光と影の交わり
更新日: 2011-04-25 (月) 09:16:15
テイノレズオブ明星のユーリ×フレンを投下します
魔王×聖職者の元ネタはフレン受けスレより
姐さん方ありがとう
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
季節の花が咲き乱れ、青々と茂る樹木に守られるようにひっそりと佇む大聖堂。
都から遥か離れた田舎町には不釣合いな立派で荘厳な建物には慈愛と豊饒の女神ローレルが祀られている。
野草すら育たぬ痩せたこの土地を水と緑が溢れる楽園へと成した奇蹟の神。
時代の流れと共に彼女を盲目的に信仰する風習は廃れていったが、月に一度の集いには感謝の祈りを捧げるために列を作る人々の姿がたびたび見受けられた。
人々の関心が女神から離れていく一方で、その生涯をローレルへ捧げようと神職に身を投じる青年があった。
名はフレン・シーフォ。
「人々が当たり前の幸せを当たり前に甘受することの出来る世界が訪れますように」
シンと静まった聖堂に祈りの音が響く。
日に三度のお祈り、それは彼の長くない人生の中でも特別な意味を持つ。
彼が跪いているのは物言わぬ彫像ではなく、女神ローレル。
名の由来である月桂樹の冠から零れた純白のヴェールが腰まで届く黒髪を優しく包み、前時代には珍しい男装を纏った女神がフレンの前に立っている。
「ローレル…」
深々と垂れていた面を上げ、フレンは眼前の女神を見つめた。
ローレルによってもたらされた命の泉を掬い取ったような深い青の瞳が聖職者のそれではなく、恋を覚えた少年の切なげなものへと様変わる。
「どこの美人が熱心に見つめてくれてるのかと思ったら」
他人の吐息が首筋を舐め這う感触がフレンの腕を粟立たせる。
「っ、何者だ?!」
はめ込み式の窓を粉砕する以外に聖堂に出入りする手段は一つしかない。
そんな唯一の手段である扉は女神が降り立ったとされる当時のまま残されており、開閉には木の軋む酷く耳障りな音がする。
いくらローレルとの邂逅に没頭していたとしても毎日訪れるフレンでさえ眉を顰めるその音に気が付かないはずがない。
「どこから入ってきた…!」
若者の多くが近隣の町へ出稼ぎに出ているこの町には自衛団というものが存在しない。
フレンが聖職者でありながら剣技に精通しているのにはそんな背景があったのだが、女神が住まう神聖な場所へ武器を持ち込むことは彼女への無礼に当たるとしてこの大聖堂の扉をくぐる際は手放すようにしていた。
それが仇になろうとは、黒衣に身を包んだ不法侵入の男を睨め付けながらフレンは己の失態に舌を打つ。
「そんな睨むなって、せっかくの美人が台無しだ」
全身の毛を逆立て威嚇するハリネズミのような聖職者に男はやれやれと頭を振る。
背の中ほどまで伸びた長い黒髪が彼の動作に合わせて舞うように優雅に揺れる。
白を基調とした造りの聖堂に散る黒い影にフレンは数瞬目を奪われる。
そして。
「…な…ッ!」
男の頭、装飾品だと勘違いしていた動物の骨と思しき赤黒いそれが彼の頭から生えていることに気付いてフレンは鋭く息を飲んだ。
女神の物語とは異なるおとぎ話で何度か目にした記憶がある。
それらの多くは人々に災厄をもたらす者として忌み嫌われ、神々あるいは人の手に寄って葬り去られてきた。
「あ、悪魔…」
美しき女神の加護によって守られているはずの聖域を踏み躙る異形の者が耳聡く呟きを聞きつけてにやりと犬歯を覗かせた。
「オレの抜け殻に毎日熱心にお祈りしてるみたいだからわざわざ出てきてやったんだ。もう少し嬉しそうにしろよ」
「誰がお前のような悪魔に…!!」
噛み付かんばかりの勢いで反駁するフレンを塞ぐ。
それは単純な腕力ではなく、フレンの意志など取るに足らないとでも言いたげにあっさりと。
「んん…っ」
ぬめった温かいものを咥内に捩じ込まれた頃にようやく体の自由を取り戻すが、女神の僕として一生涯を捧ぐと決めた潔癖の身にそれは抗い難い疼きを与えた。
腹の奥が熱く燃え滾るかと思えば、雷に打たれたように痺れて体力を削る。
それが性的興奮であると知る由もなく、彼は悪魔の魔術から解放される時の訪れをただひたすらに女神ローレルに祈った。
一頻り咥内を蹂躙して唇を離せば、金髪の青年はぐったりと糸の切れた操り人形のように悪魔の胸へと落ちた。
その金の髪を撫ぜながら悪魔は子守唄を口ずさむように静かに訊ねた。
「名前は?」
理性を跡形もなく蕩かされ不本意ながらも悪魔にもたれてフレンが弱々しく応える。
「フレン…」
「ふぅん…、見れば見るほど好みだ」
神経質に尖った金の簾を掻き分けて現れたのは性とは無縁の生活を送ってきた純潔の瞳を快楽の汚濁が今まさに飲み込まんと襲いかかる様子。
しかし高潔の魂の前では砂浜を僅かに濡らすさざ波程度にしかならず、その強固な砦を如何に崩落せしめようかと舌なめずりする悪魔に今度はフレンが問いかけた。
「なぜお前のような悪魔が…この場所に」
「だってここオレの家だし」
鼓膜を揺さ振る予想だにしなかった音にフレンは腰砕けになっていたことも忘れて勢い良く上体を起こした。
「戯言を…、ここは女神ローレルを祀った神聖な場所だ!いくら力があろうともお前のような悪しき者が易々と足を踏み入れることの出来る場所ではない…!!」
力任せに突き飛ばされた腕をさすりながら、しかし苦痛ではなく愉悦を湛えたまま悪魔が言う。
「女神ローレル、ね。髪が長けりゃ女かよ。随分めでたい頭してんのな」
男の言わんとしている内容をしばし計りかねていたフレンだったがある一つの可能性に考え至り、思案に暮れ細めていた瞳をぎょっと見開く。
「…仮にローレルが女性でなかったとしても、お前のような忌まわしき悪魔の角はない。神の名を騙るな」
変わらず警戒心を剥き出す青年の逆立てた針を毟り取ってやろうと悪魔は楽しげに昔話を始めた。
半年にも及ぶ日照り。
芽生えを迎えることなく死に絶える作物。
ひび割れた大地には獣すら寄り付かず、町は既に廃墟も同然であった。
命のともし火が消える時を待つより他ない住人の前に悪魔が降り立ったとしても誰も驚きはしなかった。
それならば驚かせてやろうと悪魔が指を弾く。
とうの昔に枯渇し窪地となったはずの泉に水が湧きいずる。
再び悪魔の指が小気味良い音を奏でると今度は見渡す限りのたんぽぽの絨毯が。
悪魔の思惑通り人々は驚き、そして喜んだ。
人間を超越した力を見せるたびに向けられる畏怖の表情を期待していた悪魔はぽかんと口を開け、それから住人と一緒になって喜んだ。
「町が栄えて新しい住人が増えるとそいつらはオレを恐れた」
悪魔が施した術は時を経て真実となり、永久にこの地にあり続けるだろう。
悪魔の助けがなくとも人は豊かに幸せに暮らしていける。
ここが潮時だ、と悪魔は悟った。
新しい住民らは悪魔の旅立ちを喜んだが、彼と共に町を復興させた人々は頑として首を縦には振らなかった。
しかし悪魔の決意は固い。
好意に甘え留まり続ければやがて悪魔を快く思わない住人とのあいだで争いが起こるだろう。
自分一人が出て行けば無用な血を流すことなく、町はいつまでも緑豊かな楽園を保ち続ける。
そうして悪魔は誰にも告げず、闇に溶けるように姿を消した。
あとに残された人々は心優しき悪魔を讃え、彼の行いを後世へ伝えるべく聖堂を作った。
その真中に佇む彫像こそ瀕死の町を救い、永久の安穏を与えたもうた慈愛と豊饒の神ローウェル。
長話が苦手な悪魔はところどころを省略しながら簡潔に聞かせてみせた。
「月桂樹の冠は角を隠すための苦肉の策ってとこだろうな…って、お前…」
物語の始まりこそ訝しげに眉を顰めていたフレンの頬を涙が洗っていく。
「死に損ないの町を救ったカミサマが実は男でしかも悪魔ときた。そりゃ女神ローレルの方が聞こえはいいわな」
フレンの涙を失望のそれと捉えた悪魔、ローウェルは頭の後ろで手を組みあっけらかんと笑う。
その胸倉を掴んでフレンは声を震わせた。
「それでいいのか、きみは…?!確かにきみは悪魔だが、町を救った英雄として人々の感謝を受けるべきなのに…っ」
「救ってやろうと思ってやったわけじゃねえよ。この町のヤツらがバカみたいにめでたい頭してただけの話だ」
お前みたいにな、とは悪魔の声にならない声だ。
女神に陶酔していたのは夢中の出来事かと疑うほどフレンは悪魔の話を鵜呑みにし、そして彼のために憤った。
もちろん悪魔の物語に偽りはないのだが、ここまですんなりと呑み込まれると調子が狂うとローウェルは思った。
「お前が…、フレンが知ってりゃそれでいい」
毎日決まった時刻に現れ、初心な少年の眼差しで魂を持たぬ偶像を見つめる青年。
彼の者が放つ輝きに闇を生きる体が焼かれ、例え命を引き換えにしてでも手に入れる価値がフレンにはあると心底惚れ込んでいた。
「僕が…?」
「そ。だってオレに一生を捧げてくれるんだろ」
身も心も、両親から授かった生も全て捧げる覚悟がフレンにはあった。
しかしそれは。
「…やっぱりフレンも女神サマの方がいいか」
返答なく俯いてしまっても当然かとローウェルは分かりきっていた言葉を敢えて口に出した。
本来、人と悪魔は相容れない。
幾百年前に出会った彼らが異端だっただけで、それが当たり前なのだ。
布に水を零したようにじわりじわりと黒が滲み、悪魔の輪郭がぼやけていく。
「夢壊しちまって悪かったな」
大胆不敵な悪魔の表情に亀裂が生じる。
モノにしてみせると意気込んで闇を抜け出したはずが、わざわざ傷付くために姿を見せただけなんてとんだ笑い種だ。
悪魔の唇が自嘲に歪んだその時だった。
手を伸ばせば届く距離をフレンは床を蹴って飛び付いた。
「ローウェル…!!」
既に半分以上が消え失せた体を繋ぎ留めようと食い込む爪が黒衣に皺を作った。
突然の抱擁に悪魔はもちろん、フレン自身も驚いているようだった。
捕まえたはいいがかける言葉がないらしく、あーだのうーだのと意味をなさない音が生まれては消える。
「…僕は人によって都合よく作りかえられた女神を崇拝してきた」
やがて発せられた、人々の罪に耳を傾ける立場であるフレンの懺悔。
「知るすべがなかったとは言え、これは本当の救世主であるきみに対しての冒涜だ。僕は…聖堂の守り手として相応しくない」
絞り出すように紡がれた言葉は雨垂れのようにぽたりぽたり、寒々しく大聖堂に響き渡る。
「で、仕事ほっぽりだして逃げ出すのか?自分には相応しくないから」
馴れ馴れしく、悪魔にはそう感じられた、背に回された手を振り解こうと血の赤を纏った爪先が金糸を鷲掴む。
陽光の如き煌きを奪ってしまわぬよう手加減したのはせめてもの情け。
「逃げない」
悪魔の加えた手心が仇となる。
引き剥がそうとする力と逃すまいとしがみ付く力は奇妙なまでに均衡を保ち、ローウェルの怒りに油を注いだ。
「へぇ…それじゃ心を入れ替えて悪魔に仕えます、ってか?とんだ尻軽だな、神父サマは」
後ろ髪を掴まれ仰け反った無防備な喉に悪魔の牙が急接近する。
ローウェルに人間を食す趣味はなかったがこれ以上生意気を言うようなら致し方あるまい。
鋭く尖った牙が柔らかい皮膚を今にも突き破らんと宛がわれる。
しかし命に危機に晒されながらもフレンは腕の力を緩めようとはしなかった。
「きみのことをもっと知りたい」
長い黒髪を伝って角の生えた頭を抱けば居心地悪そうに悪魔が身じろいだ。
「ちっ…!」
「僕はきみに相応しくない。だから近付く努力を許してくれないか?…気に入らないなら今すぐ喰い殺してくれて構わない」
もともと天蓋孤独の身だ。
女神の僕となるか、悪魔の血肉となるかの違いはあれどもフレンが消えて悲しむ人はこの世にいない。
泉を湛えた瞳が決意に閉じられる。
すっかり喰われる気でいるフレンにどうしたものかと悪魔は黒髪を掻き、溜め息混じりに低く呻いた。
「人間を喰う趣味はねえよ」
え、と閉じていた瞳を丸くさせてフレンが首を傾げる。
今まさに喰おうと喉元に齧り付いたじゃないか、と。
「脅しゃ黙ると思ったが、まさか喰ってくれなんて言うと思わなくてな」
大抵の人間は魔術か牙を見せるだけで腰を抜かすものだが、どうやらこの町には変わり者が多いらしい。
「あー、なんかすげえ疲れた…」
町を離れて以降、魔界で隠居生活同然の暮らしを送ってきたローウェルにとって悪魔らしく振舞うのは実に数百年ぶりのことである。
年若い見た目に似合わず年寄りじみた重みのある溜め息を吐き出す悪魔にそれならばとフレンが提案する。
「お茶でも煎れようか?聖堂の裏に僕の住んでる小屋があるから、そこでお菓子でも食べながら…」
「菓子?」
首筋にへばり付いていた悪魔は気だるげに細めていた目をぱっちりと開いてフレンを見上げた。
「うん。おやつに食べようと思ってクッキーを焼いたんだ」
確か戸棚にジャムがあったはず、とフレンの唇が全てを紡ぐより先にローウェルはその無限の夜空を映した瞳を器用に輝かせた。
「そういうことは早く言えよ。茶飲み話にこの大悪魔ローウェル様の有り難いお説教をくれてやるよ」
手のひらを返したような待遇を不思議に思いながらも努力の時間を与えてくれたことをフレンは素直に喜んだ。
「ありがとう、ローウェル」
「ユーリだ。ユーリ・ローウェル」
「うん、ユーリ」
朝露に刺激された蕾が綻ぶように控え目に広がっていく微笑みに悪魔は眩暈を覚えた。
やべえすげえかわいい。
これで体の相性もばっちりなら言うことなしだと浮き足立つ黒い背中を追いかけてフレンも大聖堂をあとにした。
おしまい
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
読んで下さった方がいましたらありがとうございます
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