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.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < 現在公演中・新完線【バソユウキ】ネタバレ注意
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < 前スレ346=416姐さんに触発されて殺し屋→教主
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         | |      /  , |           (・∀・; )、< 観劇記念inたこ焼きの国に殺し屋視点で一本
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 |_____レ"

『これは匙だ。鎧の隙間から相手の心臓に突き刺す。これで人は殺せる』
驚いた顔で――半ば呆然と言った方が正しいかもしれない、そんな視線を背筋に感じ淡々と牢兵の息の根を止めていく。
帯で首を絞め上げ、指で目から抜け脳を抉り、剣で斬り刻み槍で貫く。
狼の如く荒々しくしなやかに獲物を狩り。
蘭の如く匂い立ちて艶やかに宵闇を舞う。
ロウラン族の性に相応しく。昔々、一族の長に教え込まれた通りに口と身体は滑らかに動く。
『この世にある全てのもので人は殺せる』
いっそ爽やかなまでの笑顔で殺し尽くし、柔らかな声音で、背後から視線をくれていた男に告げる。
此処が監獄の地下深く暗闇だということを感じさせぬ陽だまりの微笑み。
あるいはそれは作り物の監獄など比にならない程の闇を内包した笑みだからこそ、そう成るのかもしれない。
『…名前は』
そう問われた。
だから答えた。

『そうだな、――匙とでも呼んでくれ』

匙。眼前の男にとっては土を掘り、自らに辿り着き、その道を、これからの運命さえをも切り開いた道具。
『だが、これからは僕が君の道を作る』
だからこれからは僕が君の匙だ。とでも告げれば納得してくれるだろう。
けれどそれは同時に人殺しの道具。
硬く冷たい鉄の匙。その緩やかな曲線に油断をすれば一瞬で命を抉られる。暗殺者としての自分そのもの。
仮の呼名には十分すぎるくらいだ。その場の思いつきにしては上出来じゃないか。そうこっそり自賛した。

名なぞお前に要らぬ物。
殺しの技があれば好い。
その命さえあれば好い。

遠い記憶。

それではその技すら疎まれた時、己はどうする。
命すら要らぬと言われた時、己はどうする。

答えは割に直ぐに出た。
禍々しき操り人形は自ら糸を立ち切り、悪魔と呼ばれるモノに成った。
名も無きままのそのままに。

そもそも、名とは何だ?
持たぬことで不便に感じたことなど無い。所詮そんなものだ。それだけのものだ。
現し世のくだらぬ取り決めに過ぎない。個体を識別するという名目などささやかなもの。
漠然とした存在の己が果たして何者であるのか言葉にして只安心したいだけだ。
愚かな民たちは気づかない。名前などというものが只のまやかしであることに。
本当の己が何者かなぞ自身にすらも解らぬものを、解ると言う者がもし居れば嘘吐きの謗りは免れぬ。況や他人をや。

それでも求められれば名乗ってやろう。
匙。それが今の僕の「名」だ。

用意という用意を全て終え。
宝来へ向かう船の上。
「はい皆さん、ご飯が出来ましたよー!」
「美味しいお粥が出来ましたよ~」
伽藍と六六が食器を打ち鳴らして皆を呼び集めている。
「今日モ美味シソウネ、アリガト、二人トモ」
「いえいえ、今日は先日の港で手に入れた隠し味があるんですよ。姫様のお口に合えば幸いです」
「ドモン、サヅ、コッチコッチ!」
無邪気な姫の手招きに、彼と二人で呼ばれて行く。
「ホントだ、美味しそうだね」
「いつも済まない。感謝する」
「お互い様ですよ」
そう言って姫を護る者たちは笑う。
「はい、これでどうぞ」
言葉とともに手渡されたのは、匙。
「匙…か」
微かな呟きが聞こえ、彼――白い髪をした若い男がまじまじとその匙を見つめるのを横目で伺う。
ふと、気配を感じたのか男が此方を向いた。間近い距離で視線が重なる。
「どうかした?」
いつも通りの目を細めた笑顔で問うと、彼は小さく苦笑した。

「いや…匙には世話になりっぱなしだと思ってな」
「ああ、…島を脱出した時の話」
「それもあるが」
一呼吸置いて、男は続ける。返ってきた科白は予想外のものだった。
「匙は命を繋ぐものだから、な」
「どういうこと?」
「こうして食事をするのに使っているだろう。それは即ち命を繋いでくれているのと同じことだ」
「でも」
我ながら反論の言葉は早かった。普段はこんなことくらいで、いや、何に対してもムキになんかならないのに。
だってそれは命を繋ぐものなんかじゃない。少なくとも自分にとっては。
「食事をするのに必ずしも必要じゃないだろう。いざとなれば手掴みでも食べられるじゃないか。全く要らない物だよ」
寧ろ真逆の用途を連想させる。
それだって人によっては要らない物だ。そう、誰にも要らないと言われたあの日の誰かのように。
「それは違う」
しかし、相手の口からは更に反論の音が返ってきた。
「――匙で食事をするということは、人間らしい生活を送るということだ」
ぽつり、ぽつりと、言の葉を紡ぎながら。
思い出したくも無いだろう記憶を手繰り寄せているのがわかる。

「あの監獄では人間として扱われることが無かったから尚更な。…今の俺に匙は無くてはならないものなんだ」
「…そう」
「お前も同じだ」
「え?」
男がふわりと笑った。まるで本物の陽だまりのように。その瞳は青空のように澄んでいた。
復讐を誓った時の冷たい氷の如き表情からは連想も出来ない。その表情にほんの一瞬気を取られる。
「お前は俺の命を繋いでくれた」
「………」
「牢獄の中で憎しみを抱きながらもどうしていいかわからなかった俺に気力を取り戻させてくれた」
「…―――」
そこから先、どう応えていいかはわからなかったから、口を閉じた。
気にした様子も無く男は続ける。
「あの島を出てからはこうして傍で力を貸してくれている。匙は俺にとって――そうだな、俺にとっては」
男は一瞬口ごもる。言葉を探しているようだった。
その続きを聞きたいのか、それとも聞きたくないのか。
それさえもよく、わからなかった。
そして、続いた言葉は。

「……要は、お前が必要だということが言いたいんだ」

「―――――…え?」
「命を繋いでくれるこの匙と同じ。俺の掛け替えの無い親友だ」
「………」
「匙?」
「…そう、そうだったね。僕らはもう親友同士だ。君との友情にかけて誓うよ。君のために道を拓くと」
「ああ。これからもよろしく頼む」

親友、か。
そうだね。そうだ。

そういうことにしておくよ。
君が王になるその時まで。
僕が復讐を果たす、その日まで。
これからも僕は君の匙だ。

本当は少しだけ。
『お前が必要だということが言いたいんだ』
胸の辺りを、何か知らない温かいものが過ぎった気がした。けれど気づかない、振りをした。
ただ少し、ほんの少し、この名前が気に入った、かもしれない。
思い出したようにその目を再び眇め、昏い陽だまりの笑みをいっそう濃く、深くする。

「さあ、行こうか。―――――宝来の国へ」

航海はまだ、始まったばかり。

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        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < 右大臣×学問頭なんかもいいと思います
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   教主様の中の人×千秋楽近くに来てたあの人との楽屋ネタも書きたい今日この頃。
   萌えを吐き出させて頂きありがとうございました!


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