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魔と勇の名無しさん

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 | |                | |           ∧_∧ 魔王VS勇者です。近親注意
 | |                | |     ピッ   (・∀・ ) .元ネタはありません
 | |                | |       ◇⊂    ) __
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 剣の魔法使いよ。轡を軋らせ、地獄を駆ける亡者の王よ。
復讐の刃はもはや汝の血。悪逆無道の力は、全て汝のもの。
全てを失い、全てを与えられ――何を望み、何を目指すのか。

「殺せ。思うようにはさせぬ!」
幼い勇者が叫ぶやいなや、魔王の足が勇者を踏みにじる。
「ぐうっ……!」
魔王の唇が勇者を捕らえ、じわりと甚振る。
「幼き王よ。たっぷりと、勇者の精、味あわせて貰うぞ」
声を殺すこともままならぬ、拘束された勇者。
「殺してやる。必ず殺して……うあっ!」
嗚咽を噛み殺す少年王。その瞳に溜まった涙を、魔王が舐め摂る。
「よい眼じゃ。敵に嬲られ、さぞ悔しかろう、のう?」
その陵辱は執拗に続いた。気を失った姿を見下す魔王。そこに。

「刺せ。私は丸腰だ」
目を覚ました勇者の声。観念したのか、魔王を艶かしくいざなう。
「もう決着は付いている、さあ……」
一瞬の油断を、勇者は見逃さなかった。魔王の剣が、勇者の手で閃く。
「一刀両断とは――おのれ!」
「蔑み貶める為の、目合いなぞ要らぬ!」
拘束を引き千切ったであろう、勇者の手首には、血が滲んでいた。
魔王の全身から溢れ出る瘴気。空間を満たす、怨念の塊のような、暗闇。
「王よ。お主の体に仕込んだ種。さて、どうなるであろうの?」
「詭弁を弄すな。世界に魔王は貴公一人だ」
闇に溶け込み、消えようとしている魔王。その指が、腕が。
裸身の勇者を抱擁し、そして哄笑する。
「……勇者よ。ワシは、長き時を……待ってい……た」

 城の医師が、かぶりを振った。
「まさか。王が出産なさる訳ではありません」
「魔王が降臨する、と?」
「これは、いとけなき魔王が、王の血筋に現れる呪いです」
魔術士は詠ずる。解けぬ呪いを解く為に。
堅牢な砦が、冷たい月に浮かび上がる。やがて訪れる悪夢に怯えながら。

 数年後。ゆるやかな風が、回廊の王と王子を包む。
可愛らしい王子が、亡くなった母の話を若き王にせがむ。
「妃は優しかった。もう一人の親は、とても強かったのだよ」
「あんな奴、知らない。僕はお父様とお母様がいればいい」
王に良く似た、純真無垢な面立ちが、頬を膨らませる。
「お前は強い。胸を張り、良き王になりなさい」
「はい!」
王は王子を撫で、とても華奢な剣を差し出す。
「だから。人を守る剣を、お前に授けよう」
優しい笑顔の王。目にも綾な、端整な剣。

「お父様、どこに?」
不安そうに王子は父を見上げる。王は真っ直ぐに前を見ていた。
王は。勇者は静かな目で、おそらくは魔王であろう我が子に答える。
「人の世の倣い。負け戦だ。お前が居る限り、この国は心配ない」
勇者のマントが風を孕み、騎士団と共に戦場へ赴く。
「お父……さま?」
王子は身の丈に合わぬ剣を抱え、狼狽し、涙ながらに王へ駆け寄る。
「待って、お父様! 僕を置いていかないで!」
父は息子を振り返り、ただただ優しく微笑む。

 それは、大国の罠。決して他国に攻め込まぬ、豊かな勇者の国。
城は難攻不落を誇り、王は常に領民を愛し続けた。
だから。大国の王は盟友を誑かし、虜にし、やがて盟友の国を占領した。
勇者は友の為に馬を駆る。もはや敵軍しかいない、その地へと。

 王がお前だけは逃げ延びよと伝えた、その将官が叫ぶ。
「王が崩御なさいました! 相打ちです! 立派な……最後でありました」
将官は男泣きに咽び、傷ついた体で報告する。
勇者は、最後まで勇者だった。真打の帝王を貫き、そして果てた。
友の国は蘇り、しかし、勇者の国は王を失ったのだ。

 その事態に、誠実な宰相は王弟を呼ぶ。
「私が戴冠?」
「はっ。継承順位、御年、実力、申し分ございません」
それが一番の良策だったのは間違いない。しかし、王弟公はしばし沈黙する。
「王子がいるだろう」
王宮はざわめき、賢臣達は口々に反対する。
「なりません。この国が魔王に乗っ取られます」
「これを機に、幽閉すべきです」
王弟は一言だけ伝える。黙れ、と。
「私が後見に就こう。幽閉はいつでも出来る」
「しかし……」
「おかしな真似をしたその時は、私が魔王の首を撥ねる」
そう王弟は誓い、魔王の元に向かった。

 幼い王子は、拙い言葉で泣きじゃくる。
「いやだよ、僕は静かに暮らしたんだ!」
まだ少年に過ぎない王弟が、優しく王子を抱く。
「兄はそなたを、守り刀だと言っていた」
「僕が、守り刀?」
それは、愚かしい程の愛だった。しかし、王弟は確信を持っていた。
「そなたは誰よりも強い。正しく使われる力に、悪いものはない」
王子の声が啜り泣きに変わる。
「ずっとお父様に甘えたかった……お父様の側に、いたかった」
「迷う時、悩む時は、私がいる」

 魔王は王弟公の庇護の下、静かに成長していった。
決して王冠を汚す事無く、勇猛果敢に敵を打ち倒し、平和を保ち続けた。

 その領土に訪れる、異形の者。王の居室が影に満たされる。
「お迎えに上がりました。我が君」
「魔界の者か」
迷わず、魔物の喉元に剣を突き付ける魔王。
実力者であろうその魔物は、眉一つ動かさず、魔王へ訴える。
「君主無き魔界は人の世を喰います。人を守るならばお戻り願いたいのです」
魔物はゆるりと消え、そして魔王が取り残される。
「父上、伯父上……僕はどうすればいいのですか」
もはや彼を庇う王弟は亡く、魔王の誠意だけが人の王と認めさせていた。

 城門で、小競り合いが起こった。騎士すら打ち倒した一団に、王が動く。
「やっと見つけたぞ魔王! 人の王を偽るなど、貴様は最低だ」
「僕が、魔王? 僕は王と王妃の息子だ」
真っ直ぐな瞳の剣士が、魔王の剣を指差す。
「それは魔王の剣だ! そんな造りのものは、人間には作れない!」
かつて、勇者が授けたその剣。勇者は、初めから王子が何者か知っていた。
魔王は一瞬身じろぎ、しかし落ち着いて答える。
「名を挙げたいだけの無頼が、勇者を名乗るな」
新しい勇者。しかし、領民にとってはただの闖入者に過ぎない。
「僕が何をしたと言うのか。他国を侵さず、民を養ったと言うのに」

 魔王が動く。剣士が構える。そこに。
「王、いけません! 剣をお納めください。勇者様、貴方もです!」
両者の剣を、一人の騎士が留めた。同時に兵卒達が魔王の盾となった。
ようやく魔王は気付いた。敵を打ち倒すその最中、魔王を援護する人々がいた事を。
「なぜだ。こいつは魔王だろう!」
「いいえ。この方は人の王。我が領地の主です」
騎士は、魔王を信じていた。幼き日から、誠実であったその王を。

 魔王が項垂れ、そして剣士に振り返る。
「勇者、お前に話がある」
幾分落ち着きを取り戻した一団が、王宮に集う。
「魔界に戻る?」
「そうだ。お前が将として、民を助けて欲しい。絶対に侵略はするな」
剣士は胸を叩き、そして笑った。
「任せろ!絶対に守ってやる」
「それでこそ勇者だ。騎士よ。王冠はお前に預けよう」
若き魔王に子はいなかった。騎士は目を見開き、そして嘆く。
「王よ、私は……離れたくありません」
「君はずっと、僕の親友だ。ありがとう」
騎士は、王弟の子であった。魔王は、人に国を返したのだ。

 魔界への道は、生まれたその時から知っていた。
けれど認めたくは無かった。勇者の国の、優しい人々が好きだった。
父の国よりも、遥かに巨大なその城。魔物達は平伏し、やがて門が開かれた。
「お待ちしておりました」
この世のものとも思えぬほど、豪奢な宮殿。そして、場を埋め尽くす軍団。
全てが敵であり、全てが猛者であった。魔王は迷わず詔書を読み上げる。

「呪われし者達、穢れた者達よ! 我は貴様達を支配する!
脆弱な猿共を、 一歩たりとも魔界に入れさせてはならぬ。しかし。
決して、人の世界に踏み込むな。従わぬ者は一族郎党滅す。
逆らう貴族共を滅し、蹂躙し、我が版図を魔界に広めよ!」

 巨大な歓声。魔物達の太鼓と喇叭の音。
「ああ、我が帝王、どれほどお会いしたかったか!」
「最早戻れぬ。しかし忘れるな。僕は勇者の子だ」
魔王はかつての冷酷さを取り戻し、悠然と玉座へ座った。

 すると、貴族の一人が魔王に声をかけた。
そこには。かつての勇者。魔王の父であった者が立っていた。
「……なぜ」
「私は血塗られていた。だから亡者としてここに来た」
幼い日に別れた、そのままの姿の勇者。
魔王は勇者に縋り付き、そして幾度も幾度も訴える。
「僕を倒してください。きっと勇者として蘇る」
勇者は魔王の涙を拭い、寂しく笑う。
「いいや。もう、斬れぬ。斬れぬのだ、息子よ」
魔王には、理由が分からなかった。何故。どうして。
「私は、良き父であったろうか」
勇者からの抱擁。魔王は頷き、熱に魘された様な声で伝えた。
「勿論です、お父様……」
「私は……永久にお前を愛そう」

「――その言葉、待っておったぞ」
勇者の眼差しが、慈愛に満ちたものから鋭いものへと変わる。
「貴様!」
「ふっ……ふはははは! お主が言うたのだ。魔王はワシ一人、とな」
魔王は勇者を強く抱き留める。勇者は歯噛みし、怯む事なき眼で魔王に訴える。
「よくも、我が国を。よくも、我が妃を、王子を!」
「妃も王子も、ワシじゃ。本物の妃候補は、とうに裕福な貴族に嫁いでおる」
計略は。全て戦いの前に始まっていた。
「私は愚かな道化だ。貴公に欺かれたまま、討ち死にしたのか」
「ワシを連れて行けば良かったものを。犬死なぞ、させはしなかった」
その口惜しそうな表情に、勇者が首をひねった。

「何故だ。何故このような事を」
魔王の残忍な声が、はっきりと告げる。魔界の生態系は狂っていたのだ、と。
「狂った?」
「魔界の者は、魔界の肉を喰うが良い。この理が崩れ、餓えておった」
勇者の表情が変わった。かつての、父と子の間合いにあった表情に。
「ははは。誇り高き魔族に侵略を止ませるものは、魔界の畑か」
「くっくっ……必要な物は、人型の家畜よ。豚を改造すれば良い、が」
「必ずや人をさらい、豚と偽る者が出るであろうな」
窓の外で、雷鳴が瘴気と交じり合う。両者は目を合わせ、そして魔王が囁く。
「そちが倒せ。それが勇者の役割ぞ」
勇者には、魔王の目的がようやく掴めた。
「是非もない。その為に父を呼んだのか」

 魔王は勇者の腕を引き倒し、そのまま褥に乗せる。
「たった十七で戦死した若造が、父親面とは」
「ならぬ! はな……せ」
その言葉を塞ぐ、深い、深い口付け。
勇者の全身に、かつてよりも頑強な鎖が繋がれる。
まだ抗おうとするその肢体を捕らえ、ゆっくりと堪能する。
「ワシはな。お主の血で更に力を得た。そして、お主も」
「やっ、そん……うぐっ!」
厚い雲が切れ、なんか月が見ていた。玲瓏たる輝きを放ちながら。
「我々は、番いでは、ない。そんな事は……あってはならない!」
「無論。だからこそ。お主の心が欲しかった」
勇者の鼓動が高鳴る。感じてはならない。受け入れてはならない、その相手に。
心を喰らう魔王。真の狙いは、そこにあったのかもしれない。
勇者の手に、ぼくのエクスカリバーではない剣を握らせ、魔王は告げる。
「いつでも斬るが良い」
「そのような……我が子を斬る事は、出来ぬ!」

 ならば、と魔王の切っ先が勇者の鎖を解いた。
「なっ?!」
「如何した? 迷うな。敵は此処にいる!」
轟音と共に、火の粉を散らしながら。魔王の剣が勇者に弾かれる。
渾身の一撃が、魔王を狙う。凄まじい妖気が、勇者を床に叩き付けた。
「苦しいのであろう? さて、どうする。ワシを受け入れるか、それとも……」
勇者の眼は光輝を取り戻し、されど悄然と立ちすくむ。
最早、魔王の手すら払えずに。勇者は、一掬の涙を零す。
「そなたを許せぬのだ。決して――決して!」
「だから斬れと申した! ワシはお主に会いとうて……ずっと」
魔王の爪が、勇者の髪を梳く。愛おし気に眼を伏せ、そして艶麗に微笑む。
「ワシを憎め、勇者よ。もはや、手放せぬ」

 人の世がざわめく。勇者の国に、溢れんばかりの重騎兵。
難攻不落の城砦を、途轍もない軍団が取り囲む。
「あの布陣――攻城戦です!」
王を継いだ騎士が、肩を落とす。
「申し訳ありません。私には領地を守れませんでした」
剣士が装備を整え、そして騎士の肩を叩く。
「俺が敵将に一騎打ちを挑む」
「それでは勇者様が、あまりにも危険です!」
剣士は顔を上げ、頼もしい笑顔を見せる。
「何の為の勇者だ? 俺が倒されない限り、何も心配ない」

「餓鬼が。いいだろう。勝負してやる」
傲岸不遜な面構えの敵将が、剣士と差し向かう。
「そうこなくっちゃな!」
言うが早いか、剣士の跳躍と同時に剣が大地を引き裂いた。
「ちっ、剛剣か!」
形勢不利と見た敵将は、腕を振り上げ、そして軍団に告げる。
「弓隊、前へ!」
「!」
幾千、幾万もの弓が、勇者に照準を据えた。
「形勢逆転、だなあ?」
「この卑怯者!」

 微かな鳴動が、大地を揺るがす。
「何の地鳴りだ?」
漆黒の軍団が、敵の重騎兵を突き破る。王が叫んだ。
「援軍?!」

 饐えた瘴気と、人ならぬ風貌と。死がそこにあった。
兜の下に髑髏が覗き、死した皮膚が乾いた音と共に蠢く。
誰よりも立派な体躯と、憤怒に満ちた形相。
それは、伝承の猛者達だった。今は亡き、愛馬達であった。
鎧と、武器の。無数の金属音が響き、惑うこと無き剣が打ち下ろされる。
「もっ、亡者と怪物の大軍です! この国はもう、お終いです!」
宰相はもはや涙目だった。翼竜は天空を舞い、魑魅魍魎が大地を這い回る。
その死霊の先頭に、二人の騎士が駆ける。かつての王と、王子が。

 魔王は敵将の頭を掴み、笑いながら剣を構える。
「貴様、僕の留守に何をしている」
「ひっ! ひぃいい!」
「貴様の国を、あまさず炎で焦土にしてやろうか?」
勇者は魔王に手を振り、そして止める。
「もう、良い。地獄の勇士達よ、我に続け! 共に無法者を駆逐せよ!」
魔物の雄叫びが、風を揺るがせる。剣士が慌てて馬に乗り、勇者に続く。
「俺も行きます!」
魔王は少しむくれて、ぎりぎりと敵将の首を絞めた。
「父上は甘過ぎます。さて敵将。存分に吐いて貰うぞ」
「あっ、がが、ぎゃあああ!」
敵将が魔王軍に引き渡される。今の王が、魔王の横でうろたえた。
「会いたかったよ。我が従兄弟。さあ、僕達も参戦しようか」
騎士は構え、馬を魔王にぴたりと付ける。響き渡る声で、魔王が咆哮する。
「存分に敵を屠れ! ――骨すらも噛み砕き、魂を我が軍団に迎えるのだ!」

 勇者は剣士に笑いかけ、そして敵軍をなぎ倒す。
「君が今の勇者か」
「はっ、はい!」
「これからも、よろしく頼む」

GAME OVER

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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