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人生ゲーム

邪魔してすみませんでした
棚常連だけど初めてかぶってしまった…
改めて投下

二次。片方が出来婚する話。女性が出てくるわけではないけれど注意。心意気はリバ。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

終電の時刻を越えてもなお、平気な顔をして店員に追加ボトルを注文する男の無計画さには辟易する。
どうやって帰るのか考えているとは思えないので、結局今日もこのまま、
徒歩二十分の男のマンションまで、三倍以上かけて自分が自宅まで引きずっていくことになるのだろう。
苦労しているのはいつも自分の方だった。割に合わない。

「帰らなくていいの」
「今日は、あなたと飲んでくると話してありますから」

それはそれはなんて都合のいい言い訳だろう。嘘をついてはいないのだから文句を言われることはない。
十代から互いを知る親友同士、周囲からはそう見えているはずだった。半分正解で、あとの半分は、きっと想像の範囲外。
頻繁に部屋を行き来していても、浮気もなにも疑われることがない。こういうところだけは気が楽でいい。
だから心配しなくていいですよと笑う、アルコールが入ると表情のゆるむ男のことは、なにも心配してはいない。
心配しているのは自分のこと、そしてこの男の周りのこと。

半年とすこししか付き合いがない女が妊娠した。そう言って、普段とかわらぬ顔でグラスを傾けた男はあまりにも冷静だった。
受け入れているからでも、抵抗しているからでもなく、その事実に対して無関心なだけだった。
友人に子供ができたのと同じ感覚でいるのだろうと思い至り、
まだ一度も会ったことのない、おそらくこの先も顔を見る機会はないだろう女に心底同情した。

こんな男を好きになった不幸を。

「女性相手にするときには、完全に避妊していたはずなんですけどね」

やられました、と芝居がかった仕草で手を挙げて、ふざけた口振りでけらけらと笑った。
酔っていたせいではなく、それが男の性格なのだから馬鹿馬鹿しい。
本当に私の子供なのかもわからないし、違う男の子供なのかもしれないし、そんなのはどうでもいいんです。
だけどもし私の子供だとしても、愛してやることはできないんじゃないかって思うんです。
だって母親になる女性のことを愛していないんですよ、どうしたって無理でしょう?
具体策をなにひとつ出すことなく現状を嘆くだけ嘆いて、そしてそのあと自分を寝室に誘った。
薄っぺらな愛を語り、その身体を愛でる。最低な男だった。確かにこんな男が父親になる資格などどこにもない。

「結婚するつもりなんてなかったんですよ、誰とも。それにまだ籍は入れていないんです。でもそろそろ疲れてしまいました」

すっかり冷えてしまった白いタオルを、たたんでは広げる動作を繰り返す。
なにも意味がないその行為を、大切な任務であるかのように、何度も。
だったらわかれればいいと、自分がそういってくれるのを待っているのだと、知っている。
背中を押してくれるのを待っている、自分の意志でわかれる覚悟のできない腑抜け野郎だ。
だからなにも言わない。こちらの気も知れずに笑う男の思い通りになってやってたまるか。

「ねえ抱かせてくれませんかいますぐ」

頭にくるほど四六時中自分のことばかり考えている男だ。笑顔のままでひどい暴言を吐く。
殴りたいと思ったことも、実際に殴ってやったことも、もう回数を忘れてしまった。
それでも、男に関係することはなにひとつ拒絶はしなかった。
なにも言わずただすべてを甘受する、この関係をはたして愛と呼べるのかは疑問だ。

「もしかして酔っていませんか」

自分の右手に触れている、男の左手が熱い。聞かなくてもわかることだ、これは質問ではなく確認だ。
言い出したら聞かない子供みたいな男を、うまくやり過ごす方法はないか、考えながら指をからめる。
いくら四方を壁で囲まれている全席個室の居酒屋とは言え、こんなところでやりたくはない。
もし目撃されてしまったらかわいそうだ。店員と、自分が。

「いいえ。正気です。私が愛しているのは十五年前からずっとあなただけなんですよ」

三ヶ月後には子持ちになる予定の男に言われたところで、嬉しくもなんともない甘い言葉が、至近距離から刺さる。
事実を伴うことのない口説き文句は男の常套手段だった。世界はこの男に騙され続けている。
そもそも十五年前はまだお互い小学生だ、出会ってすらいないのだから愛を語れるはずがない。

本当に愛しているのなら、いますぐに女を捨てて自分だけのものになってくれればいいのに。
すべてを捨てて自分を選んでくれるのなら、いますぐにだって応えてやる。簡単なことだ、男にその覚悟があるのなら。

「おれんちでやりませんか」

妥協案を申し出るとあっさり男は折れた。まだ封を切っただけのボトルを手放し立ち上がる。
今すぐ帰りましょうと手を引く男は、本当に救いのない大馬鹿者だ。
真冬だというのにコートを着ないで帰るつもりなのか、仕事で使っているというノートパソコンが入ったままの鞄を置いていくのか、
その程度のことなら、おまえのなかからなんの躊躇いもなく捨て去ることができるのか。

部屋のテーブルの上には、手をつけていない揚げ物の皿がいくつも残っている。
後先考えずに食べたい物を片っ端から注文するのは男の欠点だ、会計は彼の財布でしてやろうと決める。

店を出て、男が変なことを言い出さないうちにタクシーを拾って、家に帰って、
どうせシャワーなんて浴びている余裕なんてないから男の好きにされてやろう。
そうして自分が寝ているあいだに出て行ってしまえばいい、
他の女のもとに帰る恋人を、わざわざ起きて見送るような自虐的な趣味はない。

段差に腰掛け靴を履いている、スーツの似合う伸びた背中。姿勢がいいのはどんなときでもかわらない。
もう彼の身体の芯の部分にすりこまれているものなのだろう。自宅の玄関で見ているものとまったく同じそれ。
そのまま蹴り倒してやりたくなるのも、抱きしめてやりたくなるのも十四年前からかわらない。

「どうしたんですか」振り向いてにこりと笑う男の頬がすこし紅い。
酔ってもたいして顔に出るタイプではないから、今日は少し回りが早いようだ。なんでもないと返しながらブーツに足を突っ込んだ。
身一つで飛び込んでくるのなら、受け止めてやろうという決意をしていたが、男にその気はないようだ。
愛していると言いながら、自分のひとりを選んでくれることはない臆病者。待ち続けるのにも限界だった。

そろそろ潮時なのかもしれない。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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