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ホームドラマ

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  以前投下した織吐露酢の戌
「その後の二人」の続編的な物語。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|   神×悪魔、放送終了後で、妄想・捏造のオンパレード。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ダークエンドな「奇跡管理庁」を書いたら、
 なんか二人に他の幸せな結末を妄想したくなったんだ。
 「奇跡管理庁」の二倍近くの長さなのにエロは少しだけ。すまん。

 全36レスと長いのでインターバルを入れて投下します。
 他の姐さんのお邪魔にならなければいいな…。

 またしてもAAがズレてる予感…

 「りょうすけ」
 そう呼ばれた気がして、蒼井両介はふと、目覚めた。
 部屋の中はまだ暗い。だけど遠くでカラスの声がした。そろそろ夜明けが近い
頃合かもしれない。
 「……おまえは、わかって、ない……」
 唐突に兄・流崎新司の言葉が耳に入る。
 「え? 何を――?」
 だが、返事はない。状況が掴めないまま半身を起こし、闇に慣れてきた目で、
すぐ横で眠っている兄の顔を伺う。
 兄は息は荒いが、瞳を強く瞑っていた。どうやら寝言らしい。
 「ダムの、うえでいった、だろ……」
 また兄が呟く。ひどくうなされていて、額に汗の粒がいくつも浮かんでいる。
 「兄貴」
 肩をそっと揺する。
 「……おれたちは……」
 だが夢が深いのか、中々反応しない。
 「兄貴――兄貴!」
 「ふたりならいきていける……、って……」
 「兄貴!」
 一際強く呼びかけたとき、パッと兄の目が開いた。
 またたいた目がさまよい、そして蒼井を捉える。だが、いつもなら優しく緩む
はずの瞳は、何か信じられないものでも見たかのように強く見開かれたままだ。
まるで自分を通して何か違うものを見ているかのような――。
 「どうした、兄貴。悪い夢でも見たのかよ」

 蒼井は、子供の熱を計る親のように、そっと流崎の額に手を置き、汗をぬぐった。
 「……両介……」
 ようやくその目が、蒼井自身に焦点を合わせる。荒かった呼吸が落ち着いてきた。
 「ここは……ホテル・ラスタットか……?」
 「何言ってるんだ。アパートだよ、俺たちの」
 その目が周囲を確認して、ようやく表情が緩む。
 「そうか……そうだよな……」
 「一体どんな夢を見たんだよ」
 一瞬、間があった。そして目をそらす。
 「……大した夢じゃない」
 そう言われても気になるが、追求したところで答える兄ではない。諦めて体を布団に戻し、兄に寄り添う。
 途端、流崎が蒼井の胸にかじり付くように顔を埋めてきた。そのまま強く抱きしめる……というよりしがみついてくる。
 「……どう、したんだ、兄貴……」
 こんな、どこかたどたどしいような行為は、かつてないことだった。そして何
より驚かされたのは、兄の目が触れたところがヒンヤリと濡れたことだった。涙。
 そのまま兄の体が蒼井の上に乗り上げてきて、その手が、探し物でもするよう
に蒼井の体をさまよう。
 このままやるのかな、と思う。
 もう夜明けも近いのに困るな、とも思うけれど、兄の何か切迫したような様子
に蒼井は負けた。
 そっと両腕で、兄の体の重みを抱きしめる。

 すると兄の、蒼井の体を求めるような動きが止まって、蒼井を見つめてきた。
 なんだろう、今日の兄はまるで小さな子供のような気配をしている。
 少し戸惑ったような兄の瞳が愛しくて、キスをした。深く味わって離し、もう一度兄を抱きしめる。 
 「大丈夫……大丈夫……」
 蒼井は繰り返し呟きながら、それに合わせて兄の背中を広げた手のひらでゆっ
くり、リズムを取ってトン……トン……と優しく叩く。
 兄は身じろぎもせず、されるがままにしていた。ふんわりと兄の髪のにおいが
してくる。触れ合った胸から、さっきまで早鐘を打っていた兄の鼓動が、ゆっく
りとしたテンポに戻って伝わってきた。
 「大丈夫……大丈夫……大丈夫……」
 もうしばらくこうしていよう、と蒼井は思った。

◇◇◇

 仕事の後、外で一件用事を済ませたのでいつもより遅めの帰宅になった。12
月の戸外から室内に入ると、少しダシの匂いのする暖かな空気にホッとする。た
だいま、と声をかけたが、兄は、最近お気に入りのテレビドラマを見ていて夢中
らしく、蒼井の帰宅に気づかない。白髪混じりの頑固な父と適齢期を迎えた三姉
妹が、様々なトラブルに見舞われながらも家族として絆を深めていくホームドラ
マ。ちょうど終わるところだったようで、主題歌にあわせてエンディング映像が
流れていた。ピクニックに出かけた一家。満開の桜の下にレジャーシートが広げ
られ、たくさんのお弁当が並ぶ。缶ビールやワインなど思い思いの飲み物を掲げ、
乾杯する家族。幸せそうな光景に、キャスト&スタッフのテロップが被って流れ
ていく。

 寝室にカバンを置いてコートをしまい、ダイニングキッチンに戻ると、ようや
く流崎が振り返る。
 「……今日は遅かったな、両介」
 「うん、ちょっと……用事があって。ただいま」
 晩飯の用意に流崎がテレビの前を立つ。
 流崎は割とテレビが好きだ。そしてとても詳しい。あの浮世離れした美貌の主
がテレビの前に陣取ってクスクス笑ったり、小声で突っ込んだりしているのを初
めて見たときは不思議な気持ちになったものだ。以前兄のテレビ好きを指摘した
とき、独房の中での唯一の娯楽だったからな、という答えが返って来た。確かに、
兄の牢にはテレビがあった。普通、独房にテレビなどあるはずもないだろうから、
「神の手」ならではの破格の待遇だったのだろう。
 自分の力で人を生かすどころか、自分の力に群がった人々が自滅していく様に
絶望して監獄の奥に閉じこもっていた兄。10年にわたる独房生活の中で、唯一
の世間との接点がテレビだったのは確かだ。塀の外どころか独房からもあまり出
なかったという兄の目に、携帯電話のCMや下町グルメの情報はどんな風に映っ
ていたのだろうか。そのことを思うと、蒼井の胸はいつも痛む。
 だが拘置所を出た今も実は、兄の生活においてテレビが外との数少ない接点と
いうのは、あの頃とあまり変わっていないかも知れない。
 蒼井のアパートで一緒に暮らすようになって半年程が経つが、流崎はあまり外
出をしなかった。

 それはそうだ。流崎新司は奇跡を行う「神の手」として世界中にその顔が知られ
た存在である。流国ダムでの一件の後、暫くしてから、ダムに落ちた流崎新司の
生存は絶望的・捜索打ち切りという報道が出たことで「神の手」事件はひと段落し
たが、流崎が最後に公開した動画は、その美貌と「神の手」という話題性からカリ
スマとあがめられ、一時期ほどの勢いは無いとはいえ今もネットで再生され続け
ている。
 「流崎新司」の名前で生活していくのはもう出来ないので、元大臣の坂木のツテ
で辰巳シンジの戸籍を復活させて貰った。住民票も健康保険証も、クレジットカ
ードさえ作れたし、市民生活上は困らないのだが、街を歩いていると「もしや…
…」と声をかけられることが多いことに閉口し、段々と外出回数は減っていった。
今では、出かけてもせいぜい空いてる時間の近所のスーパーくらいだ。
 兄はそれを特に苦に思うでもない風ではあったが、折角塀の外に出たのだから、
色んなところに兄を連れて行ってやりたい、この世界を見せてやりたい――それ
が蒼井の願いだった。
 その為に今日も、本当は――。だが、まあいい。
 ダイニングテーブルに、流崎が作り置きしていた料理が並んだ。ちゃんと二人
揃って、頂きます、と言って箸を取る。
 「今日、ドラマはどこまで行った?」
 「長女の婚約者が、次女との恋愛フラグ立ててたな。あと、三女は親友の借金
の保証人になって、来週辺りトラブルに巻き込まれそうだ」
 「肝心のオヤジはどうしてるの」
 「新規取引先の女社長が、失踪した元妻にそっくりで動揺してた」
 「ベタだなあ」
 蒼井が思わず笑うと、それが流崎にも伝染して二人で笑う。

 白飯に、なめこと豆腐の味噌汁。メインは白菜と鶏挽き肉のロール巻き、副菜
は小松菜のおひたし、肉じゃが。流崎の肉じゃがにはいつも白滝とインゲンが入っ
ている。味付けはどれもどことなく上品だった。
 蒼井には、流崎に話したいことがあった。そろそろ切り出しどきだ。
 「……来週さ、クリスマスだろ」
 「そうだな」
 「拘置所でも、クリスマスは何か特別なことやるのか」
 蒼井の問いに、流崎は吹き出した。
 「幼稚園じゃないんだ、やるわけないだろ。ケーキが出るくらいだ」
 「じゃあ今年は二人で、ウチでやろう」
 流崎が顔を上げて蒼井を見る。
 「……やるって、何を。クリスマスってことか」
 「特別なことじゃない。イブの夜にここで一緒に晩御飯を食べて、シャンパン
とか開けて、ケーキを食べて、プレゼントを交換する」
 蒼井は壁に掛けられたカレンダーを見る。
 「24日、ちょうど終業式だし、俺もいつもよりは早く帰れると思う」
 「クリスマスってのは、なぜか鶏肉食べるんだろ。CMでよく見た」
 確かにその通りだが、そう言われてみると不思議な気がしてくる。兄の真顔の
発言に今度は蒼井が吹きだす番だった。
 「違うのか?」

 「違わないけど……、そうだね、丸焼きじゃなくていいから、ローストチキン
とかあるとクリスマスっぽいかもな。ケーキとシャンパンは俺が買って帰るよ」
 ローストチキンね、付け合せは何が合うんだ……と呟いている兄を見ながら、
ドラマなんかよりずっと幸せな光景がここにある、と蒼井は思う。

 酒は、スパークリングワインを昨日買って、もう冷蔵庫で冷やしてある。今日
はケーキを買って帰るだけだ。兄は、ケーキは余り甘くないほうが好きなようだ
が、今日くらい如何にもクリスマスらしいケーキの方が気分が高まるだろう。蒼
井は駅前のケーキ店で一番小さなホールのクリスマスケーキを買った。
 プレゼントは結構前に用意してある。我ながらイイ線行ってる、と思った。兄
がどんな顔をするのか、楽しみだ。 
 だが、家について驚かされたのは自分の方だった。
 「兄貴……これ全部兄貴が作ったのか」
 「当たり前だろ」
 「凄いな……」
 夕飯の豪華さは、蒼井の想像を超えていた。むしろディナーとでも言ったらい
いようなメニューだった。さすが、凝り性というか完璧主義者の流崎である。骨
付き鶏もも肉のロースト、ホタテのカルパッチョ、三種オードブルの盛り合わせ、
オニオンスープ、パスタ二種、野菜スティック……これがあの狭い台所で用意で
きることがそもそも凄い、と蒼井は感心する。
 「両介、そろそろワイン、出して来いよ」
 テーブルに皿を並べている流崎の声で我に返る。
 「あ、……ああ、そうだった」

 グラス二つとスパークリングワインを持ってくる。兄はもうテーブルについて
待っていた。
 コルクの周りの銀紙を剥き、栓を括っていた針金を外す。マッシュルームのよ
うに丸く盛り上がったコルクに手をかけ、栓の出口をカーテンに向けてゆっくり
ひねりながら押し出していく。
 ポン!と小気味いい音がして栓が飛んだ。前の晩から冷やしていたので零れる
こともなく、グラスに注ぎ分ける。シャンパングラスなんて洒落たものは持って
いないから、いつもビールを飲んでいるグラスだ。
 小さな泡がひっきりなしに底から上がってきて弾ける。葡萄の青臭い匂いが漂
うグラスの片方を兄に渡した。
 そしてカチリとグラスを合わせる。
 「メリークリスマス」
 互いの顔に微笑を見つけ、また笑みが深くなった。グラスの中の陽気な飲み物
をぐいっとやる。蒼井はこれまでシャンパンなんて気取ってると思っていたが、
こうして飲むとなるほど、気持が上がる飲み物だという気がしてきた。飲みつけ
ているビールより、アルコール度数が高いからかもしれないが。
 尤も、本物のシャンパンは値段を見たところで心がくじけ、アメリカ産のスパ
ークリングワインにしてしまったのだった。
 「これ、俺から兄貴にプレゼント」
 はい、と用意しておいた包みを渡す。
 「……開けていいのか」
 「勿論だよ」
 流崎がとても神妙な顔で受け取るので、蒼井は思わず笑みを崩した。

 だが、弁解するようにポツリとつぶやかれた流崎の言葉に胸を掴まれる。
 「プレゼントなんて貰うのは初めてだからな」
 おっかなびっくり、という様子の流崎がリボンを解き紙の包みを開くと、中か
ら出てきたのは黒いエプロンだった。流崎の表情に笑顔が広がっていくのを蒼井
は嬉しく見守った。
 「料理の時に使ってよ」
 カフェの店員が着ているような、下半身だけのバリスタエプロン。黒が好きな
兄にはさぞかし似合うだろうと思ったのだ。
 「兄貴、着て見せて」
 「……ああ」
 こうか?と呟きながらキュッと、腰周りに長め丈の黒いエプロンを巻く。蒼井
はしばし言葉を忘れた。照れながら、軽くポーズを取った兄は、尋常じゃなくカッ
コ良かった。
 「……プレゼントってのは、嬉しいもんだな。両介、有難う」
 その笑顔が余りに眩しくてすぐにでもキスしたくなるのを、グッとこらえる。
 「それじゃあこれは……俺からだ」
 バリスタエプロンを着たまま、兄が無造作に封筒を出してきた。封筒? なん
だろう。金券だろうか。
 そう思いながら開けた封筒からするりと滑り出たのは、鍵だった。
 見つめるうち、自分の顔に血が上るのが判った。
 「兄貴……これ、車の鍵だよな?」
 「ああ。最近はネットで車も買えるんだな」
 「そういうことじゃないだろ! こんなもの……どうして!」
 「お前が欲しがってたからだ」

 ニヤリと笑う兄。さすが、兄はお見通しだった。確かにここのところの蒼井は
車が欲しくて悩んでいた。何度か中古車売り場にも足を運んだのだが、やはり今
の収入ではローンを借りたとしても現実的ではなく、諦めたのだ。
 「兄貴、駐車場は? 車庫証明はどうした?」
 「借りた。だから車庫証明もある」
 駅から歩いてくる途中の……、と説明され、ああ成る程あそこか、と思い当た
る。
 いや、納得している場合ではない。
 元々、流崎が「神の手」時代に貯めた財産は億近く。しかも減るどころか更に最
近ネットで株も始めて、ついにその資産は億を超えていた。そんな兄からすれば
、車なんて大した買い物ではないかもしれないが――。
 「――でも、兄貴……」
 言い募る蒼井の手を、車のキーごと、流崎の両手が包んだ。
 「なあ、両介……それで俺を、色んなところに連れてってくれるんだろ」
 共犯者めいた笑みが、流崎の顔に浮かぶ。
 「……本当に兄貴は全部お見通しなんだな」
 蒼井は驚きの色を隠せなかった。確かに蒼井が車を欲しかったのは流崎のため
だった。兄に、もっともっとこの世界を見せてやりたい。だが流崎は顔が売れて
いて、人前には出にくい。色々なところに連れて行くには、車が一番だ。だから
蒼井は兄の為に車が欲しかった。
 「いいか、運転するのはお前だが、乗せるのは俺だけにしろ。それなら、俺が
買うのは間違ってないだろ」
 「まったく、兄貴には負けるよ……でも、有難う。凄く嬉しいよ」

 蒼井は目が潤むのを隠すように瞬いた。しかし一つ気になることが。
 「あのさ兄貴……、もしかして次は家買おうとか考えてたりしないだろうな?」
 流崎は答えず、箸を取る。
 「さ、そろそろメシにしようぜ。折角のご馳走が冷めちまう」
 「ちょ……兄貴!」
 「我ながらローストチキンが上手く出来たんだ。早く食わないと勿体無い」
 「答えろよ!」
 
 紅白がさっき終わって、行く年来る年が始まった。
 テレビの中で、除夜の鐘が鳴っている。
 流崎がテレビを消した。
 だがまたひとつ、どこかで鐘の音がする。と思うと今度は遠くのほうでこだま
のようにまた響く。普段余り意識したこと無かったが、この辺りにも結構寺があ
るんだな、と蒼井は思う。
 「行くか」
 流崎の声に、蒼井は頷く。
 連れだって外へ出る。
 「……あ」
 蒼井の口から声が漏れた。雪が降っている。積もるほどではなさそうだが、ま
すます寒く感じる。
 「傘、取ってくるか」
 「このくらいならいい。神社までそう遠くないんだろ?」
 「10分くらいかな、多分」
 計算では、着いた頃にちょうど年が変わるはずだ。

 蒼井がこの街に住んで何年か経つが、近所に初詣に行くのは初めてだ。初詣ど
ころか、神社があるなんてことも考えたことがなかった。
 黒のシンプルなウールのコートの流崎と、グレーのダッフルコートの蒼井。並
んで、静まり返った住宅街の裏道を歩いていく。聞こえるのは二人分の靴音だけ。
他には時折、一本向こうの道を車が過ぎる音がするくらいだ。
 自然と小声になりながら、ぽつぽつと会話する。
 「両介、お前、流国神社のことは覚えてるのか」
 「……いや、村のことで覚えてることは殆どないんだ。覚えてるのは、母さん
に『絶対に人を憎んでは駄目よ』と言われたこと位かな」
 「そうか」
 俺たちあんなに境内で遊んだのにな、と流崎が呟く。
 蒼井自身、兄と過ごした子供時代のことを思い出したくて堪らないのだが、幼
過ぎたせいか、どんなに想いを凝らしても記憶は蘇えってこない。ため息が白く
消えていく。
 雪を孕んだ曇り空は、星空より濁っている分白っぽくて明るい。このままどこ
までも歩いていけそうな気がした。今この瞬間、何も余分なものは無く、足りな
いものも無い二人だった。
 たどり着いた近所の氏神さまの境内にはもうぱらぱらと人が集っていた。あち
らこちらに置かれた篝火と、ひときわ大きな焚き火、後は余り役に立ってない薄
暗い街灯、甘酒を配っているテントのランプくらいしか明かりはなく、まるで影
絵のようにすれ違う人々の表情は定かではないが、漏れ聞こえてくる声は新年特
有の、少し浮き足立ったような調子だった。

 参道を歩きながら蒼井が腕時計を確認する。
 「0時を回ったよ。明けましておめでとう、兄貴。今年も宜しく」
 蒼井はぺこりと頭を下げる。流崎も微笑んで頷きを返す。
 「ああ、こっちこそ宜しくな、両介」
 そして拝殿の賽銭箱の前に立ち、賽銭を投げ入れ、手を合わせた。
 ひととき、祈る。
 もし、自分達に特別な力などなくて、普通の兄弟として育っていたら――と、
蒼井はよく想像する。多分、あまり仲の良くない兄弟になっただろうな、と思う。
一緒に暮らしてますます痛感するのだが、兄はびっくりするほど頭がいい。常に
二手三手先を読んで行動し、手先も器用、運動神経も悪く無さそうだ。そして、
この美貌、このカリスマ。普通に難関大学を卒業して一流企業に就職、バリバリ
仕事をこなして出世しそうなタイプだ。或いはさっさと起業して、若くして社長
業というのも似合いそうだ。どちらかというと内向的な私立文系人間で、高校の
国語教師になった自分が、こんな兄を見ながら育ったら、コンプレックスでいっ
ぱいの人間になったに違いない。兄の中にある、熱い、とも、ストイック、とも
言えるような、人間らしさに気づくことも無く。
 蒼井には家族がある。妹もいる。だが、彼らに対して感じる感情と、流崎に対
して感じる感情は全く別物だった。勿論、家族のことは大切だ。妹のことも、か
けがえの無い大事な存在だと思っている。だが流崎に対しての、心も体も惹きつ
けられていく、この強烈な執着とは比べ物にならない。

 血のつながった兄だからだろうか、と思ったこともあったが、それも違う気が
する。ならば特別な力を持つ者同士だったからだろうか。確かにそれは、きっか
けではある。だが今こうして目の前に居る流崎への想いは、力とか運命とかでは
なく、ただ相手がこの人だから、としか言いようがなかった。
 蒼井にだってこれまでいくつかの恋愛はあった。だが流崎への強烈な感情に比
べたら、白黒と極彩色ほどの開きがある。流崎と互いの「力」を介して出会って、
相対するうちに、初めて自分の中にこんなに強烈な執着があることを知ったのだ。
 今でも恍惚とともに思い出す。流崎の真実に気づいた瞬間のことを。
 あれは、辰巳神父が亡くなった後のことだった。病院で揉みあった際に流崎が
落とした、自分のそれと色以外はそっくりな古びたお守りを眺めていた時、ふい
に、自分と流崎だけが持つ特別な力、これまでの流崎の言動、実家の両親が明か
した自分の過去、そして辰巳神父が遺した言葉といった、全てのピースがゆっく
りとあるべき場所に嵌っていき、一つの真実が目の前に現れたのだった。
 それまで、なぜこんなことを? あいつの目的はなんなんだ?と答えは求めぬ
まま怒りと憎しみを向けていた。
 だが、その「なぜ」には理由があり、しかもそれは弟である自分――蒼井両介の
ためだった。
 人はこんなにも誰かに対して深い愛情を持つことが出来るのか。しかもその深
い愛情がそそがれたのが自分だとは――。その力と孤独、使命感、愛情……その
瞬間、世界がぐるりと回って、強烈な恍惚とともに全ての色合いが鮮やかに変わ
っていった。

 だが、いつもどこかで不安なのだ。流崎が、自分を愛してくれていることは確
かだ。だがそれこそ、特別な力を持ってしまったがゆえに、同じ境遇の蒼井にシ
ンパシーを感じただけなのではないのか、と思う。自分なんて、兄に比べたら、
何の才能も持っていない、つまらない人間だ。自分が兄を愛したのは必然だが、
兄が自分を愛してくれたのは宿命という名の偶然に過ぎない。
 だからいつも祈るような気持でいる。
 神様、どうかこの人と一緒に居られますように。
 この人が望む限りは離れません。だから少しでも長く居られますように。
 先に顔を上げたのは流崎だった。しばらくしてから蒼井も顔を上げる。
 「お前、随分長く祈ってたな。神頼みがそんなにあるのか」
 「……え? いや……兄貴と一緒に、健康で平和な一年が送れますように、
って……」
 蒼井は気恥ずかしくなって、少し言葉を丸める。間違いではない、筈だ。
 「ふうん、俺とは少し違うな」
 兄に鼻で笑われ、蒼井は少し気分を害するとともに兄が何を祈ったのか、とて
も気になってきた。
 「俺にだけ言わせないで、兄貴のも教えろよ」
 「――俺は、」
 言いかけて、クス、と笑う。
 「……やっぱ、やめた」
 言うが早いか笑って駆け出す。
 「ちょ……待てよ、兄貴! ずるいぞ!」

 蒼井も笑いながら追いかけるが、流崎は意外に脚が早く、黒いコートという目
立たない服装も相まって、パラパラとした人ごみにまぎれてしまう。
 「兄貴、どこだ!? どこにいる!」
 兄を見失った、と思った瞬間、自分でもびっくりするほどの動揺が襲ってきた。
 不安と恐怖で全身から汗がふきだす。人ごみを避けつつ参道を走りながら、目
を凝らしても、明かりは暗く、皆似たような服装で判別は難しい。
 どうしよう。もし……このまま兄を見失ってしまったら。
 このまま兄を失ってしまったら?
 「兄貴……兄貴!」
 気が遠くなりながら慌しく周りを見回す。するとこんな時間に小学生になった
ばかりの半ズボンの子供が前方を走っていくのが見えた。子供が振り返って、自
分にニヤッと笑いかけたとき、口が勝手に言葉を発していた。
 「――兄ちゃん!」
 そこには子供の姿などなく、歩いていた黒いコートの人物がくるりと振り返った。
 「お前今、なんて言った?」
 流崎だった。その目は大きく見開かれている。
 蒼井はなりふり構わず流崎に駆け寄る。足がもつれて転びそうになる。流崎が
蒼井を抱えるように抱きとめた。その腕を強く揺する。
 「ふざけんなよ! 急にいなくなって……心配するだろ! 俺、おれ……」

 後は言葉にならない。
 「……悪かったよ」
 よしよし、というように流崎は蒼井の髪にかかった雪を優しく払った。
 「ちょっと遊ぶだけのつもりだったんだ、本当に悪かったよ、両介」
 「……いや、俺も大騒ぎしてごめん」
 子供のような反応をした自分が恥ずかしく、一気に顔に血が昇ってきた。
 「両介、いいか、ちょっと待ってろ。ちゃんと戻ってくるから。いいな?」
 「……ああ……」
 何かと思って焚き火の側で待っていると、流崎は甘酒を両手に持って戻ってき
た。
 「あったまるし、落ち着くだろ」
 受け取ったプラカップに口をつけるとふわりと独特の香り。懐かしい。甘酒な
んていつくらいぶりだろう。
 焚き火に顔をあぶられながら、甘酒を口に含み甘い粒を噛んでごくりと嚥下し
た。体の中を甘くて温かいものがゆっくりと降りていくのが判る。
 「流国神社でも、初詣には甘酒を出してたな」
 「……てことは、辰巳さんが?」
 「いや。父さんは宮司だったからな、配ってたのは母さんだ。俺もよく手伝わ
された。両介は駆け回って遊ぶばかりで、全然役に立たなかったな」

 「子供だったんだ、仕方ないだろ」
 怒りや気恥ずかしさがない交ぜになって、少しむくれた口調になってしまった
かも知れない。兄が沈黙した。気を悪くしただろうか、と傍らの兄を見上げると、
じっとこちらを見つめていたので蒼井はたじろいだ。
 「……両介、お前、さっき俺のこと『兄ちゃん』って呼んだよな」
 「……ああ、確かに」
 「子供の頃のこと、何か思い出したのか」
 「そうじゃない。でもなぜか咄嗟に……」
 蒼井は必死に記憶を探る。今度こそ、思い出せるかもしれない。
 だが――もどかしさに頭を振る。
 「ごめん」
 いいさ、と兄は笑う。――俺は覚えてるから、と。
 「お前は昔から、本当に世話の焼ける奴だったからな。俺の後を付いてきたか
と思うと、勝手にはぐれて、泣くんだ。……ま、今も変わってないってことだ」
 飲み終わったカップをゴミ箱に捨てて、流崎は歩き出した。
 そして振り返って微笑む。
 蒼井も後を追って、兄の横に並んで歩く。
 確かに兄はいつも先に行ってしまう。
 だけど蒼井を散々泣かせたその先で、兄はいつも自分を待っていてくれるのだ。

◇◇◇
 
 ずっといないと思っていた。遥か昔に失われ、とうに諦めていた。
 だが、弟は、思いがけなく流崎の前に現れた。

 流崎は今でも、蒼井両介という名を初めて聞いた日のことを、感動とともに思
い出す。
 あの日、流崎の長い夜が明けた。

 外で車が止まる音がした。暫くして、アパートのドアが開いて、グレイのパー
カーにカーキのチノパンの蒼井が戻ってきた。
 「兄貴、車、アパートの下まで持ってきた」
 「ああ、こっちももう少しだ」
 弁当は流崎の担当だった。おかずを入れたタッパーのフタを閉める。ステンレ
スの水筒にほうじ茶も詰めた。後は、デザートのリンゴとイチゴを用意すればい
い。
 「じゃ、俺、荷物積み始めてるから、兄貴もそろそろ、」
 頼む、と言いながら慌しく弟が部屋を出て行く。
 流崎は鼻歌を歌いながら慣れた手つきでリンゴを剥き塩水にくぐらせると、洗
ったイチゴと一緒にタッパーに詰める。
 バリスタエプロンを外し、いつもの黒い上着を羽織る。弁当一式を持って、ア
パートの鍵を閉め、下で待ってる弟の元へ急ぐ。
 車のトランクに弁当をしまい、助手席に乗り込んだ。
 「待たせたな」
 「じゃ、行こう」
 蒼井が、ハンドブレーキを押し込んで、車は滑るようにスタートした。
 クリスマスに流崎が蒼井にプレゼントした車は二人乗りのグレーのオープンカ
ーだった。以前CMを見て気になっていた車だった。初めて見たとき弟は「すげ
え!」とひとしきり喜んだ後、「……国産にしてくれて良かったよ」と安心したよ
うに呟いていた。そう言うと思って外車は止めたのだった。

 今日は4月上旬にしては暖かい。まさにドライブ日和の好天。冬の間は閉じて
いた可動式のキャノピーは、久しぶりに開けてあった。風が気持いいが、日差し
は眩しいほどで、流崎はサングラスを取り出してかけた。
 もうカーナビには場所が登録されているようだ。このままうまく行けば、昼前
には目的地に着くはずだ、と蒼井は言う。
 「それで、お前が言ってた花見の穴場ってのはどこなんだ」
 「学生時代にサークルで毎年合宿してた那須の近くに、古くからある畜産試験
場があってさ」
 「畜産試験場ねえ……」
 「そこは桜の大木が何本もあるのに地元の人も余り知らないみたいで、空いて
たんだ」
 流崎としては、アパートの近所で見られる桜だけでも満足だったのだが、蒼井
が、兄貴と花見に行きたい、と常にない熱心さで言うので、行くことにしたのだ。
 蒼井は、顔が知られているために流崎が外出を避けていると思っている。確か
にそれもあるが実は他にも理由があった。
 流崎は余り都会が好きではない。子供の頃暮らしていた流国村は人口が少なか
ったし、荷野宮に連れられて村を出た後は、地方の施設から拘置所だ。拘置所を
逃げ出して、初めて東京に出たときは、こんなに多くの人が、一体どこからやっ
て来たのだろうとうんざりしたものだった。

 流崎は、一対一だったらどんな人間と対峙しても恐れるということは無かった。
それが拘置所の所長であろうが、大臣であろうが、大企業の社長であろうが、自
分に有利なルールを組んだゲームに持ち込めばいい。それは「神の手」という特別
な能力を持って生まれ、その力めがけてエゴをぶつけてくる周囲と渡り合ううち
に自然と身に付けた護身術のようなものだった。だがそれも大人数相手には役に
立たない。人間は集団になると醜さと愚かさが剥き出しになりやすく、それに抗
するのは難しいということもイヤというほどわかっていた。だから、今だに多人
数の人間を見ると無意識に警戒してしまう自分がいた。それ故に、実は外出への
欲求はそれほど無かった。
 だがこうして出かけてみればやはり心浮き立つ。オープンカーで走っていると
、時折桜の花びらが座席まで舞い込んで来る。東京の桜は、昨日満開を迎えてい
た。都内でも意外に桜が多くて、桜の並木になった道路や、満開の桜でこんもり
盛り上がった公園がそこここに現れるので、車からでも十分楽しめた。
 信号待ち、蒼井が流崎を横目で見て笑う。
 「なんだ」
 「兄貴がサングラスすると何だか、芸能人のお忍びデート、って感じだからさ」
 「悪かったな」
 言われて気になり、外す。
 「外すところもサマになってる」
 「そうかい」

 半分はからかいだとしても、半分は本気なところが、この弟の凄いところだ、
と流崎は思う。
 蒼井が時折、本気で流崎の顔立ちを誉めてくることに、流崎は閉口していた。
流崎から見たら、弟の方が自分より全然いい顔だと思うのだ。気持ち良さそうに
運転している弟の横顔は、午前中の春の光がとても似合っていた。
 今でも思い出すのは、あの女刑事から「手で触れただけで人が殺せる蒼井両介」
の話を聞いた瞬間のことだ。
 悪魔の手を持つ男・蒼井両介は、鬼の手を持つ弟・リョウスケにまず間違いな
かった。弟は母とともに村はずれの沼で死んだと思っていただけに、生きていて
くれたことには、ただただ、感動があった。
 そして次に感じたのは、渇望、そして恐怖だった。記憶の中の弟は、世話は焼
けるが純粋さの塊のような存在だった。「神の手」を巡って殺伐としていく村の中
で、母の愛と弟の純粋さだけが流崎の救いだった。あの弟にもう一度会えるのな
らば、どんな代償を払っても構わない。ただ、ひと目会いたかった。
 だが、あれからもう20年が経つ。弟がどんな人間になっているか想像もつか
ない。もしかしたら自分のように、他人を利用したり操ったりするとこに何の呵
責も感じない、醜い人間かも知れないのだ。そんな人間が「悪魔の手」を持ったら
どうなることか……。もしそんな人物ならば破滅するに任せようと思っていた。
 とは言え、あのリョウスケだ。純粋なまま育っている可能性だってある。だが
、この世知辛い世の中で、そんな奇跡のようなことがあり得るだろうか。更に、
そんな人物が「悪魔の手」などという過酷な人生に耐えられるだろうか。

 早速女刑事を丸め込んで、その蒼井両介と会う段取りを付けながら、両介がど
んな人物かに合わせて、何パターンか、起こりうるシナリオを頭に書いてみた。
 果たして現れた、蒼井両介。ひと目見て判った。こいつは弟のリョウスケだと。
 最初に何を問うかは、決めていた。
 触れただけで人を殺せるというのは、どういう気持ちか、と。
 それを問われた瞬間の蒼井の表情を流崎は見逃さなかった。重い十字架を背負
って耐えようとする、美しい顔だった。もともとの端正な顔立ちに、生来の優し
さと潔癖さ、そして使命感が加わって磨き上げられた顔。蒼井が美しいのは、生
き方が美しいからだ。自分の上っ面一枚の「美貌」などとは価値が違う、と思った。
 ああ、こいつは俺のリョウスケだ――湧き上がる歓喜とともに流崎は思ったも
のだ。その平静さをわざと乱して泣かせたくなる風情まで昔のままだった。自分
とは違い、人を殺すという能力に深い罪悪感を感じ、だが授かったからには、そ
の力を何とか世の中のために使いたいと苦悩する男。この世にあって奇跡のよう
な存在だった。だがそれこそがリョウスケだった。
 その瞬間、それまではただ、死ぬまで生きるしかないだけの流崎の人生に、絶
対の目標が生まれた。
 こいつに、自分が辿ってきたような、修羅のような人生は、絶対に歩ませない。

 「兄貴、一度車止めるよ。高速に入る前にキャノピー閉めた方がいいだろ」
 「……ああ」

 コンビニの駐車場に車を入れると、ソフトトップになっているキャノピーを閉
じる。
 「俺、ついでに冷たいお茶買ってくる。兄貴、何かいるもんあるか?」
 「……いや、いい」
 判った、と言って蒼井はコンビニに入っていった。
 去り際の蒼井の顎の陰にチラリとキスマークが見えて、流崎の顔が思わず緩む。
昨晩、蒼井が理性を飛ばしている間につけた印だった。気づいたら烈火のごとく
怒るだろうが、怒られるのも楽しみのうちなのだから我ながらタチが悪いと流崎
は思う。
 蒼井と出会ってからの流崎の行動は全て蒼井の為だった。まずは脱獄、その後
、自分が力を公表することでどんな事態に巻き込まれるかを蒼井に見せる。やが
て蒼井が自分の力と向き合い、試練に耐えられる強さを身につけたら、自分は退
場すればいい――。全ては流崎のシナリオ通り進んでいった。そのせいで蒼井自
身から、憎まれても罵られても気にならず、むしろ爽快でさえあった。楽しくて
、楽しくて――だから思わぬ望みが生まれてしまった。
 生きていきたい。こいつと一緒に。
 持ち重りのするこんな力ごと、弟に滅ぼして貰えたら本望――と思っていたは
ずが、打ち消しても打ち消してもその望みは消えなかった。これまで周囲も自分
自身も冷静にコントロールしてきたはずなのに。
 だからあの日、流国ダムの上で賭けをすることにした。自分一人が死ぬか、二
人で死ぬか、二人で「神」になるか。それはもはやゲームでさえなかった。

 だが蒼井は、二人なら生きていける、と流崎に告げた。全く予想外の答えだっ
た。
 そして今、本当にそうしている。
 それも、自分が望んだとおりの形に。
 まだ夢の中に居るような気がする。目覚めたら、また自分はあの拘置所の独房
の中にいるのではないか。或いは以前夢で見た、自分と弟が「神」になってしまっ
たあの恐ろしい世界に――。
 あの夢を見たのはもう昨年のことなのに今でも時折流崎を苛む。夢の中で、流
崎と蒼井は、神の手と悪魔の手を失わず、力を生かして、世界に神として君臨し
ていた。状況は行き詰まっており、流崎は弟を愛するあまり壊してしまう。あの
夢が恐ろしいのは、あれもまた一つの真実だからだった。今も自分の中には闇が
ある。それがいつかリョウスケに向かう日が来ないとも限らないのだ。流崎が恐
れているのは他人ではなく自分だった。
 そもそも自分とは違い、真っ当な家庭で真っ当に育てられた弟。本来ならそろ
そろ、ごく普通に女性とつきあって、結婚でも考える頃合だろう。だが、自分と
関わってしまったが故に、実の兄と、兄弟を超えた関係にまで踏み込ませてしま
った。体の関係を持つことまでは想定していなかったが、そうした手練手管が必
要になったら使おうとは思っていた。何しろ、拘置所時代には様々な目に遭った
。体で心を掴むやり方が、いくらでもあることは知っていた。
 だが結局、お互い暴発するような形でセックスをしてしまった。だがそれは流
崎が知っているそれまでのセックスとはまったく違っていた。好きな相手とする
、というのはこういうことかと驚いた。

 そこからは、溺れたし、溺れさせた。弟は男となんてやったことはなかった筈
で、どう考えても、悪いのは自分だが、後悔する気は無い。弟と違って自分は善
人ではない。手に入れた幸せを手放す気は無かった。初詣で手を合わせて思った
のは、こいつのことは、絶対に一生手放さない――という、願いではなくむしろ
決意表明、いや、宣戦布告に近かった。弟は随分可愛い願いを祈ったようだった
が……。
 蒼井がコンビニの袋を提げて戻ってくる。
 「缶ビールとウエットティッシュと、一応、紙皿とコップも買ってきた」
 そう言いながら、緑茶のペットボトルのキャップをヒネり、ごくごくと飲む。
 「両介、ひとくち」
 流崎の言葉に、ああ、とペットボトルを渡そうとするが、その目を見て、顔を
赤くする。
 「そういう意味かよ……」
 蒼井の目が周囲を伺う。駐車場に人影は無い。緑茶をひとくち含むと、蒼井は
流崎に口付けてきた。
 流崎は蒼井の口内から、こぼさないようにしながら蒼井の味のする緑茶を吸い
出してごくりと飲み込む。勿論飲み込んだ後はそのまま舌を入れ、蒼井の口内を
味わう。
 「……ん、ふ」

 蒼井も最近では慣れて、こうしたことに大分抵抗しなくなった。だがさすがに
、そのまま続きという訳にはいかなかったようだ。キスを終えると平気な風を装
っているのがバレバレの赤い顔で、それでもハンドブレーキを押し込む。
 「車、出すよ」
 「なら、続きは着いてからだ」
 車を発進させながら蒼井が、それは勘弁してくれよ、と小さく呟くのが聞こえ
た。

 車のエンジンを切ると急に静かになった。
 古びたテニスコートの横、まだ辛うじて轍の後が残る砂利道のどんづまりに駐
車して、降りる。
 畜産試験場の敷地に入ってから随分うろうろした。試験場内は確かに他の名所
より人は少なかったが、ある程度桜がまとまって生えているようなところには先
客がいたし、人が居ないところは、畜産試験場らしい匂いがしていたりして、落
ち着く場所を捜しているうちに随分奥まで来てしまった。とりあえず、駐車でき
るところを探して、歩いて探してみるかということになった。
 東京より寒いかと思ったが、良く日が照っているせいもあって、日向では汗ば
むほどだ。このテニスコートが試験場のものなのか、それとも全然違うのかわか
らないが、コートのあちこちから雑草が生え、フェンスも錆だらけで、もう何年

も使われた形跡が無い。コートの横から奥へと、雑草に侵食されかかった獣道が
あって、その向こうは雑木林になっていた。まだ春浅いせいか緑というより新芽
独特の銀鼠色で霞む木立の奥に、淡紅色のこんもりしたシルエットが見えた。

 「――あれ、桜だよな。あそこに行ってみるか」
 「判った。荷物降ろすぞ」
 トランクから取り出した荷物を持ち、二人揃って細い道を歩いていく。時折ピ
ツピツピツ、と鳥が鳴くくらいで、後は二人が枯葉や下草を踏む足音と渡ってい
く風くらいしか音がしない。久しぶりの静けさが流崎には心地よかった。あたり
に漂う、雑木林らしい少し煙いような匂いも流国村を思い出して懐かしかった。
 「――すごいな」
 桜の近くまで来て、蒼井の口から感嘆の声が漏れた。流崎も思わず足を止める。
 薄暗い雑木林の、その一角だけ淡紅色の桜の林になっていた。
 ちょうど正午の、真上からの日差しを受けて、満開のソメイヨシノからは、花
片がスローモーションのようにゆっくり降っていた。ソメイヨシノの他にも、花
びらが大きくて色が濃い枝垂桜や、背が高くて三分咲きの花弁が白い山桜や、蕾
が重たそうな八重桜など、何かの試験林だったのか十本ほどの様々な種類の桜の
古木が、等間隔で植えられているせいもあり、良く光が射して、渋い色合いの雑
木林の中でそこだけぽっかり明るい。まるで神域めいた荘厳な空間だった。
 しばし、二人で言葉もなく立ち尽くす。
 多分この先何度も、この日この時のことを思い出すであろう瞬間に、今二人は
いた。
 どちらからともなく顔を見合わせると、笑顔が浮かんできた。ごく自然に、唇
を合わせた。
 そして光の中へ揃って足を踏み入れる。

 ひとまず荷物を降ろし、ソメイヨシノの、一際大きく張り出した枝の程よい日
陰に場所を決めた。蒼井が、下草を踏んで慣らし、落ちた大きな枝などをどけて
、瘤になった根を避ける。蒼井の手順には迷いが無くて、流崎は感心した。ピク
ニックシートを広げるのは二人でやった。それぞれ端を持ってフワリと下ろす。
地面との間の空気を抜き、四隅を石で押さえる。流崎はだんだんと子供のように
心が浮き立ってきた。思えば、花見も初めてだが、こんな風に戸外で弁当を食べ
るということ自体が初めてかもしれなかった。
 流崎が持ってきた弁当を並べると、あっという間に花見の準備は整った。
 日差しが遮られた花陰の下はひんやり涼しい。蒼井が缶ビールを渡して寄越す
。時折ヒラヒラと花びらが落ちてくる中、二人揃ってプシュと缶ビールのプルト
ップを開け、乾杯。ごくごくと飲み干し、しばし余韻に浸る。
 「……なるほど、花見ってのは、気持いいな」
 「そうだろ? でも俺も、兄貴と一緒だからかな、こんな楽しい花見は初めて
だ」
 弟が可愛いことを言うのでムラっときたが、我慢してタッパーの蓋を開けてい
く。蒼井が歓声を上げた。
 「うわ、凄いな。美味そうだ」
 それはそうだ。どれも蒼井の好きそうな物ばかり集めたのだ。胡麻をまぶした
鶏つくね、春キャベツのメンチカツ、インゲンとチーズの海苔巻き、菜の花の胡
麻和え、スペイン風オムレツ。我ながら、どの料理も上手く出来た。ただ、以前
からそうなのだが、おにぎりだけはどうも上手く握れなくて、蒼井に手伝って貰
った。小さ目のサイズで、具は梅干・シャケ・タラコとスタンダードだ。

 「このつくね、なんかコクがあって上手いな。ビールが進むよ」
 「隠し味に味噌とマヨネーズを入れたからな」
 「……なあ兄貴、いつも不思議だったけど、こういうメニューって、どこで調
べるんだ? 本か? それとも自分で考えるのか?」
 紙皿におかずをいくつも載せ、おにぎりを頬張りながら蒼井が尋ねる。
 「大抵はネットだな」
 「へえ……ああいうメニューってネットに出てるんだ」
 流崎は普段、蒼井が仕事に行く時の弁当も作っている。蒼井は嫌いなものが殆
どなく、いつも綺麗に食べてある。以前ウインナーを入れたときだけ、出来れば
タコ型に切るのは止めて欲しい、生徒にからかわれるから、と丁重な口調で断り
が入ったものだった。流崎としては手本の通りにやってみただけなのだが、何か
問題があったらしい。
 「最近、生徒達が俺の弁当を、うまそうだからってチェックするんだ。職員室
までやってきておかずをたかるヤツもいてさ……」
 絶対やらないけど、と少し意地悪そうに笑って、蒼井はビールを美味しそうに
飲む。その様子がおかしくてクスリと笑いがこぼれた。
 「まったく、意地悪な先生だ」
 「弁当の時間くらい先生じゃなくてもいいだろ」
 「生徒用に今度、何か多めに作るか?」
 「絶対ダメだ! あいつら食べ盛りだから容赦ないんだ。一度でも兄貴の料理
を食わせたら、大変なことになる」

 真顔で言うのがおかしくて、流崎はとうとう声に出して笑ってしまった。
 「大体あいつらさ、こないだだって新しいクラスで……」
 蒼井が、この4月から担任し始めたばかりのクラスの話を、ビール片手にご機
嫌で始めた。弟は学校では『蒼井っち』などと呼ばれて、意外に人気者らしい。
教師という仕事を心から愛しているから、それが生徒にも伝わるのだろうと流崎
は思う。拘置所暮らしが長かった流崎は、なりたい職業どころか、将来さえ考え
たことは無かった。今も特にやりたいことは無い。だから余計に、仕事に真剣に
取り組む蒼井を支えてやりたいと思う。
 向かいで楽しそうに喋る弟の話に相槌を打ちながら過ごす、他愛が無いけれど
かけがえの無い時間――。そろそろおかずも食べ終わってきた。空になったタッ
パーを片付け、デザートの果物を入れたタッパーを開ける。すると、蒼井がちょ
っと変な顔をした。
 「おまえ、リンゴかイチゴ、どっちか苦手だったか?」
 「いや。リンゴが、綺麗に剥いてあるな……ってだけ」
 「綺麗に、ね……」
 兎型に剥いたリンゴがいけなかったのだろうか。ネットで見たとおりにやって
みたのだが。怪訝な顔をする流崎に向かって、蒼井はリンゴを一個取ると、シャ
リとかじって見せた。
 「うん、うまいよ」
 「……なら、いい」
 流崎もリンゴを手にとってかじる。

 少しだけ、日が傾いてきた。一時を回ったくらい。まだもう少し暑くなるのか
も知れないが、花びらとともに木陰に吹く風が気持いい。
 「なあ兄貴、来て良かっただろ」
 「……ああ」
 目の前には春そのもの光景があった。全てが新しく、ここから始まっていく季
節だった。
 上からは、桜を透かして光と花びらがこぼれてくる。
 ふと、不思議なことに以前こんな風景をどこかで見たような気がした。そんな
訳ないのに、脳裏にダブる光景がある。満開の桜の下、並ぶご馳走と、集まった
人々の笑顔。降りしきる花びら。思い出した。去年見ていたドラマのエンディン
グ画像だった。
 だが今、自分はドラマを見ているのではない。これは現実だった。どんなドラ
マよりも素晴らしい現実だった。一番素晴らしいのは、この物語に終わりは無い、
ということだった。
 顎を引き寄せ口付ける。そのまま押し倒すと、拍子抜けするほど弟は従順だっ
た。
 組み敷いた蒼井に流崎は尋ねる。
 「抵抗しないのか」
 「覚悟はしてたよ。でも人が来たらどうするんだ」
 「誰も来ないだろ、こんなところ。それにもし来ても気づくさ。そしたら止め
ればいい」
 そう言うと思ってた、とため息をつくナマイキな口をまたキスでふさぐ。すぐ
に舌を絡めて、お互い夢中になった。
 インナーの下から素肌に手を滑らせ、胸の飾りをいじりながら、首筋にキスを
降らせる。さっき見つけたキスマークをもう一度付け直してみる。

 「ちょ……兄貴! 痕はつけるなって」
 やっぱり怒った、と嬉しくなる。顎から耳へと唇で辿り、耳元で囁く。
 「明日も休みだろ。学校までには消える」
 言いながら下半身に手を伸ばす。唇で柔らかく耳を食みながら、もう形をかえ
つつあるそこを、ジッパーを開けて自由にしてやる。蒼井が声を漏らして、身じ
ろぎする。
 体勢を変えて取り出したものを口に含む。
 「うあっ」
 唇でくるんで、粘膜を使って先端を刺激してやると見る見るうちに形を変えて
いく。仰ぎ見ると蒼井は普段のストイックさは欠片もなく、忘我の表情で形の良
い口元を震わせていた。流崎はこの瞬間が好きだった。蒼井の全てをコントロー
ルしているような気持になってくる。実際、蒼井は流崎の口淫に合わせ体をゆる
く揺すり、時々快感に耐えかね体を跳ねさせる。
 「ふ……あ、っ、ああぅ、あ、あにき……」
 荒い呼吸から訴える声が甘い。以前に比べて、行為に随分積極的になった。口
でしゃぶってやりながら、浮いた腰からボトムを脱がす。
 ジャケットのポケットに入れておいたジェルを取り出すと、指にまぶし、蒼井
の後ろに突っ込んだ。
 「んっ、あ、あ、あ、あ……っ」
 中はとろっとして、自分の指を待っていた。動かす指に合わせて声を上げる様
が愛しい。欲しがられていたのだ、と実感する。口淫も続けながら後ろも刺激し
てやると、感じやすい蒼井はすぐに昇りつめて来た。

 一度口を離し、体勢を変える。流崎は、幹にもたれるように座った。そこに向
かい合う形で蒼井をまたがらせてゴムをつけたものを挿入する。
 「もっと、奥までくれ、よ……」
 蒼井が言って、ねだるように自分で腰を揺する。入れたものが蠕動に巻き込ま
れて、思わず持っていかれそうになり、声があがる。
 「……ん、っ、」
 「……兄貴も、いいんだ」
 「ああ……いいよ。凄く、いい……」
 相手を欲し、相手から欲されるこの行為以上に気持いいことなどこの世にはな
い。蕩けきった顔の蒼井と音をたててキスをしていると、その瞳に自分の、やは
り蕩けた顔が映っていた。
 自分がこんな顔をするなんて、想像もしなかった。
 自分が誰かを愛することも、その愛した誰かから愛される日がくるなんてこと
も、想像していなかった。 
 「……兄ちゃん、って言えよ」
 流崎にしてみれば、いつものプレイのつもりだった。
 「……え?」
 「兄ちゃん、って言ってみろ」
 蒼井は目を見開いた。口が逡巡の形にゆがむ。恥ずかしくて言えないのか、と
思ったらそうではなかった。見る見るうちに蒼井の瞳に涙が盛り上がってきて、
流崎は慌てた。泣かせるのはいつものことだが、ちょっと様子が違う。
 「おい、両介。どうした? どこか痛いか?」
 「……あんたはさ」

 涙を隠すようにうつむいた蒼井がくぐもった声で言う。弟から、あんた、と呼
ばれたのは随分久しぶりのことだった。
 「やっぱり俺のこと、弟だから好きなのかよ」
 思っても見ない方向に話が転がっていて流崎は少し戸惑った。
 「……両介、なんでそんな話になるんだ?」
 「俺は、あんたが兄貴じゃなくてもきっと好きになった。きっとじゃない、絶
対に。でも兄貴はいつも兄貴だ。俺が弟だから、『悪魔の手』を持つ人間だった
から、こうして構ってくれるんだろ――」
 「お前――」
 蒼井が涙目で見上げてくる。その顔を見つめて流崎は瞬いた。
 全く、こいつは――。全身に愛しさと喜びが広がる。
 「……! 兄貴、ちょっと、これ、ん……あっ」
 「ああ……お前が、かわいいこと言うから、だろ」
 蒼井の言葉で質量を増してしまったもので蒼井の中をえぐる。
 「……なあ、両介」
 「な……んっ、あ、にき……っ」
 「……これが、兄弟にすることかよ……っ」
 揺すり上げてやると、一際高く声があがった。
 「だめ、ちょ……ア、ア、う……んっ」
 乱れた声に、流崎ももう我慢がきかない。欲望のままに一気に抽挿を激しくし
た。体中に響いているうるさいほどの鼓動が自分のものなのか、繋がったところ
から伝わる弟のものなのか、もう判らない。どこまでが自分の快感で、どこから
が相手の快感なのかも――。
 果てたのは同時だった。

 脱力した弟が、とす、と肩に頭を乗せ体を預けてくる。その荒い吐息さえ愛お
しい。腰を支えていた両手を、背中に回し抱きしめる。蒼井も力の抜けた腕で、
それでもしがみつくように、流崎を抱いてきた。
 「全く、お前は……」
 「……好きなんだ、あんたのこと。自分でもおかしいって思うくらい好きなん
だ」
 壊れたように言い募る蒼井の背中に、点々と桜の花びらが付いていた。汗で濡
れた髪にも絡まっていた。多分自分の髪にも幾らかは載っていることだろう。後
から後から、花びらは落ちてくる。
 蒼井の、汗がまだ引かない背中を撫でながら、流崎もささやく。
 「ああ……俺も、同じだ。お前を愛してる」
 流崎は祈るように瞳を閉じた。眼裏にチラチラ映る、桜の枝と傾いてきた太陽
と、降りしきる花びらの残像。
 ずっといないと思っていた。遥か昔に失われ、とうに諦めていた。
 静かに瞳を開く。
 だけど今、こうして腕の中にはリョウスケがいる。
 何かを叶えて欲しいという願いでもなく、どうしてこんなという怒りでもなく
、ただ感謝の気持だけで空を見上げる日が来るなんて。
 目の前には春そのものの光景。
 祝福のように花は降りしきる。
 祝福のように花は降りしきる。

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
本当にこいつらが大好きなんだ…書いても書いても飽きないんだ…。

最後の最後にエラーが出て焦った…。 
支援してくれた姐さんたち有難う!

  • とっても面白かった!弟大好き兄がたまらなく好き! -- ななな? 2014-05-26 (月) 18:04:35

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