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オリジ ゲイニソ 後輩×先輩

またまたお借りします
オリジ ゲイニソでコソビ外カプ
全国区ブレイク後輩×ローカルゲイニソ先輩

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

今日は全然ツイてへん。

目が覚めたら、入りの時間はとっくに過ぎとって。
取る物も取り合えずタクシーで劇場まで乗りつけたら、財布の中身は空っぽで。
あげくクレジットもキャッシュカードも、財布とは別にしとるカード入れごとそっくり家に忘れてきたもんやから、後輩に金を借りてタクシー代を払い。
(結構屈辱的なことだが、相方が「自業自得や」と言うて貸してくれへんからしゃーない)
開演したらしたで「こいつ今日ありえへんくらいヒドイ遅刻してきましてん」と相方にイジり倒され。
その後もしつこく続いた予定外のイジりで公演時間が延びて、上がりがえらい遅なって。
家に戻って金やカードをとってくる暇なんて全然なかったんで。
俺はまたもや後輩に金を借り(くそっ…!)、新大阪駅までタクシーを飛ばし。
予約していた新幹線になんとかギリギリセーフで滑り込んだ。

前もって買うてたチケットだけは財布の中に入れとって、ホンマに助かったわ。

目的地に到着し、新幹線を降りる。待ち合わせ場所で待つこと約15分。
待ち人は帽子を目深にかぶるでもなく、グラサンや伊達メガネをかけるでもなく、ちゅーか舞台衣装ではなくかろうじて私服だというとこ以外、まるで人目なんか全然気にせーへんと言わんばかりの素敵な姿で現れよった。
案の定周囲から「ねえ、あれってお笑いの…」だとか「もしかしてゲイニソの…」だとか、ひそひそ声がだだ漏れ状態で聞こえてきて、俄かに辺りが喧しくなる。
こればっかりはしゃーない。テレビは全国ネットのゴールデンからローカル深夜番組まで引っ張りダコで出ずっぱり、いまや国民的人気を誇るお笑いコソビの片方が、変装もせんと突如品川駅の改札前広場に現れてんから。騒ぎにならん方がおかしいやろ。
ちなみに、さっき俺が1人でここでコイツを待っとる時には、もちろんそんな声は聞こえてこんかった。
俺と相方は、一応大阪では道行くおばちゃんらに「あれ、あんたテレビで見たことあるなあ?」と声をかけられる程度に知名度はあんねんけどなあ。東の方では“通りすがりの一般人”以上に認識されたことは、まずない。
「お待たせしました。どこ行きます?もしかしてもうメシ食うてしまったとか?」
「いや、今日はまだ食うてへんけど…なあオマエ、もうちょっと目立たんような恰好してくるとか、ちったあ考えようや」
「食うてないんやったら、俺が知っとるとこあるんで、そこ行きましょか?」
「人の話聞けや!」
嗚呼、どんなベタなボケにもツッコまずにはおれん、職業軍人ならぬ職業ゲイニソの悲しき性よ。

「ちゅーか、実はもう予約入れてんですけどね」
ほんなら最初からそう言えや、と絡みつつ、アイツに連れて来られたのは、小洒落たレストランでもチープな居酒屋でもなかった。
「喫茶店やん」「喫茶店ですよ?」
どうやら酒を飲むという選択肢は、はなからないらしい。
しかも、扉には「Closed」の札がかかっとる。
「閉店時間過ぎとるやん」「過ぎてますよ?」
なんやねん、このグダグダなやり取り。今時の若手かてこんなダルい漫才せえへんで?いや、別に今コイツと漫才やっとるわけでもないんやけど。
「ここ、俺のダチがやっとるんです。で、今日あなたを連れてきたいて言うたら、ほんなら閉店後の方がゆっくりできるやろて言うてくれて。ほんで、特別に開けてもらいました」
どうやらコイツなりに人目を避ける気遣いはしてくれてたらしい。
まあ、さっきの駅でのザマを見れば、十中八九自分のファンの目を気にした結果やとは思うがな。

こじんまりとした店内の一番奥の席に、アイツと向かい合って座る。俺らの他はマスター以外誰もいない、貸切状態。
今日はいろいろあって、ほんでもって金と時間はひたすらなくて、ほとんど胃の中に何も入れてなかったことを思い出すと、途端に腹が減ってきた。
「新幹線の中でも、金がなくてお茶ぐらいしか買えんかってん」
とりあえず腹に溜まるもん、と言うと、アイツにガーリックステーキを勝手にチョイスされた。
が、出てきたのはステーキっちゅーよりはただの鉄板焼と言うた方がええような…まあそういうヤツやった。
これが何々産の最高級和牛の霜降りで、秘伝のタレを使って云々などと説明されれば、それなりにありがたがって食うんやけど。でもここはアイツの顔を立てといたらなあかんよな、うん。
売れてる恋び…いやいや、後輩にも気ぃ使う俺。
なんてよぉ出来た恋び…あかんあかん、先輩やねん。

「ほんで?」
ガーリックがよぉ効いた肉とライスを交互に頬張っていると、ロケ弁を食べて腹一杯とかでコーヒーだけ飲んでいたアイツがいきなり口を開いてきた。
「何がほんで?やねん」
「何で今回はそないに急いでこっちに来てくれたんですか?」
明後日には半年かそこいらぶりの、東京の劇場での仕事が入っていた。やからや、とぶっきらぼうに答えると、「兄さん(俺の相方)は明後日の午前中にこっち入りやないですか」と冷静に指摘された。
「ええねん、俺らは週休3日やし。時間の融通は割りときくんやから。どうせ明日休みやったら、別に1日早く東京入りしたかて困らへんやろ」
こちとら、芸歴をちょっとだけ長く積んだぐらいしか誇れるもんがないローカルゲイニソや。
バイトをかけもちせんと生計が成り立たへんひよっこの若手に比べたら、金も仕事もそれなりにもろとるけど、ほんまに『それなり』で。
仕事が入っとらん日ぃを計算したら、平均したら週に3日はそういう日ぃがあんねんぞ。
「月休2日のオマエにはわからへんやろなあ」
「ちょお、それどこの労働基準法無視した会社ですか。失礼やなー。俺らは月休3日ですよ」
「……体壊すなよ?」
とりあえず心配だけはしといたる。
うちの事務所は、「金のなる木は生かさず殺さず」がモットーやからな。労働基準法はおろか基本的人権すら守られているかどうかも怪しいもんや。
「ほんで?」
また同じ台詞で聞き返される。
「だから何がほんで?やねん」
「1日早く東京入りしたホンマの理由、まだ聞いてませんて。困る困らないはあなたの都合の問題で、俺の質問の答えになってないやないですか」
ちっ、うまいこと誤魔化せたと思とったのに。
オマエもしつこいのー、別にそんなん俺の勝手やろ!と声を荒げてみても、アイツは全く引く様子はない。

「…俺ら、ホンマに休みが不規則な仕事してますよねー」
不意にアイツが、声のボリュームを上げてきた。
意味ありげに浮かべているニヤニヤ笑いと相まって、何や、嫌な予感がひしひしと…。
「何が言いたいねん」
「お互い忙しくって、なかなか休み合う時ないですよねー」
「………俺は週休3日や。オマエみたいに忙しない」
俺はせわしなく動かしていたフォークをカチャリと皿の上に置いた。
「俺らは今、月休3日なんです」
「………さっき言うたやん」「さっき言いましたよ?」
またもあのグダグダな会話に戻る。が、さっきまでと違って、俺の声はめちゃめちゃ小さなってた。

「俺ら最近めっちゃ忙しかって、今日までスケジュール混み混みやったんですけど、明日はなんとっ、ジャジャーン!半月ぶりの1日丸々オフなんですぅ~」
「…………………………」
ワー、パチパチパチパチ~と口で言いながら1人拍手をするアイツ。
そしてそんな楽しそうなアイツから、ふいっと視線を逸らす俺。

「あれ?でも変やな~。俺この話、たしか誰かさんにメールでしたような――」

「おーい」
アイツの言葉が核心に迫ろうとしたその時、厨房の奥からマスターがひょこっと顔を出し、俺の目の前のダチを呼んだ。ナイス・タイミング!
「悪い。ちょっと出て行かないといけなくなってさ。10分ぐらいで戻るから、待っててもらっていいか?」
うん、ええよー、とアイツはマスターに向かってひらひらと手を振ってみせた。その顔がエライウキウキして見えるんは多分、いや、絶対気のせいやない。
マスターは俺に向かってすみません、戻ってきたらすぐ食後のコーヒー出しますので、と何度も頭を下げ店を出て行った。
ドアについとる古ぼけたベルが、チリンチリンと鳴った後に、扉が閉まる音。
そして店の中には当然のように、俺とアイツだけが残された。
マスターの乱入でせっかくうやむやになってくれた話がまた元に戻りそうな、嫌な予感リターンズ…。
「で、何の話してましたっけ?ああ、せやせや。半月前の1日オフん時は、あなたが地方に営業行っとって、結局一緒にはおれへんかったって話でしたね」
「ちゃうわ!ちゅーか、そんな話今更蒸し返すな、アホ!」

…コイツは、何が何でも俺の口から『その理由』を引き出したいらしい。
何もかもわかっとるくせに、コイツときたら……ホンマに絵に描いたようなドSやな。

「………や」
「はい?」
「………からや」
「聞こえません~、もっと大きな声で頼んます~」

「オマエの休みに合わせたからやて、言うてるやろ!!!」

……アカン、結局コイツにまんまと乗せられて、言うてしもうたやないか。
嗚呼、今日はホンマにツイてへん。

「そう言うてくれるの、ずっと待ってました」
二人きりの店内。アイツはガタン、と音を立てて椅子から立ち上がり、対面に座る俺の方にすっと顔を寄せてきた。
半ば無理やり言わせたくせに、と一応反論はしたが、アイツは俺を無視して続ける。
「確かに俺、休みのことはメールで話してましたけど、別に早入りして欲しいなんて言うてないやないですか。いや、そういう目論見が全くなかったと言えば嘘になりますが。だからまさか、あなたの方から俺の休みに合わせて来てくれるやなんて…」

せやな。
わざわざ入りを2日も早めて、前もって新幹線のチケットも買うて、それを大事に財布の中に仕舞いこんで、ほぼ無一文にも関わらず家に帰る間も惜しんで新幹線に飛び乗って。
そうやってオマエに会いに来たアホは他の誰でもない、この…俺やねんなあ。

「俺、ホンマのホンマに嬉しかったんですよ?」
そう囁いたアイツの男前な顔が、ぐぐっと至近距離に近づいた。顔近っ。
アカン、また流されてまう――

そう思った時には、もう遅かった。

「……ニンニク臭かったやろ?」
「俺、ガーリック嫌いやないですし。それにあいつが帰ってきたら、コーヒーお代わりするからエエですよ」
せやからもう一回、と唇を近づけてきたアイツの頭を、俺はすかさずパシンと叩いてやった。
「調子のんなっ!」
「エエですやん、どうせこの後俺ん家帰ったら、もう一回といわず何度でも、それどころかそれ以上もするんですから」
「やっかましいわ!」
「そう言いながら、顔めっちゃ赤いし、口元もえらい緩んでますけど?」
「みっ、見んなやっ!」
俺はもう一度遠慮せずアイツの頭を叩いたが、今度はペシッというしょぼい音しかしなかった。

ドアのベルが鳴る気配はまだない。
食後のコーヒーでこのニンニク臭を消せるのは、も少し後になりそうや。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

先輩は「恋人」と口にするのが恥ずかしいお年頃(三十路)

  • 先輩ラブリー!ほんまにドンくさいなこの人はw w w 後輩じゃなくてもいじめたりからかったりしたくなります。 -- 2009-12-06 (日) 19:07:30

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