Top/52-387

鰻屋譚

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  半生 ドラマ 「イニ」 量間×イニ 非エロ
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|    時間軸は3~4話の間あたり 
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ zZZ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(-Д- )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

なんでこうなってしまったんだろう・・・?
狭い座敷の低い天井をぼんやり眺めながらイニは混乱する頭をなんとか冷静に引き戻そうとした。

事の起こりは2時間ほど前、量間が立花家にイニを訪ねてきたところからだった・・・
「先生!」
先に通されて座敷に入ってきた量間は、いつもの調子で手を挙げる。
「量間さん・・今日はどうしました?」
「先生にな、礼を言いに来たんぜよ。」
そういいながら量間はガチャガチャと腰の業物を下ろすとイニの隣にどっかりと座り込んだ。
「礼・・?」
「この間のコロリの時には仲間が世話になったき。あー、あと今日太郎殿の口利きで軍艦奉行並・活殿にお目通り叶うた、ぜーんぶ先生のおかげぜよ。」
「私は何も・・・むしろお礼を言いたいのは私の方です。」
「いやいや、そんなこと言わんと・・・」
「私は医者ですから、当然の事をしたまでです。おまけに・・・一番大事な時に自分が倒れてしまって・・・ご迷惑をおかけしました。」
「ほんでも、なにかせんとわしの気がすまんきに。での先生、ゆうげをごちそうさせてくれんかの?」
「夕食ですか・・?」
「まぁ、わしも江戸ではしがない食客の身の上じゃき、大層なもんはないけんども」
量間はそう笑いながら先の入れて来た茶をすする。

「ときに先生、住まいは「谷底」やちゅうてたけんど、お里はどちらの方かいな?」
「・・お里?」
「生まれはどこかと聞いとるがよ」
「ああ・・出身はとう・・・っ、え・・江戸です。」
『東京』といいかけて慌てて口ごもった。
「ふぅん・・・」
一瞬、量間の眼光が鋭くなったが、すぐさまいつもの飄々とした様子で笑いながら
「ほんなら先生、今晩はうなぎを食いに行こうぜよ。」
と切り出した。
「うなぎ・・・ですか?」
イニの脳裏にあの香ばしい蒲焼きの匂いが過る、立花家の食事は美味しかったが、なにぶん毎日山盛りの白飯には辟易としていたところだ。
「どや、先生?」
「良いですよ。」
「そうと決まったらすぐに行くぜよ、ささ、先生!」
そう言うと量間はせわしなく立ち上がり、下ろした業物を帯刀するとイニを急かした。
「ちょ・・ちょっと待って下さい、さ・・先さんに夕食はいらないと言づててきますから。」

「先さん。」
炊事場で早々と夕食の支度をすすめていた先に声をかける。
「あら、先生。坂/本様はもうお引き取りに?」
「それが・・なりゆきで夕食をごちそうになることになりまして・・・出かけてきますので今晩の夕食はいりません。」
「そうでございますか。承知いたしました、して、どちらに?」
「はぁ・・・なんか・・・ウナギだとか。」
「?!」
さぁっっ、と先の頬に一瞬朱が走りこちらに向けていた顔を背ける。
「先さん??」
「なっ、何でもございませんわ!あのっ・・・ごゆっくりして来て下さいませ!!」
そう言うと先は俯いたまま木戸から外へと出てしまった。
「先生!!早う早う!!」
不自然な先の態度に心が引っかかったが、玄関先から響く量間の声に急かされてイニは立花家を後にした。

コレラの流行も終息し、人の賑わいが戻った往来を量間に付いて歩くこと暫く、現代で言えばいかにも老舗風な造りの鰻屋につくと、二階の座敷に案内された。
六畳ほどの狭い座敷に小降りな座卓が一つ、少し開いた障子の向こうに神田川が見える。
酒とお通しを持って来た女中に量間がなにか耳打ちし、女中は「へぇ」と会釈をして襖戸を閉めた。
「先生!」
「あ、すみません・・」
恐縮しながら量間の杯を受ける、自分は今、『あの』坂本量間を酒を酌み交わしている。
不思議なような、嬉しいような・・未だに自分の存在、立場をどこに置けば良いのやらわからなくなってくる。
「あの・・・活先生に会って、どうでしたか?」
量間はイニの問いかけに手にした猪口の酒を一気にあおる。
「今日太郎殿にゃ申し訳ないが、わしは活先生を斬るつもりじゃった・・・」
「じゃが、『斬るのはいつでもできるからとりあえず話をきけ』というがや、わしもそう言われたら聞くしか無いがよ。」
なんだか聞き覚えがある話だ、昔時代劇で観た事がある。
「活先生は『幕府のため』とは一度も言わんかった・・すべて『国のため』『人がため』そんために今何を『為すべき』か・・・
まっこと、活先生の話には国と民への想いに溢れとうがよ・・」
「眼ぇが覚めたがよ・・わしの『為すべきこと』は活先生のもとに有る。そやけ、わしはその場で活先生の弟子になる事にしたきに。」
捲し立てるように一気に喋りきって笑う量間は、進むべき道を見つけた充足感に満ちていた。
「そうですか・・・ではこれから忙しくなりますね。」
「先生、活先生何をしようとしとるか知っとるがかや?」
「え?あ・・・いや、今日太郎さんから話を聞いて・・」
ははは、といつもの調子でごまかしながら障子越しに夕暮れの神田川を遠く見やる。
歴史は間違いなく史実通りに動いている、それは自分が今居る世界が夢中の虚構でなければパラレルワールドでも無いことを確信づける。
活が動き、量間が動き、いずれ日本も大きく動き出す。その激流の中に、自分も流されて行くのだろうか?
その時、自分はどこでこの夕日を眺めているのか・・・江戸なのか、現代の東京なのか・・・

「先生。」
突然量間に衿元を掴まれ、ぼんやりと外を眺めていたイニを現実に引き戻した。
「!?」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
背中に感じた衝撃と量間の肩越しにみえる天井で、自分が床に押し倒された事を知った。
衿元を掴んだまま馬乗りになり無言でこちらを見下ろす量間の眼はそれが冗談では無い事を物語る。
__殺される・・のか?
量間は人は切らなかったはずだ・・・確か。
だが、続く量間の行為は混乱するイニの脳内をさらに掻き乱した。
開けた衿元から量間の手が差し込まれ、覆い被さる、首筋に熱い吐息を感じてイニは戦慄した。
__何故・・???
抵抗しなければ、と思いながらも手も足も動かない、いや・・動かせないのか?
パニックに陥ってどうしたら良いのか、どうすれば良いのかもわからない。
相手は北辰一刀流免許皆伝、腕っ節でかなうはずも無い、それに下手に抵抗して怪我を負わせるわけにも行かない。
なにより・・・自分はこんな量間は知らない。
手紙魔であけっぴろげでつかみどころのない性格・・・千葉/さ/な子、お/りょ/う・・・
女性の名前は出て来てもこんな事は・・・違うはずだ。
だが、袴の上から自身を弄る手つき、息づかいは量間が本気である事を物語る。

「先生。」
低く耳元で囁かれて身体が震える、それはこの先に更に深い行為があるという事だ。
___違う・・・はず。
___そもそも自分は『量間本人』を本当に知ってるのか?
「・・ッ!!」
口唇を吸われて我に返る、舌を差し込まれそうになってイニは反射的に両腕を突っぱねた。
突き飛ばしたつもりは無かったが、驚くほどあっさりと量間は身体を離した。
「なっ・・・何をするんですかっ」
自分でも情けなくなるくらいうわずった声での抗議に、量間は破顔すると大声で笑った。
「先生!なっかなか嫌がらんきに、本当に『その気』があるんかと思うて焦ったがよ!」
「そんな気ありませんよ!わ・・・私をからかったんですかッッ・・!」
やはりまだうわずった声でのイニの抗議に量間はずいっと顔を近づける、
「先生・・・鰻屋に誘われてホイホイ付いてくるちゅうことは、こういうコトぜよ。」
___?!
要するに『連れ込まれた』のだ・・・出かける前の先の不可解な態度の理由を瞬時に察した。

「どうして・・・」
「こんなこと、江戸のモンなら皆知っちゅう・・・土佐の田舎浪人のわしでも知っとるきに」
「先生は江戸の生まれじゃ言うた・・・」
「それは・・・あの・・・記憶が・・・」
いつもの調子で誤魔化そうとしたイニを量間が遮る。
「土佐での・・馬から落ちて頭を打って記憶が無うなったモンがおった・・・」
「そいつは己の名前を忘れ、家族を忘れ、飯を食うたことを忘れ、終いには厠に行くことも忘れて糞まみれになって死んだぜよ・・」
___急性硬膜下血腫か、硬膜外血腫か・・・?血腫が徐々に脳を冒し意識障害の末に死亡したのだろうか。
「眼ぇは虚ろで、命はあっても死人の眼じゃった・・・」
「じゃが・・先生の眼ぇは・・、本庄相生町の長屋で命がけでコロリと闘うちょった先生の眼ぇは、
わしに『為すべき事をせえ』と言うた先生の眼ぇは、何も見失うてなかったがよ!!」
もう一度衿元を強く掴まれてビクリと身構える。
「おんし、なんで嘘をつくがか!!」
「それは・・・」
量間の並外れた洞察眼はイニの虚実をいつから見抜いていたのか・・・
「夢でわしの声を聞いた、言うたがか・・おんしゃ、何者なが?!」
「・・すみません・・・」
衿元を掴む量間の手首に手を添えると、強い力が若干緩んだ。
「江戸・・・の出身だと言うのは本当です・・・信じてもらえないかもしれませんけど・・」
「ただ・・・違うんです。この江戸とは違うんです、違うんです!」
「私はっ・・・」
イニの量間の手首を掴む手に力がこもる。
___私はこの世界の人間ではないんです。
ここで全てを話せば量間は自分に協力してくれるだろう、なによりあの「標本」にいつか関わるはずなのだ、もしかしたら現代に戻る術も見つかるかもしれない。
だが・・・
海援隊、薩長同盟、船中八策・・・量間のなし得た偉業が過る。
___33才・京都・・・近江屋・・・。

「先生、わしは先生のこと信じちゅうがよ。己の命も顧みずコロリから江戸を救うた大先生じゃ・・・」
イニの葛藤を察して量間が口を開く。
「けんど先生はわしの思いもよらん何かを抱えちゅう・・、わしは先生の事を知りたいだけぜよ。」
「やき、どんな話でもわしは信じる。聞いた話は誰にも言わんき。」
___ああ、やっぱりこの人は自分の思った通りの男なんだ。
「ありがとう量間さん・・・でも・・すみません・・・今は・・・言えません。」
「あなたは・・・(歴史上)大切な、大事な人だから・・・私のような人間と関わってはいけないんです!」
俯き、掴んだ手が震える。
「・・・悪い気はしやせんけど・・・先生、関わるな言うても、もう嫌ちゅうほど関わっとるがよ。」
量間はイニの言葉に少し照れたように返す。
「え?いや・・・ええと・・・なんと言えばいいのか・・・」
「先生に会うまでのわしは、真っ暗闇のなかで前に行こうと足掻いとるだけじゃった・・・どこが正しい道かもわからんと。」
「そん暗闇の中で、わしの行くべき道を照らしてくれたんは先生じゃき。」
「わ・・私はそんな立派な人間じゃありませんよ・・ただの医者です。」
自分がはるか138年先の未来からやってきたと知れば、彼の若さは己と国の将来を知りたがるだろう。
___33才・京都・・・近江屋。
自分が知っている彼の未来は・・・運命は・・・あまりにも残酷だ。
「ただの・・・医者なんです。」
もう自分は歴史の深い部分まで入り込んでしまっているのかもしれない・・・
ここで暮らしていく決意はしたが、自分の存在が未来を大きく変えてしまう不安はつきまとう。

「よっしゃ、ほんなら待つわ。」
「はぁ?」
「いつか、先生が話そう思ぅ時が来るまで待っちゅうけ、こじゃんと時間がかかろうがわしは待っちゅうけの。」
掴んだイニの手をグッと握り直すといつもの笑顔で笑う。
「やき、先生。黙って『谷底』の家へ帰ったらいかんぜよ。」
「え?」
量間のどこまで分かっているのか掴みどころの無い言葉に驚いたところで、遠く晩鐘の音が聞こえてくる。
「暮れ六ツ・・・腹が減ってくるはずぜよ。先生!鰻じゃ、鰻。」
ほどなく女中が焼きたての鰻の乗った膳を運んできた。
久々に食べた鰻は、以前医局の職員達と食べた老舗の味に良く似ていた。
___あの店「江戸時代から注ぎ足した秘伝のタレ」とか言ってるの本当だったんだな。
味醂、砂糖の甘みと鰻の脂の旨味が口中に染み渡る、こちらに来てから暫く味わっていなかった味覚だ。
「先生、そんなに鰻が好きだったかや?」
相当幸せそうな顔をして食べていたのか、鰻を頬張るイニの顔をしみじみ眺めて言う。
「この手の動物性タンパク質は久々なので・・」
「どーぶつせい??た・・ん?」
イニは怪訝そうに反復する量間を誤魔化す事も忘れてただただ鰻との逢瀬を噛み締めた。

「ごちそうさまでした。」
深々と頭を下げるイニに、慌てて量間も崩した足を整えて応じる。
「先生が鰻が好物ながはようわかったが、喰いとうなったきゆうて誰にでも着いていったらあかんぜよ。」
「わっ、わかってますよ。」
「いつでもわしが付き合うきに」
___それはそれで問題あるんじゃ・・・
と思ったが悪戯っぽく笑ってみせる量間には何も言い返せなかった。

___そういえば・・・
「あのー、私、出かける前に先さんに『鰻屋に誘われて~』て言ってきちゃったんですけど・・・」
「きっとあらぬ誤解を受けていんじゃないかと・・・」
これから帰ってなんと説明すれば良いのやら・・・頭が痛い。
「ああ?先さんは武家旗本のよう出来たお嬢さんじゃき、心配せんでもちゃんと理解してくれるちゃ。」
___理解って何だよーー!
からかうように笑う量間に何も言い返せないまま、上手い説明も思いつかず、帰宅しても立花家の門をくぐれないイニであった。

  • 了 -

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ 土イ左弁はテキトー
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |

イニスレの鰻屋連れ込みネタに滾って書いた、後悔はしていない。
いろいろ捏造が多々あるけども生暖かくヌルーして頂きたく・・・
ネタ提供してくださったスレの姐さん達ありがとう。

連投規制に引っかかってしまってご迷惑おかけしました。


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP