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王と髪結い

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

激団親幹線「バソユウキ」から殺し屋→復讐鬼の2作目。
感想をいただけて萌えが調子に乗りました。

通りがかった部屋の前で悲鳴を聞いた。
「やめろ!ペナソ!」
「エンリョするな、ドモン。シンミョウにしろ。」
「その蓬莱語は間違ってる!」
ドタバタと慌ただしい。だからその部屋の扉を佐治が静かに開けると、
そこには椅子に座らされた怒門と、その怒門に向け剃刀を振り上げている
ペナソの姿があった。
「あれ?お邪魔だった?」
「バカ!変なこと言ってないで助けろ!」
「タスケロとはシツレイな、ドモン!」
大陸の今は亡きハマソ国の王女であるペナソは、目下この蓬莱国の言葉を
習得中の身で、それゆえ言葉がたどたどしくもカタコトである。
しかしその一方で、感情は直情。
一目で誰に想いを寄せているかがわかる。
おそらくそれが向けられている当の本人の、目の前の男以外には。
それが滑稽に面白くも、佐治は飄々と言葉を続ける。
「で、何をしてるのかな?」
「みてワカラナイアルカ。ヒゲソリよ。」
「あぁ、確かに彼は長い船旅でちょっとモサくなってるねぇ。」
「そんな事は自分で出来るから!だからいいよ、ペナソ!」
不器用なお姫様のこの勢い込んだ様子を見れば、確かに髭を剃られるよりは
顔を切り刻まれる心配の方が先に立つのも無理はない。
それ故、本当に必死になって止めようとしている怒門の様子に佐治は
たまらずクスリと笑みを零す。
そして、
「こういう事は本人にやらせた方がいいと思うよ。下手に他人がやって顔に
傷でもつけたら一大事だ。なにせ、彼は僕らの大事な教主様になるんだからね。」

海を渡り戻った彼の故郷で、その復讐の手始めとする番新教の布教。
彼はその旗頭となる。
理詰めで攻められれば、自分に敵う者はこの旅の一団にはいない。
それがわかっているのだろう、ペナソは一瞬ムッとした表情を見せると、
いきなり顔をクシャッとしかめ、ベーっと舌を出してきた。
「イチイチうるさいオトコね。」
「ごめんね、元々こういう性分なんだ。」
言いながら片手を彼女に向けて差し出す。
そして無言の笑みのまま手にしているものを渡すように促せば、それに
ペナソはもう一度ギッと眉根を寄せたが、それ以上の抵抗はもうしなかった。
「ドモンとサヅのアホウ!」
その代わり、直球の悪態をついて足音も荒く部屋を出ていく。
バタンと大きな音を立てて閉じられた扉。
それを見て、怒門がホッと息をつく。
「助かった。すまなかったな、佐治。」
こちらもひどく素直な、その礼の言葉に佐治の足が動く。
そして椅子に座る怒門の前、立ち止まるとスッとその手を伸ばす。
顎を取り、その顔を上に向かせれば、それに怒門は一瞬訝しげな表情を見せた。
だからそれに佐治は笑う。
笑いながらこう言った。
「ありがたく思っているのなら、少しの間大人しくしててくれるかい。」

頬の上を鋭い刃が滑る。
無骨な男の肌を撫でるようにスルリと。
その触れるか触れないかの軽い感触に、つい気が緩んだように怒門の口が開かれた。
「自分でやらせた方がよかったんじゃないのか?」
先程自分が言った言葉を当てこする様に言ってくる。
だからそれに佐治は、この時笑みを深めてやった。
「君は思いのほか、不器用だから。」
「おまえが器用すぎるんだろう。」
「そうだね。生まれてこの方、この手が一番長く握ってきたのは刃だ。」
顎の髭を剃り落とし、それを脇の机の上に置いてあった水桶につけ、
手首を翻す。
そして見せつける剃刀の閃き。
しかしそれにも怒門はもう動じる事はなかった。だから、
「怖くないの?」
面白がるように問えば、怒門は静かに落ち着いた声を返してくる。
「今更、おまえの何を怖がれと言うんだ。」
「僕は君より強いけど。」
「ああ、知っている。だから殺すのならいつだって出来ただろう。
しかし俺は今こうして生きている。」
「あんまり悟りすまされるのも小憎らしいね。」
言葉に物騒な響きを含めながら、それでも手は止めること無く
滑らかに動かし続ける。
そしてやがて現れた顔立ち。
鼻の下にだけ貫録を演出させる為の髭を蓄え、他をさっぱりと整えた
その怒門の仕上がりぶりに、佐治は満足そうな頷きを一つ落とす。
そして少し思い出した。

「それほど昔な訳ではないけれど、なんだか懐かしいね。」
「ん?」
「僕が君の髭を初めて剃ってあげた時の事。」
「……あぁ、あれは脱獄した後だったな。」
あの時、10年もの間孤島の牢獄に閉じ込められ、髪も髭も伸び放題に汚れていた
身を彼は清め、その身なりを整えようとしていた。
しかしようやくに得た自由の中でも、その身の内に長く培っていた獣性は
なかなか納まりがつかないようで、刃物を持つ手つきが荒い。
だからそれを見かねて、自分は手を伸ばした。
これからの計画に大事な顔だ。下手に傷つけられてはこちらが困る。
しかしそうして自分が手を掛け晒した彼の本来の顔立ちは、苦難の中
深くその怨嗟と怒気を肌の上に刻み込んでいたけれど、同時にその奥には
どうしても消せない理性を秘めているように感じさせた。
その相克を佐治は面白いと思った。
あの闇の中でも、どうしても狂いきれなかった彼の精神の強靭さ。
その理性と感情を更に乖離させてやれば、この男はどうなるのだろう。
先を読む事は得意だった。
謀を巡らせ、周囲の思惑を読み、人より先んじて動く事でこれまで繋いできた命だ。
しかしその自分をしてどうしても読みきれないこの男の変化。
それを佐治は楽しいと思う。
楽しいから……彼を王にしてやろうと思う。
この国の破滅の王に―――
手が伸びる。
頬にかぶる怒門の横髪に両手を差し入れ、グッと後ろに引き上げる。
「……佐治?」
その際、ひどく近くなった顔の距離に、怒門が一瞬驚いたように目を上げてきた。
その鼻先で佐治はクスリと笑う。
切れ長な目元を更に細め、顔を傾け、両手を回し固定して動けなくなったその
唇の吐息同士が触れ合うほどの距離で、からかう様に告げてやった。

「こうして後ろで括ってやった方が顔がしっかりと見えていいよ。僕らの教主、
緋頭番様。」
そしてそのまま器用に指先を動かし、横の机の上に置いてあった組み紐で
その一房の髪を結いあげてやれば、それに怒門は瞬間なんとも言いようのない
複雑そうな顔をしてきた。
ただ、髪を結い終わりゆっくりと離れた自分が同じく横の机に置いてあった
手鏡を差し出してやれば、彼はそれを覗き、あぁと納得のいったような
表情を見せる。
そして、
「おまえは本当に器用だな。」
あらためて感心したように言われれば、つい可笑しさが倍増した。
「教主様のお褒めに預かり恐悦至極。」
「これなら立派な髪結いになれるな。」
「……はっ?」
怪訝な事を言われた気がした。
だから思わず視線を怒門の方へ向ければ、それに彼はン?とした表情を返しながら
こう続けてきた。
「だから髪結いだ。すべてが終わったらそれで身が立てられそうだよ、おまえは。」
サラリとすべての終わりを口にする。
それは自信があるからか、ただ単に楽観的な愚か者だからか。
それでもこの時佐治は無意識に己の手を見る。
血に塗れた刃ばかりを握ってきたこの手に、不意に指し示された未来と言う名の光。
それは儚くも煌めかしくて。
だからつい笑みの滲む声が零れる。
「あぁ……それもまた面白そうだね。」
すべてが終わり、何も残らぬ恨みの荒野に残された孤高の王の、ただ一人の髪結い。

それは存外―――悪くはない気がした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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