甘美にして苦
更新日: 2011-04-25 (月) 08:43:14
「鬼切丸」より少年の皮被った哲童→幻雄→少年
最終決戦で哲童が幻雄だけ生かして飼ってるパラレルな設定
大した描写では無いけれどカニバリズム的要素アリ
スレの同志様方に感謝
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
古寺の奥のその部屋は、天井近くの小さな窓と頑強な錠が座敷牢を思わせる造りだった。事実、昔はそのように使われたこともあったのかもしれない。
中で虜となっている男は、手枷足枷も無いというのに、拘束されているかのようにその場から動こうとしない。物音一つ、この部屋には響かない。
その静寂を破る、床板の軋む音。足音が、部屋へと近付いてくる。
足音が一瞬止み、鈍重な金属音が鳴り、扉が開く。
入ってきた少年はまず隅の明りを灯した。
部屋に満ちた宵闇が少し追いやられる。その明りを半身に受け、少年は壁に凭れた幻雄に歩み寄る。口元にはうっすらと笑み。
「ほら」
残っている左手に、学生服のポケットから取り出した勾玉を四つばかり握らせる。
幻雄はその感触を確かめるようにしばし弄び、ちらりと視線を落とすと、さもつまらないものであるかのように、床に投げ滑らせた。
「まったく…相変わらずだな」
足元に滑ってきた勾玉を、溜め息混じりに一つ摘み、にじり寄って口元に押し付ける。
緩慢な動作で、静かに顔を背ける。
「いつになったら素直に喰べてくれる」
溜め息を零し、手を下ろした。
目を合わせようとしない幻雄を、同じ高さのごく近くから強く見つめる。
「……幻雄、お前を死なせたくはないのだ。お前しか永き時を共有できる存在はないのだから」
彼はこのように幻雄の名を呼びはしなかった。名を呼んだことすら、あったろうか。そも、名を覚えていたかどうか。
猫撫で声で幻雄の名を呼ぶのは、鬼でありながら戯れに鬼を斬り、時に法力で鬼を勾玉に封じ込める、あまりに邪悪な存在。
「そうか…この程度の雑鬼では食欲が湧かないか」
落胆し伏せた目が、再び幻雄を捉えたとき、それは仄暗い愉しみに細められていた。
「ならば」
手にしていた日本刀を抜く。
刀身が反射する明りに、頑なだった幻雄も目を奪われる。
哲童が印を結ぶ時のように、少年は左手を握り小指を立てた。
「なにを」
「純血の極上の味ならどうだ」
「っ、やめ」
無い右腕を伸ばそうとする。
付け根に刀を滑らせると、小指は容易に手を離れ、床に落ちた。
「案ずるな、この刀はこの身の分身。この刀で滅せられることはない」
小指を欠いた左手が、床に落ちたそれを摘み上げた。
勾玉ではなく、鬼の肉を唇に押し付けられる。思いのほか肌理細やかで白い、若者らしくやや骨張った指。
彼の指に口付けているような錯覚に陥る。
困惑の中で、誘惑に負け、終にはその口を微かに開いた。
彼や後藤とつるみ、容易に鬼にありつけるようになっていたせいだろうか、随分と飢えに弱くなったものだ。自嘲せずにいられない。
出会い、その正体を知った時に、どのような味なのかと思い巡らせた。養殖ものや加工ものでない純血の味は、果たして別物かと。
とうとう味わったその味に感激したのでもなかろうに、幻雄は泣いてしまいそうな己を自覚した。
認めざるをえまい、自分に狩られろなどと嘯いたこともあったが、彼を獲物として味わうことなどとうにできなくなっていたのだ。
しかし、仲間に追われようとも共に追われた仲間を手に掛けようとも決壊することのなかった涙腺は、この時もとうとう涙を零しはしなかった。
あやすように頬を撫で、鬼が笑う。可愛げのない、それでいて人間を愛おしむ、哀しい彼の微笑ではなかった。懐かしくおぞましい、遠い記憶よりも残虐さを増した同胞の微笑。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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