに辺りを彷徨っていた視線を、彼へと向ける。
見つめた男の顔に、もう動揺の色はなかった。
「恐らく雪はこれから行く場所を俺達に伝えようとしている。どこだ丸男!」
途方に暮れかけている自分とは違う、確かな答えを、活路を見出した揺るがぬ眼差しで
総は真っ直ぐに丸男を見つめていた。
この瞳に応えなければという気負いが、自然と丸男の胸に生まれる。

しかし、気負ったからといってそう簡単に閃きが降って沸くものでもなかった。
「えぇ…! サイン……?!」
「思い出せ! 早く思い出すんだ! 早く!!」
急かす総の怒声を耳にしながら、頭の中にあるはずの答えを必死になって手繰り寄せる。

丸男。総長就任。おめでとう。
呪文のように念じながら記憶を浚うが、目標の手掛かりさえ見えてこない。

焦りが不安を生み、不安がまた焦燥を生む。
考えれば考える程に胸中を混乱が占め、思考は掻き乱されるばかりだ。
「…っ、ああもうっ! 分かんねえ、分かんねえっ……!」
軽いパニックを起こしながら、丸男はほとんど無意識に傍らの総の腕を掴む。

まるで、縋り付くかのように。

二人の視線が交錯する、わずか四半秒程の空白。
次の瞬間。何の前触れもなく、総は丸男の手を振りほどいた。
乱暴な仕草に文句を言う前に、自由になった両腕がすぐさまこちらへと伸ばされて。

気付けば。
丸男は、総の腕の中にしっかりと抱き締められていた。

胸を潰さんばかりに膨れ上がっていた焦燥や不安が、消えてなくなる。
どころか、回咲のことも雪からのメッセージのことも
雪自身の安否のことさえ、何もかも吹き飛ぶ。

頭の中は、文字通り真っ白だった。
何も考えられないし、何も分からない。
背中に回った腕の力強さとか、触れ合った体の温かさとか
シャンプーや洗剤の香料に混じって香る、見知った男の匂いとか。
それ以外に何も、感じられなくなる。

「丸男」
不意打ちで名を呼ばれて、不覚にも、体が大きく震えてしまった。
それでも何故か、この腕の中から逃げ出そうとは考えなかった。
「落ち着け」
耳元で聞こえる声は驚く程優しいくせに、変に掠れていて低い。
「大丈夫だ。お前なら絶対に思い出せる」
ぐっと、顔を肩口に押し付けるように頭を掻き抱かれて、総の香りが余計に強くなった。

体が更に密着する。互いの心臓の鼓動すら、感じられるぐらいに。

「俺は、お前を信じてる」

未だ茫然自失のまま、それでもごく自然に、丸男はその言葉に頷き返していた。

抱き締めた時の唐突さとは裏腹に、総はゆっくりと体を離す。
「どうだ? 何か思い出したか?」
「――あ」
その言葉に導き出されるように、フラッシュバックする記憶の片鱗。
いつか、彼女に見せたいと伝えたもの。総長就任記念に書き記した、あのメッセージ。

「思い出した!!」
「よし行くぞ!」
「ちょ、おい、待てって! 場所分かんねえだろあんた! 一人で先走んなっつの!」

そして二人は、揃って部屋を飛び出した。

法定速度の限界に挑みながら疾走する車の中。
すっかり定位置となった助手席に腰掛け、丸男はどこか落ち着かない気持ちで
過ぎ行く風景を眺めていた。
雪の安否が気にかかる、というだけではない。
今頃になってようやく冷静になった頭で
改めてさっきの出来事を思い返していたのである。

別に好きで思い出している訳ではない。
ただどうしても、頭から離れてくれないのだ。
抱き込まれた腕の感触とか、体温とか匂いとか、その他諸々。
今まで意識もしなかった、知らずにいた総の一部が
記憶にだけでなく、肌にまで残っているような気がする。

何より問題なのは、それらを余り不快に感じていない自分の気持ちのほうで――。

『大丈夫だ』

「大丈夫だ」
「はっ?! な、なな何が?!」
いきなり隣から投げかけられた言葉が、回想の中のそれと重なって
つい過剰に驚いてしまう。
運転中の総は明らかに挙動不審な丸男を見はせず
前だけを見据えて続ける。
「雪は俺が命に代えても守る」
「あ? あ、ああ…そっちね……あ、そう……なんだ」
「……何の話だ」
そこで初めて、総は横目で丸男を見た。

何を言っているんだこいつは。そう言わんばかりの怪訝そうな表情からは
さっきのことに対する照れや動揺は微塵も感じられない。
あんなことをしでかしておいて涼しい顔をする総に、丸男は自分一人が
振り回されていることへの気恥ずかしさと、それ以上の憤りを覚える。

「…あのさぁ。今後の為に今はっきり言っときたいんだけど」
「何だ」
「もう、ああいうことすんの止めてくんない? そりゃまあ、アメリカ育ちの先生はあのぐらい慣れてんのかもしんないけど――」
「ああいうこと? 何だ、ああいうことって」
「何っ、て…決まってんだろ! さっきあんたが俺を……!」

この期に及んで惚けたことを言う総に怒鳴り返そうとして、しかし言葉はそれ以上出てこない。
抱き締められた、この男に。あの胸に、あの腕で。力強く、けれど優しく。
それだけのことなのに。それ以上でもそれ以下でもないはずなのに。
“それだけのこと”に過ぎない事実を口にすることが、どうしても出来ない。
一体自分は、どうしたっていうんだ。
ぐるぐると廻る思考を中断させたのは他でもない、総の心底不思議そうな声だった。

「おい、ちょっと待て。どういうことだ。俺はお前に何かしたのか? 身に覚えがない」

「……はあ?」
無意識に俯けていた顔を上げると、目に飛び込んできたのは
困惑しきりという風な総の表情。
走行中にも関わらず顔を横に向け、正面から丸男と顔を見合わせる総からは
しらばっくれているような様子はない。

まさか、と思いながらも、丸男は恐る恐る総に尋ねる。
「…さっきさ、俺あんたに思いっきり抱き締められちゃったんだけど。もしかしなくても……覚えてない?」
「…………寝惚けているのか、お前は」
返ってきたのは、余りにも予想通り過ぎる答えで。
零れた溜息と一緒に体中の力が抜けて、ぐったりとシートにもたれかかる。

「――っ、ああああ! いいよもう、俺が寝惚けてたってことで! 運転邪魔してすみませんでしたあっ!」
羞恥やら、憤怒やら、何やら。込み上げてくる感情のままに、丸男は今度こそ総を怒鳴り付けた。
顔に熱が集まるのが自分でもよく分かり、強引に会話を打ち切ってそっぽを向く。
「何なんだ一体……」
さすがにいつまでも脇見運転は出来ないのか、総も一つ溜息を吐いただけで
それ以上は何も言ってこなかった。

何のことはない。
つまり、総もあの時は丸男と同じくらいに、いや丸男以上に混乱していたのだろう。
だから、平静であれば絶対やらないような間違いを、犯してしまった。
その上、混乱の極みでの出来事だったから、冷静になった今では最早覚えてもいない。

たったそれだけの、ことだったのだ。
真実本当に、何の意味も理由も存在しなかった行為と、言葉。
それを自分は、勝手に一人で期待して――。

期待、して……?

「…………ッ!!」

思わず、掌で口元を覆う。一拍遅れて、燃えるように熱くなる自分の顔。
何故と思っても、分からない。当然のこと、止めようもない。
何だこれは。何だ、これは。
訳も分からないまま、少しでも火照りを冷まそうと窓ガラスに額を押し付ける。
ひやりと冷たいガラスには、丸男の様子に気づきもせず運転に集中する
男の横顔が映り込んでいた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

エロなしだと注記するのを忘れていました。
すみません、ROMって来ます。


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